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FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は2024年12月のアルゼンチン、オマーンの相互審査結果の公表により、FATF加盟国の相互審査を全て完了しました。FATFとは、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止(Anti-money laundering and counter-terrorist financing: AML/CFT)対応に関わる国家の体制整備状況を審査する政府間会合で、その審査結果は国際的に大きな影響力を持ち、各国のAML/CFT対応を左右します。本稿では、2014年から実施されてきたFATF第4次相互審査の結果(再評価も含む)を総括し、第5次相互審査に向けた留意点を解説します。
FATFは、各国の法制度等について「40の勧告」を基に技術的コンプライアンス(以下、法令等整備状況)を審査し、4段階で評価します。さらに、第4次相互審査では、11項目の有効性評価が追加され、AML等の対策の制度自体が適切に機能しているかについて、4段階で評価します。各項目の評価結果(主に未達項目数)を総合して、各国には「通常フォローアップ」「重点フォローアップ」などの評価がなされます(図表1)。
図表1:FATF第4次相互審査の評価体系
| 基準 | |
| 技術的コンプライアンス(法令等整備状況)審査(40項目) | ①Compliant(適合:「C」)、②Largely Compliant(概ね適合:「LC」)、③Partially Compliant(一部適合:「PC」)、④Non- Compliant(不適合:「NC」)(合格水準は①、②、それ以下は未達成) |
| 有効性評価(態勢の運用面の審査:11項目) | ①High Level(高い:「HE」)、②Substantial Level(十分:「SE」)、③Moderate Level(中程度:「ME」)、④Low Level(低い:「LE」)(合格水準は①、②、それ以下は未達成) |
| 総合評価 | 法令等遵守項目について、未達成項目8項目以上は重点フォローアップ、未達成項目20項目以上は監視強化、有効性評価項目について、未達成項目7項目以上は重点フォローアップ、未達成項目9項目以上は監視強化。この他、別の基準あり。 |
加盟国の第4次審査結果公表が全て完了(一部の国へのフォローアップは継続)したことを受け、FATFが直接審査を実施したFATF加盟38カ国・地域と湾岸協力理事会5カ国の計43カ国(以下、FATF加盟国等)を見てみます。まず、法令等整備の未達項目数の平均は、相互審査結果公表時は8.7項目、その後のフォローアップ報告後は4.0項目に改善しています。平均値は、相互審査結果公表時は重点フォローアップ相当でしたが、各国のフォローアップ後は、総合評価の合格水準である通常フォローアップに相当し、より基準が厳格化された第5次相互審査においても、通常フォローアップの範囲内となる水準です。
一方、有効性評価項目については、一部例外を除いて、第4次相互審査では、相互審査時のみに評価され、フォローアップ報告時に再審査・評価はなされませんでしたが、FATF加盟国等の未達項目数の平均は6.5項目という結果でした。
FATF加盟国等の各国の未達項目数の分布を見ても、法令等整備項目の未達項目数が大きく減少していることが見てとれます(図表2)。
図表2:FATF第4次相互審査・国別評価結果分布
(出典)FATF資料を基にPwC作成
勧告の各項目の評価基準が同様ではないので、一概に評価はできませんが、現時点では法令等整備状況が平均で第5次審査の合格目線をクリアしていることから見ても、次の審査の主戦場は、法令等整備から有効性評価(法令等の運用状況)に移っていくことになると考えられます。
法令等整備項目の改善状況を見ると以下の特徴があります。
まず、AML/CFT等に係る基本項目である「R1(勧告1).リスクベースアプローチ」で全てが合格水準となっているほか、対策の根幹となる「R10.顧客管理」も未達は2カ国のみで、概ねは合格水準に改善しています。今次の審査を通じて、AML/CFTの基本的な法令は加盟国等で整備されたといえます。
一方で、改善が進んでいるなかでも、テロ資金供与・拡散金融対策関連の項目(R6、7)、実質的支配者関連の項目(R24、25)、指定非金融業者(DNFBPs)関連項目(R22、23、28)やR8.非営利法人、R12.PEPs(重要な公的地位を有するもの)は、10前後の比較的多くの国・地域が合格水準未満です。基準の改訂された暗号資産関連項目(R15)は新基準への不適合により評価を落とされた国も見受けられます。
