その「憧れ」は実在するか―フェイクコンテンツとSNS型投資詐欺―

  • 2025-10-09

「SNS型投資詐欺」の脅威

SNS型投資詐欺は、ソーシャルメディアを利用して投資家を勧誘し、実在しない投資案件に資金を投入させ金銭をだまし取る詐欺手法です。

警察庁によると、2024年のSNS型投資詐欺の認知件数は6,413件(+4,142件、+182.4%)、被害額は871.1億円(+593.2億円、+213.4%)と認知件数、被害額ともに前年から大きく増加しており(図表1参照)、特に被害額については前年の約3倍に上ります。被害額は1件あたり数百万円から中には1億円超の被害が発生することもあります。暫定値となりますが、2025年も認知件数・被害額ともに勢いは衰えていません。1

図表1:SNS型投資詐欺の認知状況

(警察庁資料2を基にPwC作成)

また、SNS型投資詐欺の犯行に用いられたツールは、多くの人が日常的に使うSNS等が大半を占めます。

SNS型投資詐欺では、一般のユーザーをだますためにこうしたSNS上でフェイクコンテンツが利用されており、近年ではAI・ディープフェイクといった手法を通じて、より一層中身が巧妙になっています。次のセクションで、具体例とともに説明します。

投資詐欺におけるフェイクコンテンツ

それでは、フェイクコンテンツが詐欺師たちによって具体的にどう使われるのか、どれほど巧妙になっているのかを、SNS型投資詐欺の勧誘から被害発覚までの一連の流れの中で見てみましょう。

SNSでの勧誘

勧誘の段階では、身近なSNS上で、本物の有名人やインフルエンサーのフェイクアカウントを作成してユーザーを勧誘する手法が多く見られます。以下のようにプロフィールの設定に工夫を凝らすことにより、本人との見分けがつきづらくなっています。

  • 酷似したユーザ名を設定
  • 一定数のフォロワーが存在する場合もある
  • 本人と異なるURLが設定されている場合もある
  • プロフィール画像、投稿等を本人のものから流用している

これらなりすましアカウントやなりすまし広告を巧みに組み合わせることによって、詐欺師たちは、一般ユーザーの有名人・著名人への憧れの気持ちを利用して興味を引くのです。

なりすまし広告では、さらに巧妙な手口としてAI技術が利用されるケースが見られます。合成画像や動画を作成し、まるで本物の有名人が投稿しているかのような広告を流すこともあります。

ターゲットとの接触

なりすましアカウントがメッセージで接触してきた場合、「文章だけで本人だと信じ込むはずがない」と考える人もいるかもしれません。

しかしながら、メッセージアプリ上でターゲットに接触する段階においては、テキストメッセージのみならず、ディープフェイクを用いたボイスメッセージやビデオ通話まで行われているケースが見られます。また、デジタル技術を悪用して、身分証の画像を偽造することにより、やり取りしている人物が本物だと信じ込ませる手法も取られます。(図表2②参照)

このように文章以外の情報を用いてよりリアルになりすましを行うことで、一度は疑ったとしても、相手を信じ込んでしまうケースがあります。

さらなる信頼感の醸成

詐欺師たちは、実際に金銭を入手するまでの間、時間をかけてさまざまな方法でターゲットの信頼を得ようとします。

投資セミナーのグループなどと称したグループチャットには、多くのサクラ(偽客)が紛れ込んでいることがあります。サクラによって偽りの成功体験を投稿することにより、まるで多くの人が投資に成功しており、信頼できる投資だと誤認させようとします。(図表2③参照)

また、詐欺師は架空の投資アプリやウェブサイトを開発し、実際に利益が出ているように見せかけることがあります。これらのアプリやサイトにアクセスして投資を行った場合、初期のうちは少額のリターンが支払われることがあり、これにより信頼感が高まります。(図表2④参照)

