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2025年初頭に発足した第2次トランプ政権の下で、関税措置などの保護主義的政策や、米中対立が深刻化しています。自動車や電機、情報通信機器などさまざまな産業のデジタル化を支える半導体は、現在の国際経済において戦略物資と位置付けられており、またそのサプライチェーンもグローバルに構成されていることから、半導体産業全体が関税措置や輸出規制といった米国の政策強化の影響を受けやすい状況にあります。
図表1:地政学リスクの高まりを感じる企業は、国内のみ・海外展開ありいずれも過去最高を記録
2025年6月に実施した「企業の地政学リスク対応実態調査2025」では、海外で事業を展開している企業の82%が地政学リスクの高まりを感じているのに対し、国内のみに事業を展開する企業は61%にとどまっています(図表1)。業種を問わず、事業展開エリアによってリスク感度が異なる状況がうかがえますが、こうした差異は、輸出比率や海外拠点の有無など、各社のサプライチェーン構造や販売先の分布に起因していると考えられます。半導体関連企業にとっては、複数の主要市場にまたがる供給・販売網を維持する必要がある中で、各国の制度変更や政策リスクが重層的に絡む状況に直面しており、表面的には「様子見」の姿勢が維持されています。一方で、特定部材の関税適用や中国によるレアアース制裁といったリスクへの警戒感は強く、水面下では、特定市場向け製品の仕様見直しや、顧客からの出所開示要請に応じた代替サプライヤーの検討、部材構成の再評価といった対応が一部で始まっている様子もうかがえます。各社は将来的な政策変更を見据えながら対応の方向性を探っている段階にありますが、顧客企業からの調達地開示要求や、米国政府によるローカル生産促進政策への対応を迫られる中で、サプライヤーの選別や価格転嫁の限界といった状況も、現場における大きな課題になりつつあります。
図表2:「最も懸念される地政学リスク」の上位3位が、トランプ政権の政策に関連する項目に
さらに、海外事業を展開する企業にとって「最も懸念される地政学リスク」の上位3位がトランプ政権の政策に関連する項目となっていることが、今回の調査結果の特徴です(図表2)。冷戦後唯一の超大国として世界経済と国際政治を主導してきた米国ですが、現在は企業にとって地政学リスクの震源となっているとも言えます。
図表3:約6割の半導体関連企業がトランプ関税の影響ありと回答。関税コスト上昇の自社負担や調達難、市場冷え込みによる売上減などの影響を認識
また、半導体関連企業に対象企業を限定した場合、海外事業展開を行っている半導体関連企業の約6割がトランプ政権による半導体関税(トランプ関税)の影響ありと回答をしており、大きいマイナスの影響もしくはマイナスの影響と答えた企業が過半数を超えています(図表3)。特に、関税コスト上昇分の自社負担やサプライチェーンの混乱による調達難、半導体搭載製品の市場の冷え込みによる売上減などの影響が警戒されていることから、グローバルにサプライチェーンを展開する傾向が強い半導体関連企業にとっても、米国との向き合い方が事業上の課題となっている状況が示されています。
もっとも、こうした影響への対応力は業種や企業の構造によって大きく異なります。例えば装置メーカーでは、製品そのものが輸出管理や制度規制の対象となることも多く、米国との技術連携を優先しつつ、中国市場には旧世代装置を供給するなど、市場分断を踏まえた選択的な対応が進んでいます。材料メーカーにおいては、対中依存を背景に調達リスクが顕在化しており、特定原料の備蓄や調達先の多元化が進められる一方で、価格変動や品質確保といった調整の難しさが残る状況です。
一方、デバイスメーカーでは、部材調達先の変更や製品設計の見直しが、顧客仕様や国際的な認証要件と密接に結び付いているため、短期的な対応が難しく、様子を見ながら長期的な対策を検討する企業が多く見られます。こうした業種間の対応差は、単なる影響度合いではなく、事業構造・制度リスク・顧客関係といった複合的な要因によって左右されていると言えるでしょう。
図表4:最先端およびレガシー半導体双方のプロセスに関連するビジネスを行う企業が多い
海外事業を展開する半導体関連企業の属性については、半導体タイプ(最先端・レガシー)で大別した場合、最先端・レガシーの双方のプロセスに関連するビジネスを展開していると回答した企業が最も多く、全体の43%を占めています(図表4)。先のQ47「半導体関税の自社への影響有無」の回答と合わせて行った分析によれば、最先端とレガシーの両方を手掛ける企業の95%がトランプ関税を逆風(大きいマイナスもしくはマイナスの影響)と認識しており、「影響なし」と回答した企業はありませんでした。同様に、比較的調達の柔軟性が高い構造を持つレガシー半導体のみに関連するビジネスを展開する企業においても、88%がマイナス影響を見込んでおり、最先端のみに関連するビジネスを展開する企業の79%に比べてやや高い水準でリスクを認識しています。
