B2B事業でのデータドリブン営業事例・コンサルティング経験から得た方法論

優良顧客(High Value Customer)を基軸に事業を成長させる

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  • 2025-11-18

1.はじめに

事業の成長を目指し、多くのB2B企業がさまざまな取り組みを進めていることは言うまでもありません。一方、思うように成長を実現できなかったり、その道筋を見つけるのに苦労していたりするケースも多く存在します。

そこで、本稿ではPwCコンサルティング合同会社(以下「当社」)のB2B領域における豊富な支援経験から、どのように事業の成長の道筋を見つけていくことが望ましいか、特に優良顧客(High Value Customers、以下「HVC」)の特定と育成にフォーカスし、当社の考えを紹介します。なお、この取り組みは各種データ分析に基づいて行われることから、データドリブン営業を実現する道筋とも捉えることができます。

2.どのようなアプローチから取り組むか

事業の成長へのアプローチは、顧客ターゲティングや商品の魅力向上、営業スキルの強化など多数存在しますが、当社は「“To Be”の顧客基盤の可視化・定義」からスタートすることが望ましいと考えています。例えば、3年後に売上を1.5倍にしたいとしましょう。その場合、3年後にどのような顧客がいて、それぞれの顧客(群)からどの程度の売上を得る必要があるかが検討の起点となります。そうすれば、おのずとそのような顧客群を作るために何をすべきかを検討していけるようになります(図表1)。

そして、ここで重要となるのがHVCとNext HVC、つまり自社にとっての優良顧客と、その候補です。当社の経験では、事業が伸び悩む企業の多くで、ターゲットとすべきHVCを絞り込めず、それゆえに打ち手の選択と集中が実現できていない(リソースが分散し十分な成果につながらない)状況が見受けられます。構築すべき顧客基盤を成長戦略の起点に据えることが肝要です。

図表1:顧客基盤戦略を起点とした取り組みの全体図

出所:PwC作成

3.HVCをどう選ぶか

では、HVCやNext HVCは、どのように選ぶべきなのでしょうか。

継続的・安定的に利益を獲得できる顧客が、自社にとってHVCだということに異論は少ないでしょう。当社でも、一般的にHVCを「利益の大きさ」「成長性」「安定性」の3つの軸から選定します(図表2)。

図表2:HVCの評価軸の例

出所:PwC作成

「利益の大きさ」については、ビジネスモデルや商材の購入パターンによりますが、直近3~5年の合計で見ることが多いです。また、利益を「売上×売上高利益率」に分解することや、個別企業に加え、それらが属する業界・業種の特徴を織り込むことも可能です。

「成長性」と「安定性」は、各顧客からの利益・売上の推移を分析することで評価できます(図表3)。

具体的には、各顧客からの月次等の売上を時系列で並べて近似線を引き、回帰分析を行います。その結果、企業ごとの利益・売上のトレンド、つまりそれらがどの程度のペースで成長しているか、また、利益・売上のバラツキが標準偏差や決定係数を通して把握できます。回帰線の傾きが大きいほど「成長性」が高く、バラツキが小さい(標準偏差が小さい、決定係数が大きい)ほど「安定性」が高いことになります。

図表3:成長性・安定性の評価方法

出所:PwC作成

4.Next HVCをどう選ぶか

Next HVCは既存の利益・売上規模が大きい顧客から選定するケースが一般的です。しかし、それら全ての顧客がHVCとなる可能性が高いのか、既存の利益・売上規模が小さい顧客の中にHVCとなる可能性が高い顧客がいないかといった視点も考慮すべきです。それらの視点も踏まえ、当社ではNext HVCの選定の多くを、機械学習モデルや多変量解析を用いて行います。具体的には、既存の利益・売上に関連した指標に加えて、顧客企業の属性情報や顧客企業が属する業界に関する指標も含めて顧客を評価し、Next HVCを選定します(図表4)。

これにより既存の利益・売上規模という単一の視点ではなく、企業の特性なども踏まえた複合的な視点からNext HVCが把握できます。なお、これはあくまで統計的な視点からのみのアプローチであり、特殊要因によるデータを外す、何かしらの事情を加味するなど、定性的な要素を織り込むことも一般的です。

図表4:機械学習を用いたNext HVCの選定方法

出所:PwC作成

5.営業リソースの配分を改善する(クリティカルマスと営業感応度をウォッチする)

