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「先端重要技術開発(官民技術協力)」(以下、本施策)とは、将来の国民生活や経済活動の維持に重要な先端的技術のうち、外部に不当利用された場合に国家や国民の安全を損なうおそれがあるものを「特定重要技術」と定義したうえで、官民連携を通じた伴走支援のための協議会の設置や調査研究業務の委託などを通じて、特定重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用を図る施策です。そしてこれは2022年5月に成立した経済安全保障推進法において、主要4施策の1つに定められました。
日本政府は2022年9月、「海洋」「宇宙・航空」「領域横断・サイバー空間」「バイオ」の4領域から27の技術を特定重要技術に指定しました(図表2)。
2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」には、「特定重要技術の育成プロジェクト『経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)』の予算規模を速やかに5,000億円規模とすることを目指す」との内容が盛り込まれ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)および科学技術振興機構(JST)を研究推進法人としたうえで、2022年12月から公募が順次実施されています。また、2023年8月には新たに23の技術が特定重要技術に追加され、支援対象となりました(図表3)。政府は2023年11月時点で、K Programにおいて22技術に対して20件を採択しています(海洋:5技術3件、宇宙・航空:14技術11件、領域横断・サイバー空間:3技術6件)1。
本施策の導入の背景として、海外の主要国が科学技術への投資を拡大させるなか、日本の競争力が相対的に低下し、国際社会で確固たる地位を確保し続けるうえでイノベーションの競争力向上が不可欠となっているという現状があります。米国と中国を中心に世界の覇権争いの中核は、人工知能(AI)、無人機、ロボット、量子、宇宙、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)といった新興技術によるイノベーションに大きくシフトしました。こういった革新的技術は国家の産業構造を転換させるだけでなく、安全保障にも大きな影響を与え、サイバーテロや感染症などの脅威から国民の安全を確保するためにも重要となっています。
米国はトランプ前政権下において2020年10月に「重要・新興技術(C&ET)のための国家戦略」を発表し、先端コンピューティング、AI、バイオ技術、量子情報科学、半導体・微細電子工学、宇宙技術など20分野を重要・新興技術に指定しました。C&ET分野における米国の主導的立場を維持するため、人材育成、規制緩和、国際標準策定の主導、研究開発の推進、同盟・同志国との協力関係強化、そして中国やロシアといった競争国による技術盗取を防止する取り組みを進めるとしました。また、バイデン現政権は2023年5月、国際標準の規格策定を主導するための戦略である「重要・新興技術(C&ET)に係る国家標準化戦略」を発表し、通信ネットワーク技術、半導体、AI、バイオなど8分野について、投資(標準化前の研究開発への投資や民間・学会への支援)、参画(標準化における官民連携による参画の推進)、労働力(標準化に関わる人材育成)、統合性と包摂性(同志・友好国と共に国際標準策定の公平な過程を確立)に係る施策を進めることを宣言しました。
欧州においても、2021年から2027年の7年間にわたって955億ユーロにのぼる予算措置を行う研究開発支援プログラム「ホライズン・ヨーロッパ」の運用が進められているほか、EU域内における半導体の研究開発とイノベーションを促進するため、2030年までに430億ユーロの官民投資を行うことを定めた「半導体法」が採択されるなど、重要技術分野における技術優位の確保に向けた各種施策が進められています。
こうした欧米の施策に対抗する形で、中国は総体的国家安全観という概念を提示し、経済を国家安全の1つとして位置づけたうえで、自国の安定・繁栄確保のための各種施策を推進しています。軍事技術の民間転用や民間資源の軍事利用など、平時からの軍民融合を推し進め、今世紀中頃までに社会主義現代化「強国」となるという国家目標を掲げています。「中国製造2025」といった具体的戦略の下、明確な時間軸をもって実体経済の強化と、先端技術の獲得、育成を進めています。
日本企業は、NEDOやJSTが実施する公募に研究開発機関として参画することで、研究開発費用の支援を受けたうえで要素技術の確立を図ることができます。研究実施段階においては、経済安全保障推進法に基づいて設置される協議会などから、研究成果を社会実装につなげるための伴走支援を受けることができます。予算規模が数百億円にのぼるプロジェクトも存在し、1社の企業努力だけでは予算確保が難しい規模の研究開発に取り組むことで、国内外の競合他社に対する技術優位性の確保を進めることもできます。
一方で、プログラムによっては8年間といった長期間にわたり研究開発のための人員体制を維持したうえで、委託研究契約や予算計画に沿った適切な経費支出、定期的な自己評価や外部評価の実施、協議会や関係府省との意見交換会への参加などが求められる点には留意が必要です。また、企業利益だけではなく、国が定める構想に沿った経済安全保障に資する研究開発を行ったうえで、民生利用だけでなく公的利用につなげることや、国が定める期限までに成果目標を達成することも求められます。
また日本政府は、流出した際の影響が⼤きい重要技術については、研究成果活⽤の促進だけでなく技術流出防⽌についても今後取り組みを強化する必要があるとの方針を示しています。2023年5月のG7広島サミットの首脳声明においては、「最先端の機微な技術については、国際平和と安全を脅かす軍事力の増強のために利用されることを防止するために、適切に管理する必要がある」との趣旨が盛り込まれました。2カ国間、複数国間の協議の場でも重要技術について議論され、国際協⼒の重要性および必要性が⾼まっています。さらに、2024年の通常国会での法案提出が見込まれ、機微情報を扱う資格要件を定める「セキュリティクリアランス(適格性評価)」への対応も求められる可能性があります。
こうした状況を踏まえると、本施策を活用する日本企業においては今後、特定重要技術に関する機微情報の情報管理の徹底がますます求められるでしょう。守秘義務も厳格化する可能性があるため、留意しておく必要があります。
1 内閣官房「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)の現状」 2023年11月
坂田 和仁
マネージャー, PwC Japan合同会社
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