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人生100年時代を見据え、「住むだけで健康になれる地域」を目指す岡山県玉野市の「全世代型の健康支援モデルプロジェクト」。前編ではその概要と、各関係機関が担う役割、地域の課題について掘り下げました。後編ではプロジェクトの中核をなす「エイジテック(AgeTech)」の技術的背景と地域医療との融合、さらに「玉野モデル」の今後の拡張性について話します。(本文敬称略)
2025年1月に新病院へ統合移転したたまの病院のラウンジにて
(左から)辻 愛美、小林 豊氏、長田 武士氏、萱 哲司氏、佐藤 利雄氏、岡崎 哲也氏、深野 智 華氏
参加者
玉野市 健康福祉部長
萱 哲司氏
地方独立行政法人玉野医療センター たまの病院 理事長
佐藤 利雄氏
岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 臨床遺伝子医療学 特任講師
岡山大学病院 臨床遺伝子診療科
岡崎 哲也氏
岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 臨床遺伝子医療学 特任助教
岡山大学病院 臨床遺伝子診療科 認定遺伝カウンセラー
深野 智華氏
NTTプレシジョンメディシン株式会社 取締役 パーソナルサービス事業部長
長田 武士氏
NTTプレシジョンメディシン株式会社 パーソナルサービス事業部 担当課長
小林 豊氏
PwCコンサルティング合同会社
テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)チーム シニアマネージャー
辻 愛美
※法人・団体名、役職などは対談当時のものです。
辻:
前編では、玉野市における遺伝子解析事業の背景と、各関係機関の役割について伺いました。後編では今回のプロジェクトを支えるテクノロジーや地域医療との接続、今後の展望についてお聞きします。
本事業はPwCの考える「エイジテック(AgeTech)」を体現している取り組みだと感じています。これは、高齢社会における課題解決にテクノロジーを生かすアプローチで、特に予防医療や健康寿命の延伸を重視しています。
本事業では、遺伝子解析結果を基に疾患リスクを評価し、それと現在の健診結果を合わせて分析することで、生活改善につながる提案を行っています。
そうした取組によって、どのような健康支援ができますか。
長田(NTTプレシジョンメディシン):
現状の健診結果データに加え、生来の疾患リスクまで考慮することにより、予防など将来を見据えた健康管理ができるようになります。遺伝子解析データを活用することで、個人個人に最適化された健康支援を実現していきたいです。
例えば、遺伝子解析で糖尿病の疾患リスクが高い方には、早い段階からより重点的な生活習慣の見直しをお勧めすることもできるでしょう。また、今後はこうしたデータやAIの技術活用によって、より効率的に精度の高い予測やアドバイスも可能になると考えています。データ活用が、予防医療や健康寿命延伸に向けた研究の推進やソリューション創出にもつながると期待しています。
辻:
NTTグループでは、グループ全体でヘルスケア事業やゲノム医療に取り組んでいると聞いています。NTTプレシジョンメディシンの具体的な事業内容を教えてください。
長田(NTTプレシジョンメディシン):
NTTグループでは「ウェルビーイング」を目指して、ICTやデータを活用した医療や健康の分野のサービス・ソリューション開発を進めています。その中でNTTプレシジョンメディシンは2020年から遺伝子解析サービスGenovision Dockを提供開始するとともに、そのデータの蓄積と研究を通した解析にも取り組んできました。現在、蓄積データは10万人分に到達したところです。
今後も信頼性の高い遺伝子解析結果レポートを提供するとともに、こうしたデータを活用することによって、個別最適な健康指導などサービスの高度化に向けた取組を加速していきたいと考えています。
また、遺伝子解析は、医療機関と連携してサービス提供を行い、病気を未然に防ぐ予防行動・生活改善まできちんと支援する点も私たちのこだわりです。今回のプロジェクトは、その実践例の1つです。
NTTプレシジョンメディシン株式会社 取締役 パーソナルサービス事業部長 長田 武士氏
辻:
こうした技術の活用は、医療のあり方にも変化をもたらしそうですね。
小林(NTTプレシジョンメディシン):
そうですね。従来の治療中心の医療から、未病・予防にも重点を置く医療への転換点になると考えています。また、地域の特性に応じた健康施策の設計にもつながっていく可能性があります。
NTTプレシジョンメディシン株式会社 パーソナルサービス事業部 担当課長 小林 豊氏
萱(玉野市):
自治体としても、科学的根拠に基づいた健康施策が展開できるのは大きなメリットです。これまでは全国一律のガイドラインに沿って行うことが当たり前だったのですが、今後は地域の実情に合わせた施策が組み立てやすくなります。エビデンスを基盤にした個別支援は、市民の納得感や参加意欲にもつながっており、現場でも大きな刺激を感じています。
