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企業の経理業務基盤が適切に整備、運用されず、財務経理ガバナンスが脆弱であると、適切な経理処理がなされず、不正や誤謬が発生するリスクや、報告期限までに本社に対して決算報告がなされないリスクが高まります。
なお、本稿では子会社の決算報告は、各社の「方針」「ルール」「プロセス」「システム」から構成される経理業務基盤により作成されるものとします。また、「財務経理ガバナンス」を、本社主導でグループ全体としての経理業務基盤を整備、運用していくことで、経理の業務品質を維持することと定義します(図表1参照)。
国内市場規模の縮小に伴い、多くの企業では海外市場での活動のために子会社の数が増加し、海外売上比率が上昇しています。連結決算においては子会社における経理業務の品質の重要性が増す中で、経理業務基盤の整備や運用を子会社任せとしているケースや、現地の財務諸表監査で適正意見を受けていれば本社としては問題なしとしているケースがよく見られます。
子会社とのコミュニケーションは連結報告パッケージのやり取りに限られ、先述のリスク顕在化に向けた事前対応を行わず、何か問題が発生した場合に事後対応のみを行っているというケースも散見されます。
日頃の業務の中で財務経理ガバナンスを強化する必要性を感じていても、実際にどのような取り組みを行えばよいか、イメージを持てないことも多いかと思います。本稿では、財務経理ガバナンスを強化するためのポイントを、「グループとしての方針」「子会社の経理体制」「本社によるモニタリング」の3つの観点から解説します。
グループとしての会計処理を定めた会計方針書を整備し、子会社に展開することは一般的ですが、それだけでは各社において整備、運用すべき「方針」「ルール」「プロセス」としては十分ではありません。どのような取り組みを行えば、財務経理ガバナンス強化のために必要な、グループとしての方針を整備可能か解説します。
財務経理ガバナンスを強化するためには、子会社の経理部門を指揮する際の品質基準を明示するものとして、子会社の経理部門の役割などを明確化した「グローバル経理ポリシー」を整備し、運用することが重要です。
会計基準や会計処理方法といった会計方針を既に文書として整備している場合でも、業績評価を適正に行うために会計処理方法を統一する範囲が十分に整理されているか評価する必要があります。
例えば、ある子会社において売上原価として処理している費用を、別の子会社では販管費として処理していたとします。その結果、利益率に差が生じるような場合には、業績評価に対する不公平感が生まれるおそれがあります。財務会計の観点以外に、管理会計の観点からも会計方針をどのように定めるか、改めて整理する必要があります。
会計方針以外のポイントとしては、総則として、子会社の経理部門および関係者の役割や責任、承認に関する方針、経理部員としての心得を定めることが重要です。経理業務プロセスにおける管理方針や決算手続ルール、レポーティングに関する事項(本社への報告対象、報告ルール)を明確化することで、共通の方針のもとで経理業務基盤を整備、運用することが考えられます。
財務経理ガバナンスに必要な、子会社(地域統括会社を含む)の経理部門および関係者の役割や責任については、「全権委任型」「役割分担型」「本社サポート型」に大別できます(図表2参照)。
パターン |
特徴 | メリットとデメリット |
| 全権委任型 | 本社から子会社に多くの役割と責任を委任 |
|
| 役割分担型 | プランニングや複雑な管理活動は本社が実施し、子会社は本社の指示に基づき活動を実施 |
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本社サポート型 |
管理活動は本社が主に実施し、子会社はそのサポート(現地での調整など)のみを担当 |
|
一般に、「全権委任型」は地域内の多くの国で事業展開し、事業規模が大きい場合に適しており、「役割分担型」は事業の立ち上げ期から安定期に至る期間に適しています。また、「本社サポート型」は事業規模が小さく、進出国が限定的な場合に適しています。そのため、各地域・国での事業や子会社の実情に合わせて、グループとして最適な体制を構築することが必要です。
上場会社であれば、J-SOXへの対応として、一定の範囲の子会社や業務プロセスについて、内部統制の整備状況、運用状況を評価していますが、評価範囲外の子会社や業務プロセスについては十分な対応を行えていないケースがあります。
