特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

メルペイが考えるAI時代のITリスクマネジメントの現在地と進化

  • 2026-08-28

生成AIやAIエージェントの活用が広がる中、企業のITリスクマネジメントにも変化が求められています。従来型の人手でのリスク評価と確認では事業やシステムの変化に追随しきれない場面が増えているからです。では、AIを活用してITリスク評価を高度化するために何が必要なのでしょうか。本稿ではITリスク評価の自動化と統合リスク管理に取り組むメルペイの白井充氏を迎え、同社が進める「アセスメント&アドバイスアーキテクチャ」の狙い、実装上の課題、そして今後の展望などについて伺いました。(本文敬称略)

登壇者

株式会社メルペイ
IT Risk部 Manager
白井 充氏

PwC Japan有限責任監査法人
シニアマネージャー
中野 美夏

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」のセッション9「メルペイが考えるAI時代のITリスクマネジメントの現在地と進化」の内容を基に、再構成したものです。

左から、中野 美夏、白井 充氏

AI評価を支えるのは、データ基盤と評価軸の設計

中野:
次にAIを活用したITリスク評価を実際に進める際の要点について伺います。IT統制の高度化に取り組む企業にとって、特に重要なポイントは何でしょうか。

白井:
最も重要なのはデータ基盤の構築です。AIエージェントを活用し、人の関与を減らしていくには、どのデータを「正」として使うのかを明確にしておく必要があります。

ただし、データ基盤の整備は簡単ではありません。当社グループでは33の業務領域にプロセスオーナーを置いていますが、すべての業務プロセスでデータの網羅性、完全性、正確性が担保されているわけではありません。

そのため、担保できていない領域では、「何が不足しているのか」「どのような仕組みを整えればよいのか」を一つずつ確認する必要があります。その上で、データの網羅性、完全性、正確性を担保するための仕組みや運用プロセスを整えていきます。地道な取り組みですが、AI活用を本格化する上で欠かせない基盤だと考えています。

中野:
AI評価では、どのデータを「正」として使うかが重要になるということですね。一方で、データは日々更新され、評価の目的によって必要な情報も変わります。そうした中で、データの整合性や信頼性をどのように確保しているのでしょうか。

白井:
評価に使う情報は特定時点の状態を示す「ストック情報」と、日々変化する「フロー情報」を分けて考える必要があります。

例えば、監査のように特定時点の状態を正確に評価する場合は、基準日を定め、その時点のストック情報を使います。一方、外部規制や社内プロジェクトの変化に即応する場合は、日々更新されるフロー情報を捉え、次のアクションにつなげる必要があります。

重要なのは、それぞれの情報の性質と信頼性を定義し、用途に応じて使い分けることです。フロー情報は速報性がある一方、ストック情報ほどの確度はありません。その前提を明確にした上で、評価に組み込む設計にしています。

中野:
AIを活用したリスク評価の仕組みを形にするには、相応のご苦労もあったかと思います。これまでを振り返って、特に難しかった点、逆に進めやすかった点があれば教えてください。

白井:
取り組みはまだ現在進行形ですが、振り返ると進めやすかった点と、今後難しさが増すと考えている点の二つがあります。

一つ目は、本来は難しいものの、当社では比較的進めやすかった点です。こうした取り組みは一つの部署や各業務領域だけでは完結せず、経営として進める意思がなければ実現しません。当社にはグループ全体でAIネイティブ化を進める方針があったため、各取り組みを進めやすい土台がありました。

二つ目は、今後難しさが増すと考えている点です。特に、アセスメント&アドバイスアーキテクチャの「観点」と「評価軸」をどう構築し、維持するかです。評価軸は一度作れば終わりではなく、外部環境や社内環境の変化に応じて見直す必要があります。専門家の知見を明文化する取り組みでもあり、それを継続的にどう反映していくかが課題です。

加えて、LLMの進化に合わせたプロンプトの調整や、評価結果の提示方法も重要です。最も難しいのは評価軸の設計ですが、それを踏まえて安定した結果につなげる部分にも難しさを感じています。

AIに委ねる領域、人間が担い続ける領域

中野:
ここからは将来の展望について伺います。今後、アセスメント&アドバイスアーキテクチャの実装をどのように進めていくお考えでしょうか。

白井:
明確な定量目標を置いているわけではありませんが、アセスメント&アドバイスアーキテクチャを実現するための仕組み自体は、1年程度、遅くとも2年以内には整備できると考えています。この仕組みが実現すれば、新規事業やプロジェクトを、これまでとは異なるスピード感で進められるようになると考えています。

一方で、どのデータを「正」とするか、そのデータがどこにあるのかを整理し、多様なリスクに応じた評価軸を作るには、もう少し時間がかかる可能性があります。ただ、LLMの活用によって作業自体のスピードも上がっており、想定より早く実現できる可能性もあると感じています。

中野:
AIによるリスク評価が進むと、判断そのものをどこまでAIに委ねられるのかという論点も出てきます。白井さんはAIに委ねられる領域と、人間が担い続けるべき領域をどのように見ていますか。

白井:
個人的には、判断をすべてAIに委ねることは難しいと考えています。判断には必ず行動が伴い、その結果に対する責任も発生します。特に、後戻りできない不可逆な判断については、人間が関与し続ける必要があると思います。

一方で、人間の関与を減らせる領域はあるはずです。例えば、後から修正できる作業や、影響が軽微な業務であれば、AIに任せる範囲を広げられる可能性があります。その範囲は、費用対効果やリスクとのバランスを見ながら判断していくことになると思います。

中野:
ありがとうございました。

左から、中野 美夏、白井 充氏 ,

左から、中野 美夏、白井 充氏

主要メンバー

中野 美夏

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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