事業生産性向上へ向けた、補修部品/サービスパーツ需要予測の高度化

  • 2026-07-14

はじめに

昨今は費用や手間の低減などにより、ユーザーのサービス乗り換え(ブランドスイッチ)がますます容易になり、顧客満足度向上・顧客ロイヤルティ維持は、企業にとって重要度の高い経営課題となっています。バリューチェーン上では、いわゆる「スマイルカーブ」における下流工程(流通・販売、アフターサービス、ブランド)の収益基盤の確立が必要であり(図表1)、中でもアフターサービスは既存顧客の維持および新規顧客獲得の両面を実現する工程として、その重要性が日増しに高まっています。

図表1:製造業における開発工程と収益構造

製造業における開発工程と収益構造 ,

その中核を成すのが「補修部品(サービスパーツ)需要予測」です。低頻度・間欠的な需要パターン、長期にわたる供給責任、そして製品ライフサイクルのステージごとに変化する需要構造——これらの複雑性は、本体製品の予測とは異なる難しさを抱え、従来の需要予測手法では捉えきれない領域です。特に補修期間は製品によって5~10年、場合によってはそれ以上に及ぶことがあり、かなり先までを見越した部品需要予測は、多くの完成品メーカーにとって課題となっています。

PwCコンサルティングが提供する需要予測ソリューションMultidimensional Demand Forecastingは、需要を製品・顧客・チャネル・期間・外部環境など複数の次元から多角的に捉え、機械学習と業務知見を組み合わせて予測値を算出するソリューションです。本コラムでは、補修部品需要予測における3つのステージごとの課題と、Multidimensional Demand Forecastingが提供するアプローチを紹介します。

1. 補修部品需要予測における3つのステージ

補修部品の需要は、製品ライフサイクルに沿って大きく3つのステージに分けて考える必要があります(図表2)。

ステージ1:本体出荷開始直後の初期不良対応在庫
新製品の出荷直後は、設計上の弱点や製造ばらつきに起因する初期不良が一定割合で発生します。市場に出ている母数も小さく、過去実績が存在しないため、類似製品の不良パターンや設計情報を頼りに在庫を準備する必要があります。

ステージ2:本体生産と並行した継続的補修部品在庫
製品が市場に普及するにつれ、稼働本体数(UIO:Units In Operation)が拡大し、それに伴い経年劣化や使用環境に起因する交換需要が生じます。企業はこうした交換需要発生の規則性を可能な限りつかんでいく必要があります。

ステージ3:本体生産終了後のサービスパーツ在庫(一括調達)
本体生産が終了した後も、本体メーカーには補修期間中の供給責任が続きます。部品サプライヤーの多くは本体生産が終了して間もなく生産ラインを閉じるため、本体メーカー側は補修期間終了までの生涯需要を見越した一括調達(ラストオーダー)が必要になります。過剰調達は廃棄損失に直結する一方、過少調達は供給責任不履行・ブランド価値低下・顧客離反のリスクにつながることに加えて、追加のイレギュラー調達が必要となった場合には、通常よりもはるかに高単価な調達となります。いずれに振れても損失が大きくなるため、正確な意思決定が求められます。

図表2:補修部品需要予測における3つのステージ

補修部品需要予測における3つのステージ ,

2. 一般に見られる課題と、従来手法の問題

需要予測に関して、多くの企業では各部品の出荷実績を見つつ、移動平均に代表されるシンプルな手法の適用にとどまっています。そして、補修部品需要予測における最大の問題は、統一的かつ決定的な手法が確立されておらず、現場では属人化した対応、いわゆるKKD(勘・経験・度胸)法に頼り切っているという実態が多くあります。

担当者個人のノウハウや感覚に依存した予測は、再現性に乏しく、形式知として蓄積されません。さらに深刻なのは、予測精度の評価と見直しのサイクルがしっかりと回されていないケースが非常に多いことです。実績との乖離やその要因が振り返られないまま次の予測が立てられていく——これでは改善の出発点にすら立てません。

