消費財×データアナリティクス専門家が描く、食品飲料業界のための予測駆動型のSCM変革アプローチ

データ活用とAIで切り拓く日本の消費財・食品飲料業界の次の一手

  • 2026-02-05

グローバル企業では予測精度向上がサプライチェーンの起点

グローバル消費財メーカーではすでにAIを活用した需要予測とサプライチェーンの最適化により、需要予測誤差を約20%、販売機会損失、廃棄ロスを約30%削減といった効果が報告されています。

特に、賞味期限が短く需要の変動が大きい食品飲料業界では、需要予測の精度を高めて在庫を適切に管理することが重要で、これは機会ロスや廃棄ロスの削減につながります。また、外部倉庫の適正利用と配送の効率化も、企業の競争力を高める源となっています。

一方、日本の消費財メーカーは、グローバル企業と比較してAIやデータの現場での活用に依然として課題があり、AI人材やAIリテラシーに大きな差があります。

こうした状況を具体的に示す事例として、以下のような課題が挙げられます。

  • 需要予測は過去の出荷実績や古い予測モデルを活用しているため精度が低く、担当者が経験と勘に基づき修正している
  • 特に新製品の需要予測の精度に課題があり、次回生産ロットのアクセルとブレーキの踏み間違いにより機会ロス、廃棄ロスが頻繁に発生している
  • 主力製品以外のSKU(Stock Keeping Unit:最小在庫管理単位)に対しPSI(生産・販売計画・在庫)や需給調整は表計算ソフトやメール・電話での調整を日々行っており作業工数に見合った利益を生み出していない
  • 高額投資したERP(企業資源計画)は「実績管理の仕組み」に留まっており予測や在庫最適化に生かされていない

PwCコンサルティングはERPや特売情報など精度の高いデータを活用して、需要予測には予測モデル、PSIや需給計画には数理最適化を組み合わせた「予測駆動型のSCM変革」への取り組みを推奨しています。

予測駆動型のSCM変革とは

私たちは、予測駆動型のSCM変革は、以下のような要素で構成されたもので、人の役割を作業者から意思決定者に変更させ、作業工数を戦略業務へ振り向けることを目的としていると定義しています。

  1. 高精度で劣化しにくい需要予測モデルの活用
  2. PSI計画や需給計画への数理最適化の適用と自動的な整合
  3. 計画結果をERPや実行系システムへ連携する仕組み

この変革は、特に消費財・食品飲料メーカーにとって、

  • 天候、特売などに左右される需要
  • 賞味期限や温度帯の制約
  • 人口減少や定年退職者増による人手不足

といった課題に向き合うための現実的な解になります。

予測駆動型のSCM変革における3つの柱

1. 需要予測ソリューション(Multidimension Demand Forecasting:MDF)を活用し需要予測精度向上と現場の納得感を両立

まず1つ目の柱は機械学習と予測モデルを活用した精度の高い需要予測です。PwCコンサルティングでは需要予測ソリューション(MDF)にて高度な予測モデルを活用し、高品質な需要予測値を提供しています。

  • SKUと拠点の膨大な組み合わせに対応できる拠点階層予測
  • 販売促進、価格変動、広告イベントを織り込んだ需要予測
  • アイスクリームや鍋つゆなどの季節品やロングセラー品への独自モデル
  • お正月やゴールデンウィークなど大型連休に対応した独自の週次予測モデル
  • 機会ロスや廃棄ロスを最小化する新製品予測

機械学習や予測モデルを活用することで、人の経験や勘では捉えきれないパターンも抽出し、予測の誤差を低減することが可能です。しかし、モデルの精度が高ければ必ずしも現場で活用されるとは限りません。

私たちが重要だと考えるのは、需要に影響を与えている要因が何かを定量的に説明できることです。

営業、マーケティング、SCMなどの各部門が「なぜこの予測値なのか」を理解することが、予測を意思決定の出発点とするための必要条件だと考えています。

2. フレキシブル計画・意思決定最適化ソリューション(Module based Planning&Streamlining:MPS)を活用したPSI/需給調整業務の高度化

2つ目の柱は、数理最適化を活用したPSI計画と需給調整業務の高度化です。

需要予測が提示する売れる数を前提に、

  • 生産能力や段取り替えコスト
  • 倉庫容量、上限/下限の保管数、賞味期限
  • 定期便や傭車手配などの配車制約
  • 欠品許容率
  • 製造・輸送・廃棄コスト
  • SKU別の限界利益

