LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年12月1日~12月31日)

今号では2021年12月31日の一部テナーを除くLIBOR公表停止に向けた各国・地域の監督当局、業界団体の動きについて解説します。

1.Happy New Year : 終わりの始まり

年明け間もなく、ICE Benchmark Administration(IBA)は最新のLIBORベンチマークステートメントを公表しました。以前より発表されていた通り、2021年12月31日をもってLIBORにかかるパネル銀行の金利の呈示は終了しましたが、翌日物、1カ月、3カ月、6カ月、12カ月の米ドルLIBORについては、2023年6月末まで代表性を維持した形で公表が継続されることになりました(パネル銀行方式を維持)。英国金融行為規制機構(FCA)は、LIBORに関する変更について別途声明を発表しています

パネル銀行による金利の呈示が終了したことにより、多くのLIBORテナーの公表が恒久的に停止となった一方で、FCAは英ポンドおよび日本円LIBORの1カ月、3カ月、6カ月のテナーについて、シンセティックLIBORの形での公表継続を強制する決定を正式に行いました。これを受けてIBAのベンチマークステートメントには、メソドロジーの変更が反映されています。

今後、英ポンドと日本円のシンセティックLIBORは、パネル銀行の呈示ではなく、スプレッド調整されたフォワードルッキングなターム物リスク・フリー・レート(RFR)を用いた算出方法により計算されます。シンセティック日本円LIBORの公表は2022年中で終了しますが、シンセティック英ポンドLIBORの公表継続については毎年見直すことになっており、2023年以降も継続する可能性を残しています。

しかし、これらのシンセティックLIBORは、残存している米ドルLIBORテナーと同様に、レガシー契約にのみ使用可能となる予定です。英ポンドと日本円シンセティックLIBORは、英国とEUのベンチマーク規制(BMR)により、新規商品への利用が禁止されています。同様に、米国の規制当局やFCA、またほぼ全ての世界の主要金融市場の監督当局が、既存の米ドルLIBORベース契約のリスク管理にかかる限定的な例外を除いて、2022年1月から新規商品における米ドルLIBORの使用を終了する監督指針を発表しています。

PwCの見解

金融の歴史に残る重要なイベントが、静かに過ぎようとしています。1929年の株価暴落のような特異性もなければ、そもそも世界的な金利指標改革のきっかけとなったスキャンダルのようなドラマもなかったかもしれませんが、2021年12月31日は、世界の金融の未来を形作った最も重要な瞬間として、金融史にしっかりとその名を刻むことになるでしょう。

業界内ではこれまでのところ、2021年秋の準備作業が功を奏して、比較的スムーズに移行できたとの声が聞こえてきています。しかし同時に、このような静寂は、誤った安心感を与えてしまうおそれがあります。

まず新年早々リセットされるポジションはそう多くはありません。企業各社の運用チームは、今後数週間から数カ月の間に発生するフォールバック事象から生じ得る大量の金利変更手続きに対処するリソースを手元に確保しておくことが推奨されます。商品によりRFRやフォールバックの仕組みはさまざまですが、実際の利息額と予想される利息額との照合を通じて、運用システムの微調整が必要な部分が浮き彫りになるでしょう。

2021年12月31日は重要な節目となりましたが、大変なのはこれからだと考えている市場参加者もいるでしょう。米ドルLIBORのエクスポージャーは、すでに公表停止された従来のLIBOR(4通貨)を合わせたエクスポージャーの総計を上回っています。また、監督上の要請により、米ドルLIBORを参照する新規商品の発行はほぼ停止していますが、既存のLIBOR参照契約の修正はまだ本格化していません。

2021年第4四半期には、公表停止が迫っていた通貨に関連する契約の移行作業が活発化しました。準備が遅れていた市場参加者は、移行プロジェクトの規模を拡大することで巻き返しを図り、追加的なリソースを投入することで進捗の遅れを取り戻すことができました。しかしながら、米ドルLIBORの場合、このように公表停止直前に本格稼働するというアプローチが成功する可能性は低いと思われます。

企業はRFRで取引を行うための準備を終え、代替金利指標に基づく新規商品を市場に投入し、移行から学んだ教訓を他の通貨に適用できるようになっているかもしれません。しかし、世界中のあらゆる知見をもってしても、米ドルLIBORの残りの契約量が膨大であるという事実は変わりません。

