あなたの会社は想像以上の自然関連リスクにさらされているかもしれません。それでは今、何ができるのでしょうか。

あなたの会社は想像以上の自然関連リスクにさらされているかもしれません。

それでは今、何ができるのでしょうか。

アジア太平洋地域のGDP総額の54%(18兆米ドル相当)は、高度または中程度に自然に依存して生み出されています

アジア太平洋地域の証券取引所に上場する企業の時価総額の半分超が、重大な自然関連リスクにさらされています

5つの業界では、直接的な事業活動の100%が自然からの生産物やサービスに高度に依存しています

自然や自然生態系に対する人類の依存度を軽視すべきではありません。2023年8月にハワイ州マウイ島ラハイナで発生した山火事では、焼失面積は8平方キロメートルを超え、農業も中心部の小売業も壊滅的な被害を受けました。加えてその後数週間で、山火事の余波はさらに大きいものであることも明らかになりました。観光客の数が75%も減ったことでラハイナにとどまらずマウイ島全体の産業が打撃を受け、島内の宿泊業やサービス業は1日最大1,300万米ドル、年間で40億米ドルを優に超える損失を被ったと見込まれています1

ビジネスと自然はまったくの別物と見るのはたやすいことです。そもそも農地や森林地帯、水域といった自然資産と直接的な関わりを持つ企業でなければ、ビジネスと自然との間に明白なつながりはないのが一般的です。しかし、日々のニュースの中で自然関連リスクや生物多様性についての報道の比重が増し続ける今、自然とビジネスのつながりを否定することはできません。

人々は、自然という概念は理解しています。自然保護が必要なことも認識しています。業界によっては自然と密接な関係があり、自然関連リスクがビジネスに直結するリスクになることも承知しています。しかし、資産運用会社や金融機関のように自然に直接影響を及ぼしていない企業の場合、どうすれば自然依存度を定量化し、自然関連リスクを測ることができるのでしょうか。また、こうしたリスクを最小限に抑えるという今後見込まれる要件を満たすために、今、何ができるのでしょうか。

世界の自然生態系に占めるアジア太平洋地域の割合

熱帯雨林:20%

出所:Kontinentalist |Exploring the lungs of Asia 2021年

サンゴ礁:50%

出所:地球規模サンゴ礁モニタリングネットワークおよび国際サンゴ礁イニシアティブ |「世界のサンゴ礁の現況報告書2020年

アジア太平洋地域における自然生態系の喪失

⇓ 野生生物の個体群:55%減少(1970~2018年の49年間)

出所:WWF |「生きている地球レポート2022:ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために」2022年

⇓ 生きているサンゴ礁:17%減少(2005~2019年の15年間)

出所:地球規模サンゴ礁モニタリングネットワークおよび国際サンゴ礁イニシアティブ |「世界のサンゴ礁の状況」2020年

​​アジア太平洋地域の企業にとって増大するリスク

アジア太平洋地域の産業の半分超は、高度または中程度に自然に依存しています。この割合は世界全体でも同様であり、PwCが2023年4月に「自然関連リスクの管理:正しく把握し、適切な行動につなげるために」で示したように、世界のGDP総額の55%が中程度または高度に自然に依存しています。

アジア太平洋地域の産業の半分超が高度または中程度に自然に依存

自然依存度の高い5業界

Bar chart with 5 bars.
出所:PwCによる調査
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The chart has 1 Y axis displaying values. Range: 0 to 105.
End of interactive chart.

自然依存度が高または中程度の11業界

Bar chart with 3 data series.
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The chart has 1 Y axis displaying values. Range: 0 to 110.
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自然依存度の低い4業界

Bar chart with 4 bars.
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自然依存度が高いにもかかわらず、ほとんどの企業は、森林地帯や水域、土地利用区域といった直接的に事業の影響が及ぶ自然資産や保護すべき自然資産を持たないため、自然関連リスクが自社の事業活動にどのようなつながりがあるのかを把握していません。

その結果、金融機関をはじめとする大半の企業は、自然関連リスクとその影響についての評価や報告を行うことには概して消極的です。こうした企業は、(漁業、建設業、農業などとは異なり)自然関連リスクに直接さらされていないことから、現状以上の評価作業は不要と考えているのです。

しかし、こうした企業は、自然関連リスクに直接はさらされていないかもしれませんが、自身の投資ポートフォリオやサプライチェーンなどに重大なリスクが伴う可能性は存在します。今こそ、自然関連の評価や情報開示に着手すべき時なのです。

企業の行動を促す今後の規制動向

今後、規制の強化が見込まれており、そのペースも速くなっている点には注意する必要があります。2022年12月にモントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」2の最終草案が公表・採択されました。これは、自然のために2030年までに世界が取るべき行動の指針となる画期的な合意といえます。この枠組みは今後、自然と生物多様性の双方に関する規制導入に向けた指針となる見込みです。

この枠組みで注目すべき取り組みの1つに「ターゲット15」があります。これは、大企業や多国籍企業、金融機関に対して、その事業活動、サプライチェーン、ポートフォリオにおける生物多様性関連リスクや生物多様性への依存・影響につき評価・報告・管理を義務づけるものです。

