LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年3月16日~31日)

今号では、米ドルLIBORに依存するローン市場の現状、各国市場におけるターム物RFRに関する議論のアップデートや、FCAが発出したDear CEOレターなどについて取り上げます。

1.ARRCの進捗報告書

米国代替参照金利委員会(ARRC)は、米ドルLIBORからの移行に関する報告書を発表しました。この報告書においてARRCは、特にローン市場における移行が見込みより遅れる中で、2021年末までにLIBORを参照する新規商品の発行を停止するという規制当局の期待に応えるためには、「早急に移行のペースを速める必要がある」と提言しています。米連邦準備制度理事会(FRB)の銀行監督担当であるRandal Quarles副議長も同様の意見を述べており、ARRCが主催したSOFRシンポジウムの基調講演において、規制当局は金融機関によるLIBOR移行の進捗状況、特に新規商品における米ドルLIBORの使用停止に向けた取り組みに「強い監督上の焦点」を当てることを示唆しました。

3年前にARRCが発表した業界全体のエクスポージャー推定値と比較すると、米ドルLIBORの利用は減少するどころか増加しているように見えます。2023年6月まで米ドルLIBORの公表が継続することにより、大半のLIBORエクスポージャーはLIBORの公表停止前に満期を迎えますが、約68兆米ドルのデリバティブ商品と5.1兆米ドルのキャッシュ商品は2023年6月より後に満期を迎えることになります。

国際スワップデリバティブ協会(ISDA)のIBORフォールバックプロトコルおよび中央清算機関(CCP)におけるLIBOR参照の未決済取引にかかる事前転換(preemptive conversion)計画により、大多数のLIBORを参照する既存デリバティブ契約については移行への道筋が明確となりました。しかし、キャッシュ商品は依然として複雑な状況にあります。本報告書では、LIBORが廃止された場合の最終手段としてARRCが推奨するハードワイヤードフォールバック条項を採用したLIBOR参照の新規発行が増加しているとしています。しかし、全ての商品クラスにおいてハードワイヤードフォールバック条項が採用されているわけではありません。修正アプローチに依存する契約や、LIBORの恒久的公表停止を想定していないようなフォールバック条項が不十分な契約、フォールバック条項を全く含まない契約などもかなりの数存在している可能性があります。

フォールバック条項が不十分な契約やフォールバック条項を全く含まない既存契約にかかる問題に対応するため、ARRCはニューヨーク州に立法案を提出しました。この法案は先日、ニューヨーク州議会で可決され、州知事の署名を経て成立する見込みとなっています。この法律の下では、LIBORの公表停止に際し、ニューヨーク州法が適用される前述のような既存契約について、参照金利を特定の代替金利指標に置き換えることが可能となります。

PwCの見解

先日スエズ運河を塞いだコンテナ船のニュースは多くの人の目に留まったことでしょう。小さなショベルカーが巨大な船の船首の解放作業をする写真が世界中に広まり、多くのユーモアあふれるコメントが寄せられていました。しかし、超大型船に比べて小さく見えるショベルカーでも重量が約20トンもあることを考えると、「小さな」という表現は似つかわしくないようにも思われます。2023年6月より後に満期を迎えるキャッシュ商品にかかる米ドルLIBORのエクスポージャーについても同様のことが言えます。以下の表で比較しているとおり、223兆米ドルのうちのわずかな割合だとしても、金額にすると大きいものです。

移行の取り組みが遅れている金融機関に対して監督上の措置が取られる可能性があるにもかかわらず、特にローン市場における米ドルLIBORへの依存度の引き下げは遅れています。担保付翌日物調達金利(SOFR)に代わる信用感応度の高い代替指標やスプレッド調整手段、またフォワードルッキングなターム物SOFRの登場を期待する声もありました。ARRCの進捗報告書の内容や、ターム物SOFRの公表は(あったとしても)今年後半になるだろうという声明、そして、規制当局は今後数カ月にわたり銀行の移行進捗度を注意深く見守るだろうというQuarles副議長の注意喚起なども踏まえると、残された時間が少ないことは極めて明確です。少なくとも当面、LIBOR参照商品の新規発行を年内に終了させるという規制当局の期待に応える最も現実的で直接的な方法は、SOFRを現在の形で貸出金利として採用することだと考えられます。その他の代替案も時間の経過とともに発展する可能性はありますが、期限が迫る中で、米ドルLIBORからの移行をいまだに躊躇している銀行は、規制当局から厳しく問われることになるでしょう。

