特別対談:デジタルトラストの構築に向けたPwCのアクション

経営者が求めるCISOのアクションとは

  • 2026-06-29

AIをはじめとするデジタル技術の進化や地政学リスクの高まりにより、企業を取り巻く経営環境は急速に複雑化しています。サイバーインシデントが事業停止や信用失墜に直結する中、サイバーセキュリティはIT部門だけの問題ではなく、経営そのものの課題となりました。今、CISOには技術的対策だけでなく、経営と危機意識を共有し、組織を動かす役割が求められています。本セッションでは、野村マネジメント・スクール学長の増谷洋氏を迎え、これからの経営リーダーに必要な「実践知」、CISOが備えるべき判断軸と対話力、そして経営とCISOがどのように信頼関係を築き、組織を導いていくべきかについて、お話を伺いました。(本文敬称略)

登壇者

公益財団法人 野村マネジメント・スクール
専務理事・学長
増谷 洋 氏
※2026年3月時点の所属組織

PwC Japanグループ
サイバーセキュリティ&デジタルオペレーショナルレジリエンス リーダー
PwCコンサルティング合同会社
上席執行役員 パートナー
林 和洋

※ 本稿は「Digital Trust Forum 2026」のセッション1「経営者が求めるCISOのアクションとは」の内容を基に、再構成したものです。

左から、林 和洋、増谷 洋 氏

これからのCISOに必要な「Strategy」「Politics」「Culture」とは

林:
ここまで、CISOに求められる判断軸や経営との対話について伺ってきました。一方で、実際に経営陣と危機意識を共有し、事業部門や現場を巻き込みながらセキュリティを定着させていくことには、また別の難しさがあるように感じます。そうした中で、これからのCISOは、どのように経営と向き合い、組織を動かしていくべきなのでしょうか。

増谷:
これからのCISOには、「経営チームの一員」として行動することが求められています。

CFO(最高財務責任者)やCHRO(最高人事責任者)といった他のCxOは、以前から経営メンバーとして意思決定に関わってきました。一方、CISOは比較的新しい役割であり、経営の判断を「受け取る側」にとどまっているケースも少なくありません。これからは、経営判断を支える側へと役割を変えていく必要があります。

そのためには、経営と同じ言語で語ることが鍵になります。セキュリティ対策を単なるリスク対応としてではなく、財務インパクトや企業価値、ブランド保護と結びつけて説明する。CEOやCFOが見ている視点を理解し、その言葉で対話する力が求められます。

実際、私が経営トップの方々にお話を伺う中でよく耳にするのは、「自分たちと同じ危機意識をCISOにも持ってほしい」という声です。ただ、その危機意識は信頼関係がなければ共有できません。平時から情報を共有し、同じ問いを持ちながら議論できる関係性を築いておくことが重要です。

私は、こうしたCISOの役割を「Strategy(戦略)」「Politics(社内政治)」「Culture(文化)」の3つで整理しています。

Strategyはセキュリティを経営戦略と結びつけて語る力です。「この対策が必要です」ではなく、「この事業戦略を実現するために、このセキュリティ水準が必要です」と説明できるかどうかが重要になります。経営者の関心軸であるレピュテーションや財務インパクトの言葉で語れて初めて、セキュリティは経営アジェンダの俎上に乗ります。

Politicsは組織を動かす力です。単に正論を述べるだけではなく、誰が意思決定権を持ち、どこで反発が起きるのかを見極めながら、関係者を巻き込んで進めていく。ここには実践知が強く求められます。

そして最も重要なのが、Cultureです。Cultureとは、組織の振る舞いそのものを規定する土壌であり、ルールを整備しても現場に根付かなければ意味がありません。問題を早く共有できる文化をつくれるか、セキュリティを「事業を止める存在」ではなく「事業を支える存在」として捉えてもらえるか。最終的には、こうした組織文化がセキュリティの実効性を左右します。

林:
増谷さんのお話を伺うと、CISOには技術的な知見はもちろん必要ですが、それ以上に高度なソフトスキルが求められると感じます。

下表はグローバルCIOおよびCISOとして豊富な経験を持ち、「The Aspiring CIO and CISO」の著者でもあるデビッド・ギー(David Gee)氏の知見に基づき、CISOに求められるソフトスキルを整理したものです。同氏は、CIO/CISOに不可欠な能力として、リーダーシップや経営的視点での戦略思考、ステークホルダーとのコミュニケーション、リスク判断、EQ(感情知性)、さらには変化への適応力などを挙げています。

図表2:CISOに求められるソフトスキル - David Gee氏「CIO、CISOを目指して」​

林:
増谷さんが指摘された「Strategy」「Politics」「Culture」とも重なる部分が多く、これからのCISOには、技術だけでなく組織を動かす力がますます重要になると思います。その上で伺いたいのですが、これから企業は、セキュリティをどのように位置づけていくべきなのでしょうか。

増谷:
セキュリティはこれまで、「守り」や「ブレーキ」として捉えられることが多かったと思います。しかし本来は、事業成長を支える基盤であるべきです。重要なのは、単にリスクを抑え込むことではなく、経営チームとCISOが「どこまでを許容し、何を守るのか」という判断軸を共有することです。その前提があって初めて、事業側も挑戦しやすくなります。

私は、セキュリティはブレーキというより、「ガードレール」に近い存在だと思っています。譲れないラインを明確にしながら、事業側がアクセルを踏める状態をつくる。その役割を、CISOを含む経営チーム全体で担っていくことが、これからますます重要になるのではないでしょうか。

林:
ありがとうございました。

主要メンバー

林 和洋

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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