AI時代のB2Bビジネスと、人に求められる力

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  • 2026-07-30

はじめに|問われているのは「AIを使うか」ではない

生成AIの普及によって、B2Bビジネスの購買や営業は大きな転換点を迎えています。しかし本質的な変化は、「AIを使う企業が増えた」ことそのものではありません。

変化の核心は、比較・検討・意思決定・実行といった顧客(買い手)の購買プロセスの中核を、AIが自律的に担い始めたことにあります。具体的には、顧客のAIエージェントが要件を定義し、営業(売り手)側のAIエージェントが条件を提示し、両者のAIエージェント同士が交渉し合意に至るようになっています。これまで人が段階的に進めてきたファネルは、AIエージェント間の対話によって圧縮され、やがて原型をとどめなくなるでしょう。これは単なる業務効率化ではありません。調達という行為の主体そのものが、人からAIへと移行する構造変化と言えます。

こうした動きの中で、B2Bビジネスの購買や営業では以下の変化が同時に進行しています。

  • 検討プロセスが直線ではなくなり、順序の前提が崩れる
  • 課題探索や要件定義といった「考える前段」をAIが担う
  • 営業・マーケティング・購買といった機能分業の境界がなくなり始める

本稿では、まず購買の構造そのものがどう変わるのかを俯瞰し、次に買い手と売り手それぞれの変化を整理した上で、AI前提の時代に企業と人材に何が求められるのかを考えていきます。

営業・顧客の行動様式はどう変わるのか|構造変化の全体像

B2Bビジネスの購買の変化を個別のプロセス改善として捉えると、本質を見誤ります。起きているのは、購買という行為の「構造」そのものの転換です。

第1に、顧客側の検討プロセスが一気に進むようになることが挙げられます。従来の購買は「認知→興味→比較→検討→決裁→発注→評価」という直線的なファネルを前提としていました。しかし顧客側のAIエージェントが課題検知から候補比較、条件整理までを同時並行で処理するようになると、ファネルの各段階は重なり合い、順序は崩れます。つまり「まず認知させ、次に興味を喚起する」という営業側のシナリオが機能しにくくなります。

第2に、購買の起点が変わります。これまでは現場担当者が課題を感じ、上司に相談し、情報収集してから購買につながる流れが一般的でした。今後は顧客側のAIエージェントが社内データ・市場動向・契約更新時期などのシグナルを常時監視し、人が課題を意識する前に購買プロセスを起動する方向に進むと考えられます。つまり、購買の起点は「人の気づき」から「AIの検知」へ移行すると言えます。

第3に、「常時評価」が常態化します。展示会で名刺を交換し、数週間後にフォローコールをするという「点の接点」は意味を持ちにくくなります。これからは買い手側のAIエージェントは常時市場を巡回し、企業やサービスを常時評価・比較する「コンティニュアスマーケットプレイス(Continuous marketplace)」のような概念が出現するでしょう。営業側にとって重要なのは、瞬間的なキャンペーンではなく、情報が常に最新で、一貫性があり、構造化されている「状態」を維持し続けることです。

第4に、機能分業の前提が崩れると考えられます。マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスがアプローチし、フィールドセールスがクロージングするという直線的な分業は、ファネルの圧縮とともに意味を失うとみられます。買い手側のAIエージェントは機能の境界を意識しません。営業側もまた、「誰がどのフェーズを担うか」ではなく、「どの瞬間に、どのような価値を届けるか」を基準に組織を再設計する必要があります。

これらの構造変化は、買い手と売り手の双方に根本的な行動変容を求めます。以降では、それぞれの視点から具体的な変化を整理します。

顧客はどう変わるのか

購買構造の転換は、顧客側の日常業務を具体的にどう変えるのでしょうか。ここでは5つの変化として整理します。

1.探す前に、課題は「検知」される

従来は担当者の気づきから購買が始まりました。今後は購買エージェントが社内外のシグナルを常時監視し、課題を先回りして購買行動を開始します。営業側に求められるのは、顧客側のAIに正しく「理解される」一次情報を整備し続けることです。

2.検討は「コンティニュアスマーケットプレイス」で進む

顧客側では、特定のAIエージェントが常時巡回するのではなく、大規模言語モデル(LLM)が必要に応じて市場の情報を取り込み、企業やサービスを評価します。企業は、AIが理解できる形で情報を整備し、継続的に更新していなければ検討対象に入りません。展示会や単発の資料請求といった「点の接点」は意味を持ちにくくなり、情報が最新か、一貫性があるか、提供価値が構造化されているかという「状態」が問われます。誰もがAIを用いて情報を高速に整備できるようになるため、情報量の厚みと豊富な経験値を備えた「筋肉質な状態」であること自体は差別化要素にならなくなります。

3.意思決定の下準備は、すでにAIが終えている

条件整理、リスク論点の洗い出し、選択肢の絞り込みまでをAIが担います。顧客側での合意形成は消えませんが、社内の意思決定ユニット(利用部門・IT・購買・経営層)における合意の前提は、すでにAIによって整えられています。