図 ARRCの進捗報告書

注:ARRCの進捗報告書の内容を反映し更新したものです。

出典:

  1. Second report, The Alternative Reference Rates Committee, March 2018
  2. Progress report, The transition from U.S. Dollar LIBOR, The Alternative Reference Rates Committee, March 2021
  3. 国際通貨基金、 世界銀行

LIBOR からの移行を加速させるためには、新しいリスク・フリー・レート(RFR)参照取引のプライシングや取引処理のオペレーション能力の確立だけでなく、顧客への働きかけやコミュニケーションも必要です。米ドルLIBOR参照商品の新規発行が継続していることから、企業の借手は代替金利指標への移行をそれほど切実に捉えていないかもしれません。銀行がLIBORからの移行を加速するためには、顧客企業に移行の緊急性を説明し、効果的に伝えるための戦略が必要となるでしょう。

2.ターム物RFRがなくても問題ない?

LIBOR に代わる推奨RFRに期間構造がないことは、長い間、重要なトピックとして議論されてきました。3月後半の数週間における複数の市場での動向により、ターム物金利が果たすべき役割と、ターム物金利ではできないことが明らかになりつつあります。

ARRCは、フォワードルッキングなターム物SOFRを2021年第2四半期末までに推奨できないと表明しました。その理由として、現時点ではそのようなレートを構築するために必要なSOFRデリバティブの流動性が不十分であることを挙げています。ARRCは引き続きターム物SOFRが使用できる可能性のある限られたケースの検討をしており、市場参加者はターム物SOFRに頼らずに移行作業を継続することが推奨されます。今回の発表は、2月17日に開催されたARRCの会合での議論を受けて実施されたものです。

ARRCはまた、資産担保証券(ABS)について、「前決め(in-advance)」の30日平均SOFRの使用を推奨するホワイトペーパー公表しました。「前決め」は、金利計算期間の開始時に金利をリセットするものであり、ビジネスローンなどにおいてARRCが推奨するSOFRの「後決め(in-arrears)」(金利計算期間の終了時に金利をリセットするもの)とは異なります。

英国では、FICC(債券、為替、コモディティ)市場基準委員会(FMSB)が、フォワードルッキングなターム物SONIA(ポンド翌日物平均金利)の使用に関する基準案公表しました。この文書では、市場参加者が特定の金融商品にターム物SONIAを採用する確実な根拠があるか否かを判断する指針となる原則を解説しています。本文書が提示する基準を満たすと想定されるユースケースの多くが、貿易金融ローン、イスラム金融商品、運転資本商品(working capital products)など、2020年1月に英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループ(Sterling RFR WG)が発表した提案と一致しています。また本基準では、原則に準拠する特定の状況に限り、中堅企業、個人、リテール、輸出金融、新興市場向け貸出にターム物SONIAを使用する余地を残しています。またFMSBは、ターム物SONIAに基づくキャッシュ商品やシンセティックLIBORを参照するタフレガシー契約をヘッジするために使用されるデリバティブについても、ターム物SONIAの使用が適切である可能性を示唆しています。Sterling RFR WGは、英国金融行為規制機構(FCA)およびイングランド銀行(BOE、英中央銀行)とともに、本基準案の公表を歓迎する声明を発表しました。本基準案に対するコメントの締め切りは、2021年5月28日となっています。

日本では、QUICKベンチマークスが、2021年5月から参考値を公表していた東京ターム・リスク・フリー・レート(TORF)の確定値の公表を2021年4月26日から開始すると発表しました。TORFはTONA OIS(Overnight Index Swap)取引の市場価格に基づいて構築されており、1カ月、3カ月、6カ月のテナーが東京営業日の17時に公表されます。QUICKベンチマークスは2020年初めにターム物RFRの推奨公表ベンダーとして日本円金利指標に関する検討委員会(CIC)の選定を受けました

PwCの見解

LIBOR移行におけるターム物RFRの役割は国や地域によって異なり、場合によってはその差異が大きくなることが明らかになってきました。 ここでは、いくつかの市場における現在の状況を概説します。

