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PwC Japanグループは、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPwCのPurpose(存在意義)の実践を目的として、プロボノ活動を推進しています。なかでもPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が実施するプロボノプログラムでは、職員が業務で培った専門性や経験を生かし、社会課題の解決に取り組む団体への伴走支援を行っています。
今回紹介するのは、2025年1月から約1年半にわたり、国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ(以下、同団体)とともに取り組んだプロボノ活動です。テーマは「平和」と「ビジネス」。一見すると距離があるように見える二つの概念を結びつけ、企業活動を通じて平和を生み出す社会をどう実現するのか。対談では、同団体代表の佐々木氏とPwCプロボノチームが、立ち上げの苦労、対話を通じた学び、そしてこれからの展望を振り返りました。
同団体は、「平和とビジネスの関係性を明らかにする」ことをミッションに掲げ、研究成果を社会に提示するとともに、それを活用する企業や関係者がつながる場をつくることを目指しています。佐々木氏は、同団体を「シンクタンクであり、プラットフォームでもある存在」と位置づけています。
原点は2016年にあります。マーケティングの大家として知られるフィリップ・コトラー氏が広島を訪れ、「ピースマーケティング」について語った場に佐々木氏も参加していました。そこで語られた「平和は政府、国連、NGOだけのものではなく、企業も関わることができる」という問題提起に強く共感したことが、後の活動につながりました。
「誰かについていくのではなく、自分が先行者になりたい」。佐々木氏はそうした思いから、2019年に任意団体として活動を開始します。やがて、平和とビジネスをつなぐ新たなプロジェクトを立ち上げる段階で、アドバイザーの紹介をきっかけにPwCコンサルティングのプロボノ支援につながりました。
プロボノ活動が始まった当初、同団体が向き合っていたのは、いわば「ゼロイチ」の課題でした。平和とビジネスという大きなテーマに共感する有識者や企業関係者は集まりつつある一方で、その構想を社会に向けて説明し、議論を進め、具体的な活動へ落とし込むための設計図が必要でした。
PwCプロボノチームが捉えた難しさは、大きく二つありました。一つは、「積極的平和」という広い概念を、ビジネスセクターが取り組む対象としてどこまで、どのように整理するのかという論点です。もう一つは、多様なバックグラウンドと高い専門性を持つ委員が集まるからこそ、共通認識をつくることが容易ではないという点でした。
佐々木氏はこの状況を、「前例や土台がほとんどない、スタートアップをゼロから立ち上げるようなもの」と振り返ります。だからこそ、議論を文書化し、構造化し、関係者が同じ土台に立てるようにするPwCの支援が重要な役割を果たしました。
今回の伴走は、大きく三つのフェーズに整理できます。
フェーズ |
PwCの伴走により生まれた変化 |
生まれた価値 |
Phase 1|立ち上げ (2025年1月~6月) |
概念整理・設立趣意書づくり・認識合わせ ―構想を共通言語にし、社会に示せる形へ |
委員:共通認識とコミットメントの醸成 CEAPP:立ち上げ基盤と信頼性の獲得 社会:「平和×ビジネス」の発信・認知 |
| Phase 2|設計図づくり (2025年7月~12月) |
委員との個別MTG・意見の構造化 ―個々の思いを、CEAPP全体の方向性へ統合 |
委員:本音の表出と相互理解 CEAPP:機能・活動の設計図を具体化 社会:多様な専門性を生かす共創基盤 |
| Phase 3|実践への具体化 (2026年1月~6月) |
Peace Tech事例分析・評価軸の検討 ―抽象的な「平和」を評価・議論できる形へ |
委員:議論の共通土台を形成 CEAPP:Peace Tech Awardの評価観点を具体化 社会:平和への貢献を評価する「共通言語」の萌芽 |
支援開始当初のマイルストーンは、2025年5月30日・31日に開催された2025ひろしま国際平和&ビジネスフォーラムでした。同団体は、人的資本や知的資本のように平和を事業の資産と捉え、平和に関わる資本を可視化することを目的としたコンソーシアム型イニシアチブ「CEAPP(平和のためのビジネスカウンシル)」の立ち上げを目指していました。
PwCプロボノチームは、設立趣意書の作成や準備会合の設計、委員の認識合わせを支援しました。佐々木氏は、文書化そのものに加え、「PwCと一緒に作ったもの」と言えることが活動の信頼性を高め、委員や外部関係者のコミットメントを引き出す呼び水になったと話します。
フォーラムは成功をおさめた一方で、立ち上げ後には新たな課題も見えてきました。委員はそれぞれ異なる専門性、原体験、問題意識を持っています。全体会議では議論が広がる一方、一人一人の参画動機や、外には出しづらい本音までは十分に掘り下げきれない場面もありました。
そこでPwCプロボノチームは、全ての委員との1on1を実施しました。共通のフレームワークに沿って、平和に関心を持った原体験、CEAPPで取り組みたいテーマ、期待する役割を丁寧に聞き取り、比較可能な形で整理していきました。
その結果、CEAPPが担いうる機能は、「調査(リサーチ)」「実践(インプリメンテーション)」「コミュニティ」「提言(アドボカシー)」という四つの方向性に整理されました。佐々木氏は、1on1で得られた資料が「全体の設計図を描く上で非常に重要だった」と振り返ります。
