ニーズの多様化時代における、ロングテール品需要予測

  • 2026-08-20

はじめに

消費者ニーズの多様化・細分化、そして製品の多品種化・少量化が進むなか、市場の需要構造は少数の売れ筋商品に頼る「ヘッド」中心の構造から、多数のニッチ商品群「テール」が売上金額の相当部分を占める構造へと移行しつつあります。取り扱い商材の大半を占めるロングテール品の需要を的確に捉えることは、いまや製造・小売業全体の重要な経営課題となっています。

本稿では、ロングテール品需要予測が抱える構造的課題を整理したうえで、従来手法・間欠需要向け手法・一般的アルゴリズムのそれぞれの限界を確認し、これらを乗り越えるためのアプローチを考察します。あわせて、PwCの次世代型需要予測ソリューション「Multidimensional Demand Forecasting」による解決アプローチと独自手法について紹介します。

1. 事業環境の変化:「ヘッド」から「テール」へ

かつてロングテール品は、デジタルプロダクトの文脈でネットビジネスにひも付くものとして語られていました。しかし昨今では、製造業・小売業をはじめとするさまざまなマーケット領域においてロングテール化が進行しています。柔軟な商品提供手段が徐々に整備され、多くの企業がニッチ市場を主戦場として捉え始めるにつれ、ロングテール品需要の本来の姿が顕在化してきています(図表1)。

図表1:事業環境の変化「ヘッド」から「テール」へ

事業環境の変化 「ヘッド」から「テール」へ

加えて、新製品投入頻度の上昇、生産手段の柔軟化、商品のデジタル化、事業のストックビジネス化などにより、残り続ける商品数は増加しています。これに異常気象・自然災害・パンデミック、物流の停滞、新興国の需要急増といった不確実要素の頻度上昇も重なり、コスト計画局面における先読みの難易度は年々高まっています。

こうした環境変化は、これまで需要予測の主戦場ではなかったロングテール品に対しても、精度ある予測と的確な業務運営を求める圧力となっています。多くの企業では、精度・対応範囲の両面で十分な予測が立てられず、担当者の勘や経験に依存した業務運営を余儀なくされており、事業生産性の低迷、欠品・過剰在庫・廃棄ロス・物流費増といった課題を慢性的に抱え込むことにつながっています。

2. ロングテール品が抱える構造的課題

ロングテール品は、その一つ一つを見れば、数量においても、また事業全体に占める金額としても小さな存在にとどまります。しかし、それらを積み重ねたロングテール品全体では、多くの企業において取り扱い商材の大半(品目数・売上額ともに)を占める存在となっています。今後はさらに、多品種少量化やアフターマーケット化の進行に伴い、ロングテール品の占める割合がよりいっそう大きくなっていくことが見込まれます。したがって、ロングテール品に対する事業オペレーションを確かなものにしていくことは、企業にとって重要な事業課題として位置付けられます。

しかしながら、ロングテール品のデータは少なく、まばらであり、さらには時系列的な動きの規則性が希薄であることが多いため、予測の算出は難易度が高いものとなります。そのため、自社の取り扱い商材の大半に対して、適切な予測算出ができないままである企業が多く見られます(図表2)。

図表2:典型的なロングテール品の販売実績例

典型的なロングテール品の販売実績例 ,

特に製造業においては、従来の「売り切り型」による事業展開の限界から、顧客への永続的なサービスプロバイダーとしてのストック型/サブスクリプション型ビジネスへのシフト(製造業のサービス化)が進んでいます。これは安定的な繰延収益をベースに、より収益性の高いアフターマーケット領域に注力することを意図するものであり、ロングテール品の需要を的確に捉える手段の獲得は、この事業モデル転換の成否を左右する要件の一つでもあります。事業モデル転換の成否そのものが、ロングテール領域に十分対応できるかどうかにかかっている、と言っても過言ではありません。

