グローバルファミリービジネスサーベイ2025

競争優位性の再構築

  • 2026-01-20

好業績のファミリービジネスは、独自の強みを活かし、時代の急速な変化の中で成長を遂げています。

はじめに

ファミリービジネスといっても業績には差があります。PwCのグローバルサーベイによれば、60以上のテリトリーで事業を展開する1,325人のオーナー/幹部のうち、前年と比べて売上が2桁成長を遂げたのは4分の1(25%)でした。これは2年前の43%から低下しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の中期における世界経済主要分野の成長水準に戻ったことを示しています。国際連合(UN)の推定によれば、家族所有または家族経営の企業は世界のGDPの約3分の2、雇用の60%を占めています。ファミリービジネスは非ファミリービジネス企業と比べて昔から回復力があると考えられてきましたが、今では多くが課題に直面しています。

その原因の1つは、高い再投資率、低い借り入れ率といった従来の強みが、今では成長につながりにくいことです。地政学的な混乱、貿易政策の転換、気候問題、生成AI(GenAI)の進歩が、事業環境を大きく変化させています。さらにPwCの調査レポート「Value in motion」によれば、今後10年間で伝統的な産業が動的なエコシステムに再編されるとともに、新しい形で価値が生まれると予想されます。小さな失敗も大きな打撃になりかねず、多くのビジネスは現状維持でも上出来だと感じるかもしれません。

図表1:ファミリービジネスの成長が鈍化

基本的な疑問は、現在好業績を上げているファミリービジネスはその他の企業と何が違うか、ということです。この答えを得るため、ここでは調査結果の分析に、ファミリービジネスのリーダーに対する詳細な聞き取り、ケロッグ経営大学院のMatt Allen教授の分析、PwCのグローバルファミリービジネス専門家の見解を組み合わせました。これらの情報は、先進的な企業が、パーパス(目的・存在意義)、強み(差別化)、長期的なビジョン、評判などを厳しい状況の中で成長に転換していることを示しています。また、今後考えられるファミリービジネスの方針の変化も示唆しています。

厳しい状況を乗り切る:課題の背景

昨今の取締役会の議題の大半は、依然として不確実なマクロ経済および規制の変化にあります。ファミリービジネスのリーダーは、長年の課題、すなわちサプライチェーンの混乱、コストの不安定性、市場の飽和、人材不足に関する懸念を挙げました。

多くのファミリービジネスは、高成長を狙った高リスクの戦略から、自社の回復力をさらに高める堅実で安定した成長戦略へと移行しています。2年間の成長目標を2021年、2023年より低く抑え、コアビジネスの安定を優先する傾向も見られます。

図表2:企業としての今後2年間の目標

ファミリービジネスは一般に慎重で保守的な経営姿勢で知られ、上記の傾向もその理解に一致します。さらに今年の調査では、近年の市場の混乱や業界の変化の時期に、積極的にイノベーション(経営戦略の再考など)を行うと答えたファミリービジネスはわずか22%でした。

事業の完全なる再構築を目指しているのは3%にすぎず、大多数は慎重なアプローチや非常に選択的なアプローチを取った上で新しい経営手法を導入しています。この慎重な姿勢は、業界の収束やエコシステムの刷新の中でさえ、多くのファミリービジネスが近い将来の変化の規模とそのスピードを過小評価していることを示しています。

図表3:ファミリービジネスは変革に対して保守的な対応

それでも成長がないわけではありません。適応力のあるファミリービジネスは、一時的な対策ではなく安定性を通じて売上を伸ばそうとしています。ファミリービジネスのほぼ3分の2は、依然として技術の進歩(65%)とデジタルトランスフォーメーション(64%)を優先事項に挙げています。これを優先するのは事業拡大を目指す中規模の企業に多いようです。

