産業機械・自動車分野における世界のM&A動向：2022年上半期アップデート

自動車

• サプライチェーンの混乱と熟練労働者の不足により、OEM（相手先ブランドによる生産）メーカーは新車需要に対応することが難しい状況が続いていますが、2022年はさらに新たな課題が発生しています。ロシア・ウクライナ紛争は、主に欧州の自動車会社の生産とサプライチェーンに打撃を与えています。インフレ、エネルギー価格の高騰、ニッケルや鋼鉄といった原材料価格の上昇により、生産予算が増加し、サプライヤーのマージンに下押し圧力が生じています。
• 現在のビジネス環境をマクロ経済学的に、そして地政学的に考えると、2022年上半期にM&Aの件数と金額が減少したのは意外ではありません。しかし、内燃機関（ICE）の生産が減少し、eモビリティへの移行が続くことから、OEMの間ではテクノロジーの獲得に向けた強い意欲が見られます。そのため、サプライチェーンの問題や熟練労働者の不足に対処する、あるいは電気自動車（EV）用バッテリーに不可欠な鉱物など主要な原材料へのアクセスを得ることを目的とした具体的なディールが見込まれます。そしてOEMは非中核資産を売却し、有望な新技術に（多くの場合は自社のベンチャーファンド経由で）投資することで、ポートフォリオの最適化を図ることが予想されます。
• 課題を抱えるパワートレイン分野のサプライヤーにとって、M&Aの焦点は統合になると思われます。特にドイツとイタリアには、さらなる資金調達や買い手の確保が困難なディストレスト資産が数多く存在します。貸し手は自動車セクターへの高水準のエクスポージャーを懸念して一段と慎重になる可能性が高く、今後6カ月の間に、これらの企業が債務を借り換える能力に影響を与えるかもしれません。結果として、一部の企業は2020年に受けたCOVID-19関連の資金支援について再交渉する必要に迫られる可能性があり、2022年下半期にはディストレストM&Aや再編活動が活発化すると予想されます。

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ビジネスサービス

• ビジネスサービス分野におけるM&A活動は活発であり、テクノロジーを駆使したサービス提供モデルに特化した資産に対するディールマルチプル（倍率）は依然として高い水準にあります。COVID-19のパンデミックの影響を受け、従来型のサービスからテクノロジーを駆使したサービスへの移行が加速しており、ワークフローのデジタル化や、より質の高いサービスの効率的な提供を可能にするケイパビリティに対する需要が増え続けています。
• 検査・認証・試験などの分野では、パンデミックによるメンテナンスの遅れ、規制の強化、エンジニアリングやテクノロジーの進歩に伴う複雑性の高まりといった影響により需要が拡大しており、投資家の関心は引き続き高いです。ロシア・ウクライナ紛争の影響により、欧州では石油・ガス関連インフラ向けの検査・寿命延長認証サービスが伸びています。
• 労働力不足が続き、ビジネスリーダーが重要なケイパビリティの獲得や、事業の一部売却またはアウトソース化を模索するなか、アウトソースサービスへの需要は引き続き高いです。また、戦略として成長よりも価値に重点を置くことを目的とした、より創造的なサービス提供モデルが増えつつあります。これには、ハイブリッドな人材配置モデルの拡大や、完全アウトソース型のマネージド・サービス・モデルの開発が含まれます。しかし、成長機会を創出してきた熟練労働者が不足していることから、これらの企業がサービスを短期的に効率よく拡充するには困難が伴う可能性もあります。
• PEは、教育テクノロジー（Edtech）や遠隔トレーニングのサブセクターに関心を示し続けています。企業の間では、遠隔地においても専門知識やケイパビリティを提供できる方法を求める声が高まっています。企業は企業研修にとどまらず、労働安全や環境安全衛生（EHS）コンプライアンスといった分野にもサービスを拡大し始めています。ESGは戦略的にホットな話題であり、この種のサービスは、企業が中期的にESG目標を達成するのに役立つという点で魅力的です。
• ルートベースのサービスといった従来型のビジネスサービスでは、特に清掃・消毒、害虫駆除、設置・修理サービスなどの非常に細分化された市場において、統合がさらに進むことが予想されます。M&A活動の多くは地域ごとに行われる見通しで、特に欧州では地域ごとに少数の支配的なプレーヤーが誕生する可能性があります。

