中外製薬が内製アジャイルでDXを急加速 成功を支えたPwCの伴走支援の中身とその成果とは

  • 2025-08-04

(左から)桑添 和浩、田畑 佑樹氏、川畑 亮介氏、野口 洋海

製薬大手の中外製薬はDX戦略の一環として内製アジャイル開発を推進しています。この活動を牽引するチームがデジタル戦略推進部の「tech工房」です。ビジネスのアイデアを基にサービスをデザインし、革新的なアプリケーションを素早く開発する。この実現を企画段階からトータルに支援したのがPwCコンサルティングです。非内製の開発文化から内製アジャイル開発へ――。180度の方針転換をどのように支援したのか。そしてtech工房の活動は中外製薬にどのようなインパクトとメリットをもたらしたのか。両社のキーパーソンに話を聞きました。

外部ベンダー頼みの開発ではDXは進まない

――中外製薬は「tech工房」を立ち上げ、内製開発を進めています。なぜ内製化に舵を切ったのですか。

川畑氏
これまで中外製薬には内製開発という文化がほとんどありませんでした。システムをつくる時は、こちらの要望を外部ベンダーに伝え、設計から構築・保守までお願いする形です。部門ごとに発注するため、全体の統制をとるのも難しい。その結果、似たようなシステムが社内にいくつも存在していたのです。

中外製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーションユニット デジタルソリューション部 アジャイル開発G グループマネジャー 川畑 亮介氏

田畑氏
外部に委託するから、「そのシステムで自分たちの業務やビジネスをどうしたいのか」という思い入れみたいなものも希薄でした。そのためビジネスや業務要件をITに十分に落とし込めていない部分があったのです。
社内で多数出てきているデジタルサービスのアイデアの具体化や実現性検証もうまく進んでいませんでした。このような状況で外部ベンダーに丸投げしても、膨大なコストと時間がかかるばかりで、期待したサービスの実現は難しい。開発は内製で、しかもアジャイルでクイックにやる。そういう体制が必要だと感じていました。

中外製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略企画部 ビジネスアーキテクト1グループ グループマネジャー 田畑 佑樹氏

――外注開発だとノウハウやナレッジの蓄積も難しいですね。

田畑氏
特に問題視していたのが、でき上がったシステムの全容を分かる人が社内にいないこと。例えば「このデータが欲しい」と思っても、その仕組みは外部に委託してつくってもらうしかない。見積りから始まって開発・リリースされるまでに半年かかるということもありました。
当社は個人情報や機密情報も数多く扱っていて、外部に頼れない案件もあります。そういう点でも内製開発は必須の取り組みだったのです。

川畑氏
中外製薬は独自の技術とサイエンスを強みとする、研究開発型の製薬企業です。この活動をより強化するため、データドリブン組織への変革を推進しています。この流れの中で、会社として内製開発を推進する方針に舵を切ったわけです。

PwCの技術ケイパビリティと実績を評価

――tech工房はどういった経緯で、いつ頃立ち上がったのですか。

田畑氏
最初に取締役の承認をもらい、内製化のための企画案を私が作成しました。「こういうことをやりたい」という内容をまとめた、ペーパー1枚だけの簡単なものです。これを肉付けして、しっかりした企画書を作成し、体制まで整備するのは社内リソースだけでは困難。そこでPwCコンサルティングにサポートをお願いしました。

桑添:
最初に話をいただいたのが、コロナ禍真っ只中の2020年。田畑さんの企画案を基に、感染リスクも顧みず、対面でみっちり話し合いを重ねました。その後、両社のメンバーが数名ずつ加わり、最終的に約60ページに及ぶ企画書をまとめました。

PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング ディレクター 桑添 和浩

田畑氏
これを基に2021年10月から立ち上げ準備を始め、2022年1月にtech工房を立ち上げました。PwCをパートナーに選定したのは、他業界を含めたデジタル化の外部動向に詳しく、最新トレンドを提供してもらえると考えたから。アジャイルやDevOpsなど内製開発に関する技術ケイパビリティが高く、支援実績も豊富です。立ち上げ当初の人材不足を補い、同時にスキルトランスファーによって人材育成も進むと考えました。

