宇宙産業を支える技術と市場戦略――宇宙戦略基金採択2社の実践

  • 2026-08-20

PwCコンサルティング主催のセミナー「宇宙産業の最前線――宇宙戦略基金について」で実施されたパネルディスカッションでは、宇宙戦略基金第一期に採択されたNECスペーステクノロジーとコンポジットテーラーズの2社を迎え、それぞれの技術開発の現状と、採択に至るまでの調整、市場獲得に向けた取り組みを掘り下げました。経済産業省が示す「サステナブルなビジネスの集合体」としての宇宙産業の在り方を巡り、技術と市場の接点を探る議論の模様をレポートします。

登壇者

経済産業省 製造産業局 宇宙産業課 課長補佐(統括)
岩永 健太郎 氏

NECスペーステクノロジー株式会社 第2技術統括部 電気技術グループ シニアプロフェッショナル
大瀬 貴之 氏

コンポジットテーラーズ株式会社 テクニカルディレクター
宇都宮 真 氏

イノベーティブ・デザイン合同会社 Systems Engineer
モデレーター:加藤 松明 氏

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
モデレーター:加納 大地

※法人名、役職などは登壇当時のものです。
※以下、本文敬称略

国産COTSバッテリーと超軽量CFRP望遠鏡――対照的な2つの挑戦

加納:
本ディスカッションでは、宇宙戦略基金の採択事業者にも加わっていただき、プロジェクトを実施する上でのチャレンジや難しさ、技術的な優位性について伺っていきます。まずは「国産バッテリーの宇宙転用」に取り組むNECスペーステクノロジーからお願いします。

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 加納 大地

大瀬:
NECスペーステクノロジーでは、「国産COTS品の宇宙転用による高性能・低コストバッテリー開発」という技術開発テーマで採択をいただきました。従来の宇宙用バッテリーセルではなく、供給性が高く低価格な「国産」の民生バッテリーセル(COTS品)を宇宙用に転用する取り組みで、国際情勢に左右されない強いサプライチェーンを作りたいというのが狙いの一つです。

当社は、小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された日本初の衛星用リチウムイオンバッテリーの開発・供給を手掛けて以来、宇宙用バッテリーとして70プログラム以上の衛星・ロケットに供給してきた実績があります。その知見を生かし、地上用COTSセルの優れた性質に信頼性を付加していくのが本テーマの位置づけです。

国産COTSセルは、低温環境での使用や大電流の充放電にも対応でき、地上品として非常に優秀な性能を持っています。衛星軌道上では年間約6,000サイクル、5年間で3万回程度の充放電が必要になりますが、そのような使用環境においても劣化も少ないのが特徴です。運用終了まで確実に動かし続けるためにも、バッテリーは非常に重要なコンポーネントだと考えています。

開発は2025年6月から進めており、2030年まで続く計画です。信頼性の評価、量産化を含めた開発、さらに危険物となるバッテリーの航空機輸送時の安全性認証も含めて、使える形でお客さまに提供することを目指しています。

NECスペーステクノロジー株式会社 第2技術統括部 電気技術グループ シニアプロフェッショナル 大瀬 貴之 氏

加納:
続いて、「CFRP望遠鏡の開発」を手掛けるコンポジットテーラーズからもご紹介ください。

宇都宮:
当社の技術開発テーマは「CFRP主鏡を有する超軽量CFRP望遠鏡の開発」です。軽量で高強度な特徴を持つCFRP(炭素繊維をプラスチック樹脂で強化した複合材料)で、望遠鏡の主鏡を作るというプロジェクトを進めています。

私は以前JAXAの研究開発部門で構造を担当しており、独自の研究としてCFRPで主鏡を作る取り組みを続けてきました。主鏡は地球観測衛星で最も重い部品で、従来はゼロ膨張ガラスやSiC(炭化ケイ素)で作られてきました。それをCFRPで作ることができれば、かなりの軽量化につながります。ただ、CFRPは繊維の模様が表面に浮き出てしまうため、望遠鏡に必要なナノメートルレベルの面精度を出すのは不可能というのが常識でした。