日本は、相互審査結果公表時に他国比若干見劣りする結果でしたが、フォローアップ報告によって法令等整備項目に関しては全て合格水準となりました。ただし、「金融庁ガイドラインに法令と同様の強制力がある」という主張が認められ、同ガイドラインの将来的な遵守を担保に、法令等整備の主要項目(R10.顧客管理、R24.法人の実質的支配者など)が合格水準となっていることに留意が必要です。第5次相互審査では、法令等整備の実態の確認に当たって、ガイドラインの強制力、すなわちガイドラインの徹底・遵守の状況が確認されると意識しておくことが肝要です。
図表3:FATF第4次相互審査結果と改善状況(法令等整備の未達項目数)
※ FATF加盟38カ国・地域と加盟協会のひとつ(湾岸協力理事会)の5カ国の計43カ国・地域の結果を集計したもの
(出典)FATF資料を基にPwC作成
有効性評価については、前述の通り、第5次相互審査の主戦場となりますが、FATF加盟国等も総じて苦戦しています。法令ではなく、捜査当局、監督官庁、金融機関等の民間事業者の法令の運用状況、実効性が確認されますが、官民揃ってFATFの審査目線をクリアするのは容易ではないためと見られます。
第4次相互審査結果を項目別に見ると、IO(Immediate Outcome)11項目のなかで、とくに結果が悪いのは、IO3.金融機関・DNFBPsの監督、IO4.金融機関・DNFBPsの予防措置、IO5.法人等の悪用防止(実質的支配者の確認等)であり、ほとんどの国・地域が未達成の評価です。IO4.金融機関・DNFBPsの予防措置に関しては、相互審査後のフォローアップにおいて再審査を受けることができたスペインが、唯一合格水準のSEを獲得したのみで、その他の国は全て未達成という状況です。さらに、IO7.資金洗浄/捜査・訴追・制裁、金融犯罪対策・被害補償等に関係の深いIO8.犯罪収益の没収、テロ資金供与対策のIO10.テロ資金の凍結・NPO、拡散金融対策のIO11.大量破壊兵器に関与する者への制裁も結果は捗々しくありません。
有効性評価項目は、第5次相互審査では、第4次相互審査時からIO3とIO4が修正され、IO3.金融機関・暗号資産交換業者の監督・予防措置および疑わしい取引届出、IO4.DNFBPsの監督・予防措置および疑わしい取引届出となります。第4次相互審査では監督、予防措置と対策別であったものが、第5次相互審査では業態別となります。第4次相互審査では、DNFBPsが足を引っ張り、IO3、IO4が未達成となった国・地域が散見されていましたが、そうした国・地域は金融機関等の監督・予防措置を見る新IO3は合格水準を達成し得るため、国・地域別に審査結果に濃淡が生じる可能性があります。なお、その他の項目は第4次審査から不変です。
図表4:FATF第4次相互審査結果
【有効性評価(態勢の運用面の審査:11項目)】
①High Level(高い:「HE」)、②Substantial Level(十分:「SE」)、③Moderate Level(中程度:「ME」)、④Low Level(低い:「LE」)(合格水準は①、②、それ以下は未達成)
(出典)FATF資料を基にPwC作成
各国が苦戦するなかで、日本はFATF加盟国等の平均値よりもさらに見劣りする状況にあり、厳しい審査になると予想されます。金融機関にとって最も関わりの深い新IO3に限ってみても、金融庁のガイドラインに則って態勢整備をようやく終えたところであり、実際の運用は始まったばかりです。いずれの項目も、相当の準備が必要になると想定されます。
2025年2月から第5次相互審査のオンサイト審査が開始され、FATF加盟国等のなかの先陣を切ってマレーシア、ベルギーに審査団が派遣されました。一方、日本でも第5次相互審査がすでに始まっているといえます。オンサイト審査は2028年8月ですが、書類審査はFATF審査の1年前(2027年)に実施されると見られますが、その際、民間の対応状況の資料(書類審査前の数年分)が確認されます。実質的な国際公約であった態勢整備期限を越えたことや第4次相互審査が完了したことに安心できる状況ではなく、引き続き緊張感を持った対応が官民ともに求められているといえます。
FATFは、審査メソドロジーのコアイシューの項目ごとに監督官庁に質問をしてきます。その回答の作成のため、民間の運用状況の具体例を含めた実態確認を詳細に実施せざるを得ないと見られます。また、一部の金融機関や金融機関以外の特定事業者は、FATFからの質問項目に沿って直接のインタビューを受けることになります。これらの準備のために、金融機関などはPDCA管理を通じてデータ、具体例を積み上げて備えることが必要と見られます。金融機関を含む特定事業者各社は、詳細な質問が予想されるなかでは、資料審査まで準備の時間が十分とはいえず、有効性評価対策のための対策のピッチを上げていくことが必要となりそうです。
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