2.LIBOR移行にかかるSECのスタッフステートメント

米国証券取引委員会(SEC)は、ブローカーディーラー、ファンド、投資顧問会社に対し、LIBOR連動証券を顧客に推奨する際の義務を改めて確認するスタッフステートメントを発表しました。米ドルLIBORは2021年末以降、新規商品には原則として使用できなくなりますが、米ドルLIBORを参照する既存の証券は、LIBORが公表停止されるまで流通市場において取引が継続されることになります。SECはまた、公開企業や資産担保証券(ABS)の発行者が、その開示義務の一環としてこれらのリスクを考慮する必要性を訴えています。

また、投資顧問会社とブローカーディーラーは、それぞれの受託者義務と最善の利益規則(Regulation Best Interest)を考慮するよう求められています。SECは、特にLIBORの恒久的公表停止に対応する適切なフォールバック条項を持たないに契約に関するリスクを強調しており、その中で、代替金利指標へのフォールバックに伴って価値評価上の変化や経済的差異が顕現化し得ることも指摘しています。ステートメントでは、米ドルLIBORが最終的に公表停止となるまでの間に市場の流動性や取引量が変化する可能性も指摘した上で、LIBORを参照する商品をさまざまな市場参加者に投資対象として推奨する際の留意点について言及しています。

SECは、ステートメントの最後で、公開企業・ABS発行者の開示に関する考慮事項について、広範な議論を展開しています。市場参加者には、組織に残存するLIBORエクスポージャーに関する定性・定量的情報を含む「詳細かつ具体的な開示(detailed and specific disclosure)」の提供が推奨されています。

PwCの見解

SECのステートメントは、2019年のステートメントの内容を拡大したものです。LIBORからの移行は大部分が銀行監督当局のリードによって進められてきましたが、監督範囲の広いSECは、市場がLIBORから離れていく中で、より広範な関係者に警告を発することができます。ステートメントには50以上の脚注が含まれており、既存の規制やガイダンスを多数紹介していますが、その内容は明確です。つまり、既存のLIBOR参照契約が2023年6月まで米ドルLIBORを参照し続けることができるからといって、今後18カ月はこれまで通りにいくわけではないということです。大手資産運用会社の多くはLIBOR移行に積極的に関与してきましたが、それ以外の会社はそこまで精力的にこの動きに追随してこなかったかもしれません。このステートメントは、全ての資産運用アドバイザーにはLIBOR移行の仕組み、特にさまざまなフォールバックや金利計算コンベンションなどの相違による価値評価への影響に関連するものについて理解する責任があることを強調しています。

開示要件についての明確な言及は、SEC登録企業のCFOに対し、移行の内実を理解することが銀行界だけの責任ではないことを注意喚起するものです。多くの企業は長い間、「様子見」の姿勢をとってきました。また、銀行にLIBOR移行にかかる対応と促進を期待している企業もあるでしょう。しかし、このようなアプローチは、特にSECのステートメントに照らした場合、十分とは言えない可能性があります。今後数カ月、契約修正の動きが活発化する中、CFOをはじめとする企業のプロフェッショナルは、受け身で傍観するのではなく、情報に基づいてプロセスに積極的に参加する必要があります。

3.CDOR(Canadian Dollar Offered Rate)の動向

カナダ代替参照金利(CARR)ワーキンググループは、カナダ銀行間取引金利(CDOR : Canadian Dollar Offered Rate)の公表停止時期として2024年6月(末)を推奨することを発表しました。CARRの推奨は正式な公表停止通知には該当しませんが、2023年6月までにデリバティブや証券におけるCDORの新規使用を終了し、2024年6月末までに残りのレガシーエクスポージャーを移行するという2段階によるフェーズアウトを想定したものです。CARRはこれまで、CDORの代替金利指標として、翌日物RFRであるカナダ翌日物レポ平均金利(CORRA : Canadian Overnight Repo Rate Average)を推奨していました。 

カナダ市場は当初、CDORと代替参照金利が並存する複数金利環境へと進化するという見方が大勢を占めていました。しかしLIBORと同様に基礎となる資金市場(原市場)の取引量が減少し、パネル銀行に呈示継続の意思があるかどうかが疑問視され、指標の継続可能性が疑われるようになりました。CDORの原市場であるバンカーズアクセプタンス(BA)の1日の取引量は、BA融資モデルからの世界的な移行を背景に、4年間で25%以上減少しています。パネル銀行数も、2012年以降、9行から6行に減少しています。

CDORの運営管理者であるRefinitiv社はCARRの推奨に応じ、今後独自の分析を行い、市場参加者と対応を協議することを示唆しています。国際スワップデリバティブ協会(ISDA)も声明を発表し、推奨そのものが正式な公表停止通告に当たらないことを表明しています。