営業による利益・売上拡大を達成するための取り組みとして、提案内容・タイミングの改善などが存在します。当社では、その中でも営業リソースの配分の改善が重要になると考えています。顧客に対するアプローチ方法(いつ、何を、どのように提案するか)の改善を進める一方で、営業のリソース配分(誰に、どの程度の頻度でアプローチするか)の改善を見落としてしまっているケースは多くあります。営業リソースの配分を検討するにあたっては、営業回数のクリティカルマス(営業回数による売上高の閾値・飽和値;図表5)と、営業感応度(営業の利益・売上の上がりやすさ)を特定することが重要です。

図表5:営業回数のクリティカルマスを特定する方法

出所:PwC作成

営業感応度は、一般的には営業回数の増減による利益・売上の増減を、機械学習モデルを用いてシミュレーションすることで特定します(図表6)。

営業感応度を基に、どの顧客の営業リソースを、営業回数のクリティカルマスからどの程度追加・削減すべきかを明らかにしていきます。その結果、勘や経験だけに頼らない、データドリブンな営業リソースの配分が実現されます。

図表6:機械学習を用いた営業感応度の算出方法

出所:PwC作成

6.データドリブン営業の実現にどのように着手するか

データドリブン営業について、多くの企業で「データが不十分なので、まだ取り組めない」「分析に詳しいメンバー(高度な分析を行うケイパビリティ)が不足しているので、取り組み開始は先になりそう」という声が聞かれます。当社では、本テーマへの望ましいアプローチは以下のとおりであると考えています。

1. まずは始める

(ア) 自社には十分なデータがないためデータドリブン営業の着手が難しいと考える企業は少なくありません。しかし、当社の経験では、限られたデータであっても、それらをうまく使うことで十分な分析が可能なケースが多いです。例えば、多くの企業が有している顧客別の購入商品に関するデータや企業属性データだけで、売上上位20%企業をおよそ87%の確率で正しく判別するモデルを構築できたケースがあります。

(イ) データドリブンな営業を実現していくにあたって、まずは自社の課題を明らかにし、それに基づいて取り組みの方向性のあたりを付ける必要があります。それらは簡易的なデータ分析で十分に実現できるケースが多く、そうした点からも「まずは始める」ことが望まれます。

2. トライアルを行う

取り組みを実行に移す際は、まずデータ整備が進んでいる(営業データの入力を徹底している)部署やデータドリブン営業への関心がある部署と限定的な範囲で取り組み、その後、全社へと広げていきます。これにより、他部署からの反発を最小限に抑えられるうえ、トライアルで得た知見を次の施策に生かせるため、取り組みをスムーズに進められます。

3. その上でロードマップを作る

自社の課題やトライアルの結果を踏まえて、中長期の計画を検討していきます。その際はインパクトと実現性の観点から取り組みを評価し、優先順位を付けていくことが重要です(図表7)。

図表7:データドリブン営業の進め方とポイント

出所:PwC作成

なお、当社は戦略策定から実行・実現までを支援しており、データ分析の遂行やデータ分析組織の整備、施策実行時のハンズオン支援が可能です。最終的にはクライアントの「自走」がゴールとなります。本取り組みにご関心をお寄せいただけましたら、是非お声がけください。

7.おわりに

HVCの特定やデータドリブン営業に関して、多くの読者が「まずは始めること」に気持ちが乗らない、挑戦したことがあるが思うような結果が出なかった、始めたいが具体的な進め方がはっきりしない(加えてブラックボックス的では説明責任を果たせない)という経験をされているのではないでしょうか。本稿がそのような方に「たしかに、このステップで進めれば自分にもできそうだ」と思っていただくきっかけになれば幸いです。データドリブン営業は一朝一夕では実現しませんが、常に取り組んだ分だけの成果が積み上がる上に完成形は存在せず、少しずつインパクトを拡大していくべき取り組みです。

これらは皆さんご自身で取り組んでいただくことも可能ですが、その過程で当社と協働する機会があれば、なお嬉しく思います。本稿が皆さんの成功の一助となることを願っております。

優良顧客(High Value Customer)を基軸に事業を成長させる

B2B事業でのデータドリブン営業事例・コンサルティング経験から得た方法論

( PDF 1.31MB )

執筆者

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 賢

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

長澤 賢汰

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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