川畑氏
製薬業界の知見が豊富で、中外製薬の業務や文化を深く理解していることも大きな安心感になりました。

「7つの取り組み」が成功のキーファクター

――PwCは具体的にどのような支援を行ったのですか。

桑添:
「企画・計画」「立上げ」「普及・展開」「定着・拡大」というフェーズを定義し、7つの取り組みを軸に各フェーズに伴走しました(図表1)。

図表1:各フェーズの実施内容

各フェーズの目的・狙いとアウトプットに沿って活動を展開。開発プロジェクトを実践する中で、必要なプロセス・ガイド、開発環境やツール群を順次拡充していきました。チーム・文化の定着と拡大の取り組みは現在も推進中です。

田畑氏
tech工房はビジネス部門からシステム開発を請け負う組織ではなく、ビジネスアイデアと技術的なノウハウをコラボレーションさせ、新しいデジタルサービスを探索する組織。特にチームコンセプトの定義はじっくり時間をかけて行いました。

桑添:
組織のリソースやケイパビリティを考慮せず内製化することは、かえって業務のQCD(品質・コスト・納期)低下を招く可能性があります。まず内製化する目的と領域を明確化し、それを実現する運営方針や体制を整理する。そうして中外製薬にとって最も効果的な内製アジャイル開発の姿を特定していきました。

――支援活動で特に留意したことはありますか。

野口:
製薬会社である中外製薬は薬機法の制約を受けるため、情報を扱う権限やセキュリティールール、個人情報の扱い方や管理の仕方などが厳しく定められています。その中で策定されたプロジェクト管理規定はウォーターフォール型開発を前提としたもの。これに縛られると開発のアジリティや柔軟性が損なわれてしまいます。守るべきところは守りつつ、“中外製薬としてのアジャイル”の共通認識を形成していきました。
開発プロジェクトではサービスデザインに伴走し、スクラムマスターとしても支援しました。プロジェクトではビジネス部門からもプロダクトオーナーとしてメンバーに入ってもらうのですが、最初は遠慮もあって、開発メンバーとのコミュニケーションがなかなか成立しませんでした。PwCが壁打ち相手として伴走支援することで、互いのコミュニケーションを促進しました。これによって、次第に各メンバーが自発的考えて動くように変わっていったように思います。

PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング事業部 マネージャー 野口 洋海

「これがアジャイルか」とユーザーが感嘆

――PwCの伴走支援によって、中外製薬ではどのようなメリットを実感していますか。

田畑氏
ユーザーの立場に立ってサービスをデザインする。そのためのプロセスを確立できたのは大きなメリットです。システムをつくることが目的ではなく、ユーザーへの価値提供を第一に考えるように開発側のマインドも変わってきています。
ビジネス部門の要望をそのまま受け入れるのではなく、自分たちのビジネスプロセスをしっかり意識してもらう。その上で価値を最大化するためにどうすべきかを一緒に考えていきます。そうすると自分たちが欲しいと思っていた機能だけでなく、いろいろな困り事や悩みが見えてくる。より大きな価値提供に向けて建設的な話し合いができます。

川畑氏
小さなプロジェクトから始めて実績と成功体験を積み上げていくというやり方も良かったと思います。その中で開発プロセス・ガイドや内製開発基盤、プロジェクト管理ツール、組織体制を順次拡充していきました。実践しながら必要なものを整備していくので、無理なく全社展開にスケールしていくことができました。

――既に多くのアプリケーションを内製開発し、業務活用が始まっているそうですね。

川畑氏
新薬研究のための画像解析モデルアプリはその1つです。データサイエンティストが作ったモデルを誰でも汎用的に使えるようにしました。手作業による確認工数を大幅に削減できます(図表2)。

図表2:研究分野のアプリケーション開発例

AIなどの最新テクノロジーを駆使し、ユーザー視点のUXを重視したアプリ開発が可能になりました。内製アジャイル開発にシフトしたことで、開発スピードが向上し、機能追加やアップデートも柔軟かつ素早く行えます。(出典:中外製薬 資料より)

田畑氏
内製開発した生成AIアプリ「Chugai AI Assistant」も2024年5月に全社リリースしました。社内では既に生成AIの利用を始めていましたが、使い勝手に課題があったので、UXを大幅に改善して新規開発しました。医学文献や臨床データなど社内外の情報の検索や分析、文書作成などに活用されています。

