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前編で確認したように、日本の半導体企業が随時アップデートすべき中国関連インテリジェンスには、以下が挙げられます。
①西側諸国(米国)によって行われる対中半導体関連規制の動向
②中国の顧客動向(直接の売り先であるファウンドリーだけでなく、最終財としての半導体アプリケーション先の動向を含む)
③中国市場における競合企業の動向(中国企業によるキャッチアップの動向および西側企業による対中進出の検討動向)
この3つの中で、地政学的リスクの専門家による読み解きが必要な、西側による対中半導体関連規制の動向と、顧客を取り巻くマクロ動向について解説します。
まず、米国による対中半導体規制の動向について概観します。
西側による対中半導体規制を読み解く上で、それを主導する米国政府がどのような戦略や狙いを有しているかを理解することが重要です。米国政府は、中国を含む特定国向けの半導体供給が自国の安全保障に影響を及ぼし得るとの認識の下、技術的優位性の維持や軍事転用リスクの低減を目的として各種規制を導入しています。直近では、半導体を用いた人工知能(AI)の開発を巡っても米中で競争を繰り広げており、米国政府は自国がAI分野でも技術覇権を維持できるよう対中規制を行っています。この方針は共和党・民主党に共通したもので、政権与党にかかわらず対中規制強化の動きが見られます。
図表1:米国による対中半導体輸出規制
トランプ政権は最先端以外の対中輸出を拡大し、中国の対米依存を維持する方針に転換。
バイデン政権下のAI拡散規則を廃止し、貿易交渉を通じ一部AI半導体の対中輸出を許可。
バイデン前政権(2021~2025年1月)は、先端領域を対象に半導体や製造装置の対中輸出を規制し、中国の軍事・技術的台頭を防ぐ「small yard, high fence(小さな庭、高い柵)」という戦略を取っていました。2022年10月に大型の対中輸出規制を発表して以降、数回にわたり規制対象を拡大する新規則を発表しています。加えて、2025年1月には中国向け迂回輸出への対策の一環として、AI半導体や関連技術の全世界への輸出を制限する「AI拡散規則」を打ち出しました(図表1左側参照)。
一方、トランプ現政権(2025年~現在)は中国の対米依存を維持することが米国の優位性確保につながるとして、最先端領域以外の対中輸出を拡大する戦略に転換しています(図表1右側参照)。実際、米中貿易交渉の一環として、2025年7月および12月に一部先端AI半導体の対中輸出を許可し、今後の交渉次第ではさらなる規制緩和も考えられます。とはいえ、中国への最先端半導体の輸出規制は維持しており、同年5月には一部中国製AI半導体の利用を全世界で米国輸出規制違反とするガイダンスを発表しています。その他に、米国製AI半導体が世界市場でシェアを伸ばすため、バイデン前政権下の「AI拡散規則」を廃止し、各国との取引で先端AI半導体輸出を許可する方針を打ち出しました。同年5月のトランプ大統領の中東外遊時には、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアとAI半導体輸出を含むディールを合意しています。こうした政策変更の背景には、テック業界の利益を代弁するデービッド・サックスAI・暗号資産政策責任者や、一部半導体・テック企業によるロビイングの存在があります。
そうした中、米国連邦議会においても対中規制強化に向けた法整備の動きが見られます。議会では対中強硬派の議員が超党派で多数存在し、米中交渉を通じて一部先端AI半導体の輸出を許可するトランプ政権への批判を強めています。これらの議員は、中国など懸念国への先端AI半導体の輸出許可を30カ月凍結する「安全かつ実行可能な半導体輸出法(SAFE Chips Act:Secure and Feasible Exports Chips Act)」など超党派の法案を提出していますが、トランプ政権の反対もあり法案成立には至っていない状況です。
