これからの病院経営を考える

第17回 第1章 遠隔医療の現状

  • 2024-03-04

アジェンダ

第1章

遠隔医療とは
どのような遠隔医療があるのか
遠隔医療におけるこれまでの国の取り組み
結語

第2章

規制緩和による自治体の動き
6事業の取り組み事例
医療提供体制と遠隔医療

遠隔医療とは

「遠隔医療」は、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、「オンライン診療指針」)において「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」と定義され、一般社団法人日本遠隔医療学会においては「通信技術を活用した健康増進、医療、介護に資する行為」と定義されています。「オンライン診療」については、「オンライン診療指針」において「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」と定義されています。

さらに、「オンライン診療指針」および一般社団法人日本医療学会の定義を踏まえると、遠隔医療の類型は1.医療従事者間の遠隔医療、2.医療従事者と患者間の遠隔医療、3.医療従事者と相談者間の遠隔医療の3つに大別できます(図表1)。

図表1 遠隔医療の類型*1

どのような遠隔医療があるのか

では、1.医療従事者間の遠隔医療、2.医療従事者と患者間の遠隔医療、3.医療従事者と相談者間の遠隔医療について細かく見ていきます。

1.医療従事者間の遠隔医療

医療従事者間の遠隔医療は、目的に合わせた医療従事者の組み合わせによって以下の(1)~(3)に整理されます。

(1)医師-医師間(D to D)

医師-医師間(D to D)は情報通信機器を用いて画像などの送受信を行い、特定領域の専門的な知識を持っている医師と連携して診療を行います。例として、へき地の診療所の医師が中核病院の専門の医師に診療上行う相談、外科医が大学病院の病理医に病理画像を送り依頼する病理診断など、医師間で診療支援を行う遠隔コンサルテーションなどが挙げられます。

(2)医師-看護師間(D to N)、医師-その他の医療従事者間(D toその他医療従事者)

医師が直接患者を診療していない状態で、情報通信機器を通じ、医師が看護師などの医療従事者を遠隔で指導します。例として、遠隔カンファレンス(遠隔教育やトレーニング)が挙げられます。

(3)看護師-看護師間(N to N)、看護師-その他の医療従事者間(N to その他医療従事者)、その他の医療従事者-その他の医療従事者間(その他医療従事者 to その他医療従事者)

情報通信機器を通じ、医師以外の医療従事者間で支援・指導を行います。例として、遠隔カンファレンス(遠隔教育やトレーニング)が挙げられます。

図表2 医師-医師間(D to D)など、医療従事者間の遠隔医療のイメージ図

2.医療従事者と患者間の遠隔医療

医師-患者間の遠隔医療は、患者側から診療に同席する者の有無や役割によって以下の(1)~(3)に整理できます。なお、診療を行う医師側の同席者に応じた分類はされないことが一般的ですが、看護師等やその他の医師が同席する場合も考えられます。

(1)医師-患者間(D to P)

医師-患者間(D to P)は、医師が情報通信機器を用いることで、オンライン診療において患者とれた場所から診療を行ったり、情報通信機能を備えた機器を用いて患者情報の遠隔モニタリングを行ったりします。また、オンライン受療勧奨では、診断や処方は行わず、患者個人の心身の状態に応じた必要な最低限の医学的判断を伴う受診勧奨を行います。

また、情報通信機器の使用に慣れていない患者は、医師-患者と医療従事者以外のオンライン診療支援者間(D to P with 医療従事者以外のオンライン診療支援者)の遠隔医療を実施することができます。医療従事者以外のオンライン診療支援者が患者のそばに同席し、情報通信機器の使用のサポートなどを行います。オンライン診療支援者は家族や介護福祉士などの介護従事者が考えられます。

(2)医師-患者と主治医等の医師間(D to P with D)

医師-患者と主治医等の医師間(D to P with D)は患者の同意の下、患者はオンライン診療時に主治医等の医師が側にいる状態で、医療資源が限られる地域においても専門の医師等による診察を受けることができます。また、主治医等にとっては、専門の医師等との情報共有がスムーズとなる利点があります。

(3)医師-患者と看護師等間(D to P with N)、医師-患者とその他医療従事者間(D to Pwithその他医療従事者)

医師-患者と看護師等間(D to P with N)は、患者の同意の下、患者はオンライン診療時に看護師等が側にいる状態で診療を受け、医師は診療の補助行為をその場で看護師等に指示することで、検査や投薬、点滴、処置などの診療の補助行為を看護師等を介して実施することができます。

また、医師-患者とその他医療従事者間(D to P withその他医療従事者)は、その他の医療従事者として薬剤師や理学療法士等が患者の側にいる状態で診療を受け、医師の処方箋に基づく薬剤師による調剤・服薬指導や、理学療法士による医師の指示に基づくリハビリテーションなどを実施することができます。

図表3 医師-患者間(D to P)など、医療従事者と患者間の遠隔医療のイメージ図

3.医療従事者と相談者間の遠隔医療

医師等の医療従事者-相談者間は、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行いますが、一般的な医学的情報の提供や受診勧奨にとどまり、診断などの相談者の個別的な状態に応じた医学的判断を含む行為は行いません。例として子ども医療電話相談事業(#8000事業)や労働安全衛生法に基づき産業医が行う業務(面接指導、保健指導、健康相談)などが挙げられます。