また、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2023年9月18日、気候変動問題についての年次国際会議「クライメート・ウィーク・ニューヨーク」において、自然関連情報開示枠組みの最終勧告を発表しました。これは、自然と生物多様性が事業に及ぼす影響を把握するための指針を企業に提供し、企業価値の維持・創出を目指すものです。TNFDはこれを、気候変動と並んで自然や生物多様性に関連する課題も企業の戦略計画や報告に組み込むことで実現しようとしています。

さらに、SBTネットワークによる科学に基づく土地に関する目標設定3も2024年後半に控えています。SBTネットワークは80を超える非営利環境団体の世界的な連合体で、その力を結集し、自然に関する科学に基づく目標を初めて企業向けに創設しました。その公表・実施に先立ち、金融機関に対して自然関連の報告能力向上を期待する声が急速に高まっています。

つまり、今こそ、自然関連の影響についての評価と情報開示の取り組みに着手すべき時なのです。

既存の枠組みを活用して効果と効率を最大化

優秀な経営者の多くが一歩を踏み出せない背景にあるのは、自社が自然資産に直接関わっていない中でこうした活動にどう着手すべきなのか、という疑問です。その答えは、簡単に言えば、すでに存在する枠組みを使って始めるということになります。

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の気候関連リスク報告枠組みはすでに産業界でもよく知られていますが、TNFDはこの枠組みと整合するリスクと機会の評価方法を、一般企業や金融機関向けに提示しています。Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の各ステップで構成され、その頭文字を取ってLEAPと呼ばれるこの手法4は、自然関連の情報開示に向けた取り組みの起点となるもので、とりわけ、自然資産と直接的な関わりを持たない企業に適しています。

LEAPは、先を見越した取り組みへと企業を誘導し、今後見込まれる規制の先を行けるようにするだけでなく、競争優位性をもたらすものともなります。近年のシンガポール国立大学からの報告書5によれば、自然関連リスクの評価・報告の実施はアジア太平洋地域の企業の間ではまだ一般的ではありません。自然関連のリスクと機会が自社事業にもたらす影響について報告している企業は14%にとどまり、特定したリスクの管理に向けた具体的な対策を開示している企業の割合はそれよりさらに低くなります。

アジア太平洋地域の有力企業による自然関連の報告状況

出所:シンガポール国立大学「Nature-related Reporting in Asia-Pacific Corporations: State of Readiness」6

同様に、最近のCDPからの報告書7によれば、85%を超える金融機関が気候に関する報告を行っている一方、自然に関して具体的な報告を行っている金融機関の割合は20%にとどまっています。

しかし私たちは、この65%の差の部分にこそ光明と絶好の機会があると考えています。

金融機関の85%は気候関連リスクと機会に対するポートフォリオエクスポージャーを評価

森林または水関連リスクとエクスポージャーを評価している金融機関はわずか25%

出所:CDP「金融サービスセクターレポート2022」2022年

刻々と迫る期限

企業は、気候関連の情報開示や戦略に関する現行の取り組みを土台とし、そこに自然関連の情報や影響・対策を組み込めば、大幅なコスト増や二度手間、重複作業もなく効率的に実行できるはずです。

既存の気候関連情報開示の枠組みを活用すれば、以下のような点で効果が期待できます。

  • 時間、労力、費用を最小限に抑制
  • 競合他社との差別化
  • 今後見込まれる規制に適合する(または上回る)強力な基盤づくり

したがって、先見性のある企業は既存の気候関連の取り組みを拡張すれば、自然関連報告において他社に先駆けることができるのです。これは、自然と生物多様性への影響に対するより深い配慮という期待に応えるだけでなく、今後見込まれる規制を前倒しで達成することにもつながります。

誰もが生態系の一部

日々の事業活動が自然や生物多様性とは関わりのない企業の場合、ビジネスと自然との相互関係やそこに潜むリスクを把握するのは難しいかもしれません。しかし、だからこそ対話を続けなければならないのであって、自然資産と直接的な関係のない企業でも生態系の一部であると自覚できるような枠組みを構築・運用しなければならないのです。

これらが組み合わされば、環境保護の観点からさらに的確な意思決定を行えるようになるだけでなく、自然や生物多様性関連のリスクに対する理解を深め、そうしたリスクを軽減することも可能になります。しかし、先延ばしは許されません。今こそ行動すべき時なのです。

参考文献

1 ハワイ大学経済研究所「After the Maui wildfires: The road ahead」2023年
2 オーストラリア気候変動・エネルギー・環境・水資源省「A New Global Biodiversity Framework: Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework」2023年
3 SBTネットワーク「Land: Harness the opportunities of a future where land is used sustainably and in balance with nature」2023年
4 自然関連財務情報開示タスクフォース「Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: the LEAP approach」2023年、4ページ
5 シンガポール国立大学ビジネススクール・ガバナンス&サステナビリティセンター「Nature-related Reporting in Asia-Pacific Corporations: State of Readiness」2022年
シンガポール国立大学ビジネススクール・ガバナンス&サステナビリティセンター「Nature-related Reporting in Asia-Pacific Corporations: State of Readiness」2022年
CDP「Financial Institutions Failing to Integrate Nature and Climate: New Report Warns Inaction on Nature Impedes Net-Zero Ambitions」2023年
CDP「Nature in Green Finance: Bridging the gap in environmental reporting」

※本コンテンツは、Your company may be more exposed to nature risk than you think.を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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政田 敏宏

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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甲賀 大吾

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

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齊藤 三希子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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