連載コラム 地政学リスクの今を読み解く

中国の中期的産業政策の方向性

  • 2026-04-24

本稿のポイント

  • 中国の産業政策は、国内では需要不足による過当競争、対外的には米中対立の継続に対する対応を同時に迫られている。
  • このため第15次5か年計画では伝統産業・戦略的新興産業・未来産業の三層で政策対象を整理し、それぞれにおいて対応策を打ち出している。
  • 具体的には、新しい技術・製品の「実装の場」整備を通じた初期需要の創出を図るほか、産業チェーンの強靭化や重要資源の確保により安全保障上の備えも強化する。
  • 日本企業は伝統産業の高度化を支える素材・装置・省エネ分野で商機がある一方、先端分野では規制リスクに留意が必要である。

中国では2026年3月に「第15次5か年計画」が公表されました1。これは、2030年までの5年間の経済・産業・技術・社会・外交など幅広い分野における総合的な政策方針です。特に産業政策については、中国では政府の政策誘導の役割が依然として大きいため、政府が支援する重点産業・投資分野を示すのみならず、各省庁、地方政府、国有企業、政策金融の動きにも影響します。企業にとっては、中国市場の成長分野と政策リスクを見極めるうえで重要な手掛かりとなります。本稿では、製造業分野を中心に今後の中国の産業政策の方向性について整理します。

中期的産業政策の策定背景

第15次5か年計画(以下、第15次計画)の産業政策が打ち出された背景には、厳しさを増す外部環境と国内経済の構造変化という2つの課題があります。

第14次5か年計画(2021~25年、以下、第14次計画)の策定以降、中国を取り巻く内外情勢は大きく変化しました。対外的には米中対立が一段と激化し、2022年10月の米国による対中半導体輸出規制の強化や、2023年以降の先端技術分野を中心とする規制対象の拡大などにより、米中間でのサプライチェーンの不安定化、さらには分断のリスクが高まっています。

国内では、供給過剰を背景とした企業間の過当競争である「内巻式競争2」が深刻化しています。中国では2000年代初頭から高成長を背景とした国有企業の過剰な設備増強による過剰生産が問題視されてきました。しかしながら近年の「内巻式競争」は、需要不足の低成長期に、企業が同一市場・顧客・ビジネスモデルに殺到し、価格引下げや過剰投資を通じて互いに消耗する競争に陥る現象であり、単純な生産設備削減や生産抑制だけでは解決しにくい、より複雑な問題となっています。

また、従来の過剰生産問題は鉄鋼などの重厚長大型の伝統的製造業が主体でしたが、後述のように政府が今後の成長の柱として期待する新エネルギー車や太陽光発電のような戦略的新興産業でも見られています。その結果、企業収益の悪化、投資効率の低下、技術革新の停滞など悪影響の拡大が懸念されるだけでなく、過剰供給品の海外流出を通じた対外摩擦を高める要因にもなっています。そうした状況下で、元々はネットスラングだった「内巻式競争」は今回初めて5か年計画において総合的に対処すべき課題と位置づけられました。

このように現在の中国は、対外的には「自立自強3」を迫られ、対内的には需要不足と過当競争による成長制約に直面しています。

第15次5か年計画の産業政策方針

こうした状況の下で制定された第15次計画では、製造業を「伝統産業」「戦略的新興産業」「未来産業4」の三層に区分して、それぞれ異なる政策を打ち出しています。以下では、まず各産業区分における主な政策内容を整理します。

まず、伝統産業は、高度化と安全保障強化を通じて再編する産業として位置づけられています。具体的分野としては、鉄鋼、石油化学、船舶、機械設備、軽工業、繊維、建設が挙げられています。これらの伝統産業では、効率化や省エネ化による高付加価値化を推進することが政策の柱とされています。

また、過剰生産への対応として、生産能力に関するリスク管理の強化や、既存の産業政策を検証・見直すためのモニタリング制度の構築も打ち出されました。加えて、現在は沿海部に集中している重要産業の拠点を内陸部の複数地域に分散し、バックアップ拠点の配置や資源の備蓄基地の建設、関連インフラの整備を進める方針も示されました。さらに、産業チェーンのリスクモニタリング制度の構築やレアアース・レアメタル分野の競争力強化など、安全保障色の強い施策も含まれています。

次に、戦略的新興産業は、成長力と技術力を兼ね備え、新たな成長の柱となることが期待されている産業です。具体的には、次世代情報通信技術、新エネルギー、新材料、ICNEV(Intelligent Connected New Energy Vehicle)5、ロボット、バイオ医薬、ハイエンド設備、航空宇宙が挙げられています。

