連載コラム 地政学リスクの今を読み解く

台湾の経済的な「脱中国依存」は進んでいるか

  • 2026-06-26

本稿のポイント

  • 台湾では、民進党政権が経済的な「脱中国依存」政策を進める中で、台湾企業の対外直接投資、輸出、完成品の輸入においてその動きが見られる。
  • しかしながら、電子部品・材料のような中間財の輸入は、依然として中国への依存が強い。中国が、価格競争力だけでなく、供給能力、納期対応力、産業集積など、サプライチェーン上の優位性を有している点が背景にある。そのため、台湾にとって完全な「脱中国依存」は当面容易ではないと見られる。
  • 中国を軸とする電子部品・材料サプライチェーンに組み込まれている日本にとっても「脱中国依存」は現実的ではない。日本の製造業企業には、自社のサプライチェーンにおける中国依存の所在を可能な限り把握したうえで、規制・政策動向にも留意しつつ、中国をめぐるリスクの分散と産業基盤の活用を両立させる対応が求められる。

台湾は、中国の改革開放以降、コスト競争力、産業集積、地理的近接性、言語・文化面の親和性などを背景に、中国と深いサプライチェーンを形成してきました。

しかしながら、2016年以降の民進党政権は、ASEANや南アジアなどの国々と経済を中心とした関係強化を進める「新南向政策1」を通じて、中国への過度な経済的依存の低減を図る姿勢を強めています。こうした政策推進の背景には、中台関係の緊張のみならず、中国国内の人件費上昇や環境規制強化のような事業コスト上昇、米中対立による関税・輸出規制リスクがあると考えられます。

このように、政策としての「脱中国依存」が進められる中で、台湾企業の経済活動も実際にそれが進んでいるのでしょうか。台湾は世界の半導体・IT産業サプライチェーンの中核であり、台湾企業の動きは日本企業に対しても大きな影響を与えます。また、地政学リスクへの対応が各国の製造業にとって喫緊の課題となる中で、台湾企業の対応は日本企業にとっても示唆を与えるものといえます。

以上のような問題意識から、本稿では、台湾の中国に対する直接投資と貿易における中国比率の現状と背景を整理し、経済的な「脱中国依存」の実態を確認します。

民進党政権による「脱中国依存」政策の概要

民進党政権が打ち出した「脱中国依存」につながる政策は、「新南向政策」「台湾企業回帰策」「投資・輸出規制」を柱として整理できます(図表1)。まず、「新南向政策」は、ASEAN、南アジア、オセアニアの国々と幅広い分野で関係を強化することで、中国への過度な依存を構造的に薄める長期戦略であり、経済面では投資・輸出入先の多様化を促す機能を果たしているといえます。次に、「台湾企業回帰策2」は、米中対立の過熱を契機として、中国に生産拠点を置く台湾企業を呼び戻し、サプライチェーンの台湾内での再集約を図ることで、地政学リスク下での産業基盤の強靭化を図るものです。さらに、「投資・輸出規制」は、機微な技術・製品が中国に流出することを防ぐため、対中投資や特定品目の輸出に制限を設けるものです。とりわけ半導体分野では、米国と歩調を合わせる形で規制を強化しています。

図表1:台湾の「脱中国依存」関連政策

(注1)対中投資・輸出規制は1990年代から存在していたが、2022年の国家安全法・両岸条例改正を起点に、経済安全保障を目的とした技術移転を含む規制強化に転換。
(注2)政府が定めた重点産業分野や高付加価値製品・重要部品関連産業などの要件への該当も必要。開始当初の要件「対中投資実績2年以上」は2019年7月以降撤廃。
(出所)「新南向政策専網」「InvesTaiwan」ほか各種資料よりPwC作成。

こうした「脱中国依存」政策は、新たな市場・拠点の開拓、生産・開拠点の台湾への集約、中国への先端技術流出の防止、という3つの側面から相互補完的に機能しているといえます。また、企業活動への直接的な規制・誘導にとどまらず、米国主導のサプライチェーン再編の枠組みに参画しようとする台湾の姿勢も読み取れます。以下では、これらの政策的背景を踏まえつつ、対外直接投資・輸出・輸入のデータから「脱中国依存」の現状を確認します。

対外直接投資では「脱中国依存」が一定程度進展

まず、台湾企業の対外直接投資(フロー)全体に占める主要国・地域シェアの推移(図表2)を見ると、(1)金額ベースでは、2011年には8割を占めていた中国向けのシェアは低下を続け、2025年には1割弱となりました。