3. 補修部品需要予測へのMultidimensional Demand Forecastingの基本的な考え方

長期にわたる補修部品需要を精緻に予測するため、Multidimensional Demand Forecastingは以下の基本アプローチを採用しています。

① 出荷後経過年数ごとの、UIOの推定
過去の出荷実績に対し、製品ごとの残存率カーブを適用し、将来時点におけるUIOを推定します(図表3)。「X年後の人口ピラミッドを推定する」ようなイメージです。出荷年ごとの「世代」が、年を経るごとに少しずつ引退していき、各時点での年齢別構成が形作られていく——その構造を出荷済み本体製品に当てはめて捉えるのです。

図表3:UIO推定(2020年出荷開始、5年間にわたる本体製品出荷のケース)

UIO推定(2020年出荷開始、5年間にわたる本体製品出荷のケース) ,

② 経過年数に応じた、部品ごとの交換需要発生確率の導出
部品の故障・交換は、ある程度の時間経過の後に発生するのが一般的です。Multidimensional Demand Forecastingでは、過去の修理実績データを基に、部品ごとに「経過年数 × 交換発生確率」のプロファイルを導出します。これにより、初期不良型・摩耗型・寿命到達型といった部品特性の違いを的確にモデル化できます。

③ 両者を掛け合わせた将来需要数の算出
将来需要について、各年で「その時点でのUIO」×「その経過年数における部品交換確率」を積算することで、今後の補修部品需要数を構造的に算出します(図表4)。単純な時系列外挿では捉えられない長期需要を、論理的根拠に基づいて予測できることが、このアプローチの最大の強みです。

図表4:本体年齢ごとの部品需要数の導出

本体年齢ごとの部品需要数の導出 ,

このフレームワークの大きな利点は、予測結果の振り返り・精度評価を可能にするところにあります。乖離が生じた際に、「残存率の見立てがずれたのか」「交換確率プロファイルが想定と異なったのか」を切り分けて分析でき、継続的な改善サイクルを回す土台となります。

4. 各ステージに対するMultidimensional Demand Forecastingのアプローチ

ステージ1:類似性ベースの初期需要予測
実績がない新製品でも、過去の類似製品のUIO残存率カーブ・初期不良型部品の交換確率プロファイルを参照することで、出荷直後から必要となる補修在庫数を合理的に予測し、見積もることができます。

ステージ2:稼働ベース・故障率モデルの精緻化
UIOが拡大するこのステージでは、修理オーダーのデータを継続的に取り込み、残存率カーブと交換確率プロファイルを動的に更新していくことが重要です。気温・湿度・稼働モードといった外部変数も次元として組み込むことで、地域別・用途別・使用環境別の需要差を捉え、拠点ごとの在庫配置最適化にもつなげられます。

ステージ3:ラストオーダー(生涯需要)意思決定の高度化
ラストオーダーでは、補修期間終了までの生涯需要を一度に見積もる必要があります。UIOの将来推移と部品ごとの交換確率を組み合わせ、補修=サポート期間全体での累積需要を算出します。さらに、残存率や交換確率の不確実性を確率分布として扱い、複数シナリオでの需要レンジを算出することで、「廃棄リスク」「欠品リスク」「高単価なイレギュラー調達リスク」のトレードオフを踏まえつつ、合理的な意思決定を支えるエビデンスを提示できます。

おわりに

補修部品需要予測は、長く属人的な「KKD」の領域とされてきました。しかし、UIOと部品交換確率という構造的なモデリングアプローチを核とするMultidimensional Demand Forecastingを活用することで、生涯需要までの長期予測であっても論理的根拠とともに算出でき、かつ精度評価と改善のサイクルを回せる仕組みへと転換することが可能になります。ブランドスイッチが容易になり、顧客ロイヤルティの維持がこれまで以上に重要となる今、アフターサービスを顧客との長期関係を支え、新規顧客獲得をも牽引する戦略的事業へと進化させるために、補修部品需要予測の再設計はぜひ取り組むべきテーマと言えるでしょう。

執筆者

河野 芳明

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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