PwCの見解

結局のところ、CDORはLIBORと類似していることからLIBORと同様の経緯を辿る可能性が高いと言えます。透明性の高い取引を基礎とする金利指標が好まれる中、専門家の判断(エキスパートジャッジメント)への依存度が高まることで、CDORの参照金利指標としての適性を擁護することがますます難しくなっています。

市場参加者はCARRの推奨を受け止め、LIBORや他の金利指標からの移行において得た教訓を考慮するのが望ましいと言えるでしょう。中でもおそらく最も有用な教訓は、既存契約の分析と最終的な契約修正が、特にローン商品において、当初の想定よりもはるかに複雑で時間を要することが明らかになったことです。CDORエクスポージャーの大部分はデリバティブに集中していますが、これらの契約の移行は、ISDAがすでに対応している施策を活用できると思われます。CDORフォールバックは、ISDA IBORフォールバックプロトコルの一部として導入されています。関連する規定はすでにCDORの6カ月と12カ月のテナーに適用されており、2021年5月に廃止されています。

キャッシュ商品におけるCDORエクスポージャーは、比較的小さくなっています。金融機関がLIBOR移行に向け準備を始めた際、多くの金融機関は、大半の契約には同様の標準的な条項が含まれ、詳細な分析が必要な契約はごく一部にとどまると予想していましたが、結果は正反対でした。大半の契約には、高度にカスタマイズされた特注条項(bespoke provisions)や複雑な契約構造など、解釈や修正が困難で時間のかかる特性がありました。

また、CDORの公表停止により、BA市場の行方を懸念する声も上がっています。代替金利指標の明確な勝者が見えない中、CARRは2022年第1四半期に代替金利指標について協議する予定としています。

4.SOFRファースト第4弾 : ユーロドル

米国商品先物取引委員会(CFTC)の市場リスク諮問委員会(MRAC)金利指標改革小委員会は、新たに約定した上場デリバティブの担保付翌日物調達金利(SOFR)移行に関するガイド公表しました。この移行は、MRACのSOFRファーストイニシアチブの第4段階かつ最終フェーズにあたり、委員会は、特定の目標期日を設定するのではなく、市場参加者が2021年末より後の新規契約において米ドルLIBORの使用をSOFRに置き換えることを推奨しています。

ガイドでは、満期の長いユーロドル契約はSOFRベースのフォールバック文言を含むため、実質的には満期の短いLIBOR契約と先スタートのSOFR先物契約の組み合わせであるという注意喚起がされています。前述のSECスタッフステートメントなど、他業界や規制当局のガイダンスと同様に、小委員会は2021年末以降にLIBOR契約の流動性が低下する可能性を指摘しています。

市場参加者は、LIBORの公表停止に先立ち、利用可能なツールや商品を活用し、LIBORからSOFRへのリスクシフトを積極的に行うことが望まれます。

PwCの見解

このSOFRファーストの最終フェーズでは、対象商品が拡大しただけでなく、米ドルLIBORへの依存の停止を求められた市場参加者の数が大幅に増加しました。対象者は銀行だけでなく、あらゆる種類の市場参加者に広がっています。

市場参加者は、LIBOR移行が遅れた場合の経済的な影響を考慮する必要があります。このアピールが、明示的な監督指針ではなく、推奨されるベストプラクティスという形をとっているからといって、その重要性が低いというわけではありません。むしろ、規制対象となる機関、規制対象ではない機関の両方を含めた、より広範な対象者に対応するための役割を持っているように思われます。

5.タフ・レガシー・エクスポージャーに対する連邦法上の行政的救済策

米国下院議会は、415対9の投票結果により、2021年LIBOR法(LIBOR Act of 2021)を可決しました。この法案は、2021年初めにニューヨーク州で可決された法案をモデルとしており、LIBORの恒久的公表停止に対応する十分な条項が含まれていない契約において、LIBORを法的に置き換えることを規定するものです。すでに公表されている2023年6月30日の米ドル LIBORの公表停止に伴い、1カ月、3カ月、6カ月、12カ月のテナーの米ドルLIBORは、その代替金利指標として推奨されているスプレッド調整後SOFR平均(spread-adjusted SOFR averages)に置き換えられることになります。またこの法案では、発行者または計算代理人に代替金利指標を選択する裁量が与えられている契約について、SOFRベースの金利指標を選択できるというセーフハーバーを提供します。承認された法案は、今後上院議会での審議に入りますが、税制への影響に関する文言を削除し、特定の学生ローンに関する特別手当支給(special allowance payments)に関する規定を追加するなどの修正が加えられています。SIFMA(米証券業金融市場協会)ストラクチャード・ファイナンス協会米国代替参照金利委員会(ARRC)など複数の業界団体が下院通過を歓迎する意を即座に表明しています。