この傾向は、技術的な依存性の違いというよりも、製品単価、価格転嫁力、顧客構造といったビジネスモデル上の要因によるものと考えられます。また、レガシー半導体関連企業と最先端半導体関連企業では、こうした要因の影響度や関税対応の余地に明確な差が見られます。
レガシー半導体を扱う企業では、マイコン(MCU)やパワーマネジメントIC(PMIC)、ロジックIC、汎用アナログICといった比較的単価の低いデバイスを取り扱うケースが多く、これらは白物家電、オフィス機器、エントリーモデルの自動車といったコスト感度の高い汎用品への搭載が中心です。こうした製品群では、関税分のコストを価格に転嫁することが難しく、代替品も多いため、結果として、レガシー半導体関連企業の方が、最先端半導体関連企業に比べて、コスト増を自社で吸収せざるを得ない状況に置かれやすくなります。
これに対して、最先端半導体を扱う企業では、高性能GPU、AIアクセラレータ、SoC(System on Chip)などの製品が主力であり、供給先はデータセンターや5G通信インフラ、先進運転支援システム(ADAS)などの高付加価値分野に集中しています。これらの分野では顧客との取引規模が大きく、設計段階からの仕様共有や長期契約などの方法で、関税や制度変更といった外部環境の変化に対する緩和策を比較的講じやすい構造が整っているケースも少なくないでしょう。
このため、最先端半導体関連企業の方が、レガシー半導体関連企業に比べて、関税負担を価格転嫁や契約条件によって吸収できる可能性が高く、結果的に両者の間でリスク感度の差が顕在化していると考えられます。
それでは、半導体関税の影響を受けて、海外事業を展開する半導体関連企業は、どのようにリスクを認識し、どのような対策を取ろうとしているのでしょうか。
図表5:半導体関税への具体的な検討や対応が必要となる関税率の閾値の各社平均は28%であり、検討にあたっての情報収集手段はシンクタンク等への調査依頼が首位
具体的な検討や対応が必要となる関税率の閾値について調査を行った結果によれば、閾値となる関税率の平均は28%、中央値は25%、最も多い関税率は20%でした(図表5)。起こり得る複数のシナリオに備え、自社の特性に合わせた行動計画を平時から柔軟に検討しておくことが、企業の競争力やリスク管理の観点からも今まで以上に重要となっています。
また、想定される情報収集手段としては、シンクタンクなどへの調査依頼が首位となっており、地政学リスクについては社内の専門人材が限られており、情報収集などの場面では外部の活用を求める傾向が強いことがわかります。半導体関連企業以外を含む全体の調査結果においても、「地政学リスクを経営課題として明確に位置付けている」とする企業が84%に上る一方、「社内に専門スキルがない」「対応部署が不明確」といった課題も多数挙げられていることから、危機意識の高まりに比べて、社内の人材育成や体制の整備が追いついていない企業が少なくないことも示されています。
現時点ではまだ半導体関税が発動されていないこともあり、様子見もしくは限定的な対応にとどまる企業が多い状況であると推察されます。一方で、半導体関税への対応に限らず、今後の通商政策や地政学的状況の変化に関する国内外の情報を適切に収集し、業界や業界内の各社の動きについて継続的なモニタリングを行う方法を確立することが、地政学リスクに備える上で不可欠な取り組みになると言えるでしょう。
図表6:トランプ関税の影響により、調達網の強化を行うとの回答が最多。米国内販売価格の値上げの他、生産・投資の米国シフトも上位に
半導体関税の影響があると回答した海外事業展開を行う企業において、検討中または実施済みの対策として最も多かった回答は「調達網の強化(複線化/切り替え/内製化)」であり、続いて米国内販売価格の値上げの他、生産・投資の米国シフトなどが上位を占めました(図表6)。グローバルに展開される調達網そのものが競争力の源泉であることも多い半導体関連企業にとっては、調達網の強化は優先的に対応せざるを得ない取り組みです。日本が比較的強いとされる半導体製造装置メーカーや材料メーカーにおいても、半導体の米国内への生産回帰を想定して、米国内における販売価格の値上げや、可能な限り装置や材料を米国内で生産するという方向性が選択肢にあると考察されます。
さらに、関税による影響が大きいと認識している企業ほど、何らかの対策を検討または実行している割合が高い傾向が確認できています。図表6に示すとおり、関税の影響があると回答した企業のうち、調達網の強化に取り組んでいる企業は25%、輸出先の多角化を進めている企業は22%など、調達網・価格・投資の各方面における対策を検討中または実施済みですが、その一方で、影響が小さい、あるいはないと回答した企業では、具体的な対応策に至っていないケースも多く、リスク認識の差がそのまま企業行動に反映されている可能性が高いと言えます。
