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「どんな組織で、誰と働くか」――それを重視している方に、後編は特に響くはずです。前編で稲本潤一氏に語っていただいたのは、21歳で英国を代表する名門クラブ・アーセナルに渡った決断の動機と、新天地での信頼構築、そして移籍のたびに直面した「静かな葛藤」でした。職種を変えても、環境を変えても、同じ職を極め続けても、形を変えて訪れるこの葛藤こそが、キャリアへの挑戦の本質です。
後編では、稲本氏が欧州で抱えた葛藤の乗り越え方、やりきった先に選んだ新たなキャリア、そしてそのプロセスとPwCのカルチャーが交差する地点まで、話は深まっていきます。
登場者
川崎フロンターレ FRO(フロンターレ・リレーションズ・オーガナイザー)
稲本 潤一氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
阿部 大祐
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
垣内 啓子
※参加者の肩書き、所属法人などは掲載当時のものです。
(左から)垣内 啓子、稲本 潤一氏、阿部 大祐
求められる役割と自分の理想がズレた時、人はどう動くか。このとき取り得る選択肢は大きく二つあります。「自分のやり方を貫こうとぶつかり続けるか」「求められることに応えながら自分の幅を広げていくか」です。フルハムでもやもやを抱えながら試合に出られなくなった稲本氏が選んだのは、後者でした。
「監督がやれといったら絶対なので。『やらない』と言うなら、やりたいポジションで圧倒的なパフォーマンスを出せないと無理なんですよ。そう考えた時、違うところでもやれる力を持とうという考え方に徐々に変わっていきました」(稲本氏)
求められることに応えることは、自分のアイデンティティを失うことではありません。その場で必要とされることに誠実に向き合えば、得た視点や経験が、やがて自分の核を太くしていきます。稲本氏がそのマインドに変わったのは、冷静な自己認識があったからでもあります。
「やりたいポジションで圧倒的なパフォーマンスを出せないなら、どこでも出られるようになろうと。そっちの方が長くプレーできると思ったんです」(稲本氏)
阿部もコンサルティングの世界で同じ変化を経験してきた一人です。
「求められたことは何でもやってきました。経験したことによって広がっていく世界というのはあるので、今となっては『何でも屋』でよかったと思っています」(阿部)
「自分を曲げる」のではなく「自分の幅を広げる」という発想への転換。これが新しい環境で葛藤を越えていくための鍵です。稲本氏はこう語ります。
「やってみないと分からないし、いろいろなところを経験した先に何かがあるんですよね」(稲本氏)
川崎フロンターレ FRO 稲本 潤一氏
覚悟を持って新しい環境に飛び込んでも、一人では抱えきれない壁が訪れることがあります。稲本氏のキャリアにも、出場機会が得られない時期、怪我との長い闘い、年齢とともに変化していく役割への適応など、そうした局面が幾度もありました。そのとき支えになったのは、長年つき合いのある人との縁だったといいます。
「エージェントの方とは今も連絡を取り合っていて、サッカーのことで相談もしています。あとは高校のユース時代の監督は、本当に頭が上がらない存在ですね」(稲本氏)
ただ、周囲に支えてもらいながらも、最後の判断は常に自分に委ねていました。
「最終的には全部自分で決めますね。自分がやって楽しいかどうかは重要。現役がこれだけ長くできたのは、サッカーが楽しかったから。それが一番の軸だったんだと思います」(稲本氏)
人に支えてもらいながら、最後は自分の軸で動く。この両立が、稲本氏の25年以上にわたるキャリアを支えてきました。また、その「自分の軸」を置かれた場所で生かしきるためには、個人の技術だけでなく、周囲を読む力も欠かせません。垣内はサッカーとコンサルティングに共通する視点をこう語ります。
「フィールドの上では芝の状態もあれば、その日のチームメンバーのメンタルもある。いつもならこのパスだけど、今日の状況ではこのパスという判断ができるかどうか。個人の技術だけではなくて、その日のみんなの心理を理解するEQを高めるということは、IQとハンド・イン・ハンドなんだと思います」(垣内)
稲本氏も同じ感覚を持ちます。
「サッカーは勝敗がはっきりしているので、勝つためにどうするかを考えれば一本の筋が通ります。誰かをフォローした方が勝てるなら当然フォローするし、自分が前に出た方が勝てるなら出る。そこはシンプルですね」(稲本氏)
個を生かしながらチームとして勝つ。その土台になるのが、互いを知り、支え合う文化です。PwCには、キャリア採用のシーンで繰り返し聞かれる言葉があります。「人で決めました」です。阿部はこれを、採用において最もうれしい言葉だと言います。
「給与条件やプロジェクトの内容ではなく、『一緒に働く人』を理由に選んでもらえること。それはPwCが人を大切にしてきた積み重ねが、外側にも伝わってきた証拠だと感じています」(阿部)
(左から)阿部 大祐、垣内 啓子、稲本 潤一氏
稲本氏は2024年に現役を引退。「やりきった感がすごくあったので、未練は全くなかったです。すっきり辞められました」と語る表情は、すがすがしいものでした。稲本氏が引退の基準として自らに課していたのは、「自分のパフォーマンスがチームの勝利に直結しているかどうか」という一点です。
