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2022-04-01
新型コロナワクチンの接種準備が本格化しはじめた時期から早1年半。地域の独自性に鑑みた推進が掲げられた中、各自治体は、その底力を発揮し、計画策定から実装・実行までの幅広い役割・業務を遂行してきました。ただし、これらは、通常業務において、前例を踏襲しミスなく確実に進めていくことが求められている自治体においては全く未知の状況であり、従来は携わったことのない課題・テーマ、通常所属とは異なる体制、日常業務とは異なるスピード感で、これまでの業務とは対照的な「臨機応変性」が求められました。
本コラムでは、自治体の通常業務と今回のワクチン接種推進業務の相違点を明確にすることで、有事の際に認識すべきポイントを明らかにします。まずは1年間の実態をもとに、自治体組織が対応してきた「違い」を洗い出します。次に、組織において「課題解決」を前提に置いたプロジェクトマネジメントの重要性やその進め方を整理します。最後に、求められるリーダーシップのあり方とそれを支える情報について整理を行い、次なるパンデミックや重大課題に立ち向かうための示唆とします。
第5回:自治体職員の視点から見る1年間の実態と通常業務との相違
第6回:真の「課題解決型PMO」とは?
第7回:有事に求められるリーダーシップとは?
自治体の通常業務と今回のワクチン接種推進業務には多くの相違点があります。まずはこの1年間の実態を振り返ることで、自治体組織が直面してきた「違い」を洗い出します。
接種が自治体に任せられると決まってから接種までの期間は4カ月と、とても短い時間でした。初めて自治体向けの説明会が開催されたのは2020年12月18日。ここで厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について、予防接種法の臨時接種に関する特例を設け、厚生労働大臣の指示のもと、都道府県の協力により、市町村において予防接種を実施するものとする」方針が示され(出所:厚生労働省、『第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会 資料1 新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保について』)、各市町村は「住民に身近な視点」を持って接種事務を推進・実行する役割が定義されました。実際に初めて住民を対象としたワクチン接種が実行されたのは、2021年4月の高齢者接種であり、ここまでの4カ月で、日本全国1,741の基礎自治体は、これまでにないさまざまな準備を行うことが求められました。
通常、地方自治体が行政運営を行うにあたっては、最上位の計画である「総合計画」を策定した上で、約10年先を見越した「基本構想」や約5年を見据えた「基本計画」、約3年程度の「実施計画」に基づき、各部門が予算を確保しそれぞれの業務を実施しています。ここで行われる日常業務は、地域住民の生活を下支えするためのものであるため、正確性や確実性が強く求められます。規定された将来構想に向け、これまで積み重ねてきた実績・前例や成果を安定的に発揮・活用することがより重視されるため、業務の品質や進捗管理もこの方向性で実施されていることが多いといえます。組織の内部で計画から業務、管理までが連結・完結しており、それを正しく遂行することが求められている状態と整理されます。
一方で、ワクチン接種推進業務は、誰もが経験したことのない業務を、4カ月という短い期間で準備することが必要でした。そこに実績・前例は存在せず、もちろん、基本構想や計画にも予測されていた事態ではありません。拠り所となったのは国から提示される方針・計画や、V-sys・VRSといったツール類でしたが、まずこれらの内容や機能を素早く理解・咀嚼し、自分たちがどんな条件下で何をどこまで実施すべきかを即座に設計しなければならず、ここが日常業務とは大きく異なっていた点です。さらに、これらの前提にも社会変動などにより変更が多数発生し、都度の対応が求められたことも、通常とは大きな乖離がありました。このように、外部環境の変動性が高く、自組織でコントロールできない事項が多い環境下では、まず迅速に全体感を掴みゴールを設定し、実施事項も仮定義して即座に着手し、その中で都度、改善点を見出したり、ゴールや実施事項を変更・適応させていったりという、即時対応・柔軟性が求められます。これらは日常業務とは対照的な価値観や要求事項であり、その違いから、スムーズな対応が難しい局面も多く発生していました。
