LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年2月1日~2月28日)

今号ではFCAとイングランド銀行が共同で発出した今後のLIBOR移行対応に関する声明と、ARRCの2022年の活動目標、また米ドルLIBOR関連の動向について取り上げます。

1.米ドル以外のレガシーLIBORエクスポージャーの移行について

英国金融行為規制機構(FCA)とイングランド銀行(BOE)は、LIBOR移行対応における残りのステップについて共同声明を発表しました。両規制当局は、これまでの進捗を評価した上で、市場参加者に対し、引き続きレガシー契約の積極的な修正活動に注力することを呼びかけました。

この共同声明の中で、FCAは、2022年末以降の1カ月および6カ月テナーのシンセティック英ポンドLIBORの公表停止について、2022年中に協議することを示唆しました。一方、3カ月テナーの公表停止時期はまだ提案されていません。

また、残存するレガシーエクスポージャーへの対処を優先する方向にシフトすることを強調し、2022年3月1日付けで英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループの議長に、企業財務家協会(ACT:the Association of Corporate Treasurers)の副ディレクターであるSarah Boyce氏が就任すると発表しました。

PwCの見解

規制当局は、これまで一貫して、シンセティックLIBORは一時的な解決策と考えるべきであり、将来的には公表停止もしくは使用が制限される可能性があると警告してきました。FCAは、シンセティック英ポンドLIBORの使用を制限するのではなく、使用頻度の低いテナーの公表を停止することを提案しています。この提案は一見、厳しい措置のようにも見えますが、全くの想定外ということでもありません。シンセティックLIBORの使用を特定の契約や資産クラスに限定する方法は、以前から疑問視されていました。絆創膏は、端から徐々に剥がされるのではなく、ひと思いに剥がされることになりそうです。

シンセティック英ポンドLIBORが公表停止される可能性が出てきたことで、市場参加者は、残存するレガシーエクスポージャーの修正を積極化するようさらに動機付けられるでしょう。この1年、LIBORベースのビジネスローン、特にシンジケートローンの移行ペースは、多くの人々が期待していたよりも遅くなっています。移行の大部分を金融セクターが進めていたこともあり、多くの貸し手が、借り手企業を契約修正の議論に巻き込むのは困難であると指摘していました。今回、ACTの副ディレクターがワーキンググループの議長に就任したことで、借り手企業とのコミュニケーションやアウトリーチ活動を拡大するための的確な取り組みが行われる見込みが高まったと言えるでしょう。

最も広く利用されている3カ月テナーのシンセティック英ポンドLIBORの公表は、少なくとも現時点では安泰と思われます。LIBORベースのレガシー契約を修正する取り組みがどのような形で行われるにしても、修正もしくはその他の方法での移行が不可能な契約があることは明らかです。その一例が、広く保有されている債券でしょう。シンセティック英ポンドLIBORの公表停止を延長することで、より多くのエクスポージャーが満期を迎えることができます。しかし、公表停止時の法定代替レートを規定する立法的解決策がない場合、市場参加者は、未修正の残存契約に対処するための戦略を立てなければなりません。

2.米ドル:吐故納新(とこのうしん:古いものを捨て、新しいものを取り入れる)

米国代替参照金利委員会(ARRC)は、2022年の活動目標を発表し、その中で「(1)新しい活動における担保付翌日物調達金利(SOFR)の継続的な利用拡大の促進、(2)レガシー契約の移行支援」を2大優先課題としました。

ARRCは、市場におけるSOFR採用を支援する取り組みの一環として、SOFRの採用により市場全体で生じる問題の特定と対処、ユーロドル先物からSOFRへの移行促進、中小企業の移行努力をさらに支援するためのアウトリーチに取り組んでいくとしています。また、12カ月テナーのターム物SOFRの正式な承認と推奨については、2022年6月30日以前に決定することを検討していると示唆しました。

バックブック(レガシー契約)については、タフレガシー契約に対処するための立法的解決策の追求が引き続き優先されます。さらに、ARRCは、LIBORポジションの圧縮(compression)またはSOFRへの転換(conversion)を促進する仕組みを検討し、LIBORスワップレートを参照する契約を取り巻く問題への注意を促すとともに、2023年6月の米ドルLIBORの公表停止に先立ち、市場参加者が運用とインフラを導入できるよう支援を継続するとしています。

米ドルLIBORに関するその他のニュースは以下の通りです。

  • AXI:SOFRアカデミーが、AXI(Across-the-Curve Credit Spread Index)のプロバイダーとしてInvescoと契約したことを発表
  • CRITR:IHS Markitが、Credit Inclusive Term Rate(CRITR)とCredit Inclusive Term Spread(CRITS)を正式に立ち上げたことを発表。それぞれ翌日物、1カ月、3カ月、6カ月、12カ月のテナーが公表され、非リテール商品にのみ使用可能
  • IBAターム物SOFR:ICE Benchmark Administration(IBA)が、SOFRベースの金利デリバティブの価格から構築したICEターム物SOFR基準金利(ICE Term SOFR Reference Rates)のベータ版の公表開始を発表

PwCの見解

これまで、特にローン市場において、SOFRの導入ペースの遅さを懸念する声が上がっていました。2021年末以降、「新規のLIBOR参照商品を発行しない」という規制当局の期待に業界が応えるとは、予見されてはいませんでした。しかし実際には、このメッセージは市場全体で確かに受け止められたと見られ、年末から2022年にかけて急速にSOFRの採用が進みました。市場参加者とのやりとりやさまざまな業界団体のコメントによれば、2022年にローン商品で米ドルLIBORが新たに使用されるケースは非常に限られています。多くの場合で、ターム物SOFRが新たな変動参照レートとして選択されるようになりました。これと並行し、線形デリバティブでは、米ドルの単一通貨スワップと米ドルLIBORレッグを含むクロス・カレンシー・スワップの両方で、流動性がSOFRに切り替わっていることが確認されています。

業界では、SOFRベースローンの実行に必要な運用能力の確立が大きく進展しています。業界のローンコンベンションに関する選好はより明確になってきています。新規ローンの組成がLIBORから移行したことで、バックブックの移行準備に焦点が移りつつあります。

現在、適切なフォールバック条項を持たない米ドルLIBORベースのレガシー契約の移行を促進する連邦法案が、米国上院での通過に向かっています。多くの市場参加者が、最後の砦としてだけでなく、レガシー契約を修正するために顧客や取引先との話し合いを促進するきっかけとして、この法案を活用することになると見込まれます。法案が可決されれば、米国連邦準備制度理事会(FRB)は180日以内に規則を実施することを義務付けられます。これによりLIBOR公表停止時に影響を受ける契約の経済的影響が明確となり、その他の契約にかかる交渉を始める出発点となるでしょう。

また、米国の潜在的な立法的解決策や他のフォールバックメカニズムでサポートされない可能性のある契約についても、対応を検討する必要があります。米国法以外の法律に基づく契約、間接金利(indirect rates)(例:コンスタント・マチュリティ・スワップ)と、その他の複雑なデリバティブ(あるいは、異なるSOFRコンベンションへのフォールバックに紐づく取引など)は、個別対応が必要になる可能性が高いと言えます。

※本コンテンツは、PwCが2022年3月に発刊した「LIBOR Transition Market update: February 1-28, 2022」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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