その上で、営業側に求められるのは、情報の説明ではなく、部門横断で意思決定の成立条件を設計することです。例えば、コスト制約を重視する購買部門、セキュリティ要件を重視するIT部門、現場での運用負荷を気にする利用部門など、それぞれの優先順位を踏まえ、課題の本質を見極めます。そして各ステークホルダーにとって意味の通る形に論点を整理し、利害を調整して合意を成立させる役割も営業側にとって必要になります。

4.実行は自動化され、責任は「内部統制設計」で決まる

発注・契約・手続きは顧客側のAIが担う領域へ移行します。「AIにどこまで任せ、誰が責任を負うのか」という責任分界と説明可能性の内部統制の設計を曖昧にすれば、信頼は簡単に損なわれます。ガバナンスと設計思想が企業価値を左右する局面に入っています。

5.購買は終わらない。顧客は成果を常に評価する

顧客側のAIは利用状況やROIを継続的に評価し、「想定ほど使われていない」「期待した効果が出ていない」といった兆候を即座に可視化するようになります。その結果、営業側のカスタマーサクセスに求められるのは、報告ではなく、AIも活用しながら迅速にオンボーディングと定着化を進め、成果創出までのリードタイムをいかに短縮することです。単に顧客側の運用を支援するだけでなく、チェンジマネジメントを通じてAIの活用を加速させ、早期に成功体験を生み出すパートナーであることも営業側には求められます。

営業の変遷

顧客側の変化を見てきました。では、売り手、すなわち法人営業はこれまでどのような進化を遂げてきたのでしょうか。歴史を振り返ることで、「これから何が変わるのか」の座標軸を定めます。以下、年代ごとに4つの時期に整理しました。

第1期:属人的関係の時代(~1990年代)

法人営業の原型は「足で稼ぐ」ことにありました。何度も通い、信頼を積み上げ、人柄で受注を得ていました。求められる人間力は明確で、約束を守る誠実さ、困ったときに駆けつける義理堅さ、人として好かれる魅力が重要でした。

第2期:プロセスと情報の時代(2000年代~2010年代)

SFA/CRMの普及で、営業は可視化・管理され、「情報を制する者が勝つ」時代が到来しました。人柄に加え、業界知識の深さ、事例の引き出し、データに基づく提案力といった「情報量の厚みと豊富な経験値」による筋肉質な状態が評価されるようになりました。

第3期:インサイト提供の時代(2010年代後半~現在)

顧客が自ら情報収集できるようになり、「知っていること」の希少性は低下しました。求められる価値は、情報を顧客固有の課題に翻訳し、示唆を与える「課題接続力」へと移行しました。

第4期:AI前提社会(これから)

生成AIにより、第2期の「筋肉質な状態」はコモディティ化しています。第3期の「課題接続力」については、AIの支援を受けて多くの人材が一定水準の力を獲得しつつあります。

売り手はどう変わるのか

歴史を踏まえた上で、これからの営業組織の各機能が向かう先を考察します。以下に示すとおり、人が担うべき領域は、より価値の高いコミュニケーションにシフトしていくと考えられます。

  • マーケティングは、営業側のリード獲得から「買い手側のAIとの接点設計」へ
  • インサイドセールスは、営業側組織内機能としては縮小・統合へ
  • フィールドセールスは、営業として課題解決と合意形成支援に集中
  • カスタマーサクセスは、営業側機能として成果の創出にコミットする役割へ進化

AI導入・活用に向けた4つのステップ

ここまで述べてきた変化は、一夜にして起こるものではありません。多くの企業にとって、現実は「AIエージェントが購買を主導する世界」からはまだ距離があります。だからこそ、段階的な移行の道筋を持つことが重要になります。

以下は、B2B購買・営業におけるAI活用の成熟度を4段階で整理したものです。

図表1:Step 0 Human-only(アナログ起点)の概要

Human-only(アナログ起点) の概要

出所:PwC作成

図表2:Step 1 Digital-ready(デジタル基盤の構築)の概要

Digital-ready(デジタル基盤の構築) の概要

出所:PwC作成

図表3:Step 2 AI-Augmented & Continuous(AIによる業務加速と常駐化)の概要

AI-Augmented & Continuous(AIによる業務加速と常駐化) の概要

出所:PwC作成

図表4:Step 3 Controlled Autonomy(自律実行)の概要

Controlled Autonomy(自律実行)の概要

出所:PwC作成

PDFでは、AIエージェント時代に向けて企業が今から取り組むべき具体施策と、B2Bビジネスの営業やマーケティング機能の変革に関するロードマップについて詳しく解説しています。

AI時代のB2Bビジネスと、人に求められる力

( PDF 1.46MB )

執筆者

堀口 陽介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

岩下 達郎

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

有田 シャノン実花子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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