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トランプ関税の影響をすでに受けているか今後影響が出る可能性があると回答した企業は全体の60%に上りました。また、そのうち具体的な影響内容としては、米国拠点における調達コスト増加(45%)、対米輸出の減少(43%)、関税コスト上昇分の個社負担による利益の減少(41%)の他、グローバルサプライチェーンの混乱による調達難(30%)など、さまざまな声が上がりました。国内外で事業を展開するグローバル企業にとって米国は大きな市場の一つであり、トランプ政権の関税政策が自社のビジネスに深刻な影響を及ぼす可能性があると強く認識されていることが読み取れます(図表1)。
図表1:トランプ関税によって米国拠点の調達コスト増や対米輸出などの影響が拡大
図表2のとおり、トランプ政権の関税政策への対応として、「検討中または実施済み」に関しては、調達網の強化(複線化/切り替え/内製化)(28%)、生産・投資の米国シフト(25%)が上位に上がりました。トランプ関税の自社ビジネスへの影響の大きさから、なんらかのサプライチェーンの見直しが必要と考えている企業が多いことがうかがえます。一方で、トランプ関税の影響を認識しながらも、対応を検討していない、または実施していないとの回答(23%)も一定程度みられました。生産拠点を米国に移すためには時間とコストもかかるため、影響を十分に可視化し評価できていない企業では、トランプ政権以降を見据えた米国市場向けサプライチェーン戦略の方向性を決めかねている企業も多いのではないかと推測します。また、関税戦略ガバナンスの不在や関税政策への対策戦略に不慣れであるなどの理由により、対応策検討が進められていない企業もあると思われます。
図表2:トランプ関税への対応方針・スピードが二極化 ~迅速に具体的な対策を図る企業と、検討に遅れがみられる企業など対応にばらつき~
さらに、トランプ政権の関税政策への自社の対応として検討中または実施済の関税戦略(図表2右)には、FTA・EPAの利用最適化(25%)や原産地・HSコードの見直し(24%)、ファーストセールの活用(20%)といった具体的な施策も一定数みられるものの、「いずれの対応も検討していないかまたは実施していない」との回答が45%を占める結果となりました。上記の全般対応への回答(図表2左)と組み合わせると、全般対策および関税対策のいずれも対応未検討・未実施と回答した企業が一定数あり、トランプ関税政策対応への遅れや脆弱性が浮き彫りとなりました。影響を懸念する声が多くあるにもかかわらず企業での対応が図れていないという状況の根底には、後述する関税戦略ガバナンスや専門人材の不足、それによってインパクト評価や、長期的なサプライチェーンの検討が十分できていないなど、複合的な要因が考えらえます。
世界貿易機関(WTO)のラウンド交渉や自由貿易協定(FTA)の拡大に伴って自由貿易が推進され、関税自体は将来的には低減されるであろうといったこれまでの期待が、WTOの弱体化やトランプ政権による関税政策によって不確実性の高いものとなりつつある中、今後は、企業における積極的な関税対策検討が求められる機会が増加するものと考えられます。米国への輸入に関しては、2025年4月5日以降、一部の製品を除く多くの品目に対して10%のベースラインとしての相互関税が賦課されており、直近では2025年8月1日にも相互関税の引き上げが予定されています。現時点でトランプ関税対策が未検討・未実施の企業においては、以下の手順に沿って早急に対応検討を進めることが強く推奨されます。
PwCが考えるトランプ関税を含む関税コストに対する具体的な検討・対応方法を図表3に示しました(図表3)。初期的な対応としては、トランプ関税の可視化を図り、自社へのインパクトを評価することが重要です。その上で、短期的・中長期的施策を洗い出し、各関税コスト節減効果をシミュレーションすることが推奨されます。日本ではグローバル拠点の関税の算定に必要な輸入申告データを詳細に管理していない企業も多くみられます。日本企業において米国をはじめとしたグローバル拠点の関税データの管理ができていない場合は、米国拠点を中心に輸入申告データの回収を行っておくことで、その後のインパクト評価にかかるリードタイムを短縮することが可能です。
