製造業の未来を切り開くエンジニアリングチェーンのDX 第2回

「作って終わり」のDXからの脱却

  • 2026-05-11

PwCコンサルティングは、「2025年の崖」の課題を抱えるクライアントに向けてレガシーシステムのモダナイゼーションを支援しています。製造業分野では、ソフトウェアの品質保証で市場をリードする株式会社SHIFTと共に、エンジニアリングチェーンの効果的なDX推進、AI活用のベストプラクティスの検討を推進しています。モダナイゼーションの現状と、その先にある課題について話を聞きました。

※参加者の肩書き、所属法人などは掲載当時のものです。本文中は敬称略。

参加者

株式会社SHIFT
モビリティ事業部 モビリティサービス部 SDVサービスグループ
グループ長補佐
小坂 健二氏

株式会社SHIFT
AI BPaaS事業部 AI BPaaSサービス部 AIサービスグループ
グループ長
幸加木 哲治氏

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
渡邉 伸一郎

PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
宮寺 厚志

PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
笹本 晃司

左から、小坂 健二氏(左下)、笹本 晃司(左上)、幸加木 哲治氏、渡邉 伸一郎、宮寺 厚志

「2025年の崖」とその先にある課題

渡邉:
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」は、日本企業が抱えるレガシーシステムに起因して、DXの遅れ、運用コストの増加、IT人材不足といった課題が生まれる状況を「2025年の崖」と表現しました。以来、多くの企業が、古いシステムを最新のデジタル技術環境(クラウドなど)へ刷新・改善する「モダナイゼーション」を掲げて取り組んでいます。一方で、すでに2026年になった現状でも、「崖の上」に立ったままの企業が多いように感じます。そのような課題を持つ企業に向けてSHIFTが提供しているサービスについて教えてください。

小坂:
私たちSHIFTは、エンジニアリングチェーンをサポートするシステムの品質保証や品質プロセス改善を支援しています。2025年の崖に関しては、システムの外部仕様と内部仕様を可視化するリバースエンジニアリングサービスや、AI駆動開発によるフォワードエンジニアリングなど、AIを活用したモダナイゼーション支援サービスを提供しています。

笹本:
製造業では、仕様書のリバースエンジニアリング、マイクロサービス化、テストの効率化などが関心の高いテーマで、特に最近はAI活用による効率化も加速しています。その分野のサービスもSHIFTの強みですね。

小坂:
はい。ただ、企業がAI活用のステップに進むためには、まずは老朽化したシステム、技術、インフラストラクチャをアップデートしなければなりません。私たちは、既存の情報資産を「AIリーダブル」な形にして可視化していくことに力を入れて、2025年の崖を超える支援をしています。

幸加木:
AIを組み込んだ製品やサービスの分野では、SHIFTが製造業分野において培ってきた品質保証とAIのノウハウを、ソリューションとして提供しています。例えば、アプリ開発の支援においてAI駆動開発を取り入れることで、従来型のコーディングと比べて開発時間を大幅に短縮できますし、AIを活用した品質保証を導入することで、体系的な品質保証を実現できます。

渡邉:
2025年の崖は、それ自体が経営課題であるだけでなく、「モダナイゼーションした後にどのような世界が待ち受けているのか」が見えないことも課題だと思っています。崖を超えたとしても、その先にもおそらく新たな壁や崖がありますよね。

幸加木:
そうですね。2025年の崖を超えることはゴールではなく、次の課題解決に向けたスタートといえます。この取り組みで重要なのは、将来的な技術進化を見据えながら「在るべきシステムの状態」を定義することです。ただし、技術革新の方向性やスピードを正確に予測することは難しく、中期計画を策定したとしてもこの分野に関しては計画どおりにいくことはほとんどありません。そのため、未来が常に変わることを前提としてディシジョンポイントと技術的な変動点を設定し、経営の意思決定を行っていくことが重要だと思います。

株式会社SHIFT AI BPaaS事業部 AI BPaaSサービス部 AIサービスグループ グループ長 幸加木 哲治氏

AI社会におけるシステム品質保証の重要性

宮寺:
製造業のエンジニアリングチェーンでは、各工程(設計、開発、生産、品質管理、検査など)で用いるシステムやソフトウェアの品質保証もAIで行っているのですか。

幸加木:
はい。今後もエンジニアリングチェーンでのAI活用は増えていくはずで、システムの品質保証ニーズもより高まっていくでしょう。

笹本:
AIによる品質保証はどのように行うのですか。

幸加木:
AIにより生じるリスクを考慮しながら、私たちが持つノウハウを生かして品質保証に取り組んでいます。これまで蓄積してきたテスト観点や不具合データなどのデータをAIに学習させ、チューニングすることで、精度を高めながらテスト設計・実行工程の自動化を進めています。

