急増する需要、生産能力への圧力。航空宇宙・防衛の次なる展開は?

世界の航空宇宙・防衛:業界の年間業績と見通し 2025年版

世界の航空宇宙・防衛:業界の年間業績と見通し 2025年版
  • 2025-12-15

日本市場における概観と提言

航空宇宙・防衛産業の全世界での2024年売上高は過去最高の9,220億米ドルに達しました。民間航空のアフターマーケット需要や防衛・宇宙分野の市場拡大が業界の成長を支えた一方で、生産能力の制約など、業界が抱える構造的な課題も引き続き浮き彫りとなっています。

こうしたグローバルな潮流の中で、日本の航空宇宙・防衛産業も各分野で新たな展開を見せています。以下では、日本市場における各分野の動向と今後の展望について概観します。

日本企業はこれまで、高品質な製造能力を強みに、米国航空機メーカーの主要Tier1サプライヤーとして業績を拡大してきました。しかし、特定の航空機メーカー依存の収益スタイルから世界の市場拡大に追従できておらず、航空機メーカーによる内製化や地政学的な観点での製造拠点のアジア・太平洋地域へのシフトにより、従来の事業規模を確保できるかどうか、不透明な見通しです。

このような状況下において、日本の民間航空産業を成長させていくためには、以下のような取り組みが必要になると考えます。

  • 生産体制のデジタル化・自動化の加速、高品質なサービス提供による他国企業との差別化、リスクシェアリングを進めることで、海外OEMとより強固な関係性を構築
  • インテグレーション能力の獲得に向け、技術開発への投資にとどまらず、政府の支援を得て海外OEM連携を強化し、型式証明取得プロセスへの参画に繋げる仕組みづくり(政府主導による知見獲得に向けたロードマップ作成)
  • 完成機事業の国家的取り組みによる復活・再生
  • 各省庁の個別戦略を超えた、防需も含む国家としての航空産業育成の基本戦略策定
  • 投資の選択と集中、要素技術開発加速、事業推進力向上を目的とした、政府主導での民間企業の横串連携
  • カーボンニュートラルやAAM(Advanced Air Mobility)などの新市場の獲得に向け、機体製造だけでなく運航サービスまでを含めたビジネス設計

日本を取り巻く安全保障環境の急速な変化に伴い、防衛分野における装備品・技術への需要は拡大の一途を辿っています。特に、スタンド・オフ防衛能力や無人アセット、宇宙・サイバー・電磁波領域における防衛能力の向上が急務となっており、国際共同開発の機会も広がりつつあります。しかしながら、日本の防衛産業は、構造的な制約による生産の課題に直面しており、急増する需要への対応力が、防衛力整備の成否を左右する要因となっています。加えて、自衛隊の人員不足や複雑化する任務への対応、セキュリティ・認証制度への対応など、運用面の課題も顕在化しています。

このような状況下において、日本の防衛産業を成長させていくためには、以下のような取り組みが必要になると考えます。

  • 急増する需要に応えうる開発・生産・運用体制構築のため、民側においては、積極的な投資と、そのための各組織における戦略的なリスクマネジメント体制の構築
  • 整備、教育訓練支援、技術支援、災害対応などの分野における民間活力の活用拡大に向けて、官側においては、迅速な調達手続きの導入、柔軟な契約制度の整備。民側においては、企業間連携による効果的・効率的なソリューション提供体制の構築、民間主導による提案型アプローチの推進
  • 国際共同開発や輸出管理を含むグローバルな事業展開を見据えて、官側においては、安全保障領域を担うグローバル人材の国家戦略としての育成。民側においては、情報保全や技術認証(防衛省版耐空性審査など)に対する制度対応力の戦略的強化
  • 民間の先進技術活用のため、官側においては、技術的ニーズの明確化、制度・契約面における防衛分野への参入障壁の低減などの環境整備の促進。官民双方において、官民の橋渡しとなる専門人材の配置/育成、企業・研究機関との連携強化による、イノベーション創出の加速

2023年6月に改訂された「宇宙基本計画」は、日本国内の宇宙市場を現時点の約4兆円から、2030年代早期に倍増させることを目標に掲げています。2024年には安全保障・民生分野において横断的に日本の勝ち筋を見据えながら開発を進めるべき技術を見極め、その開発タイムラインを示す技術ロードマップを含んだ「宇宙技術戦略」を策定しました。この宇宙技術戦略の実現を後押しするための支援として、主に「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野で、民間企業や大学などが技術開発に取り組めるように宇宙戦略基金(10年で1兆円規模)が設置されました。日本においては、宇宙戦略基金を起点とした非宇宙系の大手企業による宇宙領域への新規参入のケースが増えつつあります。

このような状況下において、宇宙産業としては以下のような取り組みが必要になると考えます。

  • 産官学連携により、高い打上げ成功率(約98%)を誇る打上げ技術や衛星の小型化などの技術力を一層差別化し、輸出や国際連携を拡大
  • 川上の宇宙関連アセット(ロケット・衛星等)などのものづくりから、川下におけるアセットを活用したビジネス(衛星通信・衛星データ利活用など)の創出・進展までバリューチェーン全体を循環させる仕組み作り
  • 政府需要をてこにした民需拡大による市場創出を目指し、防衛をはじめとした公共ニーズと産業育成の連動(デュアルユース)の実現