それを打ち破るために当社が使ったのが「レプリカ技術」です。精密に作った型の上に樹脂を流し、その表面をCFRPに転写する。JAXA時代には赤外域で使えるレベル(10nm程度)までは達成しましたが、可視光で使うにはもう一桁精度を上げる必要があります。世界で誰もやったことのない挑戦です。

コンポジットテーラーズ株式会社 テクニカルディレクター 宇都宮 真 氏

加納:
そのとがった技術への期待感が採択の背景にあると言えそうですね。

宇都宮:
第1期の前期3年間で、口径40センチの「望遠鏡」として完成させ、完成品として市場に提供するビジネスモデルを考えています。望遠鏡として買ってきて、後ろにカメラを付ければ地球観測ができるという製品にしたい。サブシステムメーカー経由でエンジニアリング開発が始まる従来の流れではなく、既製品として望遠鏡を市場に出してしまう、という発想です。

CFRP望遠鏡の強みは2つあります。一つは圧倒的な軽さで、軽量化されたガラスのさらに3分の1以下。質量制約の厳しい超小型衛星には大きなメリットになります。もう一つはレプリカ技術による量産性です。ガラスは一枚一枚磨く必要があり、精度によっては3~6カ月かかりますが、レプリカの場合、成形型さえあればCFRP鏡面は1日でできる。年間100台規模でも、現在保有している装置で十分対応可能です。

加えてCFRP光学系は、地球観測望遠鏡だけでなく、レーザー通信アンテナや地球観測スキャナなど幅広い宇宙光学系に応用できる可能性があります。特に光通信衛星は、すでに欧米で1万機規模の打上げが進んでおり、軽量化を武器にハード面で日本が参入する余地があると見ています。

コストについては開発中なのでまだ具体的な数字は出せませんが、ガラス望遠鏡と比べて数分の1まで抑えられる見通しです。

技術の優秀さの先に問われる「ビジネスの再現性」

加納:
次に、宇宙戦略基金の採択側である経済産業省として、どのあたりが評価の決め手だったのかを岩永さんに伺いたいと思います。

岩永:
お二方の事業は、「衛星サプライチェーンの課題解決に資する部品・コンポーネントの技術開発」テーマにおいて、非常に厳しい審査を通過した優れた提案でした。

何をもって「優れている」とするのかですが、技術が優れていることは大前提です。その上で、その技術でしっかり市場を取りに行き、ビジネスとして回っていく姿を描けているかどうか。ここを採択にあたって非常に重視しています。

ポイントは二つあります。一つは、技術開発だけでなく、売っていくための営業体制やコミュニケーションチャネルがあり、グローバルな状況に合わせて技術開発の進捗・方向性をマネージできる体制を有しているか。

もう一つは、ビジネスとしてサステナブルかどうかです。これは「たくさん儲けてください」ということではなく、事業としてきちんと回るだけの規模が確保できているか、ということ。事業単体で儲けにくいのであれば、同じ技術を他分野に転用して同じ装置で稼ぐ、あるいは売り方を工夫して――宇都宮さんからもお話があったように、主鏡単体ではなく望遠鏡として売っていく――といった計画を盛り込んでいただくなど、その事業に合った規模のマーケットをしっかり掴めていることが大事です。

経済産業省 製造産業局 宇宙産業課 課長補佐(統括) 岩永 健太郎 氏

加藤:
タイプの違う二つの取り組みですが、ともにQCD(品質・コスト・納期)に対する目標が非常にクリアですよね。しかも提供側ではなく「お客さまがどこで困っているか」を明確に把握されている。

イノベーティブ・デザイン合同会社 Systems Engineer 加藤 松明 氏

大瀬:
そうですね。これまで宇宙用機器を作ってきたレガシーを繰り返すというベースから、今回は少し違う視点で開発を始めました。起点はやはり「顧客が何に困っているか」です。海外バッテリーに依存していると世界情勢に左右されますし、品質データもそろっていない。そこが衛星サプライチェーン構築の上で重大な困りごとである、というのが当プロジェクトの出発点でした。

