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PwCコンサルティング合同会社は2025年4月に「サプライチェーンにおけるAI活用実態調査」を実施しました。
地政学リスクの高まり、各国の貿易政策、米中問題、自然災害の甚大化、サイバーセキュリティリスクの高まり、顧客ニーズの多様化といったさまざまな外部要因によってサプライチェーンの複雑化が進んでいます。そうした状況下で、企業競争力を維持し、持続可能な成長を実現するためには、サプライチェーン全体でのデータ・テクノロジー活用が不可欠となります。一方で、PwCが2024年に実施した「バリューチェーンデータ連携実態調査」では、多くの企業が顧客データ、サプライヤデータ、外部データの収集・活用において課題を抱えていることが分かりました。
昨年の結果を受けて今年の調査では、サプライチェーンにおけるデータ収集・活用状況に加えて、AI技術が急速に発展する近年の状況を踏まえ、サプライチェーンにおけるAI活用状況と活用に向けた課題について、サプライチェーンに関わるさまざまな部門の経営幹部やリーダー計506名に伺いました。
本調査では、データを「顧客データ」「サプライヤデータ」「外部データ」の3種類に分類し、それぞれの収集・活用状況について調査を行いました。昨年PwCが実施した「2024年バリューチェーンデータ連携実態調査」(以下、前回調査)と比較した結果、各種データの収集率は向上した一方で、活用率は低下する傾向が見られました。
顧客データおよびサプライヤデータに関しては、昨年と比較して、エンドユーザー・N次サプライヤ(直接取引のない二次以降のサプライヤを指す)までの情報収集が進み、前回調査時よりも収集範囲が拡大しています。顧客データに関しては、エンドユーザーまでのデータを取得できているとの回答は昨年が32%であったのに対し、今年は74%まで向上し、サプライヤデータに関しては、昨年の27%から今年は64%に向上しました。一方で、顧客データ・サプライヤデータのいずれも、データ活用率に関しては低下しています。
外部データは収集率が前回調査と同様に9割弱と高水準を維持しているものの、活用率は他のデータと同様に前回調査より低下しています。
上記結果より、扱えるデータ量が増加した一方で、膨大なデータの洪水に飲み込まれて扱いきれていないことが伺えます。
さらに、昨今のテクノロジーの急速な進化を背景に、データ活用に対する期待が高まっている一方で、PwCが実施した「オペレーションのデジタルトレンド調査2025」の調査結果でも示されているとおり、想定する効果を得られている企業が少ないことも影響していると考えられます。
(質問1)どの顧客階層までデータを収集できていますか
(質問2)どのサプライヤ階層までデータを収集できていますか
(質問3)外部データを収集できていますか
(質問4)各種データを有効活用できていますか(活用できているという回答の割合)
データ種別で見ると、一次顧客データ、一次サプライヤデータの順にAIの活用率が高くなっています。サプライチェーンにおいて、自社と直接接点のある企業・ユーザーのデータは活用できている一方で、エンドユーザーやN次サプライヤのデータなど、自社と直接接点がない企業・ユーザーのデータほど十分に活用できていないことが分かります。
一次顧客データは需要予測やカスタマーサポート、一次サプライヤデータは支出傾向分析や与信管理など、比較的活用の道筋が見えやすく、既存業務の延長線上でのデータ活用が進んでいると考えられます。
また、外部データについては、気象情報や位置情報、SNSの口コミなどを入手できる機会が増えているものの、効果的な活用先が見出せていない企業が多い可能性があります。
(質問5)収集したデータを有効活用するにあたって、AI・生成AIを活用していますか(活用しているという回答の割合)
活用度合いが高い業種
| 顧客データ | サプライヤデータ | 外部データ | |
| 1 | 通信サービス | 通信サービス | 通信サービス |
| 2 | 電気、電子機器 | 建設 | 建設 |
| 3 | 卸売・小売業・商業(商社含む) | 電気、電子機器 | エネルギー |