辻:
ここまでのお話で、予防医療の重要性と、それを支えるテクノロジーの役割が明らかになりました。ここからは、地域医療との連携に焦点を当てます。玉野医療センターの佐藤理事長、地域の中核病院として、今回のプロジェクトで果たした役割をお聞かせください。
佐藤(玉野医療センター):
従来、地域の病院は治療を中心とした機能分化型の医療を担ってきましたが、今回のような取組によって、地域の医療機関が予防や早期発見に積極的に関与できるようになります。
例えば、健診結果や遺伝子解析の結果に基づいて、課題が見つかった方を地域の診療機関と連携して継続的にフォローできれば、よりきめ細かな医療の提供が可能になります。特に、がんのような早期発見が重要な疾患においては、大きな効果が期待されます。
地方独立行政法人玉野医療センター たまの病院 理事長 佐藤 利雄氏
辻:
具体的には、どのような連携体制を想定していますか。
佐藤(玉野医療センター):
遺伝子解析の結果に応じて必要な方には、適切な医療機関への紹介や継続的な支援を行うことなどが想定されます。一過性の対応にとどまらず、市民一人ひとりの健康を長期的に見守る体制を地域全体で構築していくことが目標です。
玉野医療センターでは、2つの病院を2025年1月に新病院へ統合移転し、これを機に予防・治療・アフターケアを一体的に提供できる仕組みづくりを進めています。地域の健康を支える責任の重さを、改めて実感しています。
辻:
次に、地域での予防医療のニーズと今回の事業との関係について伺います。岡山大学の立場から見て、どのような意義があるとお考えですか。
岡崎(岡山大学):
大学は、「診療」「研究」「教育」という3つの観点から社会に貢献することが使命だと考えています。例えば市民公開講座などを通じて、ゲノムに関する正しい知識を広めていく啓発活動もその1つです。玉野市の皆さんは、ゲノムを生活の一部として受け入れる姿勢が強く、全国でも有数の「ゲノムリテラシーを持つ地域」へと成長していると感じます。
また、今回のように生活習慣病などの多因子疾患に対して遺伝子解析を活用する事例は始まったばかりであり、研究面でも非常に意義があります。大学の立場から言えば、「市民の皆さんに丁寧に説明し、その理解と納得を得て生活改善につなげる」というこのプロセス自体が将来の研究テーマでもあります。
岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 臨床遺伝子医療学 特任講師
岡山大学病院 臨床遺伝子診療科 岡崎 哲也氏
辻:
現場の声と研究成果が、うまく循環しているのですね。
岡崎(岡山大学):
はい。今後はアプリやオンラインツールの導入も検討に入れ、質を均一に保ちつつ、より多くの市民にサービスを届けられる体制を整えていきたいと考えています。
深野(岡山大学):
私が今回のプロジェクトを通じて感じたのは、「地域の皆さんが岡山大学病院に大きな信頼を寄せてくださっている」ということです。その期待に応えるためにも、成果と課題を丁寧に振り返り、将来につなげていきたいと思っています。
例えば「自分の遺伝情報を知る」だけでなく、「(こうした取り組みを基に)地域としてどのように健康と向き合うか」を考えるきっかけにしてもらうといったことです。正しい知識が広まれば、家族単位や地域全体で健康を意識する文化が根付くでしょう。そうした未来になるように願っています。
岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 臨床遺伝子医療学 特任助教
岡山大学病院 臨床遺伝子診療科 認定遺伝カウンセラー 深野 智華氏
佐藤(玉野医療センター):
地域医療ビジョンの観点からお話しすると、私たちは予防から治療、そしてアフターケアまで、一貫した医療を地域で完結できる体制を目指しています。特に「人生100年時代」を見据えた時、予防医療の充実は地域中核病院にとって重要な使命だと考えています。今回のプロジェクトは、予防医療の分野での遺伝子解析をより身近なものにするといった観点からも非常に大きな一歩になりました。将来的には、遺伝情報を基に、一人ひとりに最適化された予防医療が当たり前になる日が来るものと確信しています。そして、今回の玉野での取り組みが、その嚆矢となることを願っています。
辻:
次に今回のプロジェクトの「その先」についてお聞きします。玉野市として、今後どのように事業を広げていきたいとお考えですか。
萱(玉野市):
まずはより多くの市民に遺伝子解析の意義、有効性を知っていただき、参加を促すことが大きな課題だと考えています。特に健康への関心が低くなりがちな層へのアプローチは不可欠です。広報誌やWebだけでなく、地域イベントや公民館活動なども活用し、幅広く啓発を進めていきます。
また、高齢者や働き盛り世代に対しては、受診しやすい仕組みづくりやきっかけを工夫し、参加のハードルを下げていきたいと考えています。
