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第1回「資本コスト・株価」要請に、CRE戦略とIRでどう応えるか」では、企業不動産(Corporate Real Estate:CRE)を「含み益」から「資本配分」へと再定義する視点を、第2回「CRE戦略を進めるうえでの落とし穴と対処―体制整備・情報収集・合意形成」では、推進主体の不在という日本企業に共通する課題とそれに対応した進め方を取り上げました。第3回となる本稿では、視点を「構想」から「実行」へ移し、大型のCRE施策を実行する際の企業の取り組み方を類型化するとともに、2027年4月1日以後開始する事業年度から強制適用される新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)がCRE戦略に与える影響を整理します。
取り上げるのは、過去の複数の公表情報をもとに類型化した3つの事例です。すなわち、(1)本社ビルをセール・アンド・リースバックした例、(2)一部の資産を譲渡し「所有と運営の分離」に踏み切った例、(3)本社ビルを特別目的会社(SPC)へ譲渡して流動化した例です(図1)。なお、セール・アンド・リースバックの売却判定・損益認識と、SPCを活用した流動化のオフバランス判定(5%ルール)は、続く第4回で詳しく取り上げます。
近年の大型CRE案件は、単なる「不動産の売却」ではなく、どのスキームで手放し、手放した後もどのように使い続け・関与し続けるかまで設計した取引になっています。こうした取引における会計処理の結論は、いずれの類型でも「誰に、どこまでリスクと経済価値が移転したか」という一点に収れんします。
図表1:大型CRE案件の3類型
類型の1つ目は、本社ビルのセール・アンド・リースバックです。この仕組みでは、本社ビルに信託設定したうえで信託受益権を譲渡しますが、譲渡後も長期間の賃貸借契約を結び、本社としての利用を継続します。実施時には固定資産売却益を特別利益として計上し、創出したキャッシュは設備の更新や業務変革の推進などに活用されます。本社ビルのような企業の象徴的資産を対象とする場合でも、リース期間を長期に設定することで、事業継続性とキャッシュ創出の両立が可能になります。
2つ目の類型は、複数事業を持つ企業が一部の事業を売却しつつも、その運営には引き続き関与するというものです。例えば交通系や都市開発系の企業が、保有するレジャー施設を譲渡した後も、管理・運営業務をグループ会社で受託するパターンが挙げられます。こうした所有と運営を分離するモデルでは、その後も別の施設を譲渡するなど、資産の流動化とその資金を活用した再投資を持続的に行う回転型(キャピタルリサイクル)モデルを組み合わせることがあります。なお、この「所有と運営の分離」類型では、運営受託により収益機会が確保される一方で、賃料や収益の下支え(最低保証、損失補填など)が伴う場合、「リスクと経済価値が実質的に移転しているか」という売却処理の判断に影響し得る点には留意が必要です。
3つ目の類型は、SPCを活用した流動化戦略です。本社ビルなど都心の不動産を信託受益権化したうえで、国内不動産会社・リース会社などが出資するSPCへ売却します。1つ目の類型と同様、譲渡益を計上する一方で賃貸借契約により本社としての使用を継続することも可能です。SPCがそれら不動産を大手投資ファンドに売却することが、流動化スキームの出口となります。なお同じスキームでも、譲渡人のSPCへの関与度合いや適用する会計基準によって売却損益等は変わります(第4回参照)。
企業会計基準委員会(ASBJ)は2024年9月に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および同適用指針第33号を公表しました1。2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から強制適用され(2025年4月1日以後開始年度からの早期適用が可能)、借手についてはファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止となり、原則として全てのリースについて使用権資産とリース負債を計上する単一モデルが導入されます。IFRS第16号「リース」と同様の使用権モデルであり、オフィス・店舗・工場・倉庫といった不動産の賃貸借は、その多くが借手のリース期間に応じてオンバランスの対象となります。これにより、以下の点がCRE戦略の策定における会計上の重要な検討事項となります(図2)。