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エンジニアリング・建設

• エンジニアリング・建設（E&C）業界は、世界的なサプライチェーンの混乱、商品価格の上昇、熟練労働者の不足といった課題に引き続き直面しています。これら課題の全てがプロジェクトの遅延を招いていることから、すでに厳しい状況にあるマージンへのプレッシャーを増大させています。このセクターの低いマージンは、PE投資家にとってあまり魅力的ではなく、2022年上半期は主にPE案件が減少したことで、M&A件数は低迷しました。
• 米国のインフラ投資・雇用法、EUの復興計画「次世代EU（NextGenerationEU）」など、公共投資やインフラ資金により、道路や橋などの建設プロジェクトに対して資金がさらに投入されるでしょう。これらの資金は時間をかけて投じられますが、それでも短期的にはM&A活動を後押しすることが予想されます。
• エンジニアリングと建設の両サービスを提供する企業がますます減少する一方で、戦略的ケイパビリティを有する1つの分野に集中することが好まれています。そのため、両方のサービスを依然として提供する企業はポートフォリオを見直し、非中核資産を売却して資本と経営陣の時間を解放するなど、中核事業に集中することが予想されます。
• 今後2022年末にかけては、地域の統合機会やコストシナジーを追求する企業の間で、小規模な戦略的買収が行われると予想されます。特にグリーンエネルギー分野における革新的技術のボルトオン型買収、エンジニアや新技術の専門家など特定の技術的ケイパビリティの買収が行われると考えられます。

産業機械

• エネルギーや商品の大量消費者であるメーカーの多くは、エネルギー価格の高騰や商品相場の変動の影響を強く受けており、労働力などの投入コストの著しい増加を経験してきました。
• インフレの影響で、ディールメーカーはコストやマージンを正確に予測することが難しくなっており、結果として保守的な価値観が強まると思われます。この状況において、多くのプレーヤーが業界の利益プールにおける自社のシェアを守るために、価格戦略やジョイントベンチャー、業務提携に取り組んでいます。
  
• サプライチェーンの混乱は多くの企業にとって依然として問題であり、ビジネスリーダーはサプライチェーンのレジリエンス向上を目指すなかで、ターゲットを絞ってM&Aを行うことが予想されます。また、市場の変動にうまく対応し、自社のマージンを守るために、バリューチェーンのさまざまな部分に投資しようとする企業もいくつか見られます。これらは、主要なインプットに対するコントロールを確保するための後方垂直統合、または流通チャネルに対してより多くのコントロールを得るための下方垂直統合のいずれかになる可能性があります。米国、英国、EUやその他の国々における規制環境が厳格化されていることから、ディールメーカーは大規模な案件にはつきものの規制当局の監視を避けるため、小規模な案件を進めることになるかもしれません。
  
• 産業機械セクターにとって、テクノロジーは引き続き優先的な重点分野であり、M&Aを行うことで産業プロセスや業績、安全性の向上に役立つ自律制御ソフトウエアや他の新しいデジタル技術といった革新的ケイパビリティの獲得を進めています。産業プロセスに適用される自動化とAIへの新たな投資には明確な道筋があり、農業機械など特定のニッチ分野では、テクノロジーと産業機械との強力な収れんが見られます。
  
• 大企業はキャッシュフローの水準を維持するために、価値保全戦略を採用することが予想されます。インフレによって実質投資リターンが短中期的にマイナスになる見通しの場合には、戦略的ポートフォリオの見直しや、非中核資産の売却がさらに促される可能性があります。
  
• ビジネスリーダーたちは引き続きESGに係る課題に注目しています。同時に企業はグリーンケミカル、グリーンセメント、持続可能な建築製品といったグリーンソリューションへの投資を検討し、ディールメーカーは投資戦略にESG基準を組み込んでいます。