特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

OTセキュリティ推進の勘所―リコーの視点

  • 2026-08-25

製造現場では、生産ラインや設備を動かすOT(Operational Technology:制御・運用技術)の領域でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)の活用が進み、データ取得・分析による生産性や品質の向上が期待されています。一方で、業務システムや情報を扱うIT(情報技術)とのつながりが広がるほど、サイバーリスクも高まります。OTセキュリティでは、オフィス系ITとは異なり、生産を止めず、品質を支えるデータの正しさを保つ視点が欠かせません。では、現場ごとの事情を踏まえながら、OTセキュリティを定着させ、継続的に機能させるには何が必要なのでしょうか。リコーで工場のセキュリティを支援する上村昌博氏に、PwCコンサルティングの丸山満彦が推進の勘所を伺いました。(本文敬称略)

登壇者

株式会社リコー
セキュリティ統括センター セキュリティ統括室 エキスパート
兼 ファクトリーセキュリティ統括グループ リーダー
上村 昌博氏

PwCコンサルティング合同会社
パートナー
丸山 満彦

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」(2026年3月公開)のセッション6「OTセキュリティ推進の勘所――リコーの視点」の内容を基に、再構成したものです。

左から、丸山 満彦、上村 昌博氏

BCPや訓練に組み込み、OTセキュリティを定着させる

丸山:
では、こうした取り組みを継続させるには、何が大切になるのでしょうか。

上村:
重要なのは「自分たちの工場を自分たちで守る意識」です。専門部隊の支援を受けながらも、現場が主体的に継続して取り組んでいく。そうしたセキュリティ文化を育てることが、何より大切だと思います。

その意味で、既存のBCPにサイバーセキュリティの視点を組み込むことも欠かせません。多くの工場にはBCPがありますが、従来は自然災害を前提としたものが中心でした。サイバー攻撃でサーバーが停止した場合、その後の復旧対応は自然災害のときと共通する面もあります。ただ、被害の広がる速さや時間軸は大きく異なります。だからこそ、連絡体制や初動の手順、復旧の進め方まで、サイバー攻撃を想定した対応をBCPに具体的に盛り込んでおく必要があるのです。BCP部門、IT部門、生産現場が連携し、対策を定期的に見直すことが大切です。

その実効性を支えるのが、訓練や演習です。これは実際に行うと、「どうやって異常に気付くか」「気付いたら誰に連絡するのか」「次に何をすべきか」といった課題が次々と明らかになります。そこで得た気づきをシナリオや教育に反映すれば、現場の対応力は着実に高まります。

丸山:
一方で、工場ごとの取り組みが進むほど、会社全体としてセキュリティ水準をどう揃えるかという課題も出てくるのではないでしょうか。

上村:
そうですね。現場ごとの事情に寄り添うだけでは不十分です。サイバー攻撃は弱いところを狙ってきますし、工場では安定稼働と適正コストが優先されるため、古い機材を使い続けることも少なくありません。現場の特殊性や独自性を尊重しすぎると、かえって拠点ごとにセキュリティのレベルがばらついてしまう恐れがあります。

だからこそ、各現場の状況を踏まえつつ、他社のベンチマークも参考にしながら、会社として維持すべきOTセキュリティの水準を定める必要があります。そのうえで、その水準が現場で無理なく運用できるか、何を指標に状態を把握するかを、現場と全社を見る統括部門とが一緒に考え、具体的な行動につなげていく。この姿勢が欠かせません。

もちろん、先行した工場と後発の工場とでは差が出ます。ただ、後発は先行事例から学べる分、むしろ立ち上がりは速い。大切なのは統括部門が一方的に進めるのではなく、それぞれの工場が自発的・自立的に取り組めるよう支えることだと考えています。

OTセキュリティは、ものづくりとサービスを支える基盤へ

丸山:
最後に、DXやAIの活用がさらに進む中で、これからのOTセキュリティをどう考えていくべきか、お聞かせください。

上村:
DXやDMは今後さらに進化し、製造現場での活用も広がっていきます。その前提として、セキュリティは必ずセットで考えなければなりません。

ここまでお話ししてきたように、IT側だけ、現場側だけでは進められませんし、一度整えれば終わりでもありません。変わり続ける現場に合わせて、ITとOTが連携しながら継続していく。この基本はこれからも変わらないと思います。

そのうえで、これから大きく変わるのは、守る対象の広がりです。今後は工場だけでなく、販売やサービスも含めて、システム全体がつながっていきます。その全体を実効性ある形で守り、お客様に製品やサービスを安定して届け続ける。OTセキュリティは、より良いものづくりと、その先のサービス展開を支える基盤になっていく。そこに貢献していきたいと思っています。

丸山:
OTセキュリティは、工場の中だけで完結するものではなく、ものづくりからサービス提供までを支える基盤になっていくということですね。本日はありがとうございました。

左から、丸山 満彦、上村 昌博氏

主要メンバー

丸山 満彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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