特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

ビットバンク、楽天ウォレットが語る、ブロックチェーンビジネスを取り巻くサイバー脅威とセキュリティガバナンス

  • 2026-08-21

暗号資産やステーブルコイン、ETFなど、ブロックチェーンを活用したビジネスが再び注目を集めています。一方で、暗号資産流出をはじめとするセキュリティインシデントは後を絶たず、事業の信頼を揺るがすビジネスリスクになっています。資産を安全に管理・移転するには、何をどう守るべきなのでしょうか。本セッションでは、ビットバンクの野田直路氏と楽天ウォレットの佐々木康宏氏を迎え、流出事案の変遷、システムとオペレーションのリスク、侵害を前提とした設計、業界全体の「共助」について議論します。(本文敬称略)

登壇者

ビットバンク株式会社
取締役COO
野田 直路氏

楽天ウォレット株式会社
執行役員 CISO
佐々木 康宏氏
※ 2026年4月時点の所属組織

PwC Japan有限責任監査法人
ディレクター
須田 真由
※ 2026年3月時点

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」のセッション10「ビットバンク、楽天ウォレットが語る、ブロックチェーンビジネスを取り巻くサイバー脅威とセキュリティガバナンス」の内容を基に、再構成したものです。本文記載の自己紹介や出演者の役職を含めたコンテンツ内容は、「Digital Trust Forum 2026」が公開された、2026年3月時点のものとなります。

(左から)野田 直路氏、須田 真由、佐々木 康宏氏

システム・オペレーション・経営をつなぐ多層的な防御

須田:
ここからは、対策のアプローチについて伺います。まず私から、汎用的に考えるべき対策のポイントを整理します。ここでもシステム面とオペレーション面に分けて見ていきます。

図表4:セキュリティ対応策の概要

セキュリティ対応策の 概要

システム面では、認証や署名機能、不正なQRコードの検知・記録など、ブラックボックス化しやすい領域を可視化し、検証できる状態にしておくことが重要です。さらに、外部からの侵害を前提にした多層防御、通信ログの取得、監視・検知の仕組み、被害発生時のリカバリ対策も欠かせません。

オペレーション面では、確認手順の整備がポイントです。IT部門だけでなく、経理や管理部門などの業務部門も関わるため、エラーや異常に気付きやすい設計や、ミスが起こりにくい業務環境を整える必要があります。

野田さん、システム対策の観点からさらに伺います。ここまでの事例を見ると、従来のホットウォレット単体の侵害とはかなり様相が変わってきています。近年の流出事案を踏まえると、システム面ではどのような考え方が求められるのでしょうか。

野田:
近年のインシデントは、ホットウォレットかコールドウォレットかという区分を超え、ウォレットを管理する構造全体が攻撃対象になっています。そのため、「特定の対策を入れれば安全」という発想では不十分です。

図表5:対応策の概要―システム

対応策の概要― システム

例えば、コールドウォレット自体はオフラインで管理されていても、周辺機器や署名に至るまでのシステム、データの受け渡し方法などにはリスクが残ります。設計や運用の前提次第で、攻撃の余地は生まれてしまうのです。

重要なのは、侵害される可能性を前提に設計することです。仮に侵害が起きても、不正な操作や改ざんに気付けること、そして後から何が起きたかを検証できることが必要になります。

具体的には、不正なQRコードの混入や署名内容の改ざんをシステム側で検知できること、出庫に至るまでの操作や判断をログ・証跡として確実に残すことです。併せて、万一侵害が起きても影響範囲を限定できるよう、権限設計や環境分離も欠かせません。

これは、特定の製品やツールを導入すれば済む話ではありません。どのような前提でシステムを設計し、どこで異常に気付き、どの段階で人の判断につなげるのか。その土台を作ることが重要です。

須田:
続いてオペレーション面について伺います。実際の送金や署名では、システムだけで完結せず、人による確認や承認が欠かせません。この点について、佐々木さんはどうお考えでしょうか。

佐々木:
重要なのは、出庫業務を担当者個人の経験や判断に依存させないことです。日々の業務を定められた手順に沿って確実に実行し、異常や違和感があれば止めて確認できる状態を作る必要があります。