宮寺:
AIが出す回答の信頼性の検証は、これから重要性が高まっていきますね。

幸加木:
そうですね。バグと同様、AIの信頼度成長曲線も目標値に向けて収束します。しかし、不具合や精度不足は決してゼロにはならないと思っています。完全なゼロを目指そうとすると「AIは使えない」「使わない方が良い」という結論になってしまうため、どこで、どう使えるか、どう使うのかを考えて品質を検証・向上することが重要ですが、そこに私たちの強みがあります。

小坂:
システムの品質基準を設定するのは難しいです。最上級を目指すのは最も分かりやすいですが、そのためには資金や人などのリソースを無数に投入しなければならず、技術革新のスピードが速い環境ではリスクになります。

宮寺:
そのように判断の難しい領域において、支援の方針や方向性を決めるために、SHIFTではどのように品質基準を定めているのですか。

小坂:
私たちが重視するのは「影響度」です。自動車を例にすると、例えばSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)の要素の一つであるOTA(Over the Air:Wi-Fiや携帯電話通信網を使って車載ECU(Electronic Control Unit)のプログラムを遠隔で書き換える技術)の進化を見ながら、このシステムの品質がどれくらい影響するか、最低限どこまで品質を担保すべきかといったことを考えます。

株式会社SHIFT モビリティ事業部 モビリティサービス部 SDVサービスグループ グループ長補佐 小坂 健二氏

暗黙知を形式知にする仕掛けづくり

笹本:
AI活用を進めていくためには、現場業務のエキスパートが持つ暗黙知をAIに読み込ませる必要があります。その際には、AIがどこまでできるか、一方で人がやったほうが良い業務領域はどこかといったことも正しく理解する必要がありますね。

幸加木:
AIは人の考え方や知能に近付いていきますが、線引きが曖昧な領域は必ず残ると思っています。それがどこなのかを明らかにするのは、システムを使う人や作る人ですから、人が楽をするためのAI活用においても、人が介在しなければならないというジレンマがあります。ただ、そこにはポジティブな側面もあります。人の介在が必要であるということは、最終的な決定権は人にあるということです。いわゆるヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop:HITL)によって、AIの導き出す回答は常に人が評価し、決めるよう設計するのです。

渡邉:
AIが導き出した回答を最終的に人が判断するのであれば、経営者から現場のスタッフまで含めて、AIを使う企業や人の意識変革も重要ですね。

幸加木:
そう思います。特にAI活用においては、企業も人も技術や考え方の固定化が始まった時から成長が停滞します。これは私たちも強く意識していることで、クライアントの課題に柔軟に対応していくために変わり続けなければならないと考えています。

小坂:
暗黙知を形式知にするためには、現場のエキスパートが「このアラートは大丈夫」「これは上層部へのエスカレーションが必要」などと判断している「背景」に目を向けて、そこにある知見をいかに引き出すかが重要です。

笹本:
そこに苦労している企業も多いと思うのですが、どのような対応方法がありますか。

幸加木:
例えば、若手メンバーの業務をベテランの方に見てもらい、若手メンバーが困っていることや理解できていないことを特定してもらうという方法があります。暗黙知はベテランにとっては知っていて「当たり前」のことですから、若手に伴走してみることで「何に戸惑っているのだろう」「どこが分からないのだろう」と感じるポイントがあるはずです。それらを言語化してRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)に加えていくことで、ベテランが持つ知見をナレッジとして引き出し、蓄積することができます。

宮寺:
インプットとアウトプットだけを見るのではなく、その間で、何を、どう考え、どう判断したのかが重要なのですね。

小坂:
現場のエキスパートが、何を根拠に判断したのか、その際にはどこを見ていたのか、なぜ正しい判断ができたのかを可視化することが重要です。彼らはトラブルの予兆を「怪しい匂い」などと感覚的に表現します。「怪しい匂い」と感じた要因や判断基準を読み解き、言語化することで、組織の形式知として蓄積できるようになります。特に製造業は暗黙知が多いため、現場のあらゆるところに暗黙知に気付いて引き出す仕掛けを作ることが、私たちに求められていると思っています。

