冒険と友情のオンラインゲームの世界―仲間との絆と隠れたリスク―

  • 2025-10-21

ゲームの中での友情と理想の自分

ゲームの中で築かれる友情や冒険は、現実の世界ではなかなか得られない貴重な体験です。ボイスチャットやメッセージ交換を通じて、匿名でも心を開いて話せる相手ができることは、心の支えになることもあります。

また、ゲームは現実の制約を受けることなく、理想の自分を表現できます。仲間に頼られる経験や成功体験を通して自己肯定感を得られ、現実の自信にもつながります。

オンラインゲームは、単なる娯楽を超えて、プレーヤーの生活に深く関わる存在となっているのです。しかし、ゲームの世界での友情や自分の姿は、現実の世界とは異なるものであることを忘れてはいけません。自身がどのようなリスクにさらされているのか、考えてみましょう。

オンラインゲームに潜むリスク

悪意のある人物がゲーム内でのチャットやボイスチャットを通じて、徐々にプライベートな情報を聞き出したり、言葉巧みにソーシャルメディアや現実の場所に誘い出したりして未成年の児童が犯罪に巻き込まれる事案が多発しています。

警察庁の発表によると、令和5年のソーシャルメディアやオンラインゲームを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の児童は約1,600人に上り、殺人、強盗、不同意性交等、略取誘拐などの被害にあった児童は225人でした。特に、不同意性交等は前年より増加しています(図表1)。

図表1:ソーシャルメディアに起因する犯罪の被害にあった児童数

出所:警察庁「インターネット利用における子供の性被害等の防止について」を基にPwCにて作成(2025年6月5日閲覧)

また、アカウントやレアアイテムの売買などを通して悪意のある人物がアカウント情報を入手して不正アクセスし、プレーヤーに金銭的被害をもたらすこともあり、総務省の報告によれば不正に利用されたサービスで最も多いのは「オンラインゲーム・コミュニティサイト」となっています(図表2)。

図表2:不正アクセス行為により不正利用されたサービス別検挙数

出所:総務省「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」を基にPwCにて作成(2025年6月5日閲覧)

危険性と具体的な事例

事例1:特殊詐欺に未成年が巻き込まれた事例

実際に、2025年2月に男子高校生がオンラインゲームで知り合った男に家庭の悩みを相談していたところ、「軽作業でお金がもらえて衣食住付きだが来ないか」などと誘われて、ミャンマーの特殊詐欺拠点で「かけ子」として詐欺に加担させられた事件がありました。ミャンマーは2021年のクーデター以降、政情不安が続いており、国境地帯が組織犯罪の温床になっており、特殊詐欺グループは実行役となる人をオンラインゲームなどで仲良くなった児童などを言葉巧みに誘いだし、同様の手口で多くの外国人を監禁の上、強制労働させていました。

事例2:アカウントの乗っ取りによる犯罪

ゲーム内のチャット機能を利用して「ゲームアイテムを無料で入手できる」などの誘い文句でリンクをクリックさせ、入力した情報を窃取するフィッシング攻撃ですが、アカウントが盗まれるリスクにもつながります。また、信頼関係を利用して「代わりにプレーしておく」など言葉巧みにアカウント情報を開示させることもあります。ゲームアカウントはクレジットカード情報や個人識別情報が関連付けられていることが多く、サイバー犯罪者にとって魅力的なターゲットになるのです。

2024年の事例では、ゲームアカウントの売買を仲介するサイトで不正取引により利益を得たとして、16歳から20歳の大学生や高校生4人が逮捕されました。彼らはフィッシングサイトを使って佐賀県の男性のアカウント情報を盗み、架空のゲームアカウントを売買して約5万円分のポイントをだまし取りました(図表3)。警察は、1億円分を超えるポイントを受け取った形跡があることから、余罪についても調査しています。

図表3:リアルマネートレード(RMT)の詐欺手口イメージ

事例3:知らないうちに犯罪に加担する事例

海外の事例で、オンラインゲームを利用したマネーロンダリングや詐欺グループによる不正資金を移動させるケースが増加しています。例えば、ゲーム内のアイテムや通貨を購入し、それを他のプレーヤーに売却することで不正資金を洗浄する手口や、盗まれたクレジットカードを使用してゲーム内通貨を購入し、それを売却して利益を得る手口が報告されています。このような売買に関与してしまうことで、知らないうちに犯罪に加担してしまうこともあります。

なぜオンライン上の相手を信じすぎてしまうのか

オンラインゲームやソーシャルメディアなどのインターネット上での交流は、匿名性や共感を通じて信頼関係を築きやすい環境です。しかし、その信頼は必ずしも安全であるとは限りません。以下の図表4は、オンライン上で相手を信じすぎてしまう主な理由とその危険性についてまとめたものです。

図表4:オンライン上で相手を信じすぎてしまう主な理由

カテゴリ 理由
匿名性による本音の共有 オンラインゲームの匿名性により、現実とは違う一面を見せることができる。これにより、相手も本音を言っていると感じやすくなり、信頼してしまう。
エコーチェンバー効果 ネット上では、自分と似た意見や興味を持つ人々とつながりやすく、共感を得やすい環境が整っている。これにより、相手を信じやすくなり、意見が極端化しやすくなる。
認知バイアス 人は自分に都合の良い情報だけを認識しやすい。オンライン上では、相手が良い人だと思い込むことで、他の情報を遮断し、信頼を深めてしまう。

安全なオンラインゲームの利用に向けて

では、どうすれば安全にオンラインゲームを楽しむことができるのでしょうか。

オンラインの「出会い」を全てうのみにせず、現実世界の常識をオンライン上でも持ち続けましょう。ゲームで知り合った相手を本当に信頼していいのかを常に自身に問いかけ、個人情報を安易に共有しないことが重要です。特に子どもが利用する場合は、保護者が一緒にリスクを見極め、相手の信頼性を確認しましょう。さらに、課金設定を確認し、無駄な支出を避けるためのルールを設定することで、子どもも安全にオンラインゲームを楽しむことができるようになります。

また、事業者としてもユーザーが安全にオンラインゲームを楽しみ、ゲーム上で知り合った相手を信頼できるかどうかを判断する手助けをするため、ユーザーのデジタルアイデンティティを確立することなどが求められています。

執筆者

綾部 泰二

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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柴田 健久

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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望月 拓弥

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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