宇都宮:
当社でも、お客さまの動向把握は最初に考えたポイントでした。光学衛星のコンステレーションで日本を1時間に1回観測しようとすると、48機・96機といった衛星群が必要になります。それを年間2,000基単位で打上げていく未来も十分にありうる。そのとき「量産可能な供給体制で、高強度・軽量・低コストの望遠鏡があるか」が問われる――お客様が一番求めているのはそこだと判断しました。

加納:
ありがとうございます。技術や製品、サービスといった各社の持ち味を、いかにビジネスや市場につなげていくか――私たちPwCコンサルティングも、第三者の視点を交えた対外的な説明づくりを含め、これまで多くの企業のご相談に応じ、支援してきました。経済産業省からは厳しい目で提案を見ているというお話もありましたが、採択事業者のお二人にも、採択に至るまでの調整で苦労された点があれば伺いたいです。

大瀬:
JAXAの事務局から技術開発計画書に対していろいろなコメントやアドバイスをいただき、計画を結構変更しました。当初は自社R&D(研究開発)の延長で加速させる方針でしたが、「もっと加速させなさい」と。市場のターゲットを見定め直し、初期の顧客は誰か、最終的にどこまで伸ばすのかを明確にし、さらに衛星だけでなくロケットにもバッテリーを適用する計画を盛り込んだことが重要でした。

社内では「開発の完了をゴールにしない」というのが繰り返し言われていました。量産し、再現性高く製品を供給することをまず目的に据え、そこから逆算して顧客のQCDとどうバランスさせるかを話し合った――これが結果として効いたと感じています。

宇都宮:
技術面については10年近く研究してきた経緯があり、JAXAからのコメントは多くありませんでした。やはり一番のポイントは事業計画のところです。何を作って誰にどう売るのか。小さな企業ですので、例えば米国の対象メーカーへのアプローチまでは調べきれないという苦労がありました。

一つ大きな転機は、練習用に作った口径10センチの小型望遠鏡です。3Uや6Uの超小型衛星にちょうど載るサイズだったため、「これを先に製品化してはどうか」というアドバイスをいただき、開発開始から3カ月で計画を変更しました。実際に海外に持参すると非常に良い評価をいただき、重さ200グラムですので、見てもらえばすぐに有用性が分かる。現在米国のメーカーからも引き合いが来ています。

「外」から技術を語り、市場と対話する――眠る知見を産業へつなぐ

加納:
ここで、モデレーターの加藤さんにも伺います。加藤さんはJAXA時代から、研究や事業を評価する立場で数多くの提案を見てきました。提案者が陥りやすい、典型的なつまずきのポイントはありますか。

加藤:
モデレーターという立場で恐縮ですが、JAXAでR&Dのマネジメントを行う研究戦略部にいた経験からお話しすると、提案において自分たちの技術の良さだけを語ってしまうのは、とてももったいないと感じます。「この技術はすごい」と言われても、ビジネスを考えている受け手側にはそれが自身のビジネスのどこに刺さるのか分からない。一方、宇都宮さんの説明のように「重量が3分の1」「納期が数カ月短縮」と語ってもらえると、例えば製造ラインのボトルネックが解消されそうという想像が受け手側でもすぐイメージできます。自分が持っている技術を、外から見た形で価値を語れるかどうかが大事だと思います。

岩永:
おっしゃるとおりで、お客さまにとって何が良いのかをしっかり定義していただければ、経済産業省としてもサポートしたいと考えています。ただ、計画書を拝見すると、受け手にとって何が良いのかを説明可能なところまで消化されていない提案も、正直なところいくつかある。そこを引き上げるのはやはり事業者さんの努力であり、事業者さんだからこそできる部分だと思います。