これらの産業から生まれる新たな技術・製品については、大規模な実証の場を設けて市場形成と規模拡大を促進する方針が打ち出されました(次項にて詳述)。また、すでに実用化段階にある製品・サービスについては、商業化をさらに後押しする姿勢が示されました。具体的には、国産大型旅客機の量産化、北斗衛星システムの活用拡大、自動運転・新型太陽電池・新型蓄電の技術革新、革新的新薬の臨床支援が挙げられています。さらに、戦略的新興産業の応用により、海洋経済や低空経済といった新たな産業領域6を育成する方針も示されました。海洋経済については、漁業、海運、観光に加え、資源探査・開発のような安全保障上の要素を含む幅広い分野での市場拡大が挙げられています。一方、政策分野として比較的新しい低空経済については、主に立法による枠組み整備から着手する方針となっています7

最後に、未来産業は、現時点では市場化しておらず制度も未整備なものの、将来の成長が期待される次世代産業を指します。具体的には、量子技術、バイオ、水素・核融合エネルギー、ブレインマシンインターフェイス8、身体性知能9、6G通信のような分野が挙げられています。

もっとも中国政府は、どの分野を未来産業と見なすかを固定的には捉えておらず、技術進展や情勢変化に応じて見直す姿勢も示しています。他の2つの産業に比べると具体的な施策の記述は乏しいものの、将来の産業化を見据えた産業チェーンの育成、高リスクで不確実性の高い先端分野への支援、市場監督ルールの模索、研究拠点の整備などを進める方針が明記されました。

三層構造に見る政策設計

以上の3つの産業区分は、単なる機械的な分類ではありません。伝統産業の基盤強化、戦略的新興産業の成長加速、未来産業への先行投資を同時に進めることで、中国政府は冒頭に挙げた2つの課題、すなわち需要創出と安全保障に対して一体的に対応しようとしています。以下では、それぞれの産業区分が持つ政策的な意味を整理します。

まず冒頭に置かれた伝統産業は、これまで中国経済を支えてきた基幹産業です。戦略的新興産業や未来産業に注目が集まりやすいものの、伝統産業分野への政策には高付加価値化を中心に4割強の紙幅が割かれており、中国政府がこれを依然として重視していることが窺えます。伝統産業分野の多くは重厚長大型産業や軽工業が想定されていますが、工作機械や精密測定機器のような「重要核心技術10」分野と重なる領域も含まれると見られています。そのため、中国政府の伝統産業に対する姿勢は、既存産業の延命ではなく、高付加価値化と安全保障面の強化によって新興産業や未来産業を支える産業基盤の再設計を図るものといえるでしょう。一方で、生産能力や産業チェーンを対象とするモニタリング制度の構築は、伝統産業の効率化と競争力強化を図るとともに、中国政府の監視・管理がより強化されるという側面も有しています。とりわけ、産業チェーンを対象としたモニタリング強化は、経済安全保障面からの対応という性格が強い政策と見られます。

次に、戦略的新興産業は成長戦略の中核的役割を担う産業です。ここで具体的に挙げられた業種は2010年に初めて戦略的新興産業という概念が打ち出されて以降、一貫して育成してきた対象分野です11。また、これらの業種は外国からの輸出規制の対象になりやすい重要核心技術と概ね重複していることから、戦略的新興産業は安全保障とも強く交差する領域といえます。

第15次計画の戦略的新興産業の支援策において特に注目されるのが「場景」の活用です。これは元来「シーン、場面、シナリオ」という意味を持つ中国語ですが、ここでは新技術や新製品の導入・実証・普及を進めるための「実装の場」と解釈するのが適当です。この用語は、第14次計画ではデジタル技術の実証という文脈で限定的に使用されていましたが、第15次計画では対象を戦略的新興産業全体まで拡大しました。これは中国政府が、技術開発や製品化の支援にとどまらず、新製品を市場で展開する前の「実装の場」を政策的に整備・提供し、初期需要の創出を図ったものです。具体的には、政府は政府調達、資金、土地、データなどの政策資源を通じ民間企業に対して「実装の場」を提供するとともに、その構築・整備への参画も促します12。これまでの産業政策は供給側支援に重点が置かれていましたが、この政策方針では政府が需要創出を主導しようとしている点がポイントです。

最後に、未来産業は将来的に中国が製品化や標準化で主導権を握ることを狙う分野であり、次世代技術・産業への先行布石といえます。いずれの分野も半導体を中心とした重要核心技術の活用が不可欠であり、安全保障的性格が強い分野です。未来産業については他の2つの産業と比べて記述量自体は多くないものの、第15次計画で初めて独立した政策領域として明確化されました。具体的には、同産業は第14次計画において新興産業の一部・延長線上で扱われ、政策内容は抽象的なものでしたが、第15次計画では、投資、リスク分担、実証、市場制度など、産業化に向けた制度面の検討まで言及されています。これは、未来産業の位置づけが、構想段階から実装準備段階へと一歩進んだことを表しています。未来産業に対する政策は短期的な収益を求めるものではなく、将来の技術主導権と安全保障上の優位性確保を見据えた長期投資として理解すべきでしょう。

