需給システム更改における、需要予測高度化の位置づけ

  • 2026-09-08

はじめに

いま多くの企業が、基幹システムの刷新や次世代システムへの移行、需給計画(S&OP)基盤の統合といった、大規模な需給システム更改に取り組んでいます。こうしたプロジェクトは、コスト削減や業務整流化の絶好の機会であると同時に、需要予測を経営インフラとして再定義する貴重なタイミングでもあります。本稿では、需給システム更改のなかで需要予測高度化を「どこに」「どの順序で」組み込むべきか、その考え方を整理します。なお、本稿の内容は、PwCコンサルティングが提供する次世代型AI需要予測ソリューションであるMultidimensional Demand Forecastingの知見として実装・提供されているものです。

1. なぜ、需給システム更改が需要予測を見直す好機なのか

需給システム更改の狙いは、単なるシステムリプレースではありません。需要から供給・調達までを滑らかにつなぐ「デマンドドリブンなSCM(サプライチェーンマネジメント)」への転換にあります。ところが実際のプロジェクトでは、下流の生産・在庫・調達計画のロジック刷新に労力の多くが割かれ、最上流である需要予測は「パッケージ標準機能をそのまま使う」という前提で処理されがちです。これでは、システム投資の効果を大きく毀損しかねません。

2. 計画業務の「最上流」である需要予測から着手

需要予測は、SCP(サプライチェーンプランニング)/SCMおよび計画業務の最上流に位置します(図表1)。生産計画、在庫計画、調達計画、物流計画、要員計画、設備投資計画——これらはいずれも、何らかの需要予測値を入力して立案されるため、予測値の質は後続の計画業務全てに波及します。

図表1:計画業務の「最上流」に位置する需要予測と、後続への広範囲な波及的影響

計画業務の「最上流」に位置する需要予測と、 後続への広範囲な波及的影響

このことから、二つの結論が導かれます。第一に、最上流である需要予測値の精度を高めることが極めて重要であるということです。上流の数字が悪ければ、下流でそのリカバリーをしようとしても、おのずと限界があります。第二に、予測値が良くなっていない状態では、後続の業務高度化の改善効果/度合いを正しく評価することができないということです。

したがって、需給システム更改では、後続の業務改善に着手する前に、需要予測の高度化を先に済ませておく――この順序が本質的に重要です。予測基盤が固まらないまま下流の高度化を先行させると、後から予測を差し替えた際に下流ロジックの再チューニングが必要となり、二度手間を生みます。

3. 販売・営業系計画と生産・在庫系計画の分断

需給システム更改の現場では、順序の問題に加えて、もう一つ根深い分断が観察されます。それは、「販売・営業系」の計画(売上計画、販売予算、営業見込みなど)と、「生産・在庫系」の計画(生産計画、在庫計画、調達計画、物流計画など)が、無関係に分断されているという問題です。

この分断は、多くの企業で以下のような形で顕在化します。営業部門は営業部門の見立てで数字を作り、生産部門は生産部門の見立てで別の数字を作る。両者の数字は、粒度も対象期間も異なり、そもそも突き合わせることが困難です。結果として、営業が強気の見込みを立てる一方で生産は保守的に構え、あるいはその逆、という状態が慢性化します。

この問題の解決策として長らく議論されてきたのが、「ワンナンバー化」――販売・営業系と生産・在庫系が、同じ需要予測値を共通の基盤として計画を立案する状態です。しかし、ワンナンバー化は「構想」としては語られても、「実装」としては極めて難しい課題でした。理由は単純で、営業が使いたい粒度(例:カテゴリ×月次×エリア)と、生産が使いたい粒度(例:SKU×日次×工場)はまったく異なり、両者の数値の整合性を保ちながら同時に提供することが技術的に困難だったからです。

4. 一般的な予測ツールが抱える二重の限界

ではなぜ、パッケージ標準機能や汎用の予測ツールでは、これらの課題に対応しきれないのでしょうか。理由は二つあります。

第一の限界は、カバレッジの狭さです。パッケージ標準搭載の予測機能は、事実上、実績データが豊富な定番品・量産品にしか対応できないケースが多いです。実際の商材ラインナップの大半を占めるロングテール品、新商品・リニューアル品、補修部品、内部・外部要因に強く影響される商材、日配・生鮮品などは、これらの手法の適用範囲外となってしまいます。

第二の限界は、「道具のみ渡される」という構造的問題です。おいしい料理を作るには、①食材(データ)、②調理道具・キッチン(ツール)、③料理人の腕(知見)の三つがそろっている必要があります(図表2)。ところが一般的な予測ツールが提供するのは②だけで、①③は利用企業が自前で用意する前提になっています。しかし、社内外に散在するデータを予測に耐える品質・粒度・鮮度で整える「食材の目利き」も、変数設計・モデル選定・業務知見の織り込みといった「料理人の腕」も、いずれも多くの経験と磨かれた技能を要する専門領域であり、多くの企業でこうした人材を社内にそろえることは現実的に困難です。結果として、ツールを導入しても使いこなせず表計算ソフトを用いた作業(KKD法:勘・経験・度胸)に戻る、という状況が生じます。