玉野市 健康福祉部長 萱 哲司氏
岡崎(岡山大学):
大学としても、市民公開講座や啓発イベントを通じて正しい知識の普及に励んでいきます。特に若い世代に対する啓発は重要であり、将来的には学校教育との連携も検討に入れています。
辻:
今後、医療機関との連携やフォローアップ体制はどのように発展させていく予定でしょうか。
長田(NTTプレシジョンメディシン):
2025年度は対象人数を100名に拡大する予定です。参加促進と啓発を両立させながら、事業のスケーラビリティ(拡張性)も意識しています。オンラインカウンセリングや説明のフローチャート化、アプリの活用など、事業としての費用対効果を高めるプロトコルの検討も進めています。
NTTグループの強みであるICTや生成AI、電子カルテ連携、データ活用などのノウハウも生かし、より効率的かつ現実性の高い仕組みを構想していきたいと考えています。
佐藤(玉野医療センター):
市民の健康状態を継続的に見守り、必要に応じて適切な医療につなげられる体制づくりが重要です。医療機関の間で連携を強化し、安心して受診できる環境を整備していくことで、地域全体で健康を支えていくための地域医療連携の取り組みを進めていきたいと考えています。
辻:
今回の「玉野モデル」は、今後全国に広がっていく可能性がありますか。
岡崎(岡山大学):
玉野モデルの特徴は、自治体・大学・医療機関・民間企業という産官学医が一体となり、市民の健康に取り組む仕組みにあります。地域ごとの対応は必要ですが、基本的なフレームワークは他地域にも応用可能です。研究面でも、得られた知見は将来的な政策立案や予防医療の高度化に貢献するはずです。
小林(NTTプレシジョンメディシン):
全国の自治体とのネットワークや当社の技術知見を生かして、他地域への横展開を図っていきます。今回得られた知見を基に、どの地域でも実現可能な、スケーラブルで実践的なソリューションの開発を進めていきたいと考えています。
萱(玉野市):
玉野市発のこの取組が他の自治体でも展開され、全国の健康づくりに貢献できれば、との思いはあります。中小規模の自治体でも応用可能なモデルとして、実践性と継続性を備えた形で、今後も磨き上げていきたいと考えています。
辻:
玉野モデルは、継続可能性と拡張性を持っています。初期投資や運用面をクリアし、安定・継続できる仕組みにこだわって設計しました。市民目線で構想されたサービスだからこそ、参加率の高さと好評価につながっていると感じています。
高齢化と多様化が進む時代において、自治体・大学・医療機関・企業が連携して健康を支える仕組みの必要性はますます高まっています。玉野モデルはまさにその先駆けですね。最後に、皆さんの抱負を聞かせください。
萱(玉野市):
市民一人ひとりが自分の健康に向き合い、活気あるまちで、長く暮らせるようなまちづくりを目指しています。今回のプロジェクトを通じて、玉野市の魅力もさらに高めていきたいです。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)チーム シニアマネージャー 辻 愛美
岡崎(岡山大学):
大学病院として、医療の進歩を地域に届けると同時に、地域の方々との連携を通した社会実装を通じて、より多くの市民の方の健康に貢献していきます。
深野(岡山大学):
令和6年度に続き、7年度も遺伝子解析を活用した健康づくり事業を実施します。私たち認定遺伝カウンセラーも、たまの病院で行う生活改善アドバイスの場に同席します。市民の方一人ひとりに疾患リスクと予防法を正しく理解いただき、健康増進の実現につなげていただけるよう、サポートしたいと思います。
佐藤(玉野医療センター):
地域中核病院として、地域の医療機関などと連携しながら予防からアフターケアまで一貫した医療体制を構築し、今回のプロジェクトでの連携も発展させて、将来に向かって地域の健康を支える存在であり続けたいです。私たちはその努力を惜しみません。
長田(NTTプレシジョンメディシン):
今回のプロジェクトは、従来にない新しい仕組みづくりの挑戦でした。私たちは本プロジェクトを将来的な全国展開を見据えた「社会実装モデル」と位置付け、得られた知見をあらゆる機会に活用したいと考えています。特定健診の受診率向上は全国共通の課題です。玉野モデルを通じて国民全体の健康増進と医療費の適正化などの一助となることで、「ウェルビーイング」とともに社会貢献につなげていきたいです。
辻:
今後、玉野モデルが全国に広がり、多くの人々の健康を支える礎となる日が来るかもしれません。本日は貴重なお話をありがとうございました。
2025年1月に新病院へ統合移転したたまの病院の院内にて
(左から)深野 智華氏、岡崎 哲也氏、萱 哲司氏、佐藤 利雄氏、長田 武士氏、小林 豊氏、辻 愛美
岡山県玉野市における『遺伝子解析結果を活用した健康づくり』に関する詳細はこちら
遺伝子解析結果活用事業(自己負担無料)では、
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