自治体の業務は、テーマ領域ごとに分割された部署と、部署が保有する予算に基づいて組成・実行されます。基本的な自治体の組織は(自治体の規模や地理的特性などにより異なるケースはあるものの)、住民生活をサポートする観点で必要なものが設定されており、業務は部署単位で実施されます。今でこそ「スマートシティ」や「DX」など部署をまたいだ形で取り組みを進めていくべきテーマも増加してきていますが、多くの場合はテーマごとに予算と責任担当部署が定められています。
一方で、今回のワクチン接種推進は、単独部署のみで遂行できる内容ではなく、幅広かつ横断的に対応することが求められました。当初の段階こそ「ワクチンを打つ」という業務内容に鑑み、一義的な担当部署として、保健福祉部門や、その傘下である保健所が推進体制を担うことが多かったものの、対象者の多さ(希望する全住民が対象)や業務の幅広さ(接種計画、医師会等との交渉調整、輸送網やコールセンターなどの構築準備、接種勧奨広報など)を踏まえ、途中段階以降は、多くの自治体で特命チーム(ワクチン接種室)が組成され、該当業務の知見や高い業務遂行能力を持つメンバーが抜擢されていました。特命チームでは他部署との連携や業務依頼などがつつがなく行われるよう、通常とは異なる会議体や指示命令・方針検討のルール等が置かれており、これは推進に際して良い取り組みであったと考えられます。
通常の行政運営では、前述のとおり、構想・計画に基づいて定められた業務をいかにミスなく進めていくかが重要視されます。その中で管理職に求められるのは「計画と現状が乖離していないか」をチェックすることです。この場合、「そもそもこの業務は何のために/誰のために」「全体として何を目指すべきか」まで立ち返って分析したり、アクションを見直したりするケースはそこまで多くありません。PDCAのうちPlanはすでに規定されており、それらとDoが乖離していないかどうかをCheckし、相違があればActionで是正することになります(遅れているならスピードを上げる、漏れているならきちんと実施する、など)。
一方で、今回のワクチン接種推進業務では、様相が大きく異なっていました。まず求められたのは、多くの情報から前提条件をスピーディーに把握し、「対象住民のうち希望者全員に対し、十分なワクチンと接種機会を、国から提示された時期までに提供する」といった「Goal(在るべき状態)」を明確化することと、このゴールに到達する際にぶつかるであろう問題を洗い出し、解消に必要な対策を見定めることでした。PDCAで表せば、Planの大前提となるGoalから定義し、Goalに到達するために立ちはだかる問題(Issue)をどう解決するかをデザインして初めてPlanが設計でき、その後、ようやくD/C/Aを進められる状況が整います。加えて今回難易度が高かったのは、前提条件が大きく変わることでGoalの到達度・到達時期が変動し、Issueの優先度を都度見直さなければならなかった点です。結果としてPlanも短いスパンで何度も再設定しながら進めていくことが求められ、現場の担当者、特にマネジメントを担当した管理者にとっては、業務のしきたりが全く異なる、負荷の高い状況であったと考えられます。
ただし、PwCコンサルティングが支援したり、情報交換を行ったりした自治体のワクチン接種担当部署では、興味深い現象が見受けられました。担当部署に抜擢された職員の方々には、このようなマネジメントを日常から行っていたという方や、着任後すぐに呼応・適応できた方が数多くいらっしゃいました。このようなメンバーは通常部署でも「異色で目立つ」職員であったという声もよく聞かれました。人材の抜擢にあたって、先に述べた「今回業務の知見・専門性を持つ人材」に加え、任命権者が意図的に「有事に柔軟に対応できる人材」としてこのようなマネジメントスキル・ノウハウを持つメンバーを意図的に抜擢したケースもあれば、「あの人なら何とかやれるはず」というおぼろげな期待から選抜されているケースもあったようです。
以上、今回のコラムではまず平時との業務の違いについて明確にしてきました。第6回、第7回のコラムでは、これらの違いのうち「マネジメント(課題解決の推進)」と「リーダーシップ(変革の牽引)」に焦点を当て、どのような取り組みや準備が有効であったのかを洗い出すとともに、具体的な考え方やソリューションの例を提示することで、次の有事への備えとして提供したいと考えています。
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