アプリとしての機能性はもちろん、ユーザーが求める機能がどんどん追加され便利になっていくことが高い評価につながっています。ファイル読込機能を要望したユーザーが機能リリース後にこんなことを言っていました。「半年ぐらい待たないといけないと思ったら1カ月で実装されて驚いた。これがアジャイルか」と。ウォーターフォール型開発では考えられないスピードですからね。
ユーザーの声が直に入ってきて、期待に応えることで、チームメンバーのモチベーションも上がる。いいスパイラルが生まれています。

PwCは成果の創出まで一貫して伴走支援する

――順調に機能しているようですね。PwCがなぜこのような支援ができるのか。強みと成功ポイントを教えてください。

野口:
コンサルティング会社や支援ベンダーの中にはコンセプトやプロセスだけ考えて、実践はクライアント任せというところもありますが、PwCは違います。開発基盤や環境整備、体制の整備、プロジェクトの実践、内製アジャイル開発の定着まで一貫して伴走支援します。そのフレームワークやノウハウ、技術スキルを有する人材まで揃っているのが大きな強みです。
プロセスも最初に作ったものをずっと使い続けるわけではなく、適宜ブラッシュアップして品質を高めていきます。
開発をウォーターフォール型からアジャイルに変えたら「クオリティもスピードも上げ、コストも下げたい」と考えますが、欲張りすぎると、どっちつかずになってしまいます。伴走支援することで、QCDを確保しながらフェーズアップしていくことが可能です。今回もそれが実を結び、全社展開を支える体制の拡大につながっています。

桑添:
企画段階から意識していたのは、「誰が、何をやるべき」という“あるべき論”に無理やり当てはめないこと。プロジェクトによってはビジネス部門の方にプロダクトオーナーとして参加してもらうことがありますが、仕事の進め方やカルチャーはそれぞれ違います。それを“あるべき論”に当てはめてしまうと軋轢やボタンの掛け違いが生まれる。メンバーによって得意・不得意があるので、それを見極めてサポートするように心がけました。
成功のためには、もう1つ重要なポイントがあります。それは諦めないこと。内製化に向けて壁にぶつかるのは当たり前です。そこからどう改善すればうまくいくか考え、実行する。そうやって小さな成功体験を積み上げていくことが、より大きな価値創出につながります。中外製薬のチームメンバーの諦めない姿を見て、その大切さを改めて実感しました。

内製開発の文化を社内全体に広げていく

――tech工房の活動を今後どのように拡充・発展させていく考えですか。

田畑氏
当初は数名からスタートしたtech工房ですが、段階的に増員を図り、現在のチームメンバーは約30名に拡大しました。活動もスケールし「Chugai AI Assistant」のように全社展開するアプリケーションを開発するケースも増えています。
これまでは現場のキーパーソンの要望を形にするボトムアップベースのプロジェクトが主でしたが、今後は部門の戦略に基づくトップダウンアプローチも内製化で貢献したいですね。そのためにビジネスとITの橋渡しになるビジネスアーキテクトの育成に力を入れていきます。

川畑氏
tech工房の成功が刺激になって、IT組織全体が内製開発を考え始めています。私たちの経験やノウハウを生かして、中外製薬としての内製化のケイパビリティ向上に貢献していきます。

桑添:
PwCとしても中外製薬様の今後の取り組みには大いに期待しています。ただし、開発はアジャイルでスピーディになっても、そこまでの意思決定に時間がかかると足かせになる可能性があります。意思決定やビジネス側の考え方もアジャイルに回すことができれば、より早く、より大きなビジネスアウトカムを得られるでしょう。ビジネスとデジタル側の両輪をアジャイルに回す仕組みづくりに、一緒にチャレンジしていきたいですね。

野口:
内製化のケイパビリティが向上していけば、組織も手掛ける案件もますますスケールしていきます。その中で新たな壁に直面することもあるでしょう。PwCはこれまでの支援実績と経験を生かし、これからの取り組みも360度で伴走支援が可能です。中外製薬の新たなチャレンジに貢献するとともに、内製化に課題を抱える他のクライアントの変革も幅広く支援していきます。

(左から)桑添 和浩、田畑 佑樹氏、川畑 亮介氏、野口 洋海

※本稿は、日経XTECHに掲載されたPwCのスポンサードコンテンツを一部変更し、転載したものです。

※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。

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