ターム物SOFRがない

ARRCの発表は、先週リリースされた発表の中でも最も驚きのないものだったかもしれませんが、一部の関係者にとっては最も残念な発表でもあったかもしれません。

ARRCと規制当局は、ターム物SOFRの正式な推奨には、その基礎になると想定されるSOFRのデリバティブ市場に確固たる流動性が必要であると明言しています。残念ながら、現在の米ドルデリバティブ市場は、SOFRが基準になっているとは言えません。ターム物SONIAのケースと比較した場合、2021年初めにターム物SONIAの確定値が英国で公表された際、直近12カ月間にSONIAスワップで取引された想定元本額は、英ポンド LIBORスワップで取引された想定元本額とほぼ同額でした。対照的にSOFRスワップは、昨年10月にCCPがPAI(Price Alignment Interest)とディスカウント金利をSOFRに切り替えた後も、米ドルのデリバティブ市場の2~3%以上を占めることはほぼありません。

米ドル市場の規模と2023年6月まで米ドルLIBORの公表が継続することを踏まえると、近いうちにSOFRが米ドルLIBORに代わる主要な金利指標となるのは難しいかもしれません。SOFRが米ドルLIBORに取って代わることが、ターム物SOFRの頑健性を十分なものにするための必須条件ではないかもしれませんが、取引量の増加が必要なのは明らかです。SOFRスワップ取引は、SONIAスワップ取引に比べて絶対額の面でもまだ発展途上と言えます。2021年3月最終週のSOFRスワップの取引想定元本額は575億米ドルであったのに対して、SONIAスワップの取引想定元本額は2,507億米ドルでした。

ターム物SOFRを望む声があるにせよ、市場参加者は当面の間ターム物SOFRがなくても済む現実的な解決策を見つける必要があるでしょう。

ABSにおける前決めSOFRの使用

ABSにおいて前決めの30日平均SOFRを使用するというARRCの推奨は、ターム物SOFRが使えない場合の実用的な解決策を示しています。この提案は、幅広いステークホルダーで構成された証券化に関するサブグループでの3年間にもわたる議論のたまものです。ホワイトペーパーでは、後決めSOFRがもたらす経済的な正確さと、実務に適用する際の運用面の課題の間での妥協点について解説しています。

後決めSOFRには、クーポンの受け取りと発生した資金調達コストを同一期間に揃えるという経済的な利点があります。しかし運用上の制約から、証券化における後決めSOFRの利用には、少なくとも7営業日のルックバック(コンベンションの利用)が必要となります。市場に月次支払い商品が多く存在することを考えると、このような長期のルックバック期間は金利計算期間の35%以上を占める可能性があり、後決め金利の経済的利点が相殺されてしまう可能性があります。この点において、運用しやすい前決めSOFRは、リセットの頻度と組み合わせて考えた場合、より受け入れやすい妥協案のように思われます。このように、今後もさまざまなタイプのコンベンションが開発されていくことは間違いありません。しかし今のところ、ARRCの提案は、「完全を追求するあまり本来の目的を忘れてはいけない」という古くからの原則に従った実用的な解決策であるように見受けられます。

ターム物SONIAの使用範囲

FMSBが示した原則ベースのアプローチは、ターム物SONIAの使用を正当化する証明責任をエンドユーザーに負わせるものです。英ポンドLIBOR参照商品の新規発行停止に関する期限などのSterling RFR WGの提言と同様に、商品の発行者は、規制当局がFMSB基準への準拠を期待していると考えるべきでしょう。

本ガイダンスにてデリバティブにおけるターム物SONIAの潜在的なユースケースが示されていることについて、既出のガイダンスからの逸脱、またはターム物SONIAの使用範囲が予想以上に広まることを示唆していると捉える向きがあるかもしれません。しかし現実は全く異なる可能性が高く、今後、特に新規商品におけるターム物SONIAの使用は厳しくチェックされることになるでしょう。

FMSB基準が公表されたのは、Sterling RFR WGが設定した英ポンドLIBOR参照ローンの新規発行停止の目標日(つまり期限)である2021年第1四半期末の直前であり、ターム物SONIAの確定値の公表が開始された後でした。公表の遅れは、ターム物SONIAが、これを絶対的に必要とするタフレガシー商品の解決策として重要視されていることを示していると言えます。