などの制約条件を数式としてモデル化し、いつ・どこで・何を・どれだけ製造/積送/在庫すれば利益が最大化されるかを数理最適化エンジンが計算します。

ここで重要な点は、担当者がゼロから計画値を作成するのではなく、数理最適化エンジンが作成したドラフト案を基に、人がレビューし例外を判定するという新たな役割分担です。日々の調整業務は数理最適化エンジンに任せ、予想外の大型商談や災害時など、イレギュラーな対応のみ人がレビューして修正することで、業務の自動化と効率化が大きく進展します。

このアプローチによって、これまで経験や勘に頼ってきた属人的なノウハウを、数式やルールに体系化することができるのです。

PwCコンサルティングではフレキシブル計画・意思決定最適化(MPS)のためのソリューションを活用し、PSI計画立案、需給調整業務の変革を支援しています。

3. ERPと連携するAIネイティブ環境の活用

最後の柱は既存のERPや基幹システムと連携するAIネイティブ環境で稼働する業務アプリケーションです。

私たちは堅牢なERPなどのSaaSアプリケーションをAIネイティブ環境に全て置き換えることはリスクが高いアプローチであると考えています。ERPや周辺システムを最大限活用しながらAIネイティブなシステム構築を重ね合わせることで、リスクを低減しつつ最新のテクノロジーを活用した予測駆動型のSCM変革を進めることが可能です。

  • ERPをリアルタイムの真のデータと捉え経営高度化に活用する
  • クラウド上に需要予測+数理最適化エンジンレイヤーを構築する
  • ERPや周辺システムとエンジンレイヤーを連携させリスクを低減し基幹システムをモダナイズする

予測駆動型のSCM変革を進めるにあたり

AIや数理最適化を適用することで、SCMの課題が自動的に解決するわけではありません。効果を発揮するには、

  • 営業情報のタイムリーな連携や利益を生み出さない業務プロセスの見直し
  • 上記に伴うKPIや評価制度の再設計
  • AIやデータアナリティクス人材の育成

などの取り組みを並行して実施する必要があります。

私たちは予測モデル・数理最適化エンジンの導入とデータ・プロセスの整理を小さなユースケースの単位で並行して進めることを推奨しています。

消費財・食品飲料メーカーが進める現実的な3ステップ

ステップ1:予測誤差が大きいカテゴリに絞った需要予測精度向上

  • 予測誤差が原因で機会ロスと廃棄ロスが多いカテゴリ
  • 天候や特売などの影響が大きいカテゴリ

などに対象を限定し、需要予測のPoC(概念実証)から始め、予測誤差(MAPE)の改善、廃棄率・欠品率・在庫回転数の改善、計画工数の削減など、KPI指標が改善することを証明します。

ステップ2:PSIボードで全体を可視化

ERPやCRMなどのシステムから取得した出荷実績、在庫データと予測モデルが算出した需要予測値やその要因を1つの画面にまとめたPSIボードを構築します。

需要予測値、営業の販売見込み数、販売促進タイミング、平準化生産数、在庫日数推移など営業、マーケティング、SCMの各部門が同じ画面で数字を活用し議論できるようにして、属人的な需給調整業務がなぜ発生するのかを可視化することが重要です。

ステップ3:数理最適化による自動運用の開始

ステップ1・2の知見を元に特定カテゴリや拠点、工場から数理最適化エンジンを稼働させます。生産計画、倉庫別補充計画、配送計画をエンジンが自動立案し、担当者は例外対応に集中できる環境へ移行します。

この取り組みが定着化すると、複数拠点で在庫バランスが安定し、日々の需給調整業務の作業時間が短縮するとともに、機会ロス、廃棄ロスと在庫日数の改善が表れ始めます。

予測駆動型のSCM変革は最新テクノロジーを活用したデータドリブン経営への第一歩

予測駆動型のSCM変革は需要予測から日々の物流業務の効率化まで全体を通して最適化を図り、人の担う役割を「作業」から「意思決定」へシフトさせることです。

この取り組みの有無により、同じERPを導入後の5年、10年先の企業競争力は大きく変化します。

属人的な需要予測や需給調整から脱却したい、ERP導入は完了したが効果の刈り取りはこれから、そして最新テクノロジーのSCMへの活用方法に悩んでいる方には、スコープを限定した予測駆動型のSCM変革こそが最適なアプローチです。

執筆者

神野 幹生

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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