大瀬:
お客さまとの会話はかなり重ねてきました。その際に大事なのは、開発と顧客対話を同時に進め、常にフィードバックする仕組みを持つこと。やみくもにお客さまの声を聞くと「ガラパゴス」的にいろいろな機能を盛り込んでしまうので、当社では「どの技術を切り捨てるか」という議論を何度も重ねました。ロケット向けのバッテリーは充放電の機能が非常にシンプルなので、シンプルなところから製品化し、そこから機能を追加していくアプローチが有効だと考えています。

宇都宮:
当社が扱う製品はコンポーネントの中でも“一番下”なんです。望遠鏡単体では事業になりませんから、後ろにカメラやセンサーを付けて、データ解析・通信まで含めて取りまとめる「システムメーカー」が必ず間に入ります。直接のお客さまはその途中のサブシステムメーカーになるのですが、売り込み先選定にあたってどなたと相談すればよいか、非常に難しい。

希望としては、政策決定機関やJAXAから「こんな良いものがある」と紹介していただけると採用されやすいという期待は持っています。加えて、スタートアップには宇宙実証の実績がないので、ロケットで打上げて使えると証明するステップも必要です。そこでもJAXAや政府の力をお借りしたいですね。

加藤:
元JAXAとしてバイアスがかかっているかもしれませんが、JAXAには非常にいい技術が眠っているのに使われていない、という感覚があります。大瀬さんはNECとJAXAで培った知見を生かし、宇都宮さんはJAXA研究開発の知見を生かして、それぞれ今回のテーマを立てている。COTS品や新しい技術を取り入れる時、足りない部分を全て自社で抱える必要はなく、JAXAが知財として持つものを活用していくという視点も重要と考えています。JAXAの技術を日本全体で活用していく、というのはすごく重要な視点だと思います。

加納:
技術やサービス、製品を産業につなげていく――それが今回の宇宙戦略基金の大きなテーマです。最後に、これから宇宙戦略基金への参画を検討されている方に向けたメッセージを、お一人ずついただけますか。

大瀬:
どの市場に、どの仕様で出すかを日々考え続けることが一番大事ですし、それは常に変わっていくものです。大切なのは「技術を割り切る」こと。全てを盛り込むとオーバースペックになりますので、できるだけ小さく作って追加していく。ロケット向けバッテリーのようにシンプルな機能から製品化できる市場を見つけることが、一つのやり方だと思います。

宇都宮:
期待を高めるようないい話ばかりしてきましたが、正直なところCFRPで20ナノメートルの面精度を出すのはとんでもなく難しい。ガラスでも20ナノメートルを保証できるメーカーは日本に数社しかありません。私たちもまだ達成していません。2026年度中に達成して、世界中の望遠鏡メーカーに自分で持って回って宣伝したい。誰もやっていないとがった技術だからこそ、追随されないチャンスがあると思っています。他の事業者のチャレンジにも刺激をもらいながら、これからも切磋琢磨していけるとうれしいです。

岩永:
繰り返しになりますが、経済産業省のテーマでは「サステナブルなビジネスの集合体」が産業であるという考えの下、その産業をしっかり作っていくことを目標にしています。事業者だからこそできることがたくさんあり、足りない部分が明確になれば私たちもサポートできる。そういう関係性の中で、宇宙戦略基金の次のテーマや今のテーマのマネジメント、さらには基金を超えた宇宙産業政策について、皆さまと引き続き議論させていただきたいと思っています。

加納:
本日は、宇宙戦略基金やその関連領域について、重要ポイントを論じてきました。特に、産業との距離の近い経済産業省の担当テーマでは、本セッションでもたびたび話題に上がったとおり、どのように事業化・市場獲得につなげていくかが大きなポイントとなります。今後提案する事業者、また採択された事業者の方々には、ぜひ心にとめておいていただきたいですし、私たちPwCコンサルティングとしても、日本が誇る技術とビジネスの橋渡しを、これからもお手伝いしていきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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