活用度合いが低い業種
| 顧客データ | サプライヤデータ | 外部データ | |
| 1 | その他製造 | その他製造 | その他製造 |
| 2 | 機械、重電 | 自動車、輸送機器 | 運輸 |
| 3 | 自動車、輸送機器 | 機械、重電 | 機械、重電 |
AIの活用状況は、業界を取り巻く環境や規制・ルールに大きく左右されます。
通信サービス業界は、AI関連サービスを自ら提供している企業が多く、AIに係るケイパビリティを自社で有しており、業界全体でAI導入が進展していると考えられます。
電気・電子機器業界では、受注生産やカスタマイズ対応が多く、顧客ごとの要望に応じた提案が求められます。過去から蓄積された購買履歴や保守履歴などの顧客データが豊富であり、業界としてデジタルトランスフォーメーションの土台が整っていることから、顧客データやサプライヤデータでのAIの活用が進んでいると考えられます。
建設業界では、人手不足が深刻化しており、生産性維持のためにAI活用せざるを得ない状況にあると推測されます。
小売業界では、ECと店舗を横断した顧客データの収集・分析がマーケティングや在庫管理に直結しており、需要予測にAIが活用されていると考えられます。
一方、AIの活用度合いが低かったその他製造業界や機械・重電業界では、紙資料による情報管理が残っており、データ整備の遅れがAI導入の障壁となっていると考えられます。
自動車・輸送機器業界では、事業部制や複雑な販売チャネル構造により、サプライヤデータや顧客データの統合が難しく、AIの活用が限定的となっていると推測されます。
AI活用の狙いに関する回答では、「傾向分析・シミュレーション」と「ドキュメント作成の自動化」が42%と、同率1位で最も高く、次いで「データ入力などの定型業務の自動化」「カスタマー/ユーザーサポート」の順でした。対して、「新規アイデア創出」や「意思決定の迅速化・高度化」は、それぞれ15%、26%と低く、総じて、過去の分析や業務効率化へのAI活用がメインで、付加価値を創出する領域への活用を目指している企業は依然少ないことが伺えます。
一般的に日本企業は、目の前の業務をいかに効率的に実施するかといった改善には長けている一方、新たなものをゼロから創り出す点ではグローバル企業に後れを取っている傾向があります。当然ながら、効率化・価値創出のどちらを狙いとするべきかに関しては、業務特性によるところはあるものの、単なる効率化だけではなく、企業価値向上に寄与するようなAI活用を模索することが重要と言えます。
(質問6)AI・生成AIの活用の狙いは何ですか(複数回答可)
AI/デジタルツールの導入状況に関して、サプライチェーン全体においては、「導入済」が11%、「試験導入中」が14%、「必要性を認識しているが未導入」が22%、「表計算ソフト・マクロ・BIなどのデジタルツールを導入」が29%、「未導入」が10%の回答で、試験導入を含め何らかの導入段階に至っている企業は全体の25%程度でした。さらに、「導入済み」のうち、「将来予測や付加価値創出を実現している」と回答した企業は、全体の僅か2%でした。
PwCの「オペレーションのデジタルトレンド調査2025」では、米国に拠点を置くC-suiteエグゼクティブ、上級管理職、ディレクターおよびマネージャーを対象として調査を実施しました。これらの企業では、調査回答者の半数以上(53%)が、サプライチェーンの混乱を予測し軽減するために、AIがいくつかの領域または広範囲にわたって使用されていると述べています。2つの調査結果を比較すると、日本企業がグローバル企業に明らかに後れを取っていることが伺えます。
また、サプライチェーンの領域別に見ると、計画領域で比較的AI導入が進んでいます。調達領域は、「必要性を認識しているが未導入」と「表計算ソフト・マクロ・BIなどのデジタルツールを導入」の割合の合計が58%と、他領域よりも高い傾向があります。業務が属人化しやすく、個々人での必要性認識やツールレベルの努力は進んでいるものの、組織的なAI導入は途上の企業が多い可能性が考えられます。また、物流領域は、「導入済」と「試験導入中」が合計18%、「必要性を認識しているが未導入」が21%と、最もAI導入が進んでいないことが伺えます。グローバル先進企業では、輸配送・倉庫作業においてAI活用しているものの、日本企業においては未だ現場でのアナログ作業に終始している企業が多いと言えそうです。
