
「デジタルの日」に寄せて History of Business Consultant
「デジタルの日」に賛同する取り組みとして、コンサルタントの仕事がこの20年間でデジタルの力によりどのように変化したか、また20年後にはどのような変化をしているのか、そして時代が移っても変わらないものは何かを考えます。
「デジタル田園都市国家構想基本方針」が2022年6月7日に閣議決定されました。本基本方針は地方都市が抱える人口減少、少子高齢化、過疎化、地域産業の空洞化といった課題を解決することを目指しているものであり、各自治体にはデジタルを活用してそれらを効率的に推進していくことが求められています。
各自治体の抱える課題は多岐にわたりますが、そのうちの1つが観光です。
今回の実証実験の舞台となった鹿児島県垂水市は、その温暖な気候やシラス台地の性質を活かし、カンパチの養殖のほか、芋焼酎や温泉水などの生産が盛んな土地です。垂水市では、それらの観光資源をさらにPRし、地域産業を活性化していくことと併せて、宿泊施設・交通などのキャパシティに応じて適度な観光客を誘致していくことも求められています。
PwCコンサルティングではこれらの課題を解決するため、観光客を物理的に誘致するのみならず、仮想空間を利用して垂水市の魅力をPRしていく手段としてメタバースに注目し、地方の観光活性化におけるメタバースの可能性について考察することとしました。
PwCは、メタバースについて次のように定義しています。
「人同士の物理的接触の制限や、それに伴うオンライン空間でのコミュニケーションの活発化など、私たちの生活様式に大きな変化が生じている昨今、インターネット上の仮想空間『メタバース』の活用が、個人や企業を問わず広がってきています。メタバースとはMeta(超越、超)とUniverse(宇宙)を組み合わせた造語で、現代においては、インターネットを通じてアクセスする3次元の仮想空間サービスや仮想空間そのものを指します」
(※https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/metaverse-consulting.htmlより引用)
メタバースの可能性を考察するにあたり、PwCコンサルティングの社員が鹿児島県垂水市とそれ以外の地域に分かれ、実際にVRゴーグルを装着してコミュニケーションを行いました。
今回の取り組みに参加する社員を「垂水グループ」と「リモートグループ」に分け、垂水グループは実際に垂水市の空気や食に触れつつ、メタバース空間に参加しました。対して、リモートグループはそれぞれの自宅からメタバース空間に参加しました。実証実験は全3回行い、メタバース空間内での感覚を共有し、メタバースの利点や課題について議論を重ねました。
議論の結果、メタバースではカメラやマイクを使用する通常のウェブ会議とは大きく異なり、より自然なコミュニケーションが可能となることが分かりました。
メタバース空間上では、目線や体の向き、身振り手振りがとてもリアルに感じられ、他の参加者が実際に隣にいるような感覚を感じることができます。東京都と垂水市といった遠隔地でも距離の遠さを感じさせず、スムーズなコミュニケーションを行うことができました。
また、メタバースでは年齢や性別、人種といった違いを超えて、「自分のなりたい姿」のアバターを作成することできます。上下関係がないフラットな環境でコミュニケーションを図ることができ、好きな姿で新たな自分として生活できる可能性が感じられました。
実際にVRゴーグルを装着してメタバースを体感する中で、課題も浮き彫りとなりました。
まず第1に、VRゴーグルというデバイスそのものに起因する課題として、装着時の重量や、VR酔いが挙げられます。VRゴーグルを装着して会議に参加し、コミュニケーションを取ったものの、30分程度で「頭が痛くなった」という意見が相次ぎました。VRゴーグルの重さや固定用ベルトに頭部を締め付けられることに起因すると考えられます。現段階では長時間の会議やアクティビティの実施は難しいと言わざるを得ません。また、乗り物酔いに似た症状を訴えるメンバーも散見されました。メタバース上で移動するために現実空間を歩き回ることがあるのですが、重たいVRゴーグルはズレやすく、その度にピントがぼけるため、そのような症状が出てしまうと考えられます。
第2に、VRゴーグルを利用できる環境が限られる点も課題であると考えられます。メタバース上で他者とコミュニケーションを取るためには、インターネット環境の整った場所が必要不可欠です。都市部や屋内での利用は可能ですが、インターネット環境が十分でない屋外や山間部での利用は難しいでしょう。そのため、VRゴーグルそのものに通信機能を備える必要があると考えます。
メタバースの利用を促進するためには、以上のような課題を解決する必要があります。
現在、全国各地の自治体がデジタル技術やデータを活用して住民の利便性向上や行政サービスの高度化、地域の魅力アップを図ろうと、「自治体DX」を積極的に進めています。
メタバースにはさまざまな利点があり、今後自治体DXを進めるにあたって大きな可能性を秘めた有望なデジタル技術の1つであると言え、多くのメリットをもたらすことが予想されます。一方で、解決しなければならない課題を抱えていることも事実です。
メタバースという大きな可能性のある新たなデジタル技術と自治体DXの考え方を掛け合わせることで、どのような価値を創出し、また、どのように地方の課題を解決することができるのか、ここで整理してみます。
