PwCのプロフェッショナル像を再定義する対話シリーズ第5回(後編)

AI時代、企業は人をどう育てるのか―ウェルビーイング・キャリア自律、そして未来を形づくる組織へ―

  • 2026-09-25

前編はこちら

社内外のさまざまな方との対話を通じて、AI時代に求められるプロフェッショナル像や、人と組織の未来について考えてきた「PwCのプロフェッショナル像を再定義する対話シリーズ」。

前編では、AI時代に人間が磨くべき力や、人文知・リベラルアーツの価値について議論しました。後編では、その議論を踏まえ、ウェルビーイングやキャリア自律、AI時代の人材育成を通じて、企業はどのように未来を形づくる人と組織を育んでいくべきかを考えます。

(左から)片山 紀生、山口 周氏

人生を経営するという考え方

片山紀生(以下、片山):
山口さんの著書「人生の経営戦略」では、「時間資本」を投資し、「人的資本」「社会資本」「金融資本」を高め、その先にウェルビーイングを実現していくという考え方が示されており、とても共感しました。私も50歳で大学院への進学を決意し、この3月に修了しました。振り返ると、それは相当の時間資本を投資した経験だったと思います。人材・組織を中心に経営全般を学び直し、人的資本を高めたことに加え、世代や業界を超え、一生付き合っていきたいと思える仲間と出会えたことは、何ものにも代えがたい社会資本になりました。また、大学4年生の息子が、就職か大学院進学かを考えるタイミングでこの本を読み、親子で「これからどう生きるのか」を語り合うきっかけにもなりました。

「人生を経営する」という考え方は、どのような問題意識から生まれたのでしょうか。そして、AI時代だからこそ、その考え方がこれまで以上に重要になる理由を、お聞かせいただけますか。

図表1:人生というプロジェクトの原理

人生というプロジェクトの原理 ,

出典:山口周著「人生の経営戦略」

山口周氏(以下、山口):
もともとの問題意識は、日本全体の競争力の低下でした。2000年頃には世界でも高い水準にあった日本の生産性や競争力は、この20年余りで大きく低下しています。一方で、デンマークやスウェーデンのように競争力を高めた国では、社会全体で人的資本への投資や、人材が成長産業へ移動する仕組みづくりが進んでいました。本来であれば、国や企業がそうした変化を後押ししていくべきですが、それだけでは十分ではありません。私は、一人ひとりが自分自身の人生を主体的に考え、成長する領域へ挑戦していくことも同じくらい重要だと考えています。

そこで、経営戦略の考え方を人生に当てはめたのが、『人生の経営戦略』です。人生というのは、放っておいてもうまくいくものではありません。だからこそ、企業が経営戦略を考えるように、自分の人生にも戦略が必要なのです。私が一番お伝えしたいのは、時間資本の重要性です。時間は誰にとっても有限であり、取り戻すことはできません。その限られた時間を何に投資するかによって、その後の人生は大きく変わります。

そして、この考え方はAI時代だからこそ、さらに重要になっています。特にコンサルティングのような知識集約型の仕事では、これまで「与えられた問題に正解を出す力」が市場価値を生み出してきました。しかし、生成AIによって、その能力は誰もが低コストで活用できる時代になりつつあります。つまり、労働市場における競争優位の源泉そのものが変わり始めているのです。だからこそ、一人ひとりが自らの人生をどう設計し、自分ならではの価値をどう生み出していくのかを、これまで以上に戦略的に考える必要があるのではないでしょうか。

片山:
日本全体の競争力という視点には、私自身も非常に共感しました。実は、当社社長の樋崎も、「企業の変革を支え、日本の再成長に貢献する」というビジョンを掲げています。またPwCでは、成長産業へのシフトや産業構造の転換を支えていくことを、グローバルで「Value in motion」と呼んでいるのですが、まさに今のお話は、その考え方とも重なると感じました。「失われた30年」と言われますが、日本企業の競争力を高め、日本の再成長につなげていくことは、私たちコンサルタントの重要な役割です。そのためには、企業が変わるだけではなく、変革を担う一人ひとりが主体的に学び、成長し続けなければなりません。だからこそ、「人生を経営する」という考え方は、個人のキャリアだけでなく、企業や社会の未来を考える上でも欠かせない視点なのだと改めて感じました。

ウェルビーイングとキャリア自律

片山:
私たちPwCコンサルティングでは、ウェルビーイングを、人が持続的に価値を発揮する土台だと考えています。身体(Physical)、こころ(Mental)、経済的安定性とキャリア(Employable)、社会とのつながり(Social)の4つを柱とし、一人ひとりが持続的に成長し、価値を発揮できる環境づくりを進めています。その中でも特に重視しているのがキャリア自律です。私たちのキャリア・デザイン・ワークショップでは、自己認識(Self-awareness)を起点にキャリアを考えることを大切にしています。現在は、この取り組みをクライアント企業にも広げています。