遠隔医療におけるこれまでの国の取り組み

ここでは、遠隔医療を推進する上での国の取り組みを2つの観点から解説します。

1.法律の規制緩和

日本における遠隔医療の導入は、法律の規制緩和から始まりました。なぜなら、医師法第20条*3は無診察での治療行為を禁じており、同条における「診察」の定義に遠隔医療を用いた場合が含まれるのかが明らかではなく、遠隔で行う診察・診断などの行為が違法とみなされる懸念があったためです。

それに対して、1997年に国は「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」において、遠隔での診察が違法ではないという見解を示しました。しかし、この通知では、初診および急性期の疾患に対しては直接の対面診療が原則であること、遠隔医療は離島・へき地など往診または来診が困難な場合に行われるべきものであること*4、と限局的な内容にとどまっていました。

そのため、国は2003年に同通知を一部改正。患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないものとして「在宅酸素療法を行なっている患者」「在宅難病患者」「在宅糖尿病患者」「在宅喘息患者」「在宅高血圧患者」「在宅アトピー性皮膚炎患者」「褥瘡のある在宅療養患者」の7疾患を例示しました*5。また、2011年にも同通知の一部を改正し、適応対象の疾患に「在宅脳血管障害療養患者」「在宅がん患者」の2疾病を加え、適用地域の制約もなくしました*6

その後2015年の事務連絡にて、1997年の通知で例示された疾患はあくまで例示であることを明確化し、適用対象症例として例示されていなかった多くの疾患についても遠隔医療を行って良いと整理されました*7。また遠隔医療は、直接の対面診療を行った上で行わなければならないものではないことも明確化されました*7。さらに、2017年の事務連絡においては、「遠隔診療だけで完結する禁煙外来」および、遠隔診療において「電子メール」や「SNS(ソーシャルネットワークサービス)」の利用が可能であることが明記されました*8。これらにより遠隔診療の普及に向けたルールやガイドラインが整備されることとなりました。

2.ルール・ガイドラインの整備

国はこれまでに「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を策定・公表するとともに、近年の新型コロナウイルス感染症への対応に伴い、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的特例的な取扱について」(2020年4月10日)を発出し、その安全かつ適切な活用を推進してきました。

また、一般診療においても、アクセスが制限されている地域や通院が困難な患者に対する診療に加えて、かかりつけ医機能強化の観点も含め、医療関係者間の円滑な意思疎通手段として、遠隔医療は幅広い活用が期待されています。第8次医療計画の検討過程においても、特にへき地医療提供体制の確保における遠隔医療支援の重要性が議論されるなど、地域医療提供体制構築において遠隔医療の重要性や活用方針の整理の必要性が高まっています。

こうした状況の中で、2021年6月の「規制改革実施計画」では「厚生労働省は、通所介護事業所や公民館等の身近な場所での受診を可能とする必要があるとの指摘があることや、患者の勤務する職場においてはオンライン診療の実施が可能とされていることも踏まえ、デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、オンライン診療を受診することが可能な場所や条件について、課題を整理・検討し、結論を得る。*9」こととされ、これらを踏まえ、2023年6月に「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」(以下「本方針」)が策定されました。

本指針は、オンライン診療その他の遠隔医療の適正かつ幅広い普及に資することを目的としており、オンライン診療における「適正」な推進とは、安全性、必要性、有効性、プライバシーの保護などの個別の医療の質を確保するという観点に加え、対面診療と一体的に地域の医療提供体制を確保する観点も含まれています*10。そのため、遠隔医療の推進による医療資源の少ない地域における医療の確保への貢献や効率的・効果的な医療提供体制の整備、医療従事者の働き方改革などへの寄与が期待されています。

さらに2024年1月には、「特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」を発出し、へき地等だけなく都市部においても特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設を認め、デジタルデバイスに明るくない高齢者などの医療の確保を推進しています。

結語

日本では1970年代から遠隔医療の取り組みが始まり、1990年代に本格化しましたが、比較的規制が厳しかったため、普及が進んでいませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行により対象疾患の拡大、初診における原則対面診療の撤廃、診療報酬の改定などの規制緩和が行われ、徐々に普及が進んでいます。

国は、遠隔医療を患者の利便性の向上や離島やへき地などにおける医療の地域差の是正など地域医療の充実の観点から重要と位置付けており、地域医療におけるさらなる活用に期待されます。

第2章では、遠隔医療の現状を踏まえ、地域医療構想推進に向けた遠隔医療の活用について紹介します。

第2章はこちら

参考文献

*1:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月(令和4年1月一部改訂))を元に一部追記)

*2:総務省令和3年度事業「遠隔医療モデル参考書‐医師対医師(DtoD)の遠隔医療版」

*3:医師法(昭和23年法律第21号)(抄)第二十条「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

*4:情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について(平成9年12月24日)(健政発第1075号)(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知)

*5:「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」の一部改正について(平成15年3月31日)(医政発第0331020号)(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知)

*6:「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」の一部改正について(平成23年3月31日)(医政発第0331第5号)(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知)

*7:情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について(平成27年8月10日)(事務連絡)(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)

*8:情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について(平成29年7月14日)(医政発0714第4号)(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)

*9:規制改革実施計画のフォローアップ結果について規制改革推進会議(令和5年6月1日)

*10:厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」(令和5年6月)

執筆者

植田 賢吾

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

森田 純奈

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

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