(質問7)AI・生成AIの活用状況について教えてください
AI導入済の企業を対象に、期待した効果が得られているかを調査した結果、「まだ効果を評価できていない」の回答が最も多く、全体の28%でした。次いで、「一部期待を下回る」が23%、「期待した効果を得られていない」が19%でした。反対に、「当初期待した効果を大きく上回っている」はわずか1%、「期待どおりの効果を得られている」は18%で、多くの企業で期待どおりもしくは期待以上の効果は得られていないことが伺えます。
さらに、期待以上の効果が得られている理由の上位3つに、①適切な目標設定、②具体的なユースケースの設定、③開発・利用環境・利用ツールの整備が挙げられており、目的・目標設定と開発基盤整備が鍵であると言えるでしょう。反対に、期待を下回る理由の上位3つには、①推進体制の整備、②ガバナンスの整備、③データ品質・信頼性が挙げられており、基盤(体制、ガバナンス、データ)の整備が足枷となっている可能性があります。
(質問8)AI・生成AIの活用において、当初期待していた効果を得られていますか
(質問9)AI・生成AIの効果が期待以上/期待以下である理由は何ですか(複数回答可)
AI活用状況を、サプライチェーンの各領域(計画業務、調達業務、製造業務、物流業務、アフターサービス・アフターセールス業務)で見ると、いずれの領域においても、「定型化しやすい業務」において、比較的AI活用が進んでいることが分かりました。
これに対して、担当者が属人的に行いがちな業務、複数の関係者調整が必要となる業務、状況に応じた判断が求められる業務へのAI活用はこれからと言えるでしょう。
計画業務のうち、AI導入済みである割合が一番高い業務は販売・需要計画の18%(※)でした。一方、業務効率化だけでなく将来予測や付加価値創出といった高度化の部分で活用度が比較的高い業務は生産計画でした。AIは、定型・予測型業務に強く、非定型・対応型業務には弱いという特性があり、販売・需要計画や生産計画では活用が進む一方、アフターサービス計画の領域では導入が限定的であることが考えられます。
※小数点第1位まで加味した際に、他業務と比較して販売・需要計画が18.0%(次点の全体計画は17.6%)と最も高い
(質問10)計画領域におけるAI・生成AIの活用状況について教えてください
調達業務を、調達戦略・計画策定、ソーシング(サプライヤ・価格決定)、パーチェシング(発注・支払)、データ分析(サプライヤ評価・支出分析)の業務プロセス別に見ると、AI導入が比較的進んでいるのは調達戦略・計画策定業務という結果でした。過去の調達・購買実績を用いて、定型的に行える範囲で計画策定業務へのAI適用が進んでいる一方、特に定型化が難しいソーシング業務やデータ分析などへの応用はこれからと言えるでしょう。
(質問11)調達領域におけるAI・生成AIの活用状況について教えてください
製造業務のうち、AI導入済みである割合が一番高いのは製造工程や生産レイアウトに関する設計などを含む「生産準備」の9%であり、付加価値創出に向けたAI活用も、他業務と比較すると進んでいることが伺えます。一方、「生産」段階でのAIの導入は既存設備の更改や外注企業との調整などが必要であることがハードルとなり、導入が進んでいない傾向にあると推測されます。
(質問12)製造領域におけるAI・生成AIの活用状況について教えてください
物流業務において、AIが導入済みである割合が最も高かったのは「業務設計」の10%でした。物流業界では、近年の人手不足を背景に、ドライバーの負荷軽減を目的とした属人的な配送計画へのAI活用が進んでいると考えられます。また、災害などのリスクに備えたBCP(事業継続計画)対策のニーズも高まっており、今後は配送におけるサプライチェーン全体の貨物追跡においても、AIの活用がさらに進展していくことが予想されます。
(質問13)物流領域におけるAI・生成AIの活用状況について教えてください