今回、地方都市の観光活性化におけるメタバース活用の可能性をテーマとして検討しましたが、まず、その地域の独自性をアピールするためのブランディングにおいて大きな効果を生むことが見込まれます。
例えば、垂水市の魅力である「のどかな雰囲気によるリラクゼーション」や「のんびりと過ごす時間」といった観光の効果を伝えるためには、直接現地を訪れる以外の手段では容易ではありません。しかし、メタバース上で垂水市を「再現」し、その地域独特の風景や空気感を演出することで、昨今注目されている「ウェルビーイング・ツーリズム」を実現できます。
また、マーケティングの観点では、メタバース空間限定で物販を行うことにより、単なる通信販売ではない、あたかも商品を手に取って欲しい物を選ぶような、新たな顧客体験を提供することができるようになります。
さらに、全国の自治体の貴重な財源である「ふるさと納税」の観点からは、さらに税収を確保していくため、メタバースによって現地の魅力を体験することを通じて他の地域との差別化を図り、認知度や身近さを高めることができます。
このように、アトラクションや大規模イベントを中心に、大都市を舞台に取り組まれているメタバースとは異なる「地方型メタバース」、例えば「バーチャル垂水市」を構築することで、地域の独自性を活かした新たな観光モデルによる地域活性化の仕組みを作ることができるかもしれません。
このような新たな観光モデルは、すぐに実現できるわけではありません。しかし、ここで思い描いた未来は着実に近付いてきています。PwCコンサルティングは、メタバース時代に向けた準備のため、次の6つのアクションを検討すべきと考えています。
まず短期的には「迅速に動く」「戦略を立てる」「試運転をしてみる」こと。さらに「信頼性にフォーカスする」「自らの環境を見直しながら、コアコンピテンシーを再検討する」「リアルとデジタルを連携させたエクスペリエンスを提供する」こと。PwCコンサルティングは、これらのアクションにより、メタバースというイノベーションを実際の活用へつなげることを支援しています。
※https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/demystifying-the-metaverse.htmlを参考に記載
自治体DXや観光促進の観点からメタバースについて考察してきましたが、ここでは、より先進的な技術の上に成り立つ、メタバース活用の展望について考察します。
現在のメタバースの主な活用方法としては、バーチャル空間上でのライブやイベント、デジタル作品の展示やバーチャルショップ、アバターゲームなどが挙げられます。しかしこのような活用方法では、一部のケースを除き、デジタル上に「フィールド」を提供するという、コミュニケーションツールの域に留まってしまっているのが現状です。
これらは運営会社が中央集権的に運営・管理する「Web2.0」と呼ばれるインターネットの概念で構築され、お金と時間を使って楽しむ娯楽としてのメタバースになります。一方で、ブロックチェーンを用いて、非中央集権的なネットワークを実現する「Web3.0」の概念で構築されたメタバースでは、仮想空間上のモノに「NFT」(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を付与したり、独自の仮想通貨を発行することでデジタル資産により経済活動を実現できたりすることが特徴です。
例えば、メタバース上に「バーチャル垂水市」を単なるフィールドとして作成するだけでなく、固有の仮想通貨を発行し、その仮想通貨にバーチャル垂水市の市民権や、その運営に係る投票権を付与することで、「バーチャル垂水市」に経済圏を発生させることが考えられます。さらに、NFTで価値を保証し、バーチャル垂水市の土地の権利を販売するなど、物理的な住民とは別にデジタル空間上での住民を得ることで、自治体の経済に大きなインパクトを与えることも可能になります。
これらはWeb3.0の概念の発達により、メタバースが現実世界で価値を担保された仮想空間から、独自の経済と価値を有するデジタル上に構築された「もう1つの世界」へと変化することで実現可能になります。
ここで挙げた例は法制度や利用者の心理的ハードルの高さに加え、VRデバイスの制約もあることから、今すぐに実装し普及させることは難しいものです。しかし、新たな技術に裏付けられた価値観、生活様式の変化を受け止める受け皿としての、メタバースの将来性を示唆するものであることもまた事実です。
インターネットの発達とともに、自宅に居ながら何でもモノが買え、在宅勤務をすることが当たり前になったように、メタバース上での経済活動が普及することで、新たな価値観が次々と生まれることが予想されます。
このような新たな時代に対応し、クライアントの未来を協創するコンサルティング活動を実現していくためには、理論的な理解だけではなく、実際にテクノロジーを経験することで、論点や課題を当事者として理解していることが重要です。
PwCコンサルティングでは、全社員を対象にVRゴーグルを配布し、実際にメタバースを活用する社内イベントを開催しました。クライアントに先んじて、メタバースをはじめとするテクノロジーへの取り組みを進めることで、理解と経験を重ねていき、クライアントへの提供価値を高めていきます。
「デジタルの日」に賛同する取り組みとして、コンサルタントの仕事がこの20年間でデジタルの力によりどのように変化したか、また20年後にはどのような変化をしているのか、そして時代が移っても変わらないものは何かを考えます。
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