統計作成等の特例がひらくAIへの個人情報利活用の可能性とAIガバナンスへの影響

  • 2026-09-15

2026年7月に成立した改正個人情報保護法(以下「改正法」と言います)は、AI開発で個人情報を使いやすくするための新しい内容を設けています。改正前は、要配慮個人情報の取得や事業者間のデータ共有に本人同意が壁となり、AI学習に必要な大量・多様なデータ活用が難しい状況でした。今回の改正法では「統計作成等の特例」により、一定の公表・合意その他の法定要件を満たし、かつ取扱目的が統計作成等を行う目的である場合に、公開された要配慮個人情報の取得や第三者提供が可能になります(詳細は公布から2年以内の政令で定める日とされ、本稿執筆時点では未施行)。ただし、個人を特定するような分析や目的外利用は認められず、データの海外移転にも慎重な対応が必要です。企業には、利用目的の管理、公表内容の設計、契約の整備、技術的な統制、監査体制など、AIガバナンスに加えてデータガバナンスの強化が求められます。

1. 改正前の状況:AI開発の制約となりうる同意条件

現行(改正前)の個人情報保護法においては、企業がAIモデルの開発・学習に個人情報を利用しようとする場合、大きく二つの制約がありました。

第一に、要配慮個人情報の取得には原則として本人同意が必要でした。病歴・信条・犯罪歴などのセンシティブ情報は、インターネット上で公開されているものであっても、AIに読み込ませるための取得行為には同意取得が求められると解釈されてきました。多様なデータでAIを訓練しようとするほど、同意取得の負担が制約となっていました。

第二に、複数事業者間での個人データの共有・統合も厳しく制限されていました。複数の企業がデータを持ち寄って共同でAIを開発しようとするケースでは、委託構成を用いた迂回策が一般的でしたが、受託者(AIサービス事業者など)が独自にデータを活用することは認められませんでした。

この結果、AIに必要な大量かつ多様なデータの統合的学習は、法的リスクをはらむものとして避けられてきました。この状況が、改正法によってようやく変わろうとしています。

5. まとめ

今回の改正法では、AI開発における個人情報利活用の法的な選択肢は「統計作成等の特例」という制度により広がりました。一方、課徴金、監査、違反時の責任といった事後的な規律も設けられています。企業がこの特例を安定的かつ適法に活用するには、利用目的の管理、公表内容の設計、契約の整備、技術的な統制、監査体制など、AIガバナンスに加えてデータガバナンスの整備も必要です。

執筆者

平岩 久人

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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橋本 哲哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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エレドン ビリゲ

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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上野 浩

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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折原 裕佳

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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