特に出庫業務では、慣れによる確認不足や承認ミスが起こり得ます。そのため、作業を行う一線、内容を確認する二線、監査を担う三線というスリーラインディフェンスの考え方が重要です。これまで金融業界で重視されてきた基本的な管理体制を、暗号資産のオペレーションにも徹底する必要があります。

須田:
スリーラインディフェンスは、監査法人の立場でも重視するポイントです。ただ、現場の確認・承認プロセスに目が向く一方で、経営としてどう判断し、責任を持つのかという視点は後回しになりがちです。経営層は、どのように関与すべきでしょうか。

佐々木:
暗号資産のセキュリティでは、経営層の認識が欠かせません。送金・出庫などのオペレーションに伴う事故は、ひとたび起きれば大きな損失に直結するためです。経営層は、これを自社の経営課題として捉え、どのような事象が起きたときに誰が判断し、どう対応するのかまで、具体的に決めておく必要があります。

ブロックチェーンビジネスを支える全社的なリスク管理へ

須田:
最後に、ブロックチェーンに関連するリスクを俯瞰して整理します。

図表6:ブロックチェーンに係るリスク

ブロックチェーンに 係るリスク

ブロックチェーン関連のリスクは、「セキュリティリスク」と「法規制リスク」に大別できます。資産保護や管理体制といったビジネスオペレーションに目が向きがちですが、近年の暗号資産流出事案を踏まえると、まず重視すべきは情報セキュリティです。

ブロックチェーン技術自体には高い信頼性があります。ただし、ブロックチェーンを使っているからといって、全ての処理や運用が自動的に正しくなるわけではありません。実際のビジネスでは、技術を動かすシステムがあり、それを支える運用保守があり、そこには必ず人が関わります。

だからこそ、IT部門だけでなく、経理や管理部門などの業務部門も含めた全社的なルールと体制づくりが欠かせません。人材育成やコンプライアンス意識の向上も含め、リスクを適切に管理できる状態を整えることが、ブロックチェーンビジネスの持続的な発展につながると考えています。

ここまで、暗号資産流出事案の変化と、システム・オペレーションの両面から見た対策について議論してきました。最後に、今後の暗号資産セキュリティに向けて、お二人の考えをお聞かせください。

野田:
暗号資産のセキュリティでは、環境や攻撃手法の変化に合わせて、リスクの所在を継続的に見直すことが重要です。一度対策を講じて終わりではなく、事業の成長に合わせて設計や運用を更新し続ける姿勢が求められます。

佐々木:
暗号資産業界では、セキュリティは各社だけで完結する課題ではありません。金商法化が進む中で、経営層の理解を深めるとともに、業界全体で知見や情報を共有する「共助」の取り組みが重要になります。

JVCEAやJPCrypto-ISAC、監査法人などの外部専門家との連携も活用しながら、業界全体で安全性を高めていくことが必要です。一交換業者として、こうした共助の取り組みにも関わりながら、業界の発展に貢献していきたいと考えています。

須田:
ありがとうございました。

(左から)野田 直路氏、須田 真由、佐々木 康宏氏

*1 JVCEA:資金決済法・金融商品取引法に基づく認定団体。暗号資産交換業等の自主規制団体として、業界の健全な発展と利用者・投資者の保護を目的に自主規制ルールの整備などを行う。

*2 JPCrypto-ISAC:日本の暗号資産業界におけるサイバーセキュリティ強化と情報共有を目的とする業界団体。

*3 ホットウォレット:インターネットに接続した状態で暗号資産を管理するウォレット。利便性は高いが、外部攻撃のリスクがある。これに対しコールドウォレットは、インターネットから切り離して管理する方式で、安全性が高い反面、運用に手間がかかる。

*4 DeFi(分散型金融):銀行や取引所などの中央管理者を介さず、スマートコントラクトで金融取引を行う仕組み。

*5 クロスチェーンブリッジ:異なるブロックチェーン間で資産やデータを移転させる仕組み。

主要メンバー

須田 真由

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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