PwCの見解

法案が下院議会を通過したことは、いわゆる「タフレガシー」契約、すなわち、LIBORの恒久的公表停止に対処するための適切なフォールバック条項を持たず、時間的に修正が不可能な契約に対する公平な解決策の提供において、大きな前進を意味するものです。

この法案が上院議会を通過し、大幅な修正なく制定されるとすれば、市場参加者は訴訟リスクが顕現化するおそれが軽減されることに安堵するだけでなく、2023年6月時点でまだ手元に残っている可能性のあるLIBORベースの契約の経済効果を確かなものにできるという利点があります。この法律は、米ドルLIBORが実際に公表停止となるまで発効しませんが、それ以前に導入することには明らかな利点があります。経済効果が分かっていれば、それを明確な指針として、公表停止日に先立って既存のLIBOR契約を移行するための相対交渉に臨めるでしょう。こうした交渉は2022年中に頻度が増すことが広く予想されます。

またこの法案は、米ドルLIBORを多用する米国外の国・地域にとっても指針となり得ます。米国法の適用を受けない米ドルLIBORベースのタフレガシー契約(世界の基軸通貨としての米ドルの役割を考えると、その数は相対的に多い)への対応方法は、以前から市場参加者の間で懸念事項となっていました。今後、他の法域の立法機関が、市場参加者の強い要請を受けて、米ドルLIBORベースの既存契約の修正を容易にする同様の法的救済策を検討するかどうかは分かりません。金融機関は、この法案で明示的に扱われていない関連商品、例えば、コンスタント・マチュリティ・スワップ(CMS)契約なども検討していく必要があります。

金利指標の変更にかかる税制上の潜在的インパクトに関するセーフハーバー条項が除外されたことで、下院歳入委員会での追加審議の必要性が減り、迅速な法案通過が可能になったと考えられます。法案提出者のBrad Sherman議員(民主党、カリフォルニア州)は、現行の規制の下では税制上のセーフハーバーは不要と示唆していますが、この場合、納税者は自らの契約を評価し、金利指標の法定交換が課税交換とならないことを自己判断する必要があります。

この法案は、新規取引には適用されないと明確に規定しています。しかし、LIBORの恒久的公表停止を想定していない既存契約において、SOFRを米ドルLIBORの代替金利指標として指定することにより、事実上SOFRへのエクスポージャーを持つレガシー商品群を増加させ続けることになります。ARRCが推奨するハードワイヤードなフォールバック条項やISDAのデリバティブ用IBORフォールバック、消費者金融保護局(CFPB)が発表したZ規制の変更などを含む取引、またフォールバックとしてSOFRを指定する中央清算機関(CCP)の取引などで、長期の米ドルLIBORベースの契約の大半が、先スタート(forward-starting)のSOFRエクスポージャーを構成することになります。これらのポジションのリスク管理を踏まえると、デリバティブ市場の流動性も影響を受けると考えられます。

6.規制、行政その他のアップデート

最も広く利用されている米ドルLIBORを除き、全通貨のLIBORテナーの恒久的公表停止(または代表性喪失)に向けた最後の1カ月間、移行を促進する取り組みが本格化しました。立法機関、規制当局、業界団体から提供された救済措置やガイダンスの一部を以下にまとめます。

ARRCはLIBOR移行に関する2021年末時点の進捗報告書発表し、SOFRの採用が加速しているとしています。この報告書では、最も進展が顕著なデリバティブ市場だけでなく、資本市場や企業向けビジネスローンにおけるSOFR利用にも言及されています。SOFRに基づくローンは、ターム物SOFRの公表もあって最近増加していますが、ARRCは、SOFR参照ローンや証券化のコンベンションをさらに発展させることが、SOFRの採用をさらに加速させる重要なカギになると考えています。

英国では、シンセティックLIBORの使用にセーフハーバーを提供することを目的とした重要ベンチマーク(参照および管理者責任)法案法制化されました。この法律は、LIBORを参照する契約は(パネル銀行方式のLIBORが代表性を喪失した後に)シンセティックLIBORを参照する契約として扱われることを規定し、シンセティックLIBORを参照する金融商品に法的確実性を提供する(契約の継続性を保証する)ことを目的としています。また、同法はベンチマークの管理者(IBA)に対し、FCAの要請に従い実施した措置への免責を認めています。

