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社内外のさまざまな方との対話を通じて、AI時代に求められるプロフェッショナル像や、人と組織の未来について考えてきた「PwCのプロフェッショナル像を再定義する対話シリーズ」。
今回は、PwCのPeople Value Proposition(PVP)における柱の一つである「Shaping tomorrow(未来を形づくる)」を背景に、人文知・リベラルアーツという視点から、「AI時代の人間ならではの価値とは何か」という問いを掘り下げました。
本対談は前編・後編の2回に分けてお届けします。前編では、人間ならではの価値と人文知・リベラルアーツの役割について、後編では、ウェルビーイングやキャリア自律、AI時代の人材育成を通じて、未来を形づくる人と組織について考えます。
(左から)片山 紀生、山口 周氏
片山紀生(以下、片山):
生成AIの登場によって、知識へのアクセスや情報分析のスピードは飛躍的に向上しました。コンサルティング業界も、これまで人が担ってきた業務の多くがAIによって代替される可能性があると言われています。私は、AI時代を考える上で、「Human-led, AI-native」という考え方を大切にしています。AIを前提に働き方や組織を進化させる一方で、人間ならではの価値をさらに高めていく必要があります。AI時代だからこそ、人間は何を磨くべきなのか。私自身は、Trust(信頼を築く力)、Sensemaking(意味づける力)、Judgment(決断力)の3つが、人間ならではの価値を生み出す源泉になると考えています。
図表1:AI時代に求められるHuman skills
Trustは、人との信頼関係を築く力。Sensemakingは、AIが導き出した答えや情報に意味を与え、新たな価値へとつなげる力。そしてJudgmentは、最後に責任を持って決断する力です。
AIが急速に進化する時代だからこそ必要な、人間にしか生み出せない価値とは何だと山口さんはお考えでしょうか。
山口 周氏(以下、山口):
今回は「プロフェッショナル」がテーマですが、もともと「プロフェッション」という言葉は聖職者を指す言葉でした。その後、医師や弁護士へと広がり、現代ではコンサルタントもその一つになっています。プロフェッションとは、専門知識があるというだけではなく、社会から信頼され、重要な判断を託される存在なんですね。
生成AIが「仕事を奪う」と言われますが、私は実際には少し違うと思っています。AIが代替するのは「仕事」ではなく「作業」です。仕事と作業の違いは、アカウンタビリティ(成果に最後まで責任を持つこと)があるかないかです。資料作成はAIに任せられても、その成果に責任を持つのは人間です。そこが仕事なんです。
さらに、その上位概念として「職業」があります。例えば医師という職業には、診察や手術という仕事があり、その仕事は麻酔や切開といった数多くの作業で成り立っています。つまり、作業の積み重ねで仕事が成り立ち、仕事の積み重ねで職業が成り立つわけです。患者さんが信頼しているのは、手術という仕事そのものではなく、その医師という職業です。「この先生なら任せたい」と、その人が積み重ねてきた経験や実績、人柄、社会との関係性まで含めて信頼しているのです。
コンサルタントも同じです。クライアントが求めているのは分析資料ではなく、「この人に相談したい」「この人と一緒に変革を進めたい」と思えるプロフェッショナルなんです。そこにTrustがあるわけです。
そして最後は決断です。AIは選択肢を示すことはできますが、その結果に責任を持ち、人を前に進めることはできません。最後は人間が決断しなければならない。そこがJudgmentなんだと思います。
AI時代になればなるほど重要なのは、作業ではなく、その人ならではの仕事をつくり、その人ならではの職業を築いていくことです。それこそが、これからのプロフェッショナルに求められる価値なのだと思います。
独立研究者/著作家 山口 周氏
片山:
「仕事」ではなく「作業」がAIに代替されるというお話は、とても腹落ちしました。また、プロフェッションとは、社会から信頼され、重要な判断を託される存在であるという考え方は、AI時代のプロフェッショナルを考える上で、とても本質的だと感じました。
PwCコンサルティング パートナー 執行役常務 CHRO 片山 紀生
片山:
その人ならではの価値を磨く上で、私自身とても大きな学びになったのが、今年3月に修了した大学院で学んだ人文知やリベラルアーツでした。そうした分野に興味を持つようになったきっかけの一つは、私の娘が美術大学で油絵を学んでいたことです。一緒に美術館へ行く機会が増えたものの、「自分は絵の見方が分かっていない」と感じていました。大学院で美術史を学ぶ中で、美術作品は単なる芸術ではなく、その時代の価値観や思想、社会背景を映し出していることを知りました。作品を理解することは、その背景や文脈を理解することでもあり、人文知の本質に触れたように思いました。