PwCとファミリービジネスのリーダーとの円卓会議では、複数の経営幹部が生成AIの早期導入による具体的なメリットを報告しました。調査回答者の60%も生成AIを成長の機会として挙げています。例えば、生成AIの導入への資本投資が比較的少なくても、需要に応じた価格の動的な調整スピードが上がり、顧客のエンゲージメントが向上したと回答した企業がいくつかありました。

多様化の機運も、戦略策定に影響を与えています。ファミリービジネスの5分の1強(21%)は、それを最近の方向転換の要因に挙げています。成長が著しいのは売上高が1億~10億米ドルの企業です。このグループは過去1年間で最も成長率が高く、そのうち3分の2(63%)は、近い将来に着実な事業拡大を見込んでいます。この割合は2023年の平均値から6ポイント上昇しました。

好業績ビジネスの特徴

事業拡大の鍵を握るのは、常に経営です。ファミリービジネスにとって、成長の基盤は組織の体質、つまり昔からのガバナンス体制、リーダーシップの移行、地域に根ざしたステークホルダーとのつながりなどにあります。

ですが、このようなファミリービジネスの回復力の源は成長を阻む要因にもなりえます。変化の激しい市場において、中央集中型の経営体制は、迅速な意思決定を可能にすると同時に、組織外縁部でのイノベーションにブレーキをかけます。次世代の育成が間に合わずにリーダーシップの移行が遅れることも多いようです。多くの経営幹部は、自社のガバナンス構造に急速な変化に対応する機敏さが欠けると認めています。合意を重視した取締役会には似たような考えを持つメンバーが多く、思い切った行動が必要な場面で機能しない場合があります。

優秀なファミリービジネスは、自社の弱点に向き合うとともに、独自の特性を活用することで、確実に成長しています。PwCの調査では、業績の高い企業には4つの重点分野で特徴が見られました。詳細は以下のとおりです。 

  • パーパスのさらなる浸透。分かりやすく明文化されたパーパスは、さまざまな能力の基盤となり、成長を促進する。
  • 組織の強み(差別化)を活かす。好業績のファミリービジネスは、中央集中型の意思決定を活用している。
  • 資本を長期的に運用する。マクロ経済の先行きが不透明で地政学的にも不安定な時代には、資本の忍耐強い運用が成長を支える。
  • 評判を守り、活用する。ファミリービジネスにとって、評判は守るべき伝統であり、成長の推進力でもある。

1. パーパスのさらなる浸透

PwCは従来から、パーパスが競争上の優位につながることを認識しています。ファミリービジネスは、明確かつ具体的に定義された使命と価値観を中心に着実に団結しています。今回の調査では80%(2年前の76%から上昇)が、自社の使命と価値観を1文で言語化できると回答しました。64%は、このパーパスが社内で積極的に伝達されていると回答しています。さらに60%は、それが製品やサービスの提供方法に直結し、ビジネス戦略と顧客価値に確実に影響していると答えています。

図表4:ファミリービジネスはパーパスを実践

ファミリービジネスにおいて、持続的な成果を支える中核要因とパーパスの間には、強い関連があります。明文化されたパーパスを持つ企業は、強固な価値観を持つだけでなく、イノベーション、長期的なビジョン、ステークホルダーとの信頼関係も重視する傾向にあります。

これらの企業は、積極的に成長を追求する割合がそうでない企業(9%)の2倍高く(18%)、イノベーションを優先する割合(23%、他の企業は16%)、長期目標を優先する割合(35%、他の企業は26%)も顕著に高くなっています。3分の1(33%)は、研究とイノベーションの企業文化を積極的に育んでいます(全体の平均は24%)。パーパス重視のファミリービジネスは、明文化された理念に基づいて経営を行う傾向が強く、多くは価値観や行動規範を明確に持ち、ビジョンやパーパスを文書化して維持しています。

