国際連携によって加速化する、「先進国」におけるデジタル領域のPPP未来図

  • 2026-04-27

はじめに

第1回第2回では、GovTech産業の広大な規模と、ルワンダにおける事例を踏まえたDigital PPP(Public Private Partnership)による公共サービスDXの推進について説明しました。Digital PPPの進化は、制約が少なくDigital Leapfrogを進めやすいルワンダのような途上国で特に顕著ですが、国際的な連携を通じて先進国にも影響をもたらします。

そこで、第3回では国際連携を通じた公共サービスDX推進の取り組みの事例の紹介に加えて、日本のような先進国が、特に途上国との新たな協創関係を築くことにより、公共サービスDX推進においてどのような可能性があるかについて論じます。

インドによるデジタルID基盤の国際展開

インド政府が2009年から開始した国家デジタルIDプログラム「Aadhaar」は、国民識別番号を生体認証と紐づけて提供する仕組みを採用し、10年弱で成人の99%以上(10億人以上)に普及しました。インド政府は、補助金や給付金、公共サービスの提供において、国民に直接アプローチすることが可能になり、サービスの到達範囲の拡大や不正排除などの成果を上げています。

世界最大規模の成功を収めたデジタルID制度であるAadhaarを土台として、その恩恵を他国にも広めるため、インドの国立情報学研究所は複数の機関(タタ・トラスト、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ノルウェー援助機関など)の支援を受け、非営利プロジェクト「MOSIP(Modular Open Source Identity Platform)」を2018年に立ち上げました(図表1)。MOSIPはオープンソース型のプラットフォームとして提供されており、各国の法制度やニーズに合わせてカスタマイズ可能な柔軟性と拡張性を持つことが特徴です。また、生体認証や個人情報を活用しつつもプライバシーを重視した設計思想を掲げており、データの安全性やプライバシー保護にも重点が置かれています。さらに、非営利目的で提供されているためライセンス料は無料であり、各国は運用に必要な費用負担のみで導入できて、特定ベンダーに依存するベンダーロックインも避けられます。

MOSIPはアジア・アフリカを中心に26カ国以上で導入準備や実装が進められており、全国民規模での本格展開に踏み切った国にはフィリピンやエチオピア、モロッコが挙げられます。

フィリピンでは、国家IDプロジェクトのコア技術としてMOSIPを採用し、島々に点在する国民へのサービス提供範囲が拡大しました。エチオピアでは、難民の身元証明のためにMOSIPベースのIDシステムを導入し、登録を進めています*1

MOSIPには、テクノロジーパートナーとして生体認証機器の製造やソリューションの設計などさまざまな企業が参画しています。インド国内の企業以外にも、米国・欧州・アジア等の企業が登録されており、主にパートナー企業が導入先での開発に携わっています*2

国民識別IDはデジタル社会への入り口であり、その成果をグローバル公共財として横展開するMOSIPの試みは、イノベーションの国際波及の好例といえます。

図表1:インドによるMOSIPの展開

日本におけるDigital PPPによる公共サービスDXの未来図

日本が公共サービスDXで後れを取り戻し、さらなる進歩を遂げるためには、Digital PPPの推進が不可欠です。日本におけるDigital PPPを加速するカギは、上述の事例のような国際連携にあり、特に以下のような途上国との新たな協創関係の可能性が考えられます。

  • 日本政府の取り組みの可能性
    日本政府の取り組みとしては、海外で成功し確立されたデジタルサービスを国内に取り入れる可能性を積極的に評価することが考えられます。ルワンダのような支援対象の途上国からのReverse innovationの可能性も十分に期待できます。あるいは、成功した場合に日本で展開することを前提として、途上国の公共サービスDXを支援する取り組みも考えられます。
  • 日本企業の取り組みの可能性
    日本企業の取り組みとしては、自社が開発・保有するデジタル技術やサービスをグローバルに展開する可能性を積極的に模索することが考えられます。特に、日本国内では高齢化や既存のインフラ、法的規制などの障壁のため挑戦しづらいソリューションが、ルワンダのような制約の少ない途上国では導入・展開できる可能性があります。海外で成功をおさめ、サービスが確立した後に日本に逆輸入するというシナリオも期待できるでしょう。

これらの取り組みによって、途上国との新たな協創関係を築き、日本における公共サービスDXが加速化する未来図が考えられます。

*1:MOSIP, “MOSIP-Rewind-2024” Accessed March 21, 2025. https://www.mosip.io/pdf/MOSIP-Rewind-2024.pdf

*2:MOSIP, “Technology Partners” Accessed March 21, 2025.
http://prod-website-903390823.ap-south-1.elb.amazonaws.com/technology_partners

主要メンバー

岡村 周実

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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川埜 裕介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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