図表2:旧基準・新基準(第34号)・IFRS第16号の主な比較(借手)
オンバランス化の影響は、財務諸表と主要な経営指標にも及びます。CRE戦略の意思決定においては、拠点の賃借・統廃合の判断が指標に与える影響等をあらかじめ試算し、財務制限条項(コベナンツ)への抵触の有無まで確認しておくことが重要です。
図表3:新リース会計基準の適用による財務諸表への影響イメージ
リース負債の計上額は、リース期間の見積りによって大きく変動します。新基準では、「解約不能期間」に「延長オプションを行使することが合理的に確実な期間」および「解約オプションを行使しないことが合理的に確実な期間」を加えて決定します。不動産賃貸借では「契約年数=リース期間」とならない場面が多く、例えば、契約上は2年の普通借家契約でも借家人の地位が法的に安定しているケース、多額の内部造作や移設困難な設備投資により退去の経済的ペナルティが大きいケース、定期借家契約でも再契約に関する取り決めがあり、再契約が見込まれるケースが典型です。移転コスト、原状回復義務、代替物件の確保可能性、拠点戦略といった経済的インセンティブを総合的に評価し、判断根拠を文書化しておくことが求められます。また、拠点の統廃合の決定や、在宅勤務比率の見直しを受けた拠点縮小の意思決定など、借手の統制下にある重要な事象または重要な状況の変化によってオプション行使の判断が変わった場合には、借手のリース期間を見直し、リース負債を再測定する必要がある点にも注意が必要です。
リース負債は将来リース料の割引現在価値で測定します。不動産賃貸借では貸手の計算利子率を知り得ないことがほとんどであり、実務上は借手の追加借入利子率を用いることになります。グループ一律の調達金利をそのまま用いるのではなく、リース期間に対応する期間構造(イールドカーブ)や借手となる法人の信用力を織り込む必要があります。長期の本社賃貸借では割引率が1%変動するだけでリース負債が数%単位で変動し得るため、金利上昇局面では特に、算定方法をあらかじめグループ方針として定めておくことが有用です。
新リース会計基準の適用初年度は、原則的な遡及適用に加え、累積的影響額を算定して期首の利益剰余金に加減する方法が認められ、リースの識別を過去の判断から見直さない扱いなど複数の簡便処理も用意されています。どの方法を選ぶかで、比較可能性、純資産への影響、必要な作業量が大きく変わるため、適用初年度に大型の売却・統廃合を予定している場合は、その実行時期と適用方法の選択を切り離さずに検討することが重要です。実務上の対応としては、グループ全体の賃貸借契約を棚卸しし、更新条項・解約条項・変動賃料条項・原状回復条項を構造化データとして整備することから始める必要があります。海外子会社を含む連結では、日本基準とIFRSの差異を踏まえた報告パッケージの設計とリース管理システムの整備も重要となります。これらは経理部門だけで完結せず、契約情報を保有する総務・不動産部門との連携が前提となる点で、第2回で述べた「推進体制の整備」と同じ課題に行き着きます。
本稿では、大型CRE案件の3類型を手がかりに、CRE戦略の実行局面を会計の視点から捉え直し、新リース会計基準でのオンバランス化がバランスシート・損益・資本効率指標に及ぼす影響を整理しました。共通する示唆は、スキームの設計が会計処理を決め、会計処理が資本効率指標と投資家への説明を左右するという点にあります。2027年4月1日以後開始事業年度からの強制適用を控えた今こそ、契約情報の一元管理と影響試算に着手すべきタイミングと言えます。次回(第4回)では、実行手法として用いられるセール・アンド・リースバックの売却判定・損益認識と、SPCを活用した不動産流動化のオフバランス判定(5%ルール)を取り上げます。本稿で取り上げた論点は、いずれも実際の案件では個別の事情に応じた判断を伴います。具体的な事例や実務上のノウハウ、最新の会計実務動向については、今後もPwCのウェブサイトを通じて発信していきますので、引き続きご覧ください。
PwC Japan有限責任監査法人は今後もCRE戦略の高度化を通じて、企業の持続的成長をファイナンス・会計面から全面的に支援します。
1 ASBJ「企業会計基準第34号『リースに関する会計基準』等の公表」(2024年9月13日)
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2024/2024-0913.html
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