図表5:パーパスと業績の関係

共通のパーパスを明文化し、所有者と組織の両方に浸透させているファミリービジネスは一般的に、戦略の方向性も具体的である。パーパスは組織全体をまとめるビジョンとして機能し、意思決定の指針となるとともに、世代を超えてステークホルダーを結ぶ。このような環境では、業績が、成長指標やイノベーションの成果だけでなく、大きな使命にどれだけ貢献するかによっても評価される。先行きの不透明性や市場の混乱が拡大する中で、強いパーパス意識はさらに重要な要素となるだろう

ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のJohn L. Ward記念ファミリー企業臨床教授、Matt Allen氏

実践的なアイデア:パーパスを明文化し、広く宣伝すること。そして、それを顧客体験と従業員価値提案の両方に組み込むこと。ファミリービジネスの86%がその明確な価値観を指針としていますが、それを文書化しているのは61%にすぎません。文書化の欠如は、透明性と信頼性がブランド価値と信頼構築を支える現代において、チャンスの損失につながります。

PwCの『Global Workforce Hopes and Fears Survey 2024:グローバル従業員意識/職場環境調査「希望と不安」2024』では、ファミリービジネスの従業員の3分の2が自社の長期的な目標に同意し、80%は仕事が自身の価値観や信条と一致すると回答しています。ファミリービジネスは一般に従業員の定着率が高いものですが、この結果は、明確なパーパスが組織全体で従業員の意欲を強化していることを裏付けています。

2. 組織の強み(差別化)を活かす

ファミリービジネスは、慎重すぎて状況への適応が遅いと思われることが多いのですが、実際には、好業績のファミリービジネスは強み(差別化)を活かしています。伝統に縛られるどころか、個人による所有、階層の少ない組織構造、集中型の意思決定などの構造的優位性を活かし、迅速かつ決断力を持って行動しています。

ファミリービジネスに関する多くの学術研究は、長期的な経営方針や幹部の結束の強さに加え、優れた企業文化とガバナンスを持つ企業が、特に危機に際して回復力と革新性を発揮することを示唆しています。取締役会は、権限の明確な線引き、長期的な展望、迅速な資本投入により、柔軟な対応を可能にする要です。ですが、多くのファミリービジネスは組織の機敏さに弱みがあります。

意欲的なファミリービジネスは、市場需要の変化に機敏に反応しています。例えば、英国リバプールを拠点とするBibby Line Groupは、1807年にJohn Bibbyによって設立されて以来、6世代をかけて、帆船の運航業者から、金融サービスやインフラ事業を含む多角的なビジネスグループへと進化しました。

会長のSir Michael Bibby氏は、自社の絶え間のない革新を振り返って次のように語っています。「当社は、帆船から蒸気船、石油燃料の船へと進化し、現在では洋上風力発電所に対応した電気推進システムと電動船舶へと移行しています。変化は必要です。変化しなければ40年後には消えているでしょう。1世代限りです」

Bibby氏によれば、成長するファミリービジネスの課題は、長期的な利益を重視する株主、つまり家族と、ビジネスリスクを取ることに必ずしも前向きでない経営幹部との間で折り合いをつけることにあります。この折り合いは、起業から間もない企業や創業者主導の企業の強みである機敏さを維持するために特に重要であると言えます。

図表6・7:運営の強み(差別化)

過去1年間に、市場の変化、顧客からの要求、運営の課題への対応において、強みが発揮できている(差別化が図れている)と回答したファミリービジネスは、多くが商業的にも堅調な成果を上げていました。2桁成長を達成した企業は全体平均が21%なのに対し、このような企業は31%でした。

しかし、成果は売上だけではありません。強みが発揮できている(差別化が図れている)企業は、そうでない企業より、中央集中型の意思決定を採用しています(46%と39%)。中央集中型の意思決定は、企業全体で迅速かつ統一された対応を可能にするからです。強みが発揮できている(差別化が図れている)企業は、そうでない企業より長期目標を優先し(40%と28%)、積極的にイノベーションを行っています(31%と14%)。強みが発揮できている(差別化が図れている)企業がそうでない企業よりステークホルダーの高い信頼を得ていることも注目に値します(51%と29%)。 

