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PwCコンサルティング合同会社は2025年12月4日、タイで開催されたThailand International Motor Expo 2025(以降、Motor Expo)に合わせ、在タイ日系自動車OEMおよび部品メーカーの皆様をお招きして同イベントを視察し、タイ自動車市場と中国EV動向に関するラウンドテーブルを開催しました。
開催にあたっては、ASEAN・タイ経済の専門家でありASEAN自動車業界事情に精通している国士舘大学政経学部教授 助川 成也氏を特別講師にお迎えしました。
前編では、イベント視察から得られた示唆と助川氏の講演「タイ自動車市場の変容・中国EVの進展」の概要を紹介します。
PwCコンサルティング合同会社 自動車業界チームリード パートナー 入江 玲欧よりご挨拶
Motor Expo会場では、助川氏の解説のもと中国EVメーカーの展示を中心に視察し、各中国EVメーカーのタイ現地での注力車種や日系メーカーとの価格設定やデザイン性の違いを確認しました。
今回の展示全体の特徴として挙げられたのが、中国EVメーカーの展示ブースの多さです。数年前までは日系と欧州系でほぼ埋まっていた会場が、今年は全体の約半数を占めるほど増えており、中国EVメーカーの存在感が高まっていました。
そして、中国EVメーカー各社の傾向として感じられたのは、ハッチバック、セダン、SUV、ミニバン(MPV)、ピックアップトラックなど多様なタイプのEVを投入してきていたことです。数年前はセダンやハッチバックの数種類のみだったラインナップが、タイ消費者のニーズの多様化に応えるために拡大してきていました。
従来日系メーカーが得意としてきたSUV、ピックアップについても、複数ラインナップやアウトドア用のオプションをさまざまなバリエーションで展示している中国EVメーカーがありました。
特に注目すべき点として、近年タイでエグゼクティブカーとして人気を博している日系メーカーのMPVを意識し、そのデザインや機能を模したと思われるMPVを各社が出してきていました。価格帯も250万THB(約1,000万円弱)前後と設定されており、従来の低価格戦略のみならず、高価格帯への参入も狙ってきていることが窺えます。
実際に、Motor Expoにおける自動車平均販売価格は112万THB(約538万円、1THB=4.8円で換算)となりました。これはミドルレンジから高級モデルの売れ行きが良かった結果であり、タイにおけるEVの購買層が拡大している兆しとも捉えられます。
内装は、EV車らしいボタンレスや大型のディスプレイのみなどシンプルな装備の車が多い一方で、価格帯に合わせて高級感を演出していました。すべての内装をオレンジなどの目立つ色で統一したり、大理石調の仕上げで高級感を出したりしている車もあったのは、タイ市場特有の消費者ニーズを反映した仕様と言えるでしょう。
PwCコンサルティング合同会社 自動車業界チーム パートナー 高橋 昭憲は、「中国EVメーカー各社の車は、品質や残価の問題はあるものの、デザインは斬新。タイ市場でも、車に乗ることの意味合いが、従来の「移動手段」からライフスタイルそのものに変わってきている印象を受けた。そのような状況下で、日系各社も、市場のニーズに合わせて車内空間をデザインしていくべきである」と指摘しています。
足回りに目を移すと、同じ中国EVメーカーでも、低価格帯モデルはタイローカルのブランドのタイヤを、高価格帯モデルは欧州系ブランドのタイヤを標準装備するなど価格帯によって使い分けていました。
タイヤに限らず、日系自動車部品メーカーは、今後は価格訴求力だけでなく、タイ市場が抱く「ジャパニーズ・ブランド」に対する高品質・安心などのイメージをうまく生かした戦略も必要と言えるかもしれません。
中国EVメーカー各社はいずれも、タイ消費者のニーズを意識したタイプ・オプションを展開しており、かつ低価格帯から高価格帯まで幅広いラインナップでますます勢いを増しています。
こういった状況下で読み違えてはならないのは、タイにおいて中国EVメーカーが市場を席巻しているのは、もはや「電動車という目新しさ」が理由ではないということです。
中国EVメーカーは、消費者のニーズをしっかりとらえ、デザイン性に優れた先進技術を盛り込んだ車を作り、マーケティングにも注力しています。中国EVメーカーの車は、車としての製品力、訴求力、消費者からの魅力を兼ね備えており、内燃機関車かEVかという枠を超えて、純粋に車として市場に評価され、シェアを伸ばしています。
今回の展示でも、中国EVメーカー各社の確かな実力と努力・工夫が感じられました。
日系メーカーには、中国EVメーカーに対してやや懐疑的な見方があり、昨今の世界的なEV移行の停滞も踏まえて「まだ大丈夫だろう」という油断があるようにも思われます。私たちは、内燃機関車だ、バッテリーEVだ、というカテゴリで議論しがちです。
