【開催報告】自律自走型人材を育成するための社会システムとは? ~企業主導型スキルアップから社会主導型スキルアップ(Social-led upskilling)へ~

2022-04-26

PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)は、2021年11月12日(金)に、オンラインシンポジウム「自律自走型人材を育成するための社会システムとは?~企業主導型スキルアップから社会主導型スキルアップ(Social-led upskilling)へ~」を開催しました。

本シンポジウムは、PwC Japanグループが2021年1月に発表した政策提言書「1対N時代の到来に向けたわが国の人材育成の在り方」に基づき行われました。

この提言のうち、「組織の枠を超えた能力開発の場」の「社会主導型スキルアップ(Social-led upskilling)」に焦点を当て、その実現に向けた社会の仕組みはどうあるべきかを、学術研究界、実務界の有識者と議論しました。

議論の結果、共通の理解として明らかになったのは、キャリアの自己責任論に終始するのではなく、自律自走型人材を育成する仕組みをつくらなければ、結果的に日本における働く人たちの労働能力の低下を招く可能性がある、ということです。

このような課題を解決するために、自律自走型人材を育成する社会の仕組み「Social-led upskilling*」を構築することが必要であり、以下のような要素が重要であると指摘されました。

  • 企業利益ではなく社会利益に資する人材育成という観点
  • 学びや気付きを得るための多様な機会提供とその質の向上
  • 個人の発達フェーズや多様性に鑑みた仕組み構築

*Social-led upskilling について
「Social-led upskilling」とは、企業などの間で連携してプロジェクト情報を共有するといった、企業などが従業員に習得させたい能力、各労働者が自身のキャリア展望の実現に必要な能力や経験を獲得できる、社会全体で構築する「OJTを通したスキルアップの場」です。

11月12日セッション・登壇者

PwC Japanからの問題提起 ―― 自律自走型人材を育成する「Social-led upskilling」という仕組みを実現させるには何が必要か?

松原 光代
PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 主任研究員

企業や自治体と連携して自律自走型人材を育てる――事例から見えてくる展望と課題

妹川 久人氏
JT 執行役員(サステナビリティマネジメント担当)

山岡 健人氏
株式会社アドリブワークス 代表取締役CEO

パネルディスカッション――「Social-led upskilling」の実現に向けた企業および社会の仕組みの構築とは

山内 麻理氏
国際経営学者

山田 久氏
株式会社日本総合研究所 副理事長/主席研究員

妹川 久人氏
JT 執行役員(サステナビリティマネジメント担当)

山岡 健人 氏
株式会社アドリブワークス 代表取締役CEO

今野 浩一郎 氏
学習院大学名誉教授(ファシリテーター)

※法人名・役職などはシンポジウム開催当時のものです。

PwC Japanの提言

シンポジウムの冒頭ではPwCコンサルティング合同会社の松原 光代が登壇し、PwC Japanの政策提言「1対N時代の到来に向けたわが国の人材育成の在り方」とそれに伴う調査結果の概要を紹介しました。提言では、企業など組織にとっては価値創出の源泉であり、労働者としてはキャリアを維持・発展できる「自律自走」型人材を、社会全体で育成していく必要があるのではないか、また、その能力開発の「場」を提供する仕組みを構築し、企業など組織と労働者のそれぞれにとってWin-Winとなる労働市場を創出することができないか、という課題を提起しました(図表1)。そうした人材育成や労働市場を実現するための構想が「Social-led upskilling」です(図表2)。

図表1 PwC Japanが提言する人材育成と労働市場の在り方

図表2 「Social-led upskilling」の仕組み(案)

「Social-led upskilling」実現に向けた課題を議論

シンポジウムのパネルディスカッションでは、PwC Japanが提言する企業共助型・社会主導型の人材育成の仕組み「Social-led upskilling」について、その意義や実現可能性について議論しました。

パネリストはまず、「自律自走型人材の重要性は、これまでも多く謳われてきた。なぜこれまで実現できなかったのか。なぜ今になって再度重要性が謳われているのか」というテーマについて見解を共有しました。かつて人材はあくまで企業の枠内において自律的であることが求められてきましたが、昨今の環境の変化とそのスピードに伴い、産業構造自体が変化していることから、人材育成を行う枠(=企業)自体の変化や、企業の枠を超えて自ら学ぶことが求められています。こうした議論から、現代で求められる「自律自走型人材」の様相はアップデートされていることが浮き彫りになりました。

今野 浩一郎氏

山内 麻理氏

山田 久氏

次に、このような変化を踏まえ、「企業の枠を超えた共助型の人材育成にはどんな仕掛けが考えられるのか。どんな点に気を付けなければいけないのか」を議論しました。企業が協働して人材・資金を出し合い座学とOJTを組み合わせて若者の育成を行う仕組みがあり、そうした取り組みが世界トップレベルの技能集団となる企業を生む契機にもなっていることが紹介されたほか、社会主導型の人材育成の仕組みをつくることは国全体の労働能力の向上にも資するという意見が述べられました。

続いて、「なぜ個の活動だけで十分ではなく、社会システムとして構築が必要なのか」について、人は経験により学習し育成されるという理論をもとに、多くの経験とその経験による気付きを得られる場があること、そしてその質を高めることの意義を議論しました。また、それらを実現する人材育成の場づくりのために、企業が自社の枠を超えた広い視野を持つことの重要性について意見が交わされました。さらに、Social-led upskillingのような構想を実現する上でも、成人発達理論に基づく個人の発達フェーズや多様性を充分に配慮した上で仕組みを構築する必要があるという点も指摘されました。

質疑応答では、会場から「Social-led upskillingの推進には、『キャリア自律』の醸成が不可欠であると考えるが、キャリア自律を醸成していくべきは、企業等だけではない。本来は、教育機関(すなわち、中学、高校、大学など)から『キャリア自律』を醸成していく必要がある。教育機関とどのように連携していくべきか。また、どのような政策が必要になるか?」という質問が寄せられました。

これに対し、キャリア自律の典型が起業であることから、「中等教育時点から起業に関心を持つ機会を増やし、就職以外のキャリアの選択肢をつくるべきでは」といった意見、また「高等教育において大学だけではなく企業主導型の教育機関の設立も有効ではないか」といった意見が出されました。企業主導型の教育機関に関しては、企業が短期的目線ではなく、長期的な目線で社会の利益に資するような人材育成を目的に投資することの意義も指摘されました。

本シンポジウムは約300名に視聴いただき、講演後には多くの参加者から反響が寄せられました。

山岡 健人氏

妹川 久人氏

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