図表8:強み(差別化)と業績の関係

実践的なアイデア:将来の成長目標に合わせ、多様な世代、ジェンダー、経験の人材で取締役会を変革します。強み(差別化)を高めるのは強固なガバナンス、つまり明確な意思決定プロセス、シナリオプランニング、柔軟な資本配分です。しかし、多様性のある取締役会を持つのはファミリービジネスの9%、家族憲章を持つのは30%にすぎません。この2つは強み(差別化)を高める大きな要因です。意図的なガバナンスによって強み(差別化)を高めることができます。

Matt Allenによれば、全てのファミリービジネスがもともと構造的な機敏さを持っているわけではありません。「機敏さのもたらす利点を活用するには、ファミリービジネスの構造上の強みを理解し、活用できる強力なリーダーを育成する必要があります。これはリーダーの交代時に特に重要となります。ファミリーは、先代が作ったものを守るだけでなく、戦略的に考え、行動できるリーダーの育成に力を注ぐことが不可欠です」

3. 資本を長期的に運用する

ファミリービジネスには伝統的に、長期的で忍耐強い投資と長期的な価値創造を重視するという特徴があります。短期的な成果と長期目標のバランスについて尋ねたところ、ファミリービジネスの4分の3が、長期目標または両立を目指すと回答しました。短期的なアプローチを選ぶのは4分の1にとどまりました。同様に、85%が利益をイノベーションに再投資し、外部からの資金調達よりも内部資本でまかなっています。これは、スピードよりも持続可能性を重視する姿勢を示しています。

図表9:長期的な価値に投資する

ファミリービジネスのリーダーはインタビューの中で、忍耐強い投資方針が競争上の優位につながると説明しました。ある2世代目の多国籍企業は、米国の大手コンビニエンスストアチェーンのサウジアラビアにおける独占フランチャイズ権を獲得しました。これは、急速に成長している小売業界への大胆な投資ですが、短期的な利益を重視する上場企業にとっては実現が難しいものです。

サウジアラビア・ジッダを拠点とするAlsulaiman Groupの設立者兼会長、Ghassan Alsulaiman博士は、次のように語っています。「この業界が時代とともに進化していることは知っていましたが、参入は難しく、長期的な投資が必要でした。ですが、当社は今後数年間の結果だけを考えているのではありません。このファミリービジネスを何世代も支えていくような投資を検討しているのです」

非常に成長率の高いファミリービジネス(前事業年度に2桁成長を達成した企業)も、成長の優先事項ではそれほど違いがありません。ただし、世代を重ねることで投資行動も成熟し、後継世代の企業ほどコアビジネスの拡大、リーダーシップの開発、そしてデジタルトランスフォーメーションに力を入れる傾向があります。まだ世代の浅いファミリービジネスは、スタートアップ企業に似ていると言えるでしょう。

図表10:長期的な投資の優先事項

PwCの分析では、長期志向の企業が短期志向の企業を常に上回る理由について、いくつかの点が明らかとなりました。長期志向の企業は短期志向の企業より、安定した持続可能な業績を示す1桁成長を遂げる割合が高いという結果が出ています(33%と21%)。長期志向の企業はコアビジネスを重視する割合が高く(78%と67%)、新技術を採用する傾向も強くなっています(21%と12%)。

興味深いのは、複数の世代にわたって家族の財務を管理するファミリーオフィスの役割です。ファミリーオフィスは従来、資産の保全に重点を置いてきましたが、実際の事例を見ると事業の成長にも寄与しています。ファミリーオフィスは柔軟な資本と長期的な視野を持ち、ファミリービジネスが、コアビジネスに負担をかけることなく、初期段階のベンチャーへの投資、隣接市場の開拓、新興技術の試験導入を行うのを助けています。この分離によって実験の余地が生まれ、成功したアイデアがファミリービジネスに戻されることも少なくないようです。