ターム物TONA(TORF)の公表

日本円LIBORの公表停止まで9カ月を切った今、2021年4月26日から開始されるTORFと呼ばれる公式なターム物TONAの公表を市場は大いに歓迎するでしょう。特にキャッシュ市場では、CIC、日本銀行、金融庁が推奨する日本円LIBOR参照ローン・債券の新規発行停止期限の2021年6月30日に向けて、業界が一歩一歩前進しているという実感をもたらすと考えられます。RFRベース(TONAベース)の貸出を躊躇する金融機関がある中で、TORFは新規商品の発行、既存ローン・債券の日本円LIBORからの移行において大きな役割を果たすと期待されています。米国や英国と異なり、ターム物TONAの使用範囲に関する指針などは今のところ公表されていません。

TORFの公表により、市場参加者が待ち望んでいたターム物RFRが登場したことになります。2021年の夏にはLIBORを使わないキャッシュ商品の新規発行が活発化し、2021年末には日本円LIBORからの移行が完了すると予想されます。

3.CHF LIBOR の代替金利指標に関する EC の市中協議

欧州委員会(EC)は、預金口座、住宅ローン、中小企業向けローンにおけるスイスフランLIBORの法定代替金利指標の指定に関する市中協議開始しました。この市中協議は、英国FCAが先日行ったスイスフランLIBORの2021年末での恒久的公表停止の発表を受けたものです。ECは2021年末以降に満期を迎える大半の契約にLIBORの恒久的公表停止に対応する頑健な代替金利指標の指定が含まれていない可能性を踏まえ、LIBORの公表停止が欧州連合(EU)内のさまざまな消費者市場の金融安定性に影響を及ぼし得るという懸念に対応しようとしています。

ECは、法定代替金利指標の使用範囲を、2018年1月1日以前に締結され、2021年12月31日以降に満期を迎えるスイスフランLIBOR参照契約に限定すると提案しています。市中協議で提案されている代替金利指標はスイスフランLIBORの3カ月テナーについてのみであり、その他のテナーは検討対象になっていません。代替金利指標は、スイスフラン参照金利に関するスイス・ナショナル・ワーキンググループの推奨に沿ったもので、3カ月複利平均SARON(スイス翌日物平均金利)にスプレッド調整を加えたものになります。このスプレッド調整は、スイスフランLIBORとSARONの経済的差異を反映することを目的としており、5年間の観測期間におけるヒストリカルなスプレッドデータの中央値に基づくISDA提案のデリバティブ契約のフォールバックと一致しています。

EU住宅ローン指令(EU Mortgage Credit Directive)では、住宅ローンの借入金利を変更する場合、事前にリテール顧客に通知する必要があります。このような消費者保護の観点から、ECはSARONベースの代替金利を「前回リセット方式(last reset methodology)」に基づいて算出することを提案しています。この方式では、次の3カ月間に適用される金利は、過去3カ月間の日次SARON(翌日物)に基づいて決定されます。この提案は、フォワードルッキングなターム物金利が入手できない場合に備え、変動金利型(adjustable rate)のEURIBOR住宅ローン、消費者ローンおよび中小企業ローンにかかるフォールバックのためのユーロRFRに関するワーキンググループの推奨に沿ったものです。RFRに関するスイス・ナショナル・ワーキンググループは以前よりフォワードルッキングなターム物SARONは推奨しないと明言しています。

本市中協議は2021年5月18日に締め切られます。ECは市中協議後に、スイスフランLIBORの代替金利指標を指定するための実施規則(implementing act)を採択する予定です。

PwCの見解

この市中協議の内容は、ECが最近改正されたEUベンチマーク規則(BMR)に基づく新たな権限を行使して、フォールバック条項が不十分な契約におけるLIBORの代替金利指標を指定する前提条件となります。ECは、市場参加者に対し立法による解決策に依存すべきではないと以前より明言しています。これは立法的解決策が、セーフハーバーまたは最終手段としてのバックストップ(防止策)に過ぎないからです。そのため、今回の市中協議でその適用範囲が限定されていることに驚きはありません。立法により代替可能な商品を2018年より以前に締結された契約と3カ月テナーに限定することで、ECは、移行リスクが最も高い分野に対処する意思を示しているように見受けられます。しかし、LIBORを参照する全ての既存契約に対する全体的な解決策の提供までには至っていません。