図表7:半導体関税への対応にあたっては、専門人材の社内育成や採用強化、産業団体との連携、海外拠点・子会社での地政学リスク対応能力の育成といった変革が必要との認識が高い
また、関税の影響があると回答した海外事業展開を行う企業において、「社内においてどのような変革が必要であるか」という質問に対する回答としては、専門人材の社内育成が38%と最も多く、続いて、本社・海外拠点・子会社の地政学リスクへの対応力の向上に向けた体制整備や対応力の強化を重視している傾向が確認できます(図表7)。これらの対策によって対応力の強化が見込めることは事実ではあるものの、専門家人材の育成や海外拠点を含む体制強化の実現には一定の期間を必要とすることから、リスク認識から実効性のある対策実施までの期間の短縮も課題です。
半導体関連企業が関税などの地政学リスクへの対策を行う際、企業の事業環境や事業特性を踏まえた上で地政学リスクの影響を的確に把握し、各リスクに対して適切かつタイムリーな対策を講じる必要があります。一方で、生産拠点の移転やサプライチェーンを変更することは、グローバルに各社固有の調達網を展開することで優位性を維持してきた半導体関連企業にとっては非常に困難なケースが多く、企業自身が自社の特性を把握しながら、慎重に状況を見極めて行動に移す必要があります。
図表8:地政学リスクに挑む半導体関連企業のレジリエンス強化戦略
米国による関税・輸出規制強化の影響を受けやすい半導体関連企業では、地政学リスクへの迅速な対応とその体制整備が、事業継続と国際競争力の維持のためには喫緊の課題であると言えます。特にトランプ政権下での半導体関税強化は、高度にグローバル分業化した半導体産業に前例のない不確実性をもたらしました。
不確実性に対応するための初動としては、半導体関税の影響を製品カテゴリや地域ごとに定量・定性的に可視化することが重要です。製品カテゴリごと(先端・レガシーチップ、製造装置、材料など)でリスク感度が異なり、今回の調査では業種や機能別のリスク認識にも差が見られました。そのため、各事業部門の詳細な影響評価に基づきながら、制度や政策の変化を継続的にモニタリングしつつ体制をアップデートできる仕組みが必要です。関税データの統合管理が不十分で初動対応が遅れる例もあります。
短期的には、こうした初期対応の延長として、まずは影響評価を踏まえた優先順位付けと即応策の実行が求められます。具体的には、自由貿易協定(FTA)や保税制度、ドローバック制度の活用が考えられますが、適正運用を担保するにはコンプライアンス体制の強化が不可欠です。特に価格転嫁が難しい装置・材料分野では、関税コストを吸収せざるを得ない場合も多く、影響度と緊急性を考慮した優先順位付けが必要です。一方、中長期的には、制度リスクを織り込んだサプライチェーンや生産体制の再構築が避けられないことから、北米向け安定供給や米中デカップリングの進行、成長市場への再配置などが将来戦略上重要になりつつあります。
こうした対応を実行するには、サプライチェーン全体を設計できる能力と、経営企画から調達まで社内横断の連携体制が欠かせません。制度・技術・政策動向をタイムリーに把握するインテリジェンス機能、意思決定を支える可視化ツール、実行を担保するガバナンスの整備も必要で、対応の実効性を左右します。
今回の半導体関税は前例のない制度的ショックであり、地政学リスクへのレジリエンスが試される典型例と言えます。特にグローバル分業体制の半導体産業では部分最適では不十分で、全体最適につながる戦略が求められます。関税に限らず、各国で輸出規制や現地生産誘導政策などの構造変化が続くと見られるため、企業においては持続可能性と競争力を確保するべく平時から専門知見を取り入れ、起こり得る複数の状況変化やパターンを想定した備えを行うことが必要です。
PwC Japanグループでは、各国の政策情報を含む地政学リスクに関するインテリジェンスの提供から、地政学リスクの影響評価、施策設計・体制構築に繫がる各種戦略の立案支援、さらに半導体バリューチェーン全体をカバーするソリューションまで、幅広いサービスを展開しています。制度・産業構造・技術・地政学リスクが複雑に絡み合う環境下で、半導体関連企業がレジリエンスを高め、持続的な成長を実現できるよう支援することで、産業全体のさらなる発展と競争力強化に寄与します。
海外で事業を展開する年商100億円以上の企業に勤務する管理職592名(一部の設問は国内のみで事業を展開する年商100億円以上の企業に勤務する管理職97名を加えた合計689名)を対象に、2025年6月にオンラインで調査を実施。調査対象とした企業は製造業、サービス業などであり、産業全般をカバーした。同様の調査は2019年3月、2021年8月、2022年8月、2023年8月、2024年7月に実施しており、今回が6回目。
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