一方、シェアを高めているのが米国で、2024年以降中国を抜いて最大の投資先となっています。背景には、米国による関税率引上げ回避を意図した対米投資があると見られます。これに加え、AI・データセンター需要の拡大、半導体企業による大型投資、さらに米国の電子機器企業の要請によるEMS(電子機器受託製造サービス)企業の製造拠点移転も影響していると考えられます。また、ASEAN向けではベトナムとタイは概ね横ばいで推移する一方、シンガポールは低下傾向にあります。

ただし、(1)金額ベースは大型案件の有無に左右されます。そこで投資先のすそ野の広がりを把握するために(2)件数ベースで見ると、やや異なる傾向が確認されます。中国のシェア低下は金額ベースより緩やかで、それ以外の主要投資先国のシェアは概ね5~10%程度の範囲内に分散しています。中でも、日本、シンガポール、タイは緩やかな上昇傾向にあります。以上から、対中投資の縮小は主として大型案件の減少による一方、投資案件そのものは中国以外の国・地域に分散しつつあることが分かります。

図表2:台湾の対外直接投資(フロー)に占める主要国・地域シェアの推移

(出所)台湾経済部投資審議司「業務統計」よりPwC作成。
(注)(1)金額のグラフは、3カ月後方移動平均値による試算。

新規の対外直接投資は一般的に既存資産の処分を伴わず、調達網や生産体制そのものの再編に比べれば、企業の判断で比較的機動的に見直しやすい性質を有します。そのため、以上のように、対外直接投資は「脱中国依存」が表れやすい分野といえます。

加えて、対外直接投資は政策の影響も受けやすい分野です。前述の「投資・輸出規制」は対中投資、とりわけ半導体関連投資に直接の制限を課しており、「台湾企業回帰策」も中国に展開した生産拠点の台湾回帰を促しています。こうした政策は、企業の自律的な判断とあいまって、対中投資の縮小を後押ししていると考えられます。

もっとも、台湾の対外直接投資統計(案件ベース)では、ストック統計が公表されていないため、既存投資案件の撤退状況は把握できません。また、英領中米向けの投資には、中国を最終投資先とする案件が含まれている可能性があります。したがって、これだけをもって台湾の対中投資が「急速に減少している」との判断は適切ではありません。

さらに、「脱中国依存」の動き自体は一定程度確認されるものの、直近の対米投資急増はIT需要の循環的な変動による可能性もあり、その持続性の判断は困難です。加えて、中国依存は緩和されたとしても、デリスキングの観点からは、代替先として米国向け投資の過度な集中が新たな「一国集中リスク」をもたらす可能性も懸念されます。

輸出では半導体を中心に中国依存が緩和

次に、台湾の輸出額に占める主要国・地域シェアの推移(図表3)を見ると、対外直接投資と同様、輸出全体に占める中国向けのシェアは2021年以降低下が続いています。とりわけ2024~25年は集積回路(メモリー・制御用半導体等)3などの電子部品・材料を中心に輸出総額は増加しました(2024年:前年比+1.3%、25年:同+3.2%)。それにもかかわらず、中国向けシェアは急速に低下しました。中国向けの再輸出を一定程度含むと見られる香港向けを含めても、その傾向は顕著です。

この背景には、米国向け輸出の大幅な増加があります。具体的には、輸出額の約半分を占めるAIサーバーやデータセンター向けの関連ユニット・補助装置の需要急増を受け、米国向け輸出全体は大幅に増加しました(2024年:前年比+46.1%、25年:同+78.0%)。

もう一つの背景は、ASEAN向け輸出の大幅増加です。上述の通り、中国向け輸出額自体が減少しているわけではないものの、それを上回るペースでマレーシアやシンガポール向け輸出が増加していることが中国向けシェアの低下につながっています。ASEANではマレーシア向け輸出が大幅に増加し(2024年:前年比+31.1%、25年:同+86.1%)、全体に占めるシェアも緩やかに上昇しています。主因は、集積回路(制御用半導体等)の輸出増であり、米中関係の緊張を背景として、マレーシアで半導体後工程の集積が加速しているためと考えられます4。シンガポール向けは、シェアの顕著な上昇は見られないものの、集積回路(メモリー・制御用半導体等)を中心に輸出額の増加が続いています(2024年:前年比+13.5%、25年:同+19.7%)。こうした輸出先がASEANへ広がっていることは、関係強化を通じて取引先の多様化を促す「新南向政策」が目指す方向性とも整合的です。