「自分がいることで練習の雰囲気が上がるとか、若い選手のモチベーションになるとか、そういう間接的な貢献はあるかもしれません。でも試合に出て勝利に貢献できていないと感じた時、辞めようと。試合に出るための努力は常にやっていましたけど、それが難しくなったと判断した時に決断しました」(稲本氏)
引退後、稲本氏が向かったのは川崎フロンターレの育成現場でした。
「育成のトップを見てみたかったんです。その現場でどんな選手がいて、どんな育成をしているのかを知りたくて、フロンターレさんにお願いして入れてもらいました」(稲本氏)
現在はFROとして、スポンサー、サポーター、アカデミーなど、クラブ全体を俯瞰する役割を担っています。
「一つのチームだけを見るのではなく、大きなチームとしてのフロンターレを見ることは、自分のキャリアにとっても必要なことだと思ってFROをお引き受けした感じです」(稲本氏)
やりきったからこそ、次に向かう力が生まれます。プレーヤーとしてのキャリアをまっとうした稲本氏が今、育てる側として新たな挑戦を始めているように、キャリアの終わりは常に次の始まりでもあります。
(左から)垣内 啓子、稲本 潤一氏
育成に携わる立場になった今、稲本氏が理想とするリーダー像は、自身が選手として経験してきた「信頼できる監督像」から来ています。
「いろいろな監督を見てきた中で、平等にジャッジしてくれる監督が自分にとって最も信頼できる存在でした。好き嫌いに関係なく、ちゃんと見てくれていて、ぶれない人。試合に出られなくても、そういう監督の下なら納得できる。自分がもし指導者になるなら、そういう存在でありたいと思います」(稲本氏)
「見てくれている」という実感。これは、サッカーの現場でもコンサルティングの現場でも、信頼の根幹をなすものです。垣内は次世代への思いをこう語りました。
「一つは、キャリアの早い段階でのチャレンジを後押しすること。私が30歳でオーストラリアに行った経験が今の自分を作っているように、そういうチャレンジができるキャリアパスを次世代に残したい。もう一つは、女性でお母さんで、コンサルティングのパートナーとしてキャリアを形成している存在として、その残像があることで、若い世代が分岐点に立った時にいろんなパスをイメージできるようにしたいと思っています」(垣内)
サッカーとコンサルティングという一見異なる二つの世界で生きる三者の鼎談でしたが、「一つ一つが『コンサルティングの現場でもそうだな』と重なることばかりで。ご覧になっている方もきっとヒントをもらえたのではないかなと思います」と阿部は締めくくります。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 阿部 大祐
キャリアの分水嶺で何を選ぶかの決断は、誰にも代わってもらえません。しかし、その選択を支える文化と人がそこにあるかどうかは、結果を大きく変えます。環境を変えることへの葛藤を抱えているなら、「越えていく自分がイメージできる場所」を探してみるといいかもしれません。
3人の表情や間、笑い、ためらい――活字では伝わりきらない手触りを、5分の鼎談動画にまとめています。読んだ後に見ると、また違う角度で届くはずです。
そして、もし記事のどこかで「自分のキャリアと重なる」と感じた瞬間があったなら、次は実際にPwCコンサルティングの職員と話してみてください。互いを尊重し、コラボレーションするPwCのカルチャーを体感していただけると思います。皆さんとお話しできるのを楽しみにしています。
(左から)阿部 大祐、垣内 啓子、稲本 潤一氏
稲本潤一氏
川崎フロンターレ FRO(フロンターレ・リレーションズ・オーガナイザー)。1979年生まれ、大阪府出身。17歳の時にガンバ大阪でプロキャリアをスタートし、21歳でアーセナルへ移籍。その後フルハム、ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン、カーディフ・シティ、ガラタサライ、アイントラハト・フランクフルト、スタッド・レンヌと欧州のクラブチームを渡り歩いた。2002年日韓ワールドカップでは2ゴールを記録し、日本代表の躍進に貢献。帰国後は川崎フロンターレや北海道コンサドーレ札幌などでプレーし、2024年に現役を引退。現在は川崎フロンターレでFROを務める。
阿部大祐
PwCコンサルティング合同会社 パートナー。Business Management Transformationチームのリードパートナーとして、会計・人事・サステナビリティの変革ソリューションを統括。自身のキャリアとしては、クライアントの業界を問わず、主に、ERP(基幹業務)システムの導入から業務標準化やオペレーション変革のリードを担当。現在は並行して、PwCコンサルティング全体の中途採用チームのリーダー、および自動車部品メーカーのアカウントリーダー、PwC Japanグループ全体の経営監視委員会を務めている。
垣内啓子
PwCコンサルティング合同会社 パートナー。金融事業部のパートナーとして、保険会社のテクノロジー変革ソリューションを担当。日本とオーストラリアで20年以上金融機関向けのコンサルティングに従事し、新規事業戦略立案、保険契約管理・保険金支払管理システム、財務システム導入を伴うオペレーション改革など幅広い領域でトランスフォーメーションを手掛けている。
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