市中協議の終了が2021年5月であることから、直ちに規則制定に移行したとしても、年末のスイスフランLIBORの恒久的公表停止まで数カ月しかありません。提案されている法案の範囲がさらに狭められる可能性は低いと思われますが、最終的に制定されるかどうかも分かりません。市場参加者は、既存のスイスフランLIBOR参照契約を可能な限り積極的に修正して、あらゆる事態に備えることを検討すべきでしょう。

ターム物RFRの不在やEUの消費者保護ルールを考慮すると、市場参加者が固定レートへの移行を希望しない限り、「前回リセット方式」が、スイスフランLIBORを参照する変動金利型住宅ローンの代替金利指標の唯一の選択肢となるかもしれません。しかし「前回リセット方式」は、対象となる金利計算期間中に観測されるSARONが、金利が適用されるその前の金利計算期間と比較して変化する可能性があることから、ベーシスリスクが生じる恐れがあります。

ECは、ユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)、英ポンドLIBOR、米ドルLIBORについても同様の市中協議を順次実施する予定です。

4.GBPローンのガイダンスを更新

Sterling RFR WGは、英ポンド建てローンのベスト・プラクティス・ガイドの改訂版を公表しました。ローンのコンベンションや計算事例を掲載した参考スライドを追加し、計算方法、フロアやプリペイメントの組み込み、非累積および累積金利の複利計算アプローチに関する補足説明を行っています。

今回追加された技術的補論では、ローン商品にSONIAを使用する際に推奨されるコンベンションのサポートに必要な、さまざまなシステム機能について解説しています。また、銀行が非累積および累積の複利RFR計算式を適用する際に起こり得る矛盾に対処するため、小数点以下の端数処理(rounding methodologies)に関するガイダンスの変更を反映して、ガイドおよび計算事例を更新しています。今回の改訂では、最終的な金利計算の結果が一致するように、日次ではなく、金利計算期間の終了時にのみ利息額を小数点第2位に端数処理するとしています。

さらに、プリペイメントやフロアの適用に関してコメントしているほか、LIBOR公表停止に関するFCAの発表を受けてISDAのスプレッド調整が確定したことにより可能となった、スプレッド調整の自動化に関する推奨事項も含まれています。

また、LIBOR参照の既存シンジケートローンの修正を検討している主幹事行(lead banks)や非主幹事行(coordinating banks)に対するガイダンスも追加されました。Sterling RFR WGは、シンジケートの他のメンバー銀行と積極的な移行の仕組みについて議論する前に、借入人の同意を得ることを提唱しています。

ローンマーケット協会(LMA)では、今回のベスト・プラクティス・ガイドの改訂を反映した、RFR文書の改訂版一式を公表しています。既出のドラフト契約書(Exposure Drafts)を推奨フォームに更新したことに加え、SONIAおよびSOFR単一通貨契約書を追加で提供しており、金利計算コンベンションが観測シフト(observation shift)に基づくものと、そうではないものの2種類を掲示しています。

PwCの見解

一見すると、これらのアップデートは、影響がそれほど大きくない部分に関する技術的なニュアンスの説明のように思えます。しかし実際には多くの市場参加者が、小数点以下の端数処理などの詳細について共通の基準がないことを、RFRへの移行における少なからぬ課題であると指摘していました。

銀行は、内部システムに実装されている計算ロジックが、改訂されたガイダンスに沿っているかを早急に確認する必要があります。法務部門は、Sterling RFR WGの改訂版ガイダンスだけでなく、LMAが提供する包括的なアップデートも考慮して、必要に応じローン契約を更新しなければなりません。Sterling RFR WGが英ポンド LIBORの新規商品の発行の終了目標日としていた2021年第1四半期はすでに過ぎており、これらの作業は本来2021年3月31日までに完了しているべきものです。