米国による対中規制強化の動きは、日本や欧州など同盟国にも影響を及ぼしています。バイデン前政権下では、米国の要請を受けて日本やオランダが製造装置の対中輸出規制を強化しました(図表1参照)。一方で、米国が求めていた半導体製造装置の保守・修理サービスや日本企業が強みを持つ半導体素材への規制適用については、両国が慎重な姿勢を見せたため、実施されませんでした。トランプ現政権発足後は、米中交渉への配慮やトランプ関税を巡る日本・欧州との貿易摩擦を背景に、米国・同盟国間の対中規制強化の協議は進んでいない状況です。一方で、米中関係の変化次第では、対中規制を巡る米国の方針が再び強化され、日本など同盟国に対して協力が求められるシナリオも一部で想定されています。
このように、米国の対中規制は目まぐるしく変化しています。そのため、日系半導体関連企業が中国事業への影響や対応を検討する上では、ホワイトハウスや関連省庁、連邦議会、外交交渉の動向を常に把握することが不可欠となるでしょう。また、各場面における意思決定プロセスを理解し、今後の見通しや事業への影響を導出するだけの専門性が必要となってきます。そのような専門的な読み解きを、製品カテゴリーだけでなく、「品番」・「用途」・「顧客属性」・「技術支援形態」といった単位で当てはめていくことではじめて、自社への影響を確認することができます。
次に、中国の顧客動向について概観します。
直接の売り先であるファウンドリーの動向については、半導体業界のアナリストによる設備投資計画の読み解きが重要でしょう。一方で、最終財としての半導体アプリケーション先の動向を含む場合、中国政治・経済の専門家による分析が必要となります。半導体アプリケーション先にはありとあらゆる業界があります。それぞれの市場動向を産業ごとに細かく分けて、経済合理性に基づいた市場分析を行うことも方法の1つでしょう。
しかし、安全保障が最優先とされる中国においては「政府が特定の産業あるいは経済全体に対してビジネスフレンドリーな姿勢を取るか否か(=中国政府の経済運営)」という政治動向を見極める必要があります。例えば、2020年から2021年にかけて、IT企業およびプラットフォーマーに対して「資本の無秩序な拡大の防止」との掛け声の下、独占禁止・競争政策、データセキュリティ、労働者保護、金融リスク拡大防止の他、政治安全保障(党・国家に代わる存在に企業や企業家がなることを防止する)などの理由で規制が課せられ、これらの企業の業績が悪化しました。こうしたことから、中国においては政府の経済運営の方向性を見極めることが、半導体アプリケーション先の動向を読み解く上で重要だと言えます。
中国政府の経済運営は数カ月から1年単位で変動する短期的時流であり、以下の解説の「賞味期限」もその程度の期間であることに留意が必要です。まさに、定期的なアップデートを行う必要があるものと言えます。
さて、その上で直近の経済運営を読み解く材料として2026年3月現在でも有用なのは、2026年度の経済政策を審議した「中央経済工作会議」(2025年12月開催)およびその前後に発表された各計画や論文、政策文書です。中央経済工作会議で示された内需拡大方針に従って、同会議開催前後に相次いで内需拡大を中心としたさまざまなビジネスフレンドリーな政策が打ち出されました。
消費喚起のための産業政策としては、「消費のさらなる促進に向けた消費財の需給マッチング強化に関する実施計画」が打ち出されました。同計画は、一部分野での消費財が供給過剰である一方、品質の高い消費財は供給不足である状況だとの見方を示し、2027年までに3つの1兆元級の消費分野(高齢者用品・コネクテッドカー・家電製品)と10の1,000億元級の消費分野(乳幼児用品・アウトドア用品・民生用ドローン等)を作り出そうというものです。同計画の発表に合わせた記者会見では、AIを「消費促進の触媒」と位置づけ、製品イノベーションとシーン拡大を通じて消費財分野へのAIの実装を加速する方針なども示されました。