図表2:効果を出すために必要な3要素

効果を出すために必要な 3要素

5. Multidimensional Demand Forecastingの三つの答え

Multidimensional Demand Forecastingは、これらの限界と分断に対して三つの答えを用意しています。

答え①:食材・道具・料理人の腕の3要素を、あらかじめソリューションに作り込んで提供する

当ソリューションは、実案件で蓄積された10年以上の知見を、あらかじめ内部に実装しています。利用企業側でデータサイエンティストや需要予測エキスパートをそろえる必要はありません。

食材(データ):どのデータが予測に効くのかという目利きの他、社内外データの統合・整形のフォーマット、外部データ(気象、イベント、稼働情報、コネクテッドデータなど)の取り込み方については、標準機能として実装済みです。

調理道具・キッチン(ツール):ホワイトボックス型のハイブリッド予測アルゴリズムと、SaaS型で提供される高性能な予測基盤を併せ持つツールです。

料理人の腕(知見):業種・商材特性に応じた予測アプローチ、精度評価・安全在庫設計の考え方、業務プロセスへの組み込みについては、PwCコンサルティングの需要予測専門チームが多数のプロジェクトを通じて磨き上げた知見が、当ソリューションの一部として実装されています。

答え②:階層予測機能により、「ワンナンバー」を実装レベルで実現する

当ソリューションは階層予測機能を備えており、異なる粒度での予測値を、その整合性を保ったまま複数出力することができます。例えば、SKU×店舗×日次の予測と、カテゴリ×エリア×月次の予測について、それぞれ最適なモデルで算出しつつ、上位粒度と下位粒度の数値が矛盾なく整合するように調整された形で提供します。

これにより、これまで「構想」にとどまっていたワンナンバー化を、実装レベルで実現することが可能になります。営業部門はカテゴリ×月次×エリアで、生産部門はSKU×週次×生産拠点で、それぞれ自分たちの業務にフィットした粒度の数字を使いながら、両者が同じベースの上で議論する――この状態を、当ソリューションでは担保できます。

このことは、営業側にも生産側にも大きな価値をもたらします。両者それぞれが異なる粒度で見えていた「バラバラの数字」ではなく、共通の予測値を出発点として、自らの業務知見や商談状況、生産制約に応じて意思入れを行う対象の数字が一つに定まる、という状態になります。営業は営業の視点で、生産は生産の視点で、同じ土台の上に自分たちの判断を上乗せしていく――議論の焦点が「どの数字が正しいか」から「この数字にどう意思入れするか」へと移り、需給調整会議の生産性が構造的に向上します。結果として、販売・営業系と生産・在庫系の計画分断が、根本から解消されます。

答え③:疎結合による柔軟な接続――「接続先を選ばない」「現行業務を変えない」

当ソリューションから出力される予測値は、「いつ・どこで・何が・いくつ」というシンプルなCSVファイルです。階層予測の各粒度の結果も、それぞれのCSVとして出力されます。この徹底したシンプルさから、二つの柔軟性が生まれます。

一つは、接続先を選ばないこと。後続の計画システムがどのようなパッケージであっても、自社開発システムであっても、表計算ソフトであっても、CSV形式であればそのまま取り込めます。基幹パッケージのアップグレードサイクルにも縛られません。もう一つは、現行の後続業務・システムを変えずに、予測値だけを良くしていけること。下流を当面現行のまま維持したい企業でも、後続業務・システムに手を入れることなく、入力される予測値だけを差し替えることで、現場担当者への負荷なく(=現場担当者からの抵抗なく)推進することができます。

これは、「上流を先に高度化する」というセオリーを、リスクを抑えて実行するための、実装レベルでの解でもあります。下流の計画システムや業務プロセスに手を入れるような大規模プロジェクトを走らせなくとも、上流の予測値だけを差し替えることで、需給システム更改全体の投資対効果を先んじて引き上げることができるからです。

おわりに

需給システム更改は、需要予測を単なる業務システムの一機能から、経営インフラへと再構築する数少ない好機です。最上流である需要予測を先に高度化し、階層予測によって販売・営業系と生産・在庫系のワンナンバー化を実現し、そのうえで下流の各種計画業務の改革に取り組む――この順序と構造が、システム投資の効果を最大化する王道です。Multidimensional Demand Forecastingは、実案件から蓄積された10年以上の知見をあらかじめ作り込み、階層予測によるワンナンバー化と、シンプルなCSVによる既存システムを選ばない連携で、需給システム更改における需要予測高度化を確実に成し遂げるための解を提供します。

執筆者

河野 芳明

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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