航空宇宙防衛産業は、グローバルな需要拡大や技術革新を背景に、まさに事業成長の好機を迎えています。日本においても、防衛力の抜本的強化に伴う予算の拡充、国際共同開発の進展、グリーンアビエーション分野での技術的優位性など、次世代の事業基盤を築くうえで追い風となる要素が揃いつつあります。

こうした転換期においては、企業単独の取り組みにとどまらず、企業間の戦略的連携や、政府主導による制度設計・支援策の強化が不可欠です。日本が世界の中で持続的な成長を遂げるためには、企業は積極的な挑戦を行うべきであり、政府は制度整備・財政支援・国際連携の強化を通じて、企業のリスクテイクを支援し、官主導で省庁横断的に成長戦略の実現をリードする必要があります。

本レポートが、そうした取り組みの一助となり、今後20年を見据えた業界の展望やゲームチェンジ要素を踏まえ、「どの領域に注力し、いかに競争優位を確立するか」という戦略的思考を促す契機となれば幸いです。

「日本市場における概観と提言」はPwCコンサルティング合同会社が作成


世界の航空宇宙・防衛:業界の年間業績と見通し

2024年は、航空宇宙・防衛業界全体で記録的な増収となりました。しかし、こうした素晴らしい数字の裏で、事業運営上の課題も明らかになっています。需要過多は一向に解消されず、生産能力は依然として制約を受けています。また、労働力やサプライチェーンにおける制度面の圧力も高まっており、これに変容し続ける貿易情勢や関税リスクが拍車をかけている状況です。

本レポートでは、売上高上位100社の航空宇宙・防衛企業のデータに基づき、どの領域で成長が見られるか、何が障壁となっているか、またセクターのリーダーが未来への複雑な道筋をいかに切り開いているかについて、PwCの知見を提供します。本セクターの現在の進展状況、そして次なる展開を形成する事業運営上の優先課題を反映した5つの重点事項は以下のとおりです。

1. 売上増も生産増とはならず

航空宇宙・防衛業界上位100社の2024年売上高は全世界合計で9,220億米ドルに達しました。

2024年、民間・防衛航空部門の需要はいずれも急増したものの、生産が需要に追いつかない状況が続いています。労働力不足と脆弱なサプライチェーンが生産の制約となっており、受注残が解消されない状態が何年も続いています。関税政策の変化も、原材料や専門部材を中心とする世界の調達戦略を複雑なものにしています。航空宇宙メーカーは、サプライヤーの多様化、労働者のスキル向上、長期的な柔軟性強化に向けた運営モデルの再設計など、レジリエンスの強化を優先課題としています。

2. ディールは堅調を維持するも回復と見るのは禁物

2024年の航空宇宙・防衛関連ディール活動は安定していたものの、2019年のピーク件数を下回りました。

2024年のM&A件数は、パンデミック前の水準まで十分に回復することはありませんでした。しかし、特に企業がサプライチェーンシナジー効果やデジタル能力強化を目的とする場合などのM&Aディールフローは各セグメントで一貫していました。企業は、統合の成功や長期的な変革に注力し、より慎重な動きを見せています。

3. 民間航空需要が航空機納入ペースを上回る

業界の受注残は14,000機に達し、これは10年分の生産機数に相当します。

民間航空は活況を呈しており、航空会社は、自社機を最新化し、急増する旅行需要に対応すべく航空機の発注をかけていますが、メーカーの製造能力が注文ペースを下回っている状況にあります。受注残は高水準で推移しており、需給ギャップの拡大が浮き彫りになっています。労働力不足やインフレ、部品調達の困難化が生産を圧迫しています。

4. 防衛関連需要は増加しているものの一様ではない

世界の2024年防衛予算は9%増となりました。

こうした防衛支出増の追い風となっているのが、政府によるサイバー、宇宙、次世代防衛技術の重点化です。しかし調達は複雑で、国や地域によって大きく異なります。企業は、長期的な生産能力パイプラインを構築しつつ、高度化する諸要件に対応していく必要があります。

5. 宇宙に広がるビジネス・安全保障の機会

旺盛な商業・防衛需要を両輪に、宇宙関連の投資は複数年にわたり成長傾向にありました。

2024年、宇宙への公的・民間投資は再び急増し、衛星・打ち上げ・深宇宙ミッションはいずれも大幅に増加しました。国家安全保障上の要請と商業的機会が融合し、イノベーションを加速させていますが、資金調達の透明性と規制枠組みに関する課題はいまだその全貌が見えていません。 。

航空宇宙・防衛業界リーダーにとって意味すること

航空宇宙・防衛企業が受けている圧力は、需要に応えることだけではありません。どのように製造し、納入し、それを維持していくかについても見直しを求められています。もはや変革を避けて通ることはできません。2025年、業界をリードする企業は以下を進めています。

  • 供給エコシステムの多様化
  • デジタルおよびテクノロジーを活用した生産能力への投資
  • 長期的レジリエンス向上に合わせた労働力戦略の調整
  • 迅速なミッション達成にむけた運営モデルの最新化

リーダーが今、供給、人材、変革に影響をもたらすどのような選択を行うかによって、この先10年間の競争優位性が決まるでしょう。

※本コンテンツは、PwC’s global aerospace and defense: Annual performance and outlook 2025 editionを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

世界の航空宇宙・防衛 業界の年間業績と見通し 2025年版

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シリーズ

主要メンバー

渋澤 将之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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澤井 康明

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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中村 真徳

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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