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 笹本 晃司

「人」が関わる領域と価値の見極め

宮寺:
クライアントのAI活用状況は、効率化やコスト削減といった「使い方」に目を向けているケースと、その先の展開として新たな「価値創造」に取り組んでいるケースに二極化しているように見えます。DXが言葉通り「トランスフォーメーション」、つまり、デジタル技術によって組織やビジネスモデルを根本から変え、新しい価値を生み出すことを目指す取り組みなのだとすれば、将来的には価値創造の分野で多くの成果を出していくことが求められます。

幸加木:
そうですね。ただ、レガシーシステムが残っている企業は、システムの刷新が足元の困りごとですので、必然的に「守り」のDXから取り組まなければならないのが実態です。

笹本:
アンケートなどを通じてクライアントの声を聞くと、現状はまだAI活用のレベルが明確に上がってきている感じはなく、AI活用に向けた足元固めをしている企業が多いと思います。それもあって、現状のDXプロジェクトは既存業務の効率化が中心にはなっていますが、その真の目的は、新たな価値創造のために使える時間を生み出すことだと思っています。ですから、方向性を維持しつつ、効率化と価値創造のバランスを取ることが重要ですね。

幸加木:
はい。私たちが受けるAI活用の相談内容の中でも、「これはAIを使わなくても良さそう」「RPAで十分ではないか」と感じるものがあります。一方で、「こんなアイデアをAIで実現できないか」「自社の独自のナレッジを組み合わせてこういう使い方はできないか」といった相談もいただいています。こうした攻めのDXの取り組みはこれから増え、発展していくと思っています。

笹本:
製造業におけるAI活用では、どのような使い方ができそうですか。

幸加木:
例えば、AIを活用することで多種多様なモックアップを迅速に作ることができます。これにより、コストやスピードの点で既存の方法の刷新につながります。

渡邉:
新たな活用が進んでいった結果、エンジニアリングチェーンの業務はどれくらいまでAIに任せられるようになるのでしょうか。

幸加木:
システムをどう定義するかによります。「AI同士がインタラクティブにデータをやり取りする状態」をシステムと捉えるなら、AIそれぞれが得意とする機能を自動的に実行する世界は実現すると思っています。ただ、「AIシステムの連携に人が介在する状態」をシステムと捉えるなら、人が判断しなければならない領域は、小さくなりつつも残り続けると思います。

小坂:
見方を変えると、今後は「人の価値」が一層高まると思っています。今まで人が担ってきた業務の中で、AIにできることはAIに任せる流れは続くはずです。一方で、AIには任せられない、人による高度な判断が必要な業務も残り続けるため、そこで人が介在する価値が高まるでしょう。

渡邉:
あらゆる業務がある中で、自動化したほうが良いものと、人らしさが必要な部分との境目が明確になっていくわけですね。業務変革の戦略として、人が関わる領域には積極的に人が関わり、それ以外の業務はできる限りAI化、自動化していくといったことが今後の課題なのだと理解しました。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 宮寺 厚志

AIと業務の両面から支援する

笹本:
エンジニアリングチェーンのDXは、システムを作って使う「人」、エンジニアリングチェーン全体を一貫して捉える「プロセス」、そして適切な業務にAIなどを活用する「IT」を三位一体で進めていくことが重要ですね。そのような体制を構築していくうえで、私たちやSHIFTがクライアントのDXにドライブをかけていくことの重要性もこれからさらに高まっていくと思います。

渡邉:
社会がAI活用に向かっているから自分たちのシステムにもAIを入れようといった単純な戦略では成果を生むDXは実現できません。「作って終わり」のDXを避けるためには、AIの知識だけでなく、業務改革の視点やDX人材の育成なども重要なのだと改めて認識しました。

幸加木:
AI活用の一歩先、二歩先を見据えてAIの理解を深めることと、現場業務の理解と分解が課題です。だからこそ、AI導入から現場定着までを一貫して支援できるSHIFTと、製造業経験者やDX実装の経験が豊富なメンバーが結集し、業務改革の知見を有するPwCコンサルティングが連携していくことで新たな価値が生まれるのだと思います。

渡邉:
エンジニアリングチェーンのDXは、製造業の競争力を大幅に向上させる可能性を秘めています。デジタル技術を駆使して、効率化、コスト削減、品質向上を実現するニーズは大きく、変革のスピードも今まで以上に速くなります。日本の製造業が世界で戦っていくために、今こそ変革が必要なタイミングです。SHIFTとの連携をさらに強め、より密接に協業しながら、クライアントを支援していきたいと思います。本日はありがとうございました。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 渡邉 伸一郎

主要メンバー

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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宮寺 厚志

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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笹本 晃司

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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