特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

偏差値30からの電通セキュリティ革命

  • 2026-07-24

サイバーセキュリティの強化は、最新ツールを導入するだけで実現するものではありません。本当に必要なのは、見えていない資産を把握し、放置された脆弱性に向き合い、現場の抵抗や予算の壁を越えて、組織の動き方そのものを変えていくことです。かつて電通は、この領域において「偏差値30」ともいえる状態にあったといいます。そこからどのように失敗と学びを重ね、防御力を高めてきたのでしょうか。dentsu Japan CIO兼CISOの根津 修二 氏に、その改革の歩みを伺いました。(本文敬称略)

登壇者

株式会社電通コーポレートワン
dentsu Japan CIO兼CISO
根津 修二 氏

PwCコンサルティング合同会社
パートナー
小林 公樹

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」(2026年3月公開)のセッション4「偏差値30からの電通セキュリティ革命」の内容を基に、再構成したものです。

左から、小林 公樹、根津 修二 氏

ツール導入より難しい、業務を変える改革

小林:
実際に改革を進めるうえで、どのような難しさがありましたか。技術的なツールの導入と業務に関わるシステムの刷新とでは、克服すべき課題も違ったと拝察します。

根津:
セキュリティツールを導入すること自体は、それほど難しくありません。EDRであれば、設定して配布すれば完了です。難しいのは会計システムのように、現場の業務そのものに影響するシステムを変えることです。多額の投資をする以上、前と同じものを作っても意味がありません。時代に合わない業務を見直し、アーキテクチャもシンプルにする必要があります。

ただ、それは現場のオペレーションを大きく変えることでもあります。「取締役会で決まったから進める」というアプローチでは現場は納得しませんし、うまくいきません。要件定義の段階から説明会を開いて現場と対話し、必要に応じて追加改修も行いました。

こうしたコミュニケーションを重ねながらプロジェクトを進められた背景には、私が新卒入社以来、電通で働き、現場の事情や社内の人脈を理解していたことがあります。もし外部から来た人間だったら、もっと難しかったはずです。

小林:
こうした改革を支える体制についても伺います。ベンダーに任せきりにせず、自社側で判断し、リードできる体制をどのように整えていったのでしょうか。

根津:
グループ内に電通総研があるため、ベンダーとしては主に電通総研に協力してもらっています。一方で、企画やディレクション、プロジェクト管理は、(電通グループのコーポレート機能を担う)電通コーポレートワン側が担当しています。

重要なのは、コア人材を自社内に持つことです。私が着任した当時、会計システムの担当者は1人しかいませんでした。現在は10人ほどの体制で運用しています。情シス部門全体では約70人です。ベンダーに任せきりにすると、いざ問題が起きた時に自社で判断できません。責任を持ってリードできる人材は、社内に抱える必要があります。

AI活用で問われる、権限管理と人の判断

小林:
次に、人工知能(AI)の活用について伺います。AI活用が進むと著作権や情報漏えいだけでなく、AIエージェントへの権限付与や、通常の開発プロセスを省略してしまうリスクも生じます。電通では、AI時代のリスクをどのように捉えていますか。

根津:
電通グループでは、事業現場でも管理部門でもAIを積極的に活用しています。当然、そこには新しいリスクがあります。分かりやすい例では、AIが生成した広告素材が著作権侵害につながるリスクです。

ただ、管理する立場から見ると、会社として危険なのは、「AIだから」といって通常のルールを無視してしまうことです。AIを特別扱いし、権限管理や開発プロセスを省略してしまうことが、最も大きなリスクになります。

こうしたリスクを避けるには、AIだからといって例外を作らず、重要な判断は人が行うことです。「自動化できる部分は自動化する」「ただし、AI任せにしない」という2つが、AIリスクを抑えるうえで欠かせないポイントだと考えています。

小林:
最後に伺います。電通の改革は基本的な対策を徹底し、必要な投資とリーダーシップによって組織を変えていく取り組みだったと感じます。こうした経験を踏まえて、日本企業がセキュリティを強化していくうえで、何が重要だとお考えでしょうか。

根津:
「日本企業のセキュリティレベルは低い」と指摘されることがあります。私の経験から見ても、基本的な対策を十分に実行できていない企業は少なくないと思います。

一方で、正しい方向性を示し、必要な投資を行い、リーダーシップを持って取り組めば、日本企業は高いレベルを実現できると考えています。日本の組織には、ルールが定まればそれを真面目に守り、現場で着実に実行する強さがあります。

電通も、5、6年前は海外のほうがセキュリティレベルは高かったと思います。しかし現在は、日本側のほうがガバナンスの実効性という点で高い水準にあると感じています。海外では、規則やプレゼンは立派でも、実態が伴っていないケースもあります。重要なのは、欧米型の高い基準を取り入れながら、日本企業の実行力を生かすこと。正しい方向に進めば、日本はセキュリティ後進国ではなく、先進国になれる。そう考えています。

小林:
欧米型の良いところを取り入れつつ、日本企業の実行力を生かしていく。その両方が、セキュリティレベルを高めるうえで不可欠ですね。本日はありがとうございました。

主要メンバー

小林 公樹

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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