図表1:中国の中期的産業政策の概要

日本企業の対応

これまで見てきた産業政策が順調に進められた場合、中国企業の技術力と競争力はさらに強化される可能性は高いと考えられます。そうした中で日本企業にとっては、市場拡大により新たな商機が生まれる分野と、経済安全保障政策の制約が強まる分野が一段と鮮明になると見られます。

まず、事業機会の拡大が見込まれるのは、伝統産業の高度化を支える分野です。例えば、半導体材料、電池材料、炭素繊維などの高機能素材、半導体製造装置、精密工作機械、工場自動化設備、省エネ・脱炭素関連の技術を用いた設備などには、一定の需要が期待されます。これら分野でも中国企業による国産化は進むと見られますが、すべての分野で短期間に代替が進むとは考えにくく、当面は日本企業に参入余地があるといえるでしょう。

また、新エネルギー車、自動運転、太陽光発電、低空経済関連のドローンのような中国企業の技術力やコスト競争力がすでに高い分野では、日本企業は完成品市場で正面から競争するより、部品、部材、製造装置、周辺サービスのような領域で事業機会を探る方が現実的でしょう。

一方、経済安全保障色の強い分野では、国家安全や技術の自立自強の観点から、外資企業に対する規制や管理が強化される可能性があります。具体的には、半導体、AI、通信などの先端技術分野、軍民両用性を持つ技術・製品分野が挙げられます。さらに、データ安全法やサイバーセキュリティ法などの規制を受けるデータ関連分野でも留意が必要です。

また、制度設計自体が流動的な未来産業では、外資企業の単独参入余地はなお限定的と見られるものの、共同研究や標準形成の初期段階で関与する余地が生まれる可能性はあります。前述の通り、未来産業の対象分野は流動的で方向性も柔軟に変化する可能性があるため、関連する政策動向を注視していく必要があります。

このように日本企業は、これまで以上に分野ごとに機会とリスクを切り分けて対応することが求められます。技術優位を持つ領域には経営資源を集中しつつ、中国企業とは競争だけでなく、サプライチェーン連携などの補完的な協業の可能性も検討する余地はあると考えられます。同時に、中国が近年強化している軍民両用品規制、データ規制などの政策動向も継続的に点検し、自社のグローバル戦略における中国事業の位置づけを改めて確認する必要があるでしょう。

1 「中華人民共和国国民経済和社会発展第十五個五年規画綱要」中国政府網(2026年3月13日)
https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202603/content_7062633.html

2 PwC Intelligence Monthly Economist Report「一筋縄ではいかない中国の『反内巻』運動」(2025年8月)
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/intelligence/assets/pdf/monthly-economist-report202508-2.pdf

3 外部に依存せず自国内で完結可能な能力を培い、国際競争の中で優位性を持つための競争力を強化するという意味のスローガン。5か年計画では、第14次計画において「科学技術の自立自強を図る」という文脈で初めて記載された。

4 未来産業という概念は前回の第14次計画(2021~25年)で初めて登場したが、戦略的新興産業の一部という扱いだった。

5 AIや高度の通信技術を備え、安全性や効率性の高い自動運転を可能とする新エネルギー車。

6 海洋経済は海洋、低空経済は低空空域をそれぞれ対象とした開発・利用保護に関連する経済活動を指す。前者は第11次計画(2006~10年)で初めて登場して以来政策の蓄積や制度の構築が進められてきたが、後者は第14次計画(2021~25年)から初めて打ち出された。

7 2025年12月に公表された政策文書では、ドローンを活用した物流や災害対応などの具体的ケースが挙げられている。「低空経済標準体系建設指南(2025年版)」中国政府網(2025年12月11日)
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202602/P020260202758834303916.pdf

8 脳とコンピューターなどの機器を直接接続し、脳から発せられる電波を機器に伝達する技術。

9 物理的な身体を通じて環境と相互作用し、その経験から学習する能力を持つAI。

10 重要核心技術(中国語では関鍵核心技術)とは、産業技術のうちカギとなる核心的な技術を指す。第15次計画では半導体、工業ソフトウェア、工作機械、精密測定機器、新材料、バイオ製造が指定されている。習近平国家主席は関鍵核心技術について、「自らの手で習得することでのみ、国家経済安全保障、国防安全保障、その他の安全保障を根本的に確保できる」と述べており、中国では安全保障上の最重要技術分野と見なされている。
「習近平講故事:“関鍵核心技術是要不来、買不来、討不来的”」中国共産党新聞網(2019年6月6日)
https://cpc.people.com.cn/n1/2019/0606/c64094-31123936.html

11 ただし、当初からの指定産業のうち新エネルギー車(NEV)は、より高度な機能を持つICNEV(注5参照)に置き換わった。

12 「国務院関於加快培育和発展戦略性新興産業的决定」中国政府網(2025年11月2日)
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202511/content_7047420.html

中国の中期的産業政策の方向性

( PDF 807.24KB )

執筆者

須賀 昭一

シニアマネージャー, PwC Japan合同会社

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