そして、EVが流行るか否かという議論を続けてしまい、中国EVについても、その議論の枠組みの中で語ることが多いですが、それでは自動車業界の本質的な変化から目を背けているとも言え、安易で非常に危険かと思います。
日系メーカーは本質的な変化として中国EVメーカーの自動車メーカーとしての競争力を適正に見定め、中国EVの車としての魅力を認め、これらを踏まえて今後の戦略を検討すべき時期に来ています。
ラウンドテーブルの前半では、国士舘大学 政経学部 教授/泰日工業大学 客員教授 助川 成也氏より、タイ自動車市場における中国EVの進展について、「タイの自動車市場・産業の今」「輸入から現地生産にステージを上げる中国EV」「中国EVのタイ製EV化戦略と迂回貿易対策」の観点で講演いただきました。
国士舘大学 政経学部 教授/泰日工業大学 客員教授 助川 成也氏
タイはこれまで「ASEANの自動車生産拠点」として、日系自動車メーカーを中心に完成車・部品の一大集積地となってきました。
しかし近年、国内景気の減速や家計債務の高止まりにより販売台数が減少してきている一方で、タイの自動車製造の設備稼働率は50%前後で推移しており、一般的に8割程度の稼働率が収益分岐ラインと言われている中で、供給過剰、生産能力過剰となっています(図表1)。そのため、輸出に拍車がかかり、輸出台数が伸びてきています。
図表1:タイ自動車製造の設備稼働率
出所:タイ工業省資料より助川氏作成
また、タイ自動車市場は従来日本車が9割近い市場シェアを誇ってきましたが、近年の中国EVによるシェアの伸びに押され、シェアは7割を切るところまで落ち込んでいます(図表2)。
図表2:タイの自動車市場の日系シェア推移
出所:トヨタモータータイランド各種報道より助川氏作成
これはタイ政府によるEV振興政策(EV3.0/EV3.5)の影響も大きく、輸入関税の引き下げや補助金の後押しもあり、中国からタイ市場に中国EVが大量に流入する状況となっています。
次に、中国EVメーカーの動きです。中国EVメーカーは当初、完成車をタイへ輸出する形で存在感を高めてきましたが、2024年から各社がタイでの現地生産を開始しています。
こういった形で中国EVが一気に流入してきたことで、過当競争となりEVの価格崩壊が起こっています。顕著な例では、タイ発売当初の価格から現在は半値近くになっている中国EVのモデルもあります。今後、この傾向はしばらく続くと思われますが、どこかで中国EVメーカーの体力の限界が訪れ、市場が再整理される可能性もあります。
この動きは、先ほど触れたタイ政府のEV振興政策(EV3.0/EV3.5)が関係します。この政策では、その恩典を受ける代わりにEVのタイ国内生産台数のノルマがあるため、今までEVを安価に輸入してきた中国EVメーカーは、累計輸入台数以上にタイ国内生産台数を確保する必要があります(図表3)。この結果、売れるかどうかによらず、タイで生産せざるを得ないという状況が生まれています。
図表3:国家EV政策委員会(NEVPC)によるEV補助条件と条件緩和
出所:助川氏作成
一方で、中国EVメーカー側から市場環境を理由とした条件緩和・変更の陳情も行われております。例えば、2025年以降タイで生産され輸出されたEVは、1台あたり生産台数1.5台分と換算されるという輸出特例も設けられ、今後タイ生産の中国EVがASEAN諸国およびグローバルに輸出される流れは加速すると考えられます。
タイからのASEAN諸国向けEVについてFTA関税率はどこも無税となっており、実際、主要な中国EVメーカーは既にASEAN諸国およびグローバルへ輸出を開始しており、2025年はタイのEV輸出元年とも言えます。
タイ以外のASEAN諸国を見ても、例えばインドネシアはBEVの輸入関税を0%としているなど、ASEAN地域は特にタイ製EVが輸出しやすい地域となっています。これらの要因を踏まえると、ASEAN地域へのタイ製中国EVの輸出の流れは今後も加速する可能性が高いでしょう。
一方で、ASEANの対中輸入と対米輸出には相関関係があります(図表4)。すなわち、中国から直接米国に輸出するのではなく、中国から一旦ASEANに輸出して、ASEANから米国に輸出するというルートが浮かび上がってきます。米国はこの「迂回輸出」を警戒しており、規制強化を図っています。とりわけ、中国向け相互関税回避を目的とした形での生産・輸出が「迂回輸出」と見なされる可能性があります。
図表4:ASEANの対中輸入と対米輸出の相関関係
出所:Direction of Trade(IMF)より助川氏作成
助川氏は本講演において、タイ自動車市場が「日本主導の内燃機関中心の拠点」から、「中国勢がEVを軸に勢力を拡大する新たな競争舞台」へと変容しつつある姿を描きました。
そのうえで、タイ政府の政策動向や通商ルールの変化が、企業の投資判断やサプライチェーン再構築に直結することを踏まえ、日本企業を含む各社が中長期の戦略見直しを迫られていると言えるでしょう。
後編はこちら
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