アフターサービス・アフターセールス領域において、AI活用が最も進んでいるのは「顧客対応」であり、導入率は16%でした。一方で、サブスクリプションや延長保証の提案など、収益化施策におけるAI活用は10%にとどまっています。顧客対応は、過去の対応履歴などのデータが蓄積されていることに加え、業務がある程度定型化されているためAIとの親和性が高く、導入が進んでいると考えられます。一方、販売チャネルが多様化している現在では、収益化施策においてはより高度な分析やパーソナライズが求められるため、AI活用はまだ成長途上にあると推察されます。
(質問14)アフターサービス・アフターセールス領域におけるAI・生成AIの活用状況について教えてください
今回の調査結果から、多くの企業で、サプライチェーンにおけるデータ収集は昨年と比較して進んでいることが分かりました。一方で、収集したデータを活用できていると回答した企業の割合は昨年より低下しており、膨大なデータを扱い切れていない状況が伺えます。
特に、サプライチェーン上で自社と直接接点のない企業・ユーザーのデータほど、収集はしているものの、活用できていない傾向にあります。不確実な時代において、レジリエントなサプライチェーン構築にあたっては、一次顧客・一次サプライヤのみならず、サプライチェーン全般にわたるデータ連携・活用が課題と言えるでしょう。
本課題を解決するにあたっては、AIをはじめとするテクノロジー活用が鍵と考えられます。一方、サプライチェーンにおいてAIを活用できているとの回答(試験導入段階を含む)は、全体の25%でした。
PwCの「オペレーションのデジタルトレンド調査2025」では、米国に拠点を置く企業を中心に調査を実施し、調査回答者の半数以上(53%)が、AIがいくつかの領域または広範囲にわたって使用されていると述べています。日本企業は、グローバル先進企業に明らかに後れをとっていると考えられます。
さらに、AI活用の狙いについて、総じて、過去の分析や業務効率化がメインで、付加価値を創出する領域への活用を目指している企業は依然少ないことも分かりました。既存の延長線上だけではなく、将来からのバックキャスト思考で、あるべき姿を描いてAI活用の道を模索することが重要ではないでしょうか。
さらに、AI導入が進んでいる企業を対象とした、期待効果の獲得度合いについては、期待どおりまたは期待以上の効果を得られているとの回答は全体の20%にとどまり、多くの企業で期待効果を得られていない、または、まだ効果を評価できていない段階にあることが分かりました。AI活用を単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、経営層自らが目的・目標を設定し、活用に向けたユースケースの具体化、人材・データ・システムなどの活用基盤整備を進めていくことが必要と言えるでしょう。
サプライチェーンの領域別(計画業務、調達業務、製造業務、物流業務、アフターサービス・アフターセールス業務)で見ると、いずれの領域においても、「定型化しやすい業務」において、比較的AI活用が進んでいる一方、属人的になりがちな業務、複数の関係者調整が必要となる業務、状況に応じた判断が求められる業務へのAI活用は道半ばであることが分かりました。「定型化が難しい業務」にこそ、サプライチェーンの価値を最大化するポテンシャルが眠っていると考えられます。
目の前の見えている業務の効率化改革のみならず、現在できていない・やり切れていない業務を新たに設計し、テクノロジーを最大限活用して高度化を進めることが、レジリエントなサプライチェーン構築につながるのではないでしょうか。
本調査が、サプライチェーンにおけるAI活用を促進し、レジリエントなサプライチェーンの構築、ひいては企業競争力向上の一助となれば幸いです。
会社規模:従業員数 |
1,000人以上~3,000人未満 |
3,000人以上~5,000人未満 |
5,000人以上~10,000人未満 |
10,000人以上~20,000人未満 |
20,000人以上 |
回答者数 [人] |
122 |
108 |
69 |
63 |
144 |
インターネット調査(株式会社日経リサーチの日経IDリサーチサービスを利用)