「憧れ」の末路

ここまで進んでしまった人は既に詐欺師たちを信じ込んでおり、引き返すのは困難です。

専用アプリで高額の利益が出ているように見せかけた上で「利益を取り出すには追加の手数料が必要」などと高額の入金を要求され、それらを振り込むと、専用の投資アプリが削除され、メッセージでの連絡が一切取れなくなります。(図表2⑤⑥参照)

図表2:SNS型投資詐欺の一連の流れ

※クリックで拡大します

被害者はここでようやく「詐欺だった」ということに気が付くことになります。被害が発覚した後も、だまし取られたお金が戻ってくる望みは少ないでしょう。現状、相手が正しい振込先であることを確認する手段や、お金が戻ってくる制度・仕組みも十分に整備されていないのです。

これまで見てきたとおり、詐欺師たちはAI・ディープフェイクを用いた視覚的・聴覚的にリアルななりすましや、サクラや偽の専用アプリを用いた信頼感を得るための仕組みなど、多くの手法によってより巧妙に私たちをだまそうとしてきます。

普段「自分はだまされるはずがない」と考えている人であっても、これほどまでに手の込んだ「フェイク」であれば、信じてしまう可能性もあるのではないでしょうか。

本セクションの振り返りとして、一連の流れの中で用いられていた主な手法を改めて以下に整理します(図表3参照)。悪意ある者によってこれらが用いられるケースがあることを念頭に置き、SNS等の利用を行うとよいでしょう。

図表3:主な手法

手法 概要
本人に酷似したプロフィールの偽造
  • 有名人やインフルエンサー本人のプロフィール写真や氏名を設定する
  • 本人の投稿内容をコピーしたり、本人画像を流用した投稿をしたりする
  • 本人のアカウントのユーザー名と見分けがつきづらいユーザー名を設定する
偽のフォロワー・レビュー
  • 大量のフォロワーを購入したり、多くのフォロワーをもつ休眠アカウントを購入したりすることにより、信頼できるアカウントを装う
  • 投資による偽りの成功体験を、レビューやコメントで投稿する
AI・ディープフェイクの悪用
  • ターゲットとメッセージをやり取りする際、メッセージアプリ上でディープフェイクを用いたボイスメッセージやビデオ通話が行われるケースもある
  • ディープフェイクによる合成画像や動画を作成し、本物の有名人が投稿しているかのように偽広告を流す
その他デジタル技術の悪用
  • 架空の投資アプリやウェブサイトを開発し、実際に利益が出ているように見せかける
  • これらのアプリやサイトにアクセスし投資を行うと、初期のうちは少額のリターンが支払われることがある

フェイクと戦うには何が重要なのか

デジタル世界における匿名性の高い単純化されたコミュニケーションでは、人は受け取った情報のみを基に都合の良い幻想を抱きやすいというリスクがあります。詐欺師たちはそこに付け込んで、最新技術を使ったフェイクコンテンツによって人々を信頼させているのです。

このような状況においては、現実世界での常識をデジタル世界でも持ち続けることが重要になります。

「これほど有名な社長がダイレクトメッセージで投資の勧誘なんてするのだろうか」

「そもそも直接会ったこともない有名人が自分に手を差し伸べるなんてあり得るのか」

現実世界での常識を前提として、インターネットの世界で単純化せずにきちんと疑問を持ちながら複合的に判断していくことにより、詐欺被害のリスクを大きく下げることができます。こうすることで、デジタル世界の「情報強者」に一歩近づくことができるでしょう。

1 警察庁「特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」(2025年10月6日閲覧)https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/sagi.html
「令和7年8月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」(2025年10月6日閲覧)https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/sns-romance/sns-touroma.pdf

2 警察庁「特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」(2025年6月5日閲覧)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/sagi.html
「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」(2025年6月5日閲覧)
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2024.pdf

執筆者

綾部 泰二

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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柴田 健久

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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望月 拓弥

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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本ページに関するお問い合わせ

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