図表3:台湾の輸出額に占める主要国・地域シェアの推移

(出所)台湾経済部国際貿易署「進出口貿易統計」よりPwC作成。

以上の点を踏まえると、輸出統計からは、中国依存の低下が確認できる一方、その背景には半導体の輸出先の多角化や対米輸出の急増があり、必ずしも輸出先として中国の重要性が大きく低下したわけではありません。とりわけ、近年の米国向け輸出の急増は、対外直接投資と同様に「一国集中リスク」を伴う可能性があることに加え、今後のIT需要の循環変動にも左右されると考えられるため、現時点で輸出構造が変化したと見なすには、なお慎重な判断が必要です。

輸入では中国依存が依然高水準

最後に、台湾の輸入額に占める主要国・地域シェアの推移(図表4)を見ると、これまで見てきた対外直接投資や輸出とは異なる姿が浮かび上がります。台湾の輸入額全体に占める中国のシェアは、2020年をピークに緩やかな低下傾向にあるものの、この10年ほどは依然として2割前後で推移し、最大の輸入相手国となっています。

もっとも、中国からの輸入額自体は着実に増加しています(2024年:前年比+12.9%、25年:同+15.6%)。中国のシェアが低下したのは、韓国からのメモリーなど半導体を中心とした輸入がそれを上回るペースで大幅に増加したためです(2024年:前年比+53.8%、25年:同+45.7%)5

また、ASEAN諸国のうち、輸入額が大きいマレーシアとベトナムは緩やかにシェアを高めています。

図表4:台湾の輸入額に占める主要国シェアの推移

(出所)台湾経済部国際貿易署「進出口貿易統計」よりPwC作成。

このように、対外直接投資や輸出に比べると、台湾の輸入における「脱中国依存」の進展は限定的であり、中国が依然として重要な位置づけを占めていることが分かります。

輸入で中国依存が続く理由

そこで、台湾の中国からの主な輸入品目(2025年)(図表5)を見ると、集積回路のほか、半導体関連の部材やPC・通信機器関連の部材・完成品が大きな比重を占めていることが分かります。輸出統計と合わせて見ると、台湾は中国から輸入したそれらの製品を電子・情報通信機器サプライチェーンの中で加工・組立や再投入に用いていることが考えられます。

図表5:台湾の中国からの主な輸入品目(2025年、%)

(出所)台湾経済部国際貿易署「進出口貿易統計」よりPwC作成。

では、これらの主要輸入品目について、台湾はどの程度中国に依存しているのでしょうか。台湾の中国からの主要輸入品目の中国依存度の推移(図表6)を見ると、通信機器やPC・サーバーといった完成品で低下が続いており、特にここ数年その動きが加速しています。

一方で、電子部品・材料では、PC部品のシェアの低下が顕著であるものの、集積回路は低下しつつも依然として一定のシェアを維持しています。さらに、プリント基板、低圧回路機器、精製銅・銅合金では中国のシェアは上昇しています。

図表6:台湾の中国からの主要輸入品目の中国依存度の推移

(出所)台湾経済部国際貿易署「進出口貿易統計」よりPwC作成。
(注)台湾の中国からの輸入額上位品目(2025年)について、各品目の総輸入額に占める中国からの輸入額の割合。

通信機器やPC・サーバーは、中国以外からの輸入額を見ると、ベトナムやマレーシアからの輸入が急増しています6。実際、台湾のEMS企業はベトナムなどで生産体制を拡充しており、台湾企業がこれら完成品をASEANの製造拠点から輸入する動きが進んでいると見られます7。これは民進党政権が進める「新南向政策」の方向性にも合致しています。

電子部品・材料について、PC部品や集積回路の中国からの輸入シェア低下は、中国以外からの輸入大幅増によるものであり、中国からの輸入額自体は堅調に増加しています8。これを踏まえると、電子部品・材料は総じて中国依存が高いと評価できます。そのため、価格競争力に加え、地理的近接性を背景とした納期対応力や供給能力の面で、中国がなお優位にあることが示唆されます。

このように、最終組立品は調達先の変更が比較的容易である一方、部品・材料のような中間財は調達先の代替が難しく、中国への依存が続いているといえます。また「脱中国依存」政策の観点からは、その対象が対外投資・輸出や生産拠点の再編に置かれているため、そうした中間財の調達は、台湾企業の経済合理性に基づく判断に委ねられている点も指摘できます。