山口さんは、企業はウェルビーイングをどのように捉え、人が持続的に価値を発揮できる環境をどのようにつくるべきだとお考えでしょうか。

山口:
私はウェルビーイングと最も相関が高いのは「自己決定感」だと考えています。日本の研究でも、年収や社会的地位、学歴よりも、「自分で選び、自分で決めている」という感覚の方がウェルビーイングとの相関が高いことが分かっています。親や社会の期待ではなく、自分が本当に大切にしたいことや興味を軸に選択している人の方が、人生やキャリアへの満足度は高いのです。だから、自律とは「会社が面倒を見ない」ということではありません。本人が主体的に選択できる状態をつくることです。その結果として、人はより幸福になり、持続的に価値を発揮できるようになります。一方で、「キャリア自律を進めると優秀な人が辞めてしまうのではないか」と心配する企業も少なくありません。実は私自身も、そうした研修を受けたことがきっかけで会社を辞めた一人です(笑)。

しかし、それは必ずしも企業にとってマイナスばかりではありません。一度外に出て、自ら選択した結果として再び戻ってくる人は、エンゲージメントも高く、仕事へのコミットメントも強くなります。選択肢を広げ、自分で選べる環境をつくること。それが結果として、社員一人ひとりのウェルビーイングを高め、組織全体の競争力にもつながっていくのだと思います。

独立研究者/著作家 山口 周氏

片山:
実は、キャリア・デザイン・ワークショップを始める時も、「キャリア自律を進めると、優秀な人ほど辞めてしまうのではないか」という声は社内にありました。しかし、2年以上取り組んできた結果、ワークショップ参加者の退職率は、むしろ低いという結果が出ています。私自身は、「PwCにいてほしい」というよりも、一人ひとりが人生全体のキャリアを主体的に考える中で、PwCを成長の場として活用してほしいと思っています。その結果、PwCを選び続けてくれるのであれば、それは本人にとっても企業にとっても幸せなことだと思います。

AI時代の人材育成

片山:
ここまでウェルビーイングやキャリア自律についてお話を伺ってきましたが、企業にとっては、そのような人材をどう育てるかも大きなテーマです。私たちPwCコンサルティングでも、「人と組織で勝つファーム」の実現を目指しています。そのためには、育成の考え方そのものを変えていく必要があると感じています。企業は、これからどのように人材を育てていくべきなのでしょうか。

山口:
私は、これからの企業には、「安定志向型組織」から「学習志向型組織」への転換が求められると思います。日本企業には、一番うまくできる人に仕事を任せる「安定志向型組織」が多く見られます。もちろん短期的な生産性は高まりますが、その人にとっては最も成長できない仕事でもあります。

それに対して、学習志向型組織では、その仕事を通じて最も成長できる人に機会を与えます。人は、新しい仕事への挑戦を通じて成長していきます。だから企業は、「良質な失敗」ができる機会そのものを、人材育成の重要な資源として捉える必要があります。

ただし、難しい仕事を与えればいいという話ではありません。人によって置かれている状況や価値観、レジリエンスは異なります。だからこそ、一人ひとりに合わせた適切なストレッチが重要です。人が最も成長するのは、実際の仕事を通じた直接体験です。成長できる仕事の機会そのものを経営資源として捉え、人材育成の観点から適切に配分していく。そうした発想は、まだ日本企業には十分根付いていないように感じます。

片山:
私たちも本来、学習志向型組織であるべきだと思っています。一方で、ここ数年はチャレンジする機会が減っているのではないかという危機感もあります。だからこそ、一人ひとりに成長機会をどう提供していくのか。そして、その機会を人材育成の重要な資源として捉えることが、これからますます重要になると感じました。

PwCでは、People Value Proposition(PVP)の柱の一つとして、「Shaping tomorrow(未来を形づくる)」を掲げています。今日のお話は、まさにその考え方につながるものだと感じました。

最後に、これから社会に出る若い世代、そしてAI時代を生きる全てのプロフェッショナルに向けて、ぜひメッセージをいただけますでしょうか。

山口:
私は最近、「Company activist」という言葉を使っています。アクティビストというと、企業の外から社会を変える人を思い浮かべるかもしれません。しかし、社会を変える最も大きな力は企業にあると私は考えています。だからこそ、「会社に使われる」のではなく、「会社を使って社会を変える」という発想を持ってほしいのです。そうした視座を持つと、会社の中で何を学ぶべきか、誰とつながるべきか、どのような経験を積むべきかも自然と見えてきます。

コンサルティング会社には、その可能性があります。これからのプロフェッショナルに求められるのは、与えられた問題を解くだけではありません。「私たちは社会の中でどのような役割を果たすべきか」という問いを立て、クライアントとともに未来をつくっていく存在であってほしいと思います。

片山:
「会社に使われるのではなく、会社を使って社会を変える」というメッセージは、PwCのPurpose(存在意義)である「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」にも通じるものだと感じました。一人ひとりが主体的に学び、挑戦し、その力を企業や社会の変革につなげていく。私たちも、クライアントとともに未来を形づくり、より良い社会の実現に貢献していきたいと思います。

PwCコンサルティング パートナー 執行役常務 CHRO 片山 紀生

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