
「デジタルエコシステムの最前線」コラム 第15回 「孤独戦略」の限界と、エコシステム形成の重要性
エコシステムの持続的な成長と競争優位性の確立に直結する、戦略適合性・実現可能性・協業手法の3つの観点とその評価軸について解説します。
2020-09-07
前回解説したように、デジタルコマース・エコシステムとは、リアルとデジタルのチャネルを統合的に活用し、自社だけではなく複数のサプライヤーの商品やサービス、人材の取引が行われるエコシステムです。デジタルコマース・エコシステムにおけるデジタルの影響としては、パーソナライゼーションの深化とリアル店舗でのUXの変化が挙げらます。
こうしたデジタルによる影響を踏まえると、デジタルコマース・エコシステムの戦略の方向性は、「バリューチェーンの広がり(販売~決済~配送)」と「データ利活用の広さ(自社~外部)」の切り口から大きく4つに分けられます。
デジタルコマースにおいては、顧客との接点を持っていることがオーガナイザーになる条件となるため、オーガナイザーとカスタマーデータホルダーおよびデータ基盤を作るシステムプラットフォーマーは同一の役割を担うと考えられます。
すでに一定以上のユーザー数を獲得できているオーガナイザーであれば、取り扱う商品やサービスを増やすことでユーザーの満足度を高め、同時に販売額が増えることで出店者側にもメリットを還元できるようになり、自然とエコシステム拡大の潮流に乗ることができます。一方でこれから拡大の潮流に乗せようとするオーガナイザーであれば、リアル店舗とのシームレスな連携により販売や配送において他と差別化されたUXを提供し、いかにリアル店舗からオンライン上に誘導できるかが重要なKSFとなります。具体的には、リアル店舗とオンラインの統合により新たに蓄積される顧客データを利活用し、物流のラストワンマイルの強化・店舗の配置・空間の有効活用・五感に訴求する体験型のレイアウト設計などが挙げられます。
加えて、自社で補いきれない機能(例えば決済機能やオリジナル商品/コンテンツの制作、購買以外のユーザーの行動データの取得 等)を持つ企業との連携及び未参画のプレイヤーの引き込みも重要なKSFになると考えられます。
デジタルコマースにおいては、消費者側の視点では高品質で安全な商品を簡単に選んで購入できることが、サプライヤー側の視点では自社の商品にマッチする消費者にリーチできることがコアバリューとして求められます。
そのため、商品のトレーサビリティを高める技術、消費者がリアルとデジタルにおいてシームレスに商品購買・受取ができるUI(ユーザーインタフェース)とドローンや自動運転を活用した新しい配送手段、ビッグデータを分析し最適なタイミングに最適な消費者に商品を訴求できるレコメンデーション機能などの技術がKSFになると考えられます。
デジタルコマースにおけるサービスプロバイダーは、オーガナイザー自身が機能を内製化することによるディスラプトの脅威と常に隣り合わせにあると言えます。このような厳しい競争環境の中でサービスプロバイダーとして生き残っていくには、サービスの質による差別化を行っていく必要があります。オーガナイザーから提供されるデータを基に改善していくスピードと、各オーガナイザー間のデータを収集・分析するための基盤を持ち、オーガナイザーにはない新たな価値を生み出すことがKSFになると考えられます。すなわち、自らが当該サービスにおけるオーガナイザーになり、別のエコシステムを形成することが求められます。
デジタルコマース・エコシステムは他エコシステムに比べても特にユーザー目線を強く意識する必要があるエコシステムであり、各プライヤーはUX観点で自身の強みを再認識し、その隣接領域にある他プライヤーが持つ強みと繋げる方向でアライアンスを組んでいくと考えられます。また、その強みの源泉は保持するユーザーの数と質となるため、アライアンスを組む上ではデータ利活用およびデータコンプライアンス観点でデータマネジメントができていることを互いに確認することが重要です。
また、エコシステムの創業期にはとにかくユーザー数を獲得するためのUI向上や、既に一定以上の顧客基盤を持つカスタマーデータホルダーとの提携や統合が求められます。一定の顧客基盤を得た上で、その後より差別化されたサービスを提供するためのデジタルプロバイダーやサービスプロバイダーとの提携を進め、取引量が増えた時点で物流網の確保など段階的にアライアンスを組んでいくことがポイントです。
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