次に、トランプ政権の関税政策に対する短期的施策としては、(1)ファーストセールなどの関税評価額の引き下げ戦略、(2)FTA利用最適化などによる関税率の引き下げ戦略、または(3)関税が軽減・免除されるフリーゾーン制度の活用やドローバック制度の活用などを検討するケースが多くみられます。これらの戦略は比較的導入しやすい施策ではあるものの、トランプ政権下における関税適正化に対する厳格な監視が継続されていることも留意が必要です。短期的施策であっても、米国関税制度上の関税コンプライアンス要件の充足確認を怠ることなく、専門家の視点を交えながら、計画的かつ適切な手順を踏んだ上で、これらの関税戦略を導入する必要があります。
さらに、中長期的な対策の検討にあたっては、4年間の第2次トランプ政権中のみではなく、トランプ政権以降を見据えた最適なサプライチェーン戦略および事業戦略を打ち立てるという目的をもって、生産や投資の米国シフトなども視野に、専門家を交えて、自社に最適な効果をもたらす施策を洗い出していくことが強く推奨されます。その一環として、各企業で自社のビジネスにおける米国市場の重要性や位置付けを再評価することも有意義でしょう。
図表3:さまざまなオプションのうち、最適アプローチの特定から導入までをワンストップで支援
また、関税政策への対策や戦略に不慣れな企業においては、中長期的な対策のため、最適な関税ガバナンスを構築し、人的リソース確保に向けた検討を開始することが強く推奨されます。企業における関税戦略検討には、その主体となる組織・体制が必要ですが、日本企業では関税戦略をリードする責任者や部署が明確になっていないケースが多くみられます。そこで、次にトランプ関税対策の対応を主管する体制や組織についての日本企業の現状と、あるべき姿を考察したいと思います。
積極的かつ効果的な関税対策検討には、最適な関税戦略ガバナンスが必要不可欠です。今回の調査では、トランプ関税政策検討の主体は、事業部(40%)、経営企画部(34%)との回答が上位となりました(図表4)。多くの日本企業は、関税を物流コストの一環と捉え、サプライチェーン関連部で管理することがこれまで一般的でした。しかし、今回のサーベイ結果によると、トランプ関税対策の主管がサプライチェーン関連部であると回答した企業は9%にとどまりました。つまり、異次元のトランプ関税政策下では、関税コストを単なる物流コストではなく重要な経営課題として捉え、抜本的な戦略検討が必要と考える企業が多いことが本サーベイ結果で示されていると考えられます。特に経営企画部が対応主体として2位にランクインしたことは、企業におけるトランプ関税対策が経営戦略として重要であると考えられている点を如実に表していると考えられます。
図表4:トランプ関税対策主管部署は、事業部または経営企画で二極化
一方で、トランプ関税対策の主管が「事業部」であるとの回答については、「経営企画部」が経営課題として積極的にトランプ関税対策を図ろうとするケースとはやや異なる状況かもしれません。つまり、企業における関税戦略担当部門が不在である中、マーケティングや販売を担う事業部が実際の取引においてトランプ関税発動に伴う影響に直面し、対応せざるを得ないという状況に追い込まれているとも推測されます。トランプ関税に関し、事業部が対応主管となる場合は、生産シフトなどの大きな判断を行いづらい他、全社的に一貫した方向性を打ち立てにくいといった課題も想定されます。このような課題を解決するためにも、事業戦略を担う主管部門または責任者が検討をリードすることが、効果的なトランプ関税対策の実現において重要だと考えます。
また、トランプ関税対策としては、財務・経理部門や、調達部門との連携も必要となるところ、企業における各部署の役割を理解し、必要な関係者の巻き込みを図る必要があります。中には、第2次トランプ政権の発足以降、複数の関係部署から構成されるタスクフォースチームを立ち上げる企業も出てきており、各企業で関税対策検討の工夫がみられるようになりました。さらに、トランプ大統領は米国内の生産回帰を呼び掛けていることから、生産シフトを含む検討が求められる可能性もあり、そのような経営判断が伴う対策検討が必要です。これらの点を鑑みると、経営企画部のリードによる社内検討は、トランプ関税対策ガバナンスとして理想的な形の一つと言えるのではないでしょうか。
関税戦略に係る強靭な体制がある日本企業は限定的な中、今後のトランプ関税政策を乗り切る体制として自社にとって最適な体制とは何か、早急に検討を進めることが求められています。
関税政策への対応を検討する際に企業が日本政府や社外専門家へ求める支援の調査では、専門人材の社内育成に対する支援(30%)、専門人材の採用強化に対する支援(26%)、法律専門家による支援(24%)などの声が上位となりました(図表5)。関税戦略マネジメントにおける脆弱性を意識せざるを得ない状況を通じて、社内の専門人材の補強が必要と考えている企業が多い様子がうかがえます。また、これらの課題を認識することで、今後の企業における関税ガバナンス強化につながるとも言えるでしょう。