J-SOXの評価範囲にかかわらず、子会社における取引発生業務に関して、業務プロセス自体の標準化はせずとも、グループとして必須のコントロールを定義して、ポイントを押さえた緩やかな標準化を図ることで、統制強化を実現することができます。
J-SOXは一定の評価基準に準拠したものであることから、その評価範囲は子会社における全ての業務プロセスを網羅しているわけではありません。そのため、J-SOXへの対応として必要とするキーコントロールよりも多くのキーコントロールを、グループ標準として設定する必要があります。
キーコントロールの運用をマニュアル作業のみで行って統制を強化する場合、人的リソースの制約により、運用が不十分となったり、業務プロセス自体が回らなくなったりすることがあります。なお、本稿では「キーコントロールの自動化」とは、システムを利用した計算やデータ連携によるコントロールに加えて、システムを利用したデータ間の突合などにより、マニュアル作業でコントロールを省力化することと定義します。
取引自体の妥当性を評価するコントロールや、紙の証憑を用いたコントロールなど、マニュアル作業が必要なもの以外は、データ間の突合を自動化(例:取引先からの請求金額の妥当性評価のために、請求書の読込み、注文書データ<債務データ>の抽出、請求書データとのキーマッチングを自動化)することが重要です。人間が得意とする、または人間でないと実施できないキーコントロールと、システムを利用して自動化可能なキーコントロールを区分した上で、キーコントロールの自動化を進め、会社として適切なリソースの配分を行う必要があります。
全ての会社は決算業務として必要なことを漏れなく、正しく、タイムリーに行う必要がありますが、子会社各社に任せきってしまうと、決算の品質が担保されないというリスクがあります。このようなリスクへの対応策として、グループとして必須の業務水準を示すテンプレートを整備することが考えられます。
例えば、「決算スケジュール」「決算整理仕訳フォーマット」「科目別残高チェックリスト」の3点セットを作成し、子会社に対して原則適用を求めることで、決算業務を標準化し、その品質水準を担保することが可能となります(図表3参照)。
| テンプレート名称 | 内容 |
決算スケジュール |
決算時の全てのタスクをスケジュール化し、担当者を割り当て、漏れ・遅延を防止するためのテンプレート |
決算整理仕訳フォーマット |
仕訳策定の目的・手順や計算過程を明確化し、誤りを防止するためのテンプレート |
科目別残高チェックリスト |
科目別のチェック項目をリスト化して、異常値を発見するためのテンプレート |
この取り組みは、本社が必要とする水準での業務の実施を担保することのみならず、業務の属人化を防ぎ、経理人員の病欠など、不測の事態が生じた場合に、会社として決算を締められないといった状況を回避することに役立ちます。グループ共通の3点セットの内容を理解していれば、もし子会社で欠員が発生した場合に、本社から経理人員が応援に入り、3点セットを利用して子会社の決算業務を実施するといったことも考えられます。
グループ横断のプロセスオーナーを任命し、プロセスオーナーが各社のルールや業務の標準化をコントロールすることで、グループとしての一貫性を担保することが可能となります。プロセスオーナーはグループ標準のルールや業務の適用に関する助言を子会社に対して行い、グループ標準のルール・業務の改廃を管理し、新会社や新事業での適用状況を評価する役割を担います。この取り込みを行うことで、整備したグループ標準のルールや業務が形骸化せず、必要な場合はこれらを変更することで、安定的な運用を実現することにつながります。
全社方針に準拠して、子会社の経理部門および関係者の役割や責任などを定めるだけでなく、運用を行う人材がそれらを十分に理解していることが重要です。
子会社にそのような人材を配置し、子会社の経理体制を整備しようとしても、人材の確保が困難なケースや、子会社の体制として、管理部門に十分なリソースを配分する余裕がないケースがあります。そのような場合に、本社は子会社の経理体制の整備をどのように進めるべきか、ポイントを解説します。
子会社が複数の地域・国に進出しているものの、その数は多くない場合や、各社の経理スタッフ数や業務効率にばらつきがある場合には、本社がサポートする形で子会社の経理体制の整備を図ることが考えられます。
本社あるいは地域統括会社に子会社管理の専任スタッフを配置し、業務の標準化、KPI評価および監査、システム構築、組織設計、教育研修を通じて、子会社の経理人員の能力アップ、業務効率アップ、モチベーションアップのために指導を行うことが想定されます。