長期の投資、早期の利益

長期的な視野を持つ戦略は、特に新興技術やサステナビリティの分野で短期的な成果も上げているようです。生成AIを考えてみましょう。ファミリービジネス以外の企業のCEOのうち、約3分の1が生成AIによって売上(29%)や収益性(32%)が向上したと回答しましたが、上場ファミリービジネスの成果はそれを大きく上回っています。PwCの「第28回世界CEO意識調査」によれば、ファミリービジネスの約半数(46%)が生成AIによって売上と収益性の両方が向上したと回答しました。

同じパターンは気候変動対策への投資にも見られます。上場しているファミリービジネスは、気候変動への取り組みに長期的に投資する可能性が2倍近く高く、そしてその投資は効果を上げています。上場ファミリービジネスのCEOの46%が、過去5年間におけるサステナビリティへの投資が売上の増加につながったと回答しています。これは、非上場企業の32%、全企業の約3分の1と比べて明らかに高い割合です。

実践的なアイデア:長期的な投資戦略で自社を差別化すること。多角的な化学系コングロマリットのSRFは、現在は2世代目が運営するファミリービジネスです。同社は、慎重にリスクを取り、長期的な利益を重視して投資する企業の良い例だと言えます。

2000年代初め、インドのグルグラムを拠点とするSRFは、創業者のビジョンに従って、スペシャリティケミカル事業で大規模な研究開発投資を行いました。設立当初の財務的な困難と何年もの赤字に直面していたにもかかわらず、です。マネージングディレクターのAshish Bharat Ram氏は、次のように語っています。「今ではスペシャリティケミカルが最大の事業部門です。15年間かかり、リスクもありました。しかし、長期的なリスクを取ることができるのは、ファミリービジネスだからこそです。他の企業にはできないでしょう」

設立者の世代では、長期的な投資がしばしばビジョンや信念に基づき、直感的に行われます。ですが2世代目、3世代目になると、その理由が変わることがあります。共有のファミリーキャピタルは、チャンスと緊張の両方をもたらします。オーナーたちがコアビジネスへの再投資と事業の多角化を天秤にかけるからです。家族が日常的な経営から離れたときには、全ての投資の判断に慎重なバランスが求められます。

この段階ではガバナンスが重要です。オーナーグループの意向と企業の長期的な目標を一致させるには、明確な合意事項と意思決定の枠組みが役に立ちます。教育も重要な役割を果たします。所有、ガバナンス、そして株主の期待に関する企業能力を構築する家族は、このような緊張した状況を管理し、世代を超えて意識の統一を維持することができるでしょう。

4. 評判を守り、活用する

ファミリービジネスにとって、評判は守るべき資産であり、成長の手段でもあります。PwCの調査によれば、ファミリービジネスの経営者の重要な長期目標は、ビジネスの維持(78%)と家族の財産の保全(77%)です。これらは、配当の創出(68%)や家族メンバーの雇用(27%)よりもはるかに重視されています。

評判、つまり製品、サービス、価値観、ステークホルダーへの対応など、企業の過去の行動から形成される社会的評価は、事業の成長と比例します。ただし、評判は急速な事業拡大よりも安定した成長をもたらす場合が多いものです。評判が「非常に重要」と回答した企業は、それほど重視しない企業に比べ、成長を報告した割合が高くなっています(59%と47%)。ですがこの成長は1桁(33%と21%)のことが多く、リスク管理と事業の継続性に根ざした保守的なアプローチを取っていることが分かります。