一方で、日本政府や社外専門家へ求める支援として、海外拠点・子会社における産業団体との連携強化のための支援(17%)や、海外拠点・子会社における米国政府への働きかけに対する支援(11%)は若干劣後する結果となりました。産業団体との連携は十分できているとの見方や、反対に産業団体と連携による効果は限定的と考えているなど、さまざまな見方が可能です。少なくとも、日本企業ではロビー活動のように外的要因を緩和するための直接的な働きかけよりも、外的要因に対する自社の柔軟性や対応力の強化に重きを置きたいと考えている様子がうかがえます。今後も引き続きトランプ政権と各国との間で関税協議が進められる見込みであり、産業団体との連携も必要であると考えられますが、すでに相互関税は発動しており今後の引き上げも発表されている中、自社の対応力向上に向けた取り組みを優先課題としているものとみられます。
図表5:関税対策強化のための人材育成に対する意識の高まり
関税対応における検討事項は、米国向けサプライチェーンのみとは限りません。中国による対米報復措置についても、半数近くの企業が影響を受けているもしくは受ける可能性があると回答しており、グローバルにビジネスを展開する日本企業にあっては、米国だけでなく中国向けサプライチェーンについても再検討が求められている状況です。
調査で企業が挙げた中国関連リスクは、輸出入関税コスト増(31%)、レアアース等の輸出規制への対応(15%)、対米報復措置(10%)など、半数以上が貿易に関するリスクでした。これら中国関連リスク対応として、26%の企業が中国国外への生産・調達移管を検討しており、移管先として「日本」が最多(53%、前年比9ポイント増)となりました。製造業ではこの傾向が特に強く、移管を検討する企業の約半数が日本を選択しています。また、中国からの移管先としてインドを候補とする声も増加しており、前年比11ポイント増で2位に浮上しました。これは、インドと米国の貿易交渉進展や、米国によるASEAN諸国への高関税賦課の可能性が影響していると考えられます。
こうした調査結果から、米中の両市場が日本企業にとって重要な役割を担っていることの他、グローバルサプライチェーンにおける米中という二大強国の役割の重要性、米中間のサプライチェーンにおいてリスクが発生した際の影響の大きさをうかがうことができます。企業は、米中双方の関税リスクを中心に、他の地域を含めたグローバルサプライチェーンの見直しを行っていくことが求められます。各市場の重要性と成長可能性を踏まえると、サプライチェーンの分散と多角化、拡大市場への投資や生産移転なども効果的に組み合わせながら最適なグローバルサプライチェーンを検討し、それらを見出していくことが強く推奨されます。そのプロセスにおいては、トランプ政権による相互関税の引き上げなどの動きの他、外国貿易障壁報告書など米国政府による各国調査結果も注視していく必要があります。
2025年の第2次トランプ政権発足後、さまざまな関税政策が打ち出されたものの、未発動の関税もあり、引き続き不透明な状況が続くことが予想されます。しかしながら、企業としては、米国関税の引き上げの発表を待ってから対策を検討していては、関税発動時の影響を十分に低減させることができない可能性があります。そのため、相互関税のみならず、製品別の関税についても「関税の引き上げがなされる」という前提に立ちながら、柔軟なサプライチェーン設計と関税対策の検討が求められます。また、そのために必要かつ最適な関税ガバナンスについても検討を進め、企業内の関税対策における責任と役割を明確化しておくことが強く推奨されます。
トランプ政権の関税政策に対する産業・分野別(地政学リスク対応全般、半導体産業、医薬品産業)の対応状況については、後続のコラムで詳細な解説を行う予定です。
海外で事業を展開する年商100億円以上の企業に勤務する管理職592名(一部の設問は国内のみで事業を展開する年商100億円以上の企業に勤務する管理職97名を加えた合計689名)を対象に、2025年6月にオンラインで調査を実施。調査対象とした企業は製造業、サービス業など産業全般をカバーした。同様の調査は2019年3月、2021年8月、2022年8月、2023年8月、2024年7月に実施しており、今回が6回目。
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