3. 従来型アプローチの限界

ロングテール品の定義そのものが示すとおり、以下の条件のいずれか、あるいは複数に該当する対象に対して、従来型の予測モデル(自己回帰モデル、平滑化モデルなど)では十分な予測算出はできません。

  • 受注頻度が低い(=データ数が少ない、または間欠データである)
  • 受注数量/金額が少ない
  • 時系列的な動きの規則性が無い、または極めて弱い
  • 周期性が無い、または極めて長い(複数年周期)

間欠需要向けの予測手法として、SBA法(Syntetos-Boylan Approximation)やTSB法(Teunter-Syntetos-Babai)などが知られていますが、これらも受注実績が極端に少ない対象や、需要発生の背景要因が時期により大きく変化する対象では十分な精度を確保しきれません。また、間欠需要のモデル化にはポアソン分布やそれに類似した確率分布の利用も一般的ですが、単にこれらを適用しただけでは、実務での使用に耐え得る十分な精度の予測値とはなりません。

ニューラルネットワークに代表される最新のアルゴリズムは、その学習に大量のデータを必要とするため、やはりロングテール品に対して有効ではありません。さらに、学習処理コストが膨大である、ブラックボックス化する、事前のパラメータ投入が必要となるといった理由から、多数の予測対象に向かって業務システムとして運用するには現実的な選択肢となり得ません。

求められるのは、複数の手法を賢く組み合わせ、需要特性に応じて使い分けるという発想の転換です。

4. ハイブリッドアプローチによる打開

PwCの「Multidimensional Demand Forecasting」は、従来型時系列モデルと最新アルゴリズム、さらにSBA法・TSB法といった間欠需要向け手法でもカバーしきれない領域に対応する独自開発の予測手法を備えています。

当ソリューションの基本思想は、データ全体に1モデルのみで対応するのではなく、データを特性ごとに適切に分割(=層別化)し、それぞれの特性に応じて最適なモデルを無理なく適用する点にあります。既存手法が有効に働く領域と独自手法が必要となる領域を見極め、需要特性に応じた最適配置を実現しています。

独自手法の一つが、統計分布の独自改良です。予測対象の多くは、単純なポアソン分布では捉えきれません。当ソリューションは独自改良を加えた複数種の統計分布を用意し、実績の動き、つまり需要発生パターンへとフィットさせています。これにより、間欠的な需要の背後にある発生確率構造を、より実態に近い形で表現できるようになります。

もう一つの例は、実績値を「組数」として捉え直すアプローチです。各予測対象について、実績値の最大公約数を独自開発のヒューリスティックなアプローチにて自動算出し、それを「1組」の単位として認識します。実績データを個々の数量そのものではなく「組数」ベースで扱うことで、ロングテール品の実績を「組としての事象発生」として捉えやすくなります。これにより、間欠的な受注の背後にある需要発生パターンをより実態に即した形で表現できるようになります。

これらのアプローチにより、これまで「これは無理だろう……」とあきらめられていたロングテール品や低頻度品に対しても、多くのクライアントにおいてその有効性(実業務の計画業務として利用可能)が認められ、定常業務に導入されています。導入により、多数ある自社の取り扱い商材に対し、予測可能な範囲を格段に拡げることができます(図表3)。同時に、事業全体がアフターマーケット領域を中心としたストックビジネスへと主軸をシフトさせていくための基盤にもなります。

図表3:予測対象の広範囲化

予測対象の広範囲化 ,

おわりに

ロングテール領域の課題は、単なる予測技術の課題ではなく、事業モデル転換に直結する経営課題です。データが少なく、まばらで、規則性の把握も難しい――そうした「予測しにくい」領域をいかに攻略するかが、多品種少量化・アフターマーケットへの注力が進む今後の製造業・小売業において、競争優位の源泉となっていきます。

当ソリューションは、これまで「予測できない」とされてきた領域を一段ずつ切り拓いていくための実践的な課題解決手段を提供します。「予測できない」を減らす取り組みが、次の時代の事業競争力を形づくっていくことになるでしょう。

執筆者

河野 芳明

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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