評判を重視する企業は、長期的な業績に結びつく高い企業能力も持っていることが多いようです。具体的には、明文化されたパーパス、価値観の共有、確立されたガバナンス構造などです。評判は、世代を重ねたファミリービジネスほど重視され、組織にしっかりと組み込まれています。ファミリービジネスは成熟するにつれ、パーパス重視の戦略や組織的な方針を通じて評判を強化する傾向が高まります。そしてこの傾向が社内的にも社外的にもメリットをもたらすことがあります。Sir Michael Bibby氏は次のように語っています。「ファミリービジネスのブランディングと評判は、良い人材を呼び込むのに役立ちます。良い顧客を惹きつけ、顧客との長い関係を構築する要因ともなります」

同時に、ファミリービジネスのリーダーは、マスコミからの批判、特権に対する誤解、ガバナンスの不透明さなど、評判を失うリスクにも注意を払っています。これらは、成長に必要な戦略的な機動力を損ないかねないからです。多くの経営者は近年、マスコミの目が厳しいことを認識しています。評判の影響を受けやすい企業は一般に機動力が低く、資金に制約があり、危機に際しても対応に出遅れがちです。

図表11:悪い意味で注目を集めることは評判に対する最大のリスク

信頼の要素

信頼は評判の問題をさらに複雑にします。かつて信頼は、ファミリービジネスに代々受け継がれる強みでした。しかし今では、重要なエコシステムでパートナーを獲得したりステークホルダーの期待に応えたりするなど、信頼を得るにも競争に勝つ必要があります。ファミリービジネスの経営者の3分の2以上(74%)が、「自社は非ファミリービジネスの企業よりも信頼が高い」と答えており、昔から顧客、従業員、地域社会が抱いていたファミリービジネスの印象と一致しています。一方で、ビジネス、政府、メディア、NGOに対する信頼を測定する年次調査「Edelman Trust Barometer」によれば、この信頼の差は2015年の16ポイントから2025年にはわずか8ポイントに縮小しています。この傾向は、もはや信頼は自動的に手に入るものではなく、積極的に獲得する必要があることを示しています。

Trust Barometerのデータによれば、企業の社会的責任に関して、消費者は上場企業に対して、非上場企業やファミリービジネスとは異なる期待を抱いています。ファミリービジネスには地域に投資することが期待されます。ですがPwCの調査回答者のうち、企業市民としてリーダーシップを発揮したり、人々や地球に積極的に貢献したりする可能性を認識する人は半数以下です。この状況で沈黙は危険です。関係者の期待が変化する中で、パーパス重視の明確なコミュニケーションがなければ、ステークホルダーから疑念を持たれ、その関心を失う可能性があるでしょう。

図表12:ファミリービジネスの役割

実践的なアイデア:地域社会における自社の役割についてのメッセージを共有すること。ファミリービジネスの伝統は地域社会と密接に関係しています。多国籍ファミリービジネスとして成功し、3世代目や4世代目を迎えていても、地元との強いつながりを保つことが、競争に有利に働き、企業に対する不信感を打ち消すことがあります。

国際的なコミュニケーション企業のEdelmanのCEOであるRichard Edelman氏によれば、これには視点の転換が必要です。「目指すべきは多国籍ではなく、多地域です。今や信頼は地域を超越し、仕事上の関係や、対象となる人々が身近に感じ、共感する情報源を通じて構築されるからです」

現実にはどういうことでしょうか。Edelman氏は次のように語っています。「まず地元での仕入れを重視し、地元の生産物をサプライチェーンに組み込むことです。これは、地域に共鳴するブランドの構築、特定の国でのイノベーションへの投資、現地人材の育成と採用、信頼ある地域機関との対話や提携を通じた地域社会との関わりも意味します。企業は、地域に根ざした事業運営、人材育成、コミュニケーションにより、信頼を深めることができるのです」

Edelman氏のアドバイスは他にもあります。例えば急速に変化するメディア環境、特にソーシャルメディアを活用する力を養うため、従業員に自社のストーリーや価値観を深く理解させ、信頼できる発信者として育てることです。若い家族を直接的に事業に関わらせることも重要です。現代のメディアや消費者のトレンドに関する彼らの感覚を活用すれば、ブランドのメッセージを新鮮に維持することができます。

