クラウドサービスの活用は事業継続にどのような影響を与えるか

2021-02-19

はじめに

2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行は、ビジネスや経済活動に大きな影響を及ぼし多くの企業が今なお、レジリエンスを問われ続けています。これだけ大規模なパンデミックの発生をリスクシナリオとして想定して事業継続計画を策定していた企業は多くないと推察しますが、事業継続計画を作る上で実施してきた事業影響度分析やそれに基づく対策などは、今回のような不測の事態に直面した際にも有用であったのではないでしょうか。

特に事業継続手段として、業務の一部でクラウドサービスの活用をパンデミック発生以前から進めてきた企業は、緊急事態宣言やロックダウンなどにより移動や行動が制限される中でも、比較的スムーズな業務の継続が実現できたのではないでしょうか。本稿ではクラウドサービスが事業継続にもたらすメリットと、活用に際して留意するべき3つのポイントを紹介します。

クラウドサービス活用のメリット

昨今、企業規模や業種・業界を問わず、クラウド利用が拡大しています。クラウドサービスの活用で実現できる高いスケーラビリティや柔軟な価格設定は企業の効率性を高め、レジリエンスを効果的に向上させる可能性があります。

従来は、事業の継続性を確保するため、自前でバックアップセンターの構築やシステムの多重化を行う企業が少なくありませんでしたが、クラウドサービスを活用することで、費用対効果の観点から多額の投資を行うことが難しい業務についても、レジリエンス向上のための道が切り開かれると言えるでしょう。

しかしながら、クラウドサービスを利用することが、必ずしもレジリエンスの向上につながるわけではありません。事業継続計画を検討する上では、業務の中でなるべく単一の障害点を作らないようにすることが重要となります。クラウドサービスによりカバーできるリスクもありますが、クラウドサービスの利用から派生するリスクも存在します。

事業継続性の観点からの留意点

以下に、事業継続性の観点で、クラウドサービスの活用に伴う留意すべき点をいくつか紹介します。

1. サービスプロバイダーの可用性

自社が局所的に災害などに見舞われた場合、クラウドサービスの利用によって実現している業務については継続できる可能性が高いと言えます。しかしながら、クラウドサービスプロバイダー自体が災害などに見舞われた場合はどうでしょうか。それにより事業が継続できなくなってしまう状況は避けなければいけません。

サービスの構成要素となるサーバーやストレージ、ネットワーク、電力などについて、クラウドサービスプロバイダー側で冗長性を確保できている部分、自社で手当てが必要な部分はどこなのか、契約内容やSLA(Service Level Agreement)の確認、照会などを通じて、インフラストラクチャとしての堅牢性を確認することが重要です。

2. データマネジメント

M&Aなどによる恒久的なサービスの停止やクラウドサービスプロバイダーの倒産など、サービスプロバイダー自体の可用性が十分であっても回避できないリスクが存在します。過去に、あるサービスプロバイダーがサービス停止を発表した際、データ移行のための猶予期間はわずか2週間しかなかった、というケースがありました。リスクが顕在化する可能性は低いかもしれませんが、ベンダーロックインを避ける意味でも、不測の事態に見舞われても事業継続に必要となるデータを取得できるかどうか、他のクラウドサービスプロバイダーや自社のオンプレミス環境へデータを移管することでサービスの継続性を確保できるかどうかも、検証することが望ましいと言えます。

3. クラウドサービスのサプライチェーン

クラウドサービスプロバイダーが、事業を行う上で別のクラウドサービスプロバイダーを含む他の事業者との契約に基づきサービスを提供していることがあります。そのため、クラウドサービスの利用は、潜在的にサプライチェーンリスクに晒される可能性があると言えます。つまり、サプライチェーンを構成する一部で問題が発生した場合、想定外の事業の中断につながる可能性があるのです。過去には、あるクラウドサービスへの大規模障害を受けて、同クラウドサービスを利用していたSaaS事業者にも影響が及び、数時間のサービス停止に見舞われるというケースが発生したこともあります。

特にミッションクリティカルな業務でクラウドサービスを利用する場合、そのサービスがどのようなチェーンで構成され、どのようなリスクが内在しているかを確認することが重要です。

図表1 クラウドサービスサプライチェーンのイメージ

まとめ

パンデミックの激動により、事業を取り巻く環境は大きく変わってきています。こうした変化は、業務プロセスやその構成要素を見直し、強化し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する重要な機会にもなっています。デジタル化推進の一環として、クラウドサービスの活用は避けられない要素です。そこに内在するリスクはどのようなものなのか、そのリスクは許容可能な水準なのか、許容できない場合にはどのような回避策や軽減策を講じることができるのか検証し、コスト観点での最適化だけでなく、事業継続性の視点も含めてバランスを取ることが、レジリエンスを向上させ、将来のさらなる成長に寄与すると筆者は考えます。

執筆者

来田 健司

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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