CFTCは、2023年6月まで米ドルLIBOR(の一部テナー)の公表が継続されることを受けて、金利指標改革の影響を緩和するノー・アクション・レターの改訂版を発出しました。2020年8月に初めて発出されたこのレターには、市場参加者の部市場監視の部清算・リスクの部から構成されるガイダンスが含まれています。今回は主に延長という形で改訂されたもので、2023年6月までの米ドルLIBOR(の一部テナー)の公表継続を反映しています。CFTCはまた、先物取引業者によるセパレートアカウントの取り扱いに関して、以前に認めたノー・アクション・リリーフを延長しました。さらに、ISDA IBORフォールバックプロトコルの結果生じる可能性のあるスワップ報告要件に関するノー・アクション・リリーフも提供しています。

CFPBは、LIBORからの移行を促進するために、Z規制を改正する最終規則発表しました。2022年4月1日に施行されるこの改正には、クローズドエンド型およびオープンエンド型のクレジット商品における、LIBORと同等の代替金利指標の特定や通知などの要件に関する規定が含まれています。本規定では、適切な代替金利指標としてスプレッド調整後のSOFR平均や、場合によってはプライムレートを挙げていますが、「他の代替金利指標も適合する可能性がある」としています。補足資料として、FAQ、最終規則の変更箇所を示した非公式なレッドライン版などがLIBOR移行の新しいトップページに掲載されています。

米国内国歳入庁(IRS)および財務省は、LIBORからの移行に伴う税制対応に関する最終規制を発表しました。最終規制は、2019年に発表された規制案と基本的に類似していますが、業界のコメントに対応したいくつかの注目すべき変更が含まれています。一般に、LIBORを「適格レート(qualified rate)」に置き換えること(その置き換えを実現するために必要な多くの関連する「対象修正(covered modifications)」を含む)は、課税対象となる交換とはみなされません。本規則には、公正価値の要件、すなわち交換が価値移転をもたらさないことを証明する必要性は含まれていません。むしろ、適用される税法に基づいて課税対象となる交換が生じるかどうかを判断する「除外される変更(excluded modifications)」の例が示されています。

PwCの見解

全ての規制や立法による救済の核心にあるのは、LIBOR移行に伴う契約の変更が、当該契約の保有者に悪影響を及ぼさないことを保証することです。しかし、悪魔は細部に宿るというのはよくあることです。さまざまな立法措置や規制措置は、あらゆる資産クラスで生じた無数の疑問や問題を明確化し、解決するものです。参加者はそのガイダンスが自分たちの活動、エクスポージャー、契約条項にどのように関連しているかを分析しなければなりません。

多くの場合、規制当局はこの目的を達成するために異なるアプローチをとっています。どの金利指標が適切な代替金利指標とみなされるかを詳細に記述しているガイダンスもあれば、あまり明示的でない原則ベースのアプローチをとっている場合もあります。例えば、IRSの規制には、米国財務会計基準審議会(FASB)が提供する救済措置と明確な類似性があり、両者の意図が類似していることを踏まえれば驚きはありませんが、一方でいくつかの重要な相違点もあります。FASBのガイダンスの適用は選択的であるのに対し、IRSのガイダンスは強制的なものです。また、FASBのガイダンスには、IRSが提示するような代替金利指標が満たすべき一定の基準に関する要件は含まれていません。

最後に、FASBは金利指標の置き換えに伴い発生する全ての変更をまとめて分析することを求めていますが、納税者は対象となる変更とならない変更をそれぞれ別々に分析しなければなりません。提供された税務ガイダンスでは多くの事例が示されており、2019年に当初のガイドライン案が発表された時点ではまだ確立されていなかったコンベンションや、検討すらされていなかった異なるコンベンションの影響を明らかにする上で、市場参加者はこれらの事例を参考にできるでしょう。

また金融機関は、どこに具体的な障害や課題が残っているのか(例えば、非米国法に基づく米ドル LIBORの利用に関するものなど)を特定し、規制当局、業界団体、その他の関係ステークホルダーと積極的にコミュニケーションをとる必要があります。過去には、公的セクターは特定の問題の詳細に熱心に耳を傾け、補足ガイダンスや追加の明確化文書を公表していたように思われます。米ドルLIBORの公表停止まで残り1年半を切った今、こうした事項をタイムリーに伝えていくことは引き続き重要となるでしょう。

※本コンテンツは、PwCが2022年1月に発刊した「LIBOR Transition Market update:December 1-31 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

インサイト/ニュース

We unite expertise and tech so you can outthink, outpace and outperform
See how