PwCのグローバルファミリービジネスサーベイ2025は、世界のファミリービジネスの転換期を明確に示しています。経済の混乱、急速な技術革新、ステークホルダーの要求の変化によって形づくられた環境の中で、一部のファミリービジネスは、伝統的な回復力に大胆な進化を組み合わせて際立った成長を遂げています。主な結果は以下のとおりです。

  • パーパスが差別化要因:明確なパーパスを定義し、戦略に組み込んでいる企業は、常にそうでない企業より高い業績を上げている。パーパスは組織をまとめるビジョンであり、競争上の強みでもある。
  • 構造に起因する機敏さ:ファミリービジネスの多くは、個人による所有と効率的なガバナンスにより、消費者の変化やテクノロジーニーズに迅速に適応できる。機敏さは、劇的な変化の時期に特に重要である。
  • 長期的な投資の優先事項:ファミリービジネスは、長期的な資本を活用し、関連分野だけでなく非関連分野にも柔軟に投資できる。世代を超えた忍耐強さにより、短期的な市場の圧力に縛られず、長期的な展望で成長を遂げることができる。
  • 防御と推進力としての評判:信頼性の高い評判は、不安定な市場で企業を守るが、変化の激しいメディア環境では積極的な管理が必要である。評判をうまく活用すれば、地域社会の信頼を深め、成長することができる。

今後、ファミリービジネスの長期的な耐久力は、時代を問わない強み(パーパス、長期資本、評判など)と、機動力とガバナンスを中心とした革新的な戦略の組み合わせに支えられるでしょう。この変化を受け入れる企業こそ、自社の遺産を守るだけでなく、世界的な経済力を拡大することになります。

おわりに

本調査にあたり、日本においても127名のファミリービジネスのオーナーにインタビューを実施しました。グローバルと日本の結果を比較した結果、以下の示唆が得られました。

  • 日本・グローバルともに過半数が、「長期的な視点」「柔軟性・機敏さ」「共有された価値観・カルチャー」を競争優位性と認識
  • 日本では、非ファミリービジネスと比較したファミリービジネスの信頼性の側面で、グローバルと比較して評価が低い
  • 日本では、明確なパーパス(目標・存在意義)を有する割合が高く、社外への発信も積極的に行っている一方、「家族への伝達」という観点では低く、またその価値観が明文化されておらず、家族内で定義された行動規範や文書化された家訓は備わっていない傾向
  • 日本では、「ガバナンス」や「紛争管理」を課題とするファミリー企業は少なく、ガバナンスポリシーの整備が進んでいない状況

グローバル調査との比較結果に関する詳細なレポートについては、今後セミナーなどで発信していく予定です。

サーベイについて

PwCのグローバルファミリービジネスサーベイ2025は、グローバルでのファミリービジネスの意識調査です。調査の目的は、ファミリービジネスの経営者が自社やそのビジネス環境をどう考えているかを把握することにあります。調査は、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のJohn L. Ward記念ファミリー企業センターとの協働でオンラインで実施。2025年4月1日から6月17日までに、62のテリトリーで1,325人へのオンラインインタビューを実施しました。回答した企業には、売上高1,000万米ドル未満(18%)から数十億米ドルの企業(9%)が含まれます。半数以上(54%)は年間売上高が5,100万米ドルを超え、41%は1億100万米ドルを上回ります。調査に参加した企業の34%は消費財・小売業に携わり、残りは金融サービス、技術、医療産業が多数を占めています。

※本コンテンツは、PwC’s 12th Family Business Survey Reclaiming advantageを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

本多 守

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

望月 文太

パートナー, PwC税理士法人

Email

佐々木 真美

パートナー, PwC税理士法人

Email

林 雄高

パートナー, PwC税理士法人

Email


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