もう一つ印象に残ったのが、大学院で課題図書として読んだデカルトの「方法序説」です。そこに示された「思考の4原則」は、数百年を経た今でも、私たちコンサルタントが日々実践している問題解決のアプローチそのものだと感じました。また、「我思う、ゆえに我あり」という考え方は、自分自身を客観的に見つめるSelf-awareness(自己認識)にも重なるように思いました。
AI時代だからこそ、人文知やリベラルアーツが重要になると言われますが、その本質はどこにあるのでしょうか。
山口:
人文科学と自然科学の大きな違いは、人文科学では「積み重ね」が非常に重要だということです。自然科学では、新しい理論が古い理論を置き換えながら発展していきます。一方、人文科学では、2000年以上前の哲学や歴史が今でも研究され続けています。それは、「何を言ったか」ではなく、「どのような文脈の中で、その考え方が生まれたのか」を理解することが重要だからです。
例えばデカルトの「方法序説」もそうです。当時は30年戦争の真っただ中で、カトリックとプロテスタントが、それぞれ「自分たちこそが正しい」と主張していました。そうした時代背景の中で、デカルトは「そもそも何が本当に正しいのか」という前提そのものを問い直そうとしたわけです。哲学とは、正解を覚える学問ではありません。時代の常識や前提を問い直し、新しい考え方を生み出していく営みなんです。
実は、生成AIが提示する「正解」には2つの種類があります。自然科学のように論理的に証明できる正解と、人文科学のように、その時代の主流となっている言説としての正解です。生成AIは、後者を提示することはできます。しかし、それはあくまで「今の時代の主流」にすぎません。人間は、「本当にその前提は正しいのか」「別の見方はないのか」と問い直し、オルタナティブ(新たな見方・選択肢)を生み出すことができます。
私は、人文知とは知識を増やすことではなく、文脈を理解し、当たり前を疑い、新しい問いを立てる力を養うことだと思っています。そう考えると、人文知の蓄積は、AI時代に求められるSensemakingやJudgmentにも、大きな力をもたらしてくれるのではないでしょうか。
片山:
大学院での学びを振り返ると、一番大きかったのは、知識が増えたことではなく、物事を見る視点が変わったことでした。「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が重要だと言われますが、今回のお話を伺って、それ以上に、「誰が、どのような文脈で言ったのか」が本質なのだということが、大きな学びになりました。AI時代だからこそ、物事を文脈で捉える視点を持ち続けたいと思います。
片山:
ここまでのお話を伺って、AI時代に本当に問われるのは、「AIをどう使うか」ではなく、「人間が何を担うのか」なのだと感じました。では、AIと人間の役割分担は、これからどのように変わっていくのでしょうか。
山口:
コンサルティングの仕事を大きく分けると、アジェンダの設定、仮説の構築、情報収集・分析、示唆の導き出し・アウトプット提示、プロジェクトの実行、という流れになります。生成AIによって最も大きく変わるのは、情報の収集や分析の部分です。ここはこれまで人が多くの時間をかけてきた領域ですが、AIが圧倒的なスピードで担えるようになります。
一方で、AIにはできないことがあります。それは、「何を問いにするのか」というアジェンダを設定することです。誰でも考えられるものは、本当の意味での問いにはなりません。本当に解くべき課題は何か。社会やクライアントにとって、何が本質的な問いなのか。そこを考えることは、人間にしかできません。まさにSensemakingが求められる領域です。
そして、もう一つAIが代替できないのが、変革を実現することです。プロジェクトが動き始めれば、反対する人もいれば、不安を感じる人もいます。そうした人たちを巻き込み、「こちらへ進もう」と決断し、最後まで責任を持って実行する。そこではJudgmentが求められます。人は「あの人が言うならやってみよう」と思える相手だからこそ動きます。プロジェクトを前に進めるには、人への理解や信頼、リーダーシップが欠かせません。
だから私は、これからのプロフェッショナルは、情報を集める人ではなく、問いを立て、人を動かし、変革を実現する存在になっていくのだと思います。
片山:
「誰でも考えられるものは問いではない」という言葉が、とても印象に残りました。AI時代には、答えを出す力以上に、本質的な問いを立てる力こそが、プロフェッショナルの価値になるのだと思います。
後編では、ここまでの議論を踏まえて、ウェルビーイングやキャリア自律といった企業の人材育成施策を問い直していきます。
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