また、最近では決算業務の実施状況を可視化するツールなども開発されています。本社主導でそのようなツールを子会社に導入することで、子会社の決算業務がスケジュールどおりに進捗しているか把握でき、進捗状況に懸念がある場合には適時にコミュニケーションをとり、指導することも可能となります。
多数の子会社が複数の地域・国に進出し、その会社規模が中ないし小程度の場合には、子会社の経理業務の一部を外部委託に切り替えることが考えられます。地域ごとに定型業務はSSC(Shared Service Center:グループ内の間接業務を集約して運用する組織)やBPO(Business Process Outsourcing:業務プロセスの一部を専門業者に外部委託すること)に集約し、専門業務はCoE(Center of Excellence:優秀な人材・ノウハウなどのリソースを集約した横断的組織)に集約することが考えられます。
各社の経理業務量が一定規模であり、定型業務へのAI-OCR(Artificial Intelligence-Optical Character Recognition<Reader>:AI技術を活用した光学文字認識機能)やRPA(Robotic Process Automation:パソコン上の定型作業を自動化する技術)の適用に効果がある場合には、子会社の経理業務の一部にこれらを活用することで、SSC業務を自動化することや、BPOを内製化することが考えられます。
多数の子会社が複数の国・地域に進出し、それらの子会社の規模は小さく、業務量は少ない場合には、経理業務をグローバルで集約することも考えられます。
ERPパッケージ(Enterprise Resource Planning:企業全体を経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るためのソフトウェア)のパブリッククラウドへのシフトは進んでいるため、会計システムを使って、グローバルで経理業務を集約することは可能です。
グループとしての方針や子会社の経理体制を整備、運用することに加えて、会計情報をもとに、本社が子会社をモニタリングすることは、不正などのリスクを低減するために重要です。
ETLツール(Extract Transform Load:組織内外のデータを抽出・収集し、用途に応じて変換・加工し、格納先に書き出すためのツール)や会計情報データベースを活用することで、各子会社のシステムを必ずしも統一せずとも、子会社の既存システムから会計データを抽出して集約することで、連結パッケージの内訳を分析するために明細レベルで子会社の実態を継続して把握することができます。
子会社の会計データを抽出して集約する際には、一定の粒度の勘定科目に集約しないと分析は難しくなります。グループで勘定科目の統一を行っていない場合、各社独自の勘定科目からグループ標準の勘定科目に組み替えて分析を実施する必要がありますが、分析に必要な切り口や粒度で統一すればよく、100点とまでは行かずとも、80点程度の水準を目指すことで、本社として必要な水準の分析は可能な状態になると考えます。
また、本社による子会社の会計データの見える化を推進することは、それ自体が子会社に対する牽制効果をもたらします。
会計データ・モニタリングでは、事前に設定した不正シナリオに基づいて会計データを分析することが一般的ですが、AIを活用して不正シナリオを不正検知ロジックとして高度化することも考えられます。
この場合、集約された子会社の会計データを用いて不正を検知するために、不正検知実績データのフィードバック分析を行うことで、不正検知ロジックの高度化を図り、AIを活用した機械学習によってリスク予測と事前検知を行うことが可能になります。
本社の経理部門の役割は、連結決算を行うだけでなく、グループ全体としての方針を策定し、経理体制の整備、運用を推進する必要があると考えます。
財務経理ガバナンスの強化は、不正会計や決算遅延といったリスクを低減させ、企業価値の向上につながるというポジティブな効果をもたらすものです。
各子会社へのERPパッケージ導入を通じた子会社業務の抜本的な改革やグローバルコードの標準化を実現することが、財務経理ガバナンスのより進んだ姿ですが、これには時間もコストも要します。そのような姿に至る前の段階として、上述の取り組みを段階的に推進し、できる限り早期に財務経理ガバナンスの強化を図るべきであると考えます。
三浦 太嗣
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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