特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

日立製作所が語る成長ドライバーとしてのAI活用を支えるガバナンス体制の強化

  • 2026-09-29

AIを成長ドライバーと位置付ける企業が増える中、その利活用を支えるガバナンス体制の構築は重要な経営課題となっています。求められているのはAIポリシーの策定だけでなく、グループ全体や海外拠点の現場で「使えるルール」へと具体化することです。AIを全事業の中心に据え、世界のリーディングフィジカルAI企業を目指す日立製作所では、グループ横断のAI統括委員会と各事業部門・グループ会社のAI倫理委員会を組み合わせた体制を構築し、国内外のグループ全体への展開を推進しています。本セッションでは、同社法務本部CLOオフィス担当部長の元谷良弘氏に、AIガバナンスの推進体制からリスクベース運用、海外展開の実務までを伺いました。(本文敬称略)

登壇者

株式会社日立製作所
法務本部CLOオフィス 担当部長
元谷 良弘氏

PwCコンサルティング合同会社
パートナー
内田 一栄

PwC Japan有限責任監査法人
パートナー
田中 洋範

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」(2026年3月公開)のセッション5「日立製作所が語る成長ドライバーとしてのAI活用を支えるガバナンス体制の強化」の内容を基に、再構成したものです。

左から、田中 洋範、元谷 良弘氏、内田 一栄

共通ルールと現場裁量を両立するグローバル展開の進め方

内田:
3つ目のテーマは、この仕組みをグループ会社、特に海外へどう展開・浸透させるかです。法規制や商習慣、言語などが国・地域ごとに異なる中で、本社とグループ会社の役割分担をどう設計するかが鍵になります。元谷さん、日立製作所ではどのように取り組まれていますか。

元谷:
重要なのは、海外グループ会社を含め、リスクがグループ全体へ波及し得ることを前提に、体制と規則を共通の型で展開することです。そのためには、各事業部門・グループ会社のステークホルダーや管轄範囲を整理し、どの単位で統括組織を設けるべきかを明確にする必要があります。

経営側はAIポリシーを策定し、組織としての方向性やゴールを示します。一方、現場ではAIの開発・運用・利用を推進し、各事業部門・グループ会社のAI倫理委員会が、規則運用やレビュー、リスク評価、モニタリングを担います。また、グループ会社や海外拠点には、全社ポリシーに基づく実務規則の整備とガバナンス体制の構築に加え、高リスク案件や重大インシデントの報告ラインを明確に示しています。

田中:
その統括組織はどのような手順で立ち上げ、展開していくのでしょうか。

元谷:
まずステークホルダーや管轄範囲を整理した上で共通の型としてグループ方針を説明し、AI倫理委員会の立ち上げをお願いします。設立のめどが立てば規則類の整備、実務開始へと、期日を切って段階的に進めます。

最も重要なのは、報告ラインの設計です。国内外のグループ会社で高リスク案件や重大インシデントが発生した際に、それが確実にAI統括委員会へ報告として上がってくる。この経路を明確に示すことが、グループ全体のガバナンスの要になります。

内田:
共通の型を先に示し、AI倫理委員会の設置、規則整備、実運用の順で進めるアプローチは、機動力と整合性の両立に有効です。特に、報告ラインとエスカレーション基準を最初に明文化し、共通フォーマットを全社でそろえておくことが、展開のばらつきを抑える鍵になります。

図表5:テーマ3 グループ会社(海外グループ会社を含む)への対応

テーマ3 グループ会社(海外グループ会社を含む)への対応

田中:
海外展開では、言語や文化の違いによって本社の意図が正しく伝わらないケースもあると思います。理解のギャップや、「統制によってビジネスが止まる」といった誤解は、どのように防いでいるのでしょうか。

元谷:
原則・方針・実務規則は多言語で整備し、導入時には規則類の説明に加え、AI倫理委員会の立ち上げや文書化に関する質問に対応する専用窓口、Q&Aを用意しています。

また、当社ではAI活用そのものを経営戦略の一つと位置付けているため、ガバナンスの目的を単なる規制や統制ではなく、「AI活用を持続的に推進するための仕組み」として伝えることを重視しています。背景や目的を丁寧に説明することで、「過度な要求をされている」「ビジネスが止まる」といった誤解を防いでいます。そのために、言語力と専門性を備えた海外対応チームを設置し、文書作成や翻訳だけでなく、各拠点とのコミュニケーション全般を支援しています。

田中:
海外展開では、言語やコミュニケーションだけでなく、各国・地域の法規制への対応も重要になります。海外規制への対応について伺います。各国・地域の規制と、全社共通のルールはどのように接続しているのでしょうか。実務上のポイントを教えてください。

元谷:
グループ共通の規則で全ての国・地域の規制を網羅するのは現実的ではありません。そのため、全社として最低限のベースラインを定めた上で、各事業部門・グループ会社のAI倫理委員会が関連法規を取り込み、実務ルールや手順へ反映する形にしています。必要に応じて追加対応も行っています。

一方で、EU AI Actのように複数の事業部門・グループ会社にまたがる規制については、調査や対応が重複しやすい点を課題と認識しています。現在はAI統括委員会が主要法令に関する注意喚起を行っていますが、より効率的な対応の仕組みについては検討を進めている段階です。

クロージング:企業に求められる対応のまとめ

田中:
本日のお話のポイントを整理すると、以下の4点になります。

図表6:まとめ

まとめ ,

なかでも重要なのは、全社共通の方針と統制を持ちながらも、事業特性・地域特性に応じて柔軟に運用すること。そして、リスクを抑えるだけでなく、AI活用を継続的に前進させる仕組みとしてガバナンスを設計すること。この2つが、本日の議論を貫く本質だと理解しました。最後に、お二人から一言ずつお願いします。

元谷:
日立製作所では、AIを全ての事業の中心に据えています。だからこそ、共通のガバナンス基盤を整備しつつ、事業特性・地域特性に応じた柔軟な運用を重視しています。高リスク案件や重大インシデントを早期に把握し、必要に応じてガバナンスを強化しながら、AI活用を継続的に推進していきたいと考えています。

内田:
AI活用が急速に進む中で、リスクへの過度な反応によってビジネスを止めないことが重要です。変化に合わせてガバナンスを継続的に見直しながら、企業自らが社会的な規範形成にも関与していく姿勢が求められると考えます。

田中:
本日はありがとうございました。

左から、田中 洋範、元谷 良弘氏、内田 一栄

主要メンバー

内田 一栄

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

田中 洋範

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email


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