産業政策の他に、行政による企業活動への過度な介入を抑制する方針も示されています。中央経済工作会議では、企業活動の管理に係る全体方針として示されるスローガンが、2025年に向けての「活力を引き出すよう規制緩和しつつ、しっかりと管理・監督する(既“放得活”又“管得住”)」から、2026年に向けては「活力を引き出すよう規制緩和しつつ、より良く管理・監督する(既“放得活”又“管得好”)」に変化しました。スローガンに加えて2025年12月5日に国務院常務会議が可決した「行政執法監督条例」は、地方政府が企業に対して行う検査や取り締まりが省ごとに基準が異なったり、手続きが不透明だったりする問題を是正するためのメカニズムを導入する法的枠組みを定めました。
ビジネスフレンドリーな経済運営方針の背景には、内需の弱さを深刻に受け止めているということが挙げられます。足元の小売売上高の伸びが減速しており、家電製品や自動車などの買替需要を喚起する景気対策の「以旧換新」の効果も一巡したと言えます。こうしたことから、少なくとも企業活動の弊害になるようなことはできる限り避ける方針が打ち出されました(図表2)。
図表2:2026年3月現在の経済運営の基調
これまで見てきたように、米国による対中半導体規制や、中国の顧客動向を読み解く鍵としての中国政府の経済運営は、ある時点でのまとまった情報を取ればよいという類のものではなく、定点観測による定期的なアップデートが必要なものです。また、米中それぞれの政府による政策決定の動向を分析するには、専門家による読み解きが欠かせません。
米国の対中半導体規制を読み解く方法として、米国政府の規制発表をフォローすることが基本ですが、それでは受動的な対応となり十分とは言えません。ホワイトハウスや関連省庁のキーパーソンが誰で、どのような意図で政策立案を行っているのか。これらキーパーソンに対して産業界がどのようなロビイングを行い、政策決定に影響を与えようとしているのか。ホワイトハウスの動きに対して連邦議会がどのような反応を示し、独自規制を打ち出しているのか。外交の場において、米国政府が中国や日本など同盟国とどのようなディールを行い、結果、対中規制が変化するのか。こうした多面的な動きを継続的に分析することで、米国政府の規制発表前から変化の兆しを察知し、今後の見通しや事業影響、打ち手を検討することができます。
こうした分析を行うためには、規制の公式発表のみならず、主要メディアや政治専門誌、議会公聴会、シンクタンクのレポートなど幅広いソースを用いて、主要なステークホルダーの利害や動向を把握する必要があります。
さらに、中国の顧客動向を読み解く鍵となる中国政府の経済運営の分析には、西側諸国の政治・経済動向を分析する手法をそのまま流用することはできません。中国の政策決定過程は基本的に非公開であり、西側諸国のように法規や予算を制定・策定するにあたって行われる会議の議事録が一部でも公開されることはありません。また、西側諸国と比較した場合、法制度の運用に関する考え方が異なり、行政の裁量が相対的に大きいと指摘されています。
こうしたことから、中国政府の行動を読み解くには、複数の異なる組織を代表する政策関与者とそれぞれ利害の概要を頭に入れた上で、政策関与者が執筆に関与しているとみられる各種官製メディアや専門誌を分析する必要があります。
このような分析には、政策・規制動向や市場構造に関する専門的知見が求められます。
さらに、中国関連インテリジェンスは、売上構成、拠点配置、技術提供の範囲、契約条件といった企業の基礎的な経営判断に関わり得るものです。そのため、規制や政策の内容を把握するだけでなく、それらが自社のどの売上、どの顧客、どの取引形態に関係するのかを整理する視点が重要となります。
その際には、例えば、自社売上はどの顧客属性にどの程度依存しているのか、中国向けの技術支援やサービス提供はどの規制領域に該当し得るのか、中国の国内需要は政府の経済運営方針とどの程度連動しているのか、といった点を確認することが有効です。これらの問いを起点として整理を進めることで、中国関連インテリジェンスは社内の具体的な検討に接続しやすくなります。
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