
「Age Assurance(エイジアシュアランス)」の利活用における課題と展望
年齢に応じた適切なオンラインサービス提供に関する議論がグローバルで活発化しつつあり、日本においても注視すべきトピックであると言えます。今後各国・各企業で検討が必要と考えられるエイジアシュアランスにおける認証技術、課題、今後の展望について解説します。
デジタル化が進む現代社会では、オンラインサービスが信頼できることが非常に重要です。ここでいう信頼は、消費者とサービス間のみではなく、サービスを運営する事業者間または行政と事業者などの間でも重要です。このようなニーズに応え、エコシステム拡大を支えるための考え方として、デジタルIDのトラストフレームワークというものがあります。今回はこのデジタルIDのトラストフレームワークについて紹介します。
現在、多くの人々は、メガプラットフォーマーのサービスを利用しています。これらの企業が提供するサービスは、世界中の消費者やビジネスにとって今や不可欠なものとなっています。しかし、その巨大な影響力は、新規参入者や小規模事業者が競争することを困難にしています。
メガプラットフォーマーによって構築されたエコシステムの前では、優れたサービスを開発したとしても単体ではしばしば無力化され、一般企業にとっては成長と発展の機会が限定されます。なぜなら、メガプラットフォーマーは広範な顧客基盤と強力なブランドを持ち、自社のエコシステム内でサービスから決済まで統合することでユーザーから大量のデータを収集・分析、シームレスな体験を提供可能なため、一般企業が同様なサービスを市場に提供しても影に隠れ、認知されることが難しいためです。
一方で、消費者は日常生活で何度もログインすることを望んでいません。消費者は、さまざまなサービスをシームレスに使用したいと考えています。シームレスなユーザー体験を実現するには、複数のサービスが一度に利用できる環境や、身元確認と医療サービス決済など、異なる機能を一括で実現できるシステムが必要です。
メガプラットフォーマーは、この点を満たしてくれる非常に便利なサービスを提供してくれています。
これと同じサービスを1つのサービスプロバイダーで全て実現することは難しいでしょう。こうした課題を解決するためには、異なるサービスプロバイダー間の連携が不可欠となります。この連携には、異業種間や同業種間のサービス連携もあれば、身元確認と決済など異なる機能の組み合わせもあります。これらの統合が進むことで、消費者は一貫性のあるユーザー体験を享受できるようになります。多様なサービスが1つのプラットフォームで提供される環境は、消費者が求めるシームレスな利用体験を実現する鍵となります。
このようなサービス間連携において有用となるのが、デジタルIDトラストフレームです。
デジタルIDトラストフレームワークとは、グローバルレベルの専門家がサービス間で信頼関係を確立し、安全かつスムーズなデジタルトランザクションを可能にするための規則やガイドライン、技術などをまとめた集合体であり、人が使うサービス間の連携を安全に行うための基準などのノウハウが詰まっています。
デジタルIDトラストフレームワークは、一定のルールや透明性を要求する一方、企業が提供するオンラインサービスの信頼性を高める役割も果たすため、顧客からの信頼獲得や、ビジネスの拡大の促進につながることが期待できます。このようなフレームワークを使用しないプロプライエタリ(独自仕様)による実装は、相互運用性に欠け、異なるプラットフォームやサービス間の信頼性評価や通信、一貫したユーザー体験の実現が困難になるため、避けるべきでしょう。
2つ以上のサービス間で連携するためには、デジタルIDトラストフレームワークが必要となります。そして、より広い範囲での連携を実現していくには、対応しなければならない法規制やポリシー間の相違のすり合わせ、技術(接続仕様やテスト)、継続的なセキュリティ確保のための運用を、ガバナンスなど多くの観点から整理することが必要です(図表1)。
これらの要素は国や企業によっても異なるため、適切に落とし込まなければなりません。
その複雑さは、デジタルIDのトラストフレームワークを実装しようとする企業にとって大きな挑戦です。
しかし、これをクリアすることで、プライバシーとセキュリティの懸念、相互運用性の欠如、データ標準の不一致といった課題に対処し、安全かつ効率的なサービス連携が可能となります。そのために、グローバルではさまざまな規制との整合性を取った形での信頼構築と経済的利益の創出に向けた議論が進んでおり、多くの国や地域でトラストフレームワーク整備と国際標準化のための検討が進められています。
他国では、当局主導で進められたデジタルIDのトラストフレームワークが、国民に医療や社会保障関連サービスを提供する際に使われていたり、民間主導でメガプラットフォーマーに頼らないエコシステムがすでに構築、運用されたりしています。確かな身元確認を基にした支払いや不動産管理事業の連携、複数の地域が協力した旅行予約・出国・航空機への搭乗・入国など、グローバルのユースケースも広がっています。
デジタルIDのトラストフレームワークについてPwCコンサルティング合同会社は2023年、日本の企業に対し、認知度や活用意欲に関する調査を実施しました。
これによると、62%以上の企業がデジタルIDのトラストフレームワークについて知らなかったことが明らかになりました。しかし、その存在や内容を知った後では、同業他社とのビジネス連携・協力のアジリティ向上に約54%、異業種とのビジネス連携における信頼関係構築・維持に約64%など、活用に関心を示す企業が見られました(図表2)。
一方で、活用したいと思わないと答えた企業は、約16%でした。また、デジタルIDのトラストフレームワークが普及した場合に自社に影響があると考える企業は全体の約59%、誰がデジタルIDのトラストフレームワークを手掛けたら影響があるかという自由選択の質問には、同業他社または業界が手掛けた場合に自社への影響が大きいと思うという選択肢に回答者の約半数が「ある」と答えており、そのポテンシャルには一定の期待と警戒が見られました。
デジタルIDのトラストフレームワークは、オンライン社会におけるエコシステム拡大に必要な利便性と信頼、安全性を実現するために非常に有用なツールであり、グローバルでは着々とのその整備が進んでいます。日本でも、企業がサービスを連携してデジタル経済の発展や新しいビジネスモデル創出を考えるのであれば、デジタルIDのトラストフレームワークの採用は、法規制への準拠、セキュリティ、コストメリットを考えるうえでも多大な効果を発揮することが期待できます。
企業は、この動きをタイムリーにキャッチし戦略的に取り組むことで、将来デジタル社会において重要な役割を果たすことができることでしょう。
柴田 健久
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
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