5.CMSのフォールバックに関するARRCのホワイトペーパー

ARRCは、米ドルLIBOR ICEスワップレート(またはコンスタント・マチュリティ・スワップレート、CMS)からスプレッド調整されたSOFRスワップレートへのフォールバックを計算する方法論と計算式を示したホワイトペーパー公表しました。Sterling RFR WGも、英ポンドLIBOR ICE スワップレート(ISR)に代わるSONIAベースのスワップレートに関するディスカッション資料を2021年初めに公表しています。

PwCの見解

両提案とも、フォールバックレートは、RFRベースのスワップレート(SOFRまたはSONIAベースのスワップレート)と各通貨のISDAフォールバックスプレッド調整をインプットとする関数で表現されるシンプルな金利となります。しかし、RFRの公表頻度や日数計算方式の違いから、これらのフォールバックレートには市場参加者が留意すべきいくつかの異なる特性があります。

運用を簡易化するため、フォールバックレートの計算では、期間構造を持たない、フラットなイールドカーブを想定しています。しかし、計算の精度を高めたところで、さらなるメリットが得られるかどうかは分かりません。Sterling RFR WGが行ったバックテストによると、2008年以降、SONIAベースのフォールバックレートと、置き換えようとしているISRとの乖離は最大で0.175 bps(ベーシスポイント)しかありませんでした。この差は、金利水準が最も高かった2008~2009年にピークに達しています。また驚くべきことに、テスト結果は、カーブが右肩上がりの場合に正のバイアスがかかることを示しています。ARRCはこのようなバックテストに関する公表をしていませんが、実施した場合は同様の結果が導き出されるものと考えられます。

さらにLIBOR のフォールバックは、商品ごとに異なる可能性があります。このような違いは、ISDAのフォールバックメカニズムに従うLIBORスワップと、RFRに基づくフォールバックレートを用いた商品との間でベーシスリスクを生じさせる恐れがあります。このようなベーシスリスクの管理には、コンベクシティ調整のような評価調整(valuation adjustments)やフォールバック・リスク・リザーブが必要となるでしょう。

6.Dear CEO レター:LIBORに依存し続けた結果

英国の健全性監督機構(PRA)とFCAは、大規模かつ複合的な金融機関のCEOおよびLIBOR移行を担当する上級管理職に宛てたレターを発出しました。規制当局は、Sterling RFR WGが提示したマイルストーンに沿って、2021年第1四半期末より英ポンドLIBORベースの新規商品の発行停止を期待しています。

本レターの添付資料では、英ポンド LIBOR ベースの新規商品の発行停止に加えて、企業が対応すべき優先事項が提示されています。これらの優先事項には、システムの準備態勢の確立に向けた取り組みの加速、既存契約のLIBORからの積極的な移行、コンダクトリスクの低減、RFR市場における流動性の向上、モデル変更管理、適切なLIBOR代替商品の選択などが含まれています。

PRAとFCAは、金融機関のLIBOR移行の進捗状況だけでなく、「移行に伴う各種リスクの管理と監督」も注視すると示唆しています。移行に関する監督とガバナンスの一環として、移行を担当する上級管理職の変動報酬(ボーナス)にはLIBOR移行の進捗状況が反映されるべきと、規制当局は提言しています。

PwCの見解

この2年間で、LIBOR移行に関する規制当局のガイダンスやスピーチ、声明のトーンは、徐々に強くなってきています。規制当局はこれ以上に強いメッセージを打ち出すことが可能なのかと考える向きもあったでしょう。その答えは、「移行状況に進展がなければ、移行を担当する幹部の財布に打撃を与えるべき」という今回のレターの内容が示しています。

移行の成功には、セルサイド、バイサイド、事業会社、外部ベンダー、CCP、
その他の市場参加者の協力が欠かせません。しかし、移行の進捗状況を上級管理職の変動報酬と明示的に結びつけることで、銀行は今後発生し得る進捗遅延の責任を他人に転嫁できないことが明確になりました。むしろ、大規模かつ複合的な金融機関は、LIBORのない未来へと業界を導く変革者として、移行のリーダー的役割を担うべきと言えるでしょう。

詳細は、以下の文書を参照ください:

Regulators use bonus reduction as the latest threat to accelerate LIBOR transition efforts.

※本コンテンツは、PwCが2021年3月に発刊した「LIBOR Transition Market update: March 16-31, 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

インサイト/ニュース

We unite expertise and tech so you can outthink, outpace and outperform
See how