「会議の場では遠慮して語れないことがあります。1on1で本音を聞き、同じフレームで整理してもらえたからこそ、全体像が見えるようになり、委員間の相互理解が進みました」(佐々木氏)
三期目に入ると、抽象的な概念を企業の事業活動にどう結びつけるかが焦点になりました。そこで私たちは特にPeace Techに着目し、企業や技術が平和にどう貢献しうるのかを評価するための視点を検討しました。
PwCプロボノチームは、過去のPeace Tech Awardの事例や評価観点を分析し、選定・評価のたたき台として、次の四つの軸を整理しました。
また、類似の概念とPeace Techの違いを構造図で示すことで、委員会での議論の起点をつくりました。佐々木氏は、「白紙の状態では議論しづらい。PwCが示してくれた構造化資料が、議論の土台になった」と評価します。
今回のプロボノ活動は、PwCメンバーにとっても大きな学びの機会となりました。平和とビジネスという抽象度の高いテーマに対して、どのように論点を立て、関係者の思いを引き出し、議論可能な形に整理していくのか。普段の業務で培ったスキルを生かしながらも、従来の方法論だけでは十分ではない場面も多くありました。
特に印象的だったのは、「足を止めなかった」ことです。ゴールが明確に見えない局面でも、まず仮説を置き、資料をつくり、佐々木氏や委員にぶつけ、フィードバックを受けて修正する。その試行錯誤を続けたことが、最終的に議論の前進につながりました。
また、委員との1on1や全体会議を通じて、多様な専門家が集まる場のファシリテーションの難しさも学びました。単に会議を進行するのではなく、時には問いを投げかけ、時には示唆を出し、場のエネルギーを失わせずに議論を深める。こうした経験は、コンサルタントとしての成長にもつながっています。
今回の活動では、「平和とは何か」という根源的な問いと、設立趣意書、委員会運営、評価基準づくりといった具体的なアウトプットを何度も往復しました。佐々木氏は、「抽象から具体に落とさないと理念的なものになり、具体だけでは汎用性がない。両方を行き来することが重要だ」と語ります。
PwCプロボノチームにとっても、答えが最初から定まっていないテーマに向き合うことは大きな挑戦でした。普段のコンサルティングワークで培った構造化やファシリテーションの力を生かしつつ、同時に、問いそのものを一緒に立てていく姿勢が求められました。
佐々木氏がプロボノ参画者に期待していた人物像の一つが、「ネガティブケイパビリティ」でした。すぐに答えを求めるのではなく、答えのない曖昧な状態に耐えながら、問いを持ち続ける力です。
平和というテーマは、定義を急げば誰かを排除することにもつながりかねません。一方で、定義を避け続ければ、企業が実践できる形にはなりません。その間に立ち、あえて曖昧さを抱えながら前に進むことが、今回の伴走で繰り返し問われました。
「定義がない中でも、人を巻き込み、行動変容を促していく。その力こそ、これからの時代に必要なのだと思います」(佐々木氏)
対談の中で何度も語られたのが、「人」の力でした。CEAPPに集まった委員は、多様でありながら、佐々木氏の問題意識やパッションに共感していました。PwCプロボノチームもまた、その熱量に引き寄せられた一員でした。
PwCのある参加メンバーは、平和というテーマの難しさに戸惑いながらも、「これからますます重要になる概念だ」と直感し、支援に手を挙げたと振り返ります。別のメンバーは、今回の活動について「普段のコンサルティングでは経験できないゼロイチの挑戦だった」と語りました。
支援する側、される側という関係を超え、同じ問いに向き合う仲間として関わったこと。その関係性こそが、1年半の活動を前に進める原動力になりました。
佐々木氏が目指すのは、平和に貢献するビジネスが正当に評価される社会です。そのためには、企業価値を財務指標だけで捉えるのではなく、人的資本や知的資本と同じように、「平和」という資本を企業活動の基盤として捉える必要があります。
企業の将来キャッシュフローは、財務諸表に表れないさまざまな資本によって支えられています。従業員、知見、信頼、社会との関係性、そして安定した社会環境。佐々木氏は、平和をこうした非財務価値の一つとして可視化できれば、平和に投資することが企業の将来価値につながると考えています。
現在の情報開示や企業評価では、外部環境が企業に与える影響を重視する「シングルマテリアリティ」の考え方が中心です。一方で、佐々木氏が重視するのは、企業が外部社会にどのような影響を与えるのかという「ダブルマテリアリティ」の視点です。企業が外部にある社会的基盤に積極的に投資することは、単なる社会貢献ではなく、自社の事業を支える足元を固めることでもあります。
「平和に積極的に投資した方が、将来キャッシュフローも増える。そう言えるようになれば、平和は経営にとっての重要課題になるはずです」(佐々木氏)
「事業や財務だけでなく非財務資本の価値が注目される中で、“平和”を企業活動の土台として考えるコンセプトに、これからの時代を担う新しさを感じました」(PwC)
「平和」と「ビジネス」をつなぐ取り組みは、まだ社会に十分な共通言語があるテーマではありません。だからこそ、問いを立て、対話を重ね、具体的な活動へ落とし込む際の伴走が必要です。
国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティとPwCコンサルティングの1年半は、答えのないテーマに向き合いながら、構想を言葉にし、関係者をつなぎ、次の実践に進むための土台を築く時間でした。平和に貢献するビジネスが正当に評価される社会へ向けて、その歩みはこれからも続いていきます。
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