特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

NTTと考える日本企業が直面しうるサイバー空間をめぐる脅威情勢

  • 2026-07-08

ランサムウェア被害は拡大を続けており、その影響は被害企業にとどまらず、サプライチェーン全体へ波及するケースも増えています。近年は、VPNやリモートデスクトップを経由した侵入に加え、正規アカウントや認証情報を悪用する「アイデンティティ攻撃」も急速に広がっています。また各国では、身代金支払いの抑制や被害報告義務化など制度対応も進みつつあります。本セッションでは、NTT株式会社 チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストの松原実穂子氏を迎え、最新の脅威動向や攻撃手法、各国の制度動向を整理しながら、企業に求められる対策と今後のサイバー防衛の在り方を探ります。(本文敬称略)

登壇者

NTT株式会社
チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト
松原 実穂子 氏

PwCコンサルティング合同会社
パートナー
村上 純一

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」(2026年3月公開)のセッション2「NTTと考える日本企業が直面しうるサイバー空間をめぐる脅威情勢」の内容を基に、再構成したものです。

左から、村上 純一、松原 実穂子氏

各国で進む身代金規制と被害報告義務化、企業に求められる新たな体制整備

村上:
ここまで脅威や攻撃手法を見てきました。ここからは、各国における制度対応の動きを見ていきます。

下図は、日本、米国、英国、EUにおけるランサムウェア対応の主な制度動向を整理したものです。大きな流れとしては、身代金支払いを抑制する方向と、インシデント報告を義務化する方向の二つが進んでいます。

図表4:ランサムウェア攻撃に対する各国の取り組み​

特に欧米では、個人情報や重要データを含む被害について、24時間以内や72時間以内といった短時間での報告義務が導入され始めています。そのため企業には、平時のセキュリティ対策だけでなく、インシデント発生後に迅速に意思決定・報告できる体制整備も求められています。松原さんはこうした各国の制度動向や官民連携の動きをどのようにご覧になっていますか。

松原:
二つの視点からお話しします。一つ目は、被害報告の義務化が世界的な潮流になっている点です。例えばオーストラリアでは、2025年5月に新法が施行され、重要インフラ事業者や一定規模以上の企業に対し、ランサムウェア被害で身代金を支払った場合の政府機関への報告が義務付けられました。

二つ目は、各国政府が規制強化だけでなく、被害企業への支援にも乗り出している点です。例えば日本の警察庁は、「8Base」など一部ランサムウェアによって暗号化されたファイルを復号する鍵を無料で公開し、海外の捜査機関とも連携して提供しています。

この鍵だけで全てのランサムウェア被害に対応できるわけではありませんが、被害企業が身代金を支払わずにデータを復旧できる可能性を広げることで、攻撃者のビジネスモデルを崩す重要な取り組みになっています。こうした国際連携や支援の取り組みが広がっていけば、企業側の対抗力も確実に高まっていくはずです。被害企業にとっても、事業復旧に向けた現実的な選択肢の一つになるでしょう。

生成AI時代のサイバー防衛、技術への投資と現場への支援が両輪に

村上:
最後に伺います。生成AIやディープフェイクを悪用した攻撃が現実化する中で、企業は、そして経営層はサイバー防衛をどう強化していくべきでしょうか。

松原:
残念ながら、攻撃者は新しい技術をいち早く取り入れ、攻撃手法を多様化させ、コストパフォーマンスを高めながら、企業のイノベーションや企業価値、ブランド、利益を損ね続けています。

2020年にサイバーセキュリティ・ベンチャーズが公開したレポートの予測では、サイバー犯罪による世界全体の被害額は、2025年に年間10.5兆米ドル規模に達します※2。この金額を国家GDPに換算すると、米国、中国に次ぐ世界第三位の経済規模に達します。

こうした状況に対抗するには、まず「機械には機械で対抗する」という発想が欠かせません。生成AIを活用してサイバー防衛の一部を自動化・効率化していくことは、もはや選択肢ではなく必須だと思います。

一方で、自動化しきれず、最後は人間が判断しなければならない領域は必ず残ります。守るべきIT資産が激増し、攻撃も巧妙化し続ける中で、IT部門やサイバーセキュリティ部門の現場には疲労が蓄積し、日本でも燃え尽き症候群に陥る人が増えています。技術への投資と並行して、「人材」のサステナビリティをどう確保するかが、今後の企業のサイバー防衛を左右する大きな論点になると考えています。だからこそ、管理職や経営層の方々には、自社のIT・セキュリティを支えている現場に、ねぎらいと感謝の言葉をかけていただきたいと思います。

サイバー攻撃と向き合う仕事は成果が見えにくく、「何も起きなかった」ことが成果になる世界です。しかし、IT・サイバーセキュリティ部門が機能しているからこそ、企業価値やブランド、事業継続は守られているのです。経営層が現場を継続的に支援し、その重要性を組織全体へ発信していくことが、結果として企業全体のサイバー防衛力の底上げにつながっていくのだと思います。

村上:
技術への投資、そして経営層から現場への継続的な支援。この両輪が、これからの日本企業のサイバー防衛を支える鍵になるということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

※2 2022 Official Cybercrime Report
https://cybersecurityventures.com/cyberwarfare-report-intrusion/

主要メンバー

村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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