日本企業への示唆

以上見てきたように、台湾の「脱中国依存」は、政策的後押しの中で、対外直接投資、輸出、完成品輸入の分野では、一定程度進展しています。これらの分野は、企業の意思決定によって移転や取引先変更を比較的進めやすいためです。

他方、電子部品・材料のような中間財の輸入については、一部の米国顧客企業からの要請により「脱中国依存」が求められる場合もあるものの、価格競争力、供給能力、納期対応力、産業集積などの面で優位性を持つ中国を軸とするサプライチェーンから脱却することは容易ではありません。さらに、第三国経由の貿易・投資や、中国国外に立地する中国企業との取引といった「見えにくい中国依存」も考慮すれば、台湾の産業にとって完全な「脱中国依存」は当面困難です。このように、台湾の対中経済関係は、以前の強い中国依存から、分野によって依存の低下と継続が並立する構造へ変化しつつあるといえます。

台湾の産業構造は半導体・電子機器分野への集中度が高く、日本企業全般にそのまま当てはめることはできません。しかしながら、日本の製造業もまた、電子部品・材料分野で中国サプライチェーンに深く組み込まれており、地政学リスクを背景に、投資先・輸出先・調達先を分散させる必要性が高まっています。そのため各企業には、中国の規制・政策動向を注視するとともに、自社のサプライチェーンにおける中国依存の所在を可能な限り把握したうえで、リスク顕在時の影響評価、代替調達先確保の検討、中国の産業基盤を引き続き活用すべき領域の見極め、といった対応が求められます。

1 台湾の「新南向政策」の概要、および対象地域進出企業への支援策の一例は以下を参照。
https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/post/40085.html
https://www.fsc.gov.tw/ch/home.jsp?id=570&parentpath=0%2C7

2 具体的には、中国含む海外への投資実績と一定の要件を有する企業の台湾回帰を優遇する「歓迎台商回台投資行動方案」に加え、それ以外の企業にも対象を拡大した「根留台湾企業加速投資行動方案」「中小企業加速投資行動方案」の3方案から構成される。
https://investtaiwan.nat.gov.tw/showPagecht1135?lang=cht&search=1135

3 貿易品目に用いられるHSコード分類において、集積回路は「プロセッサー・コントローラー(HS854231)」、「メモリー(HS854232)」、「それら以外(HS854239)」に分類される。「それら以外」が包括する内容はアナログIC、電源管理IC、インターフェースIC、ドライバーIC等多岐にわたるが、具体的なイメージを持ちやすくするため、本稿では便宜上、機能・用途の観点から包括性の高い表現として「制御用等半導体」とする。

4 Malaysia emerges as a hotspot for semiconductor firms amid U.S.-China chip tensions
https://www.cnbc.com/2024/04/04/malaysia-emerges-as-a-hotspot-for-chip-firms-amid-us-china-tech-war.html
半導体後工程が集積、日本企業の投資も活発化 マレーシア(2)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2025/1001/a1e33d280ceda498.html

5 同様に、日本からの輸入はメモリー、米国からの輸入は制御用半導体を中心にそれぞれ前年より増加しているが、韓国からの大幅輸入増に相殺される形でシェアが低下した。

6 通信機器の輸入額は、ベトナム(2024年:前年比+32.8、25年:同+406.9%)、マレーシア(同+45.1%、同+27.9%)、PC・サーバーの輸入額は、ベトナム(同+447.8%、同+46.1%)、マレーシア(同+113.1%、+42.1%)それぞれ大幅に増加した。

7 EMS企業が中国から生産移管、コンピュータ輸出が急拡大 ベトナム(3)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2025/1001/36ad1db3d27bb8a0.html
台湾企業のみならず、中国企業も生産拠点をASEANに移転し、台湾に輸出している可能性にも留意する必要がある。

8 中国からのPC部品の輸入は2024年に前年比+20.0%、25年に同+22.7%と堅調に増加しているが、それを上回るペースで増加しているベトナム(2024年:前年比+84.5%、25年:同+125.0%)とマレーシア(同+113.9%、同+58.6%)からの輸入に相殺され、シェアは低下した。メモリー・制御用半導体等を中心とした集積回路も中国からの輸入増加が続いているが(同+4.1%、同+18.5%)、韓国からの大幅な輸入増(同+78.4%、同+63.8%)に打ち消されてシェアが低下した